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しおりを挟む「……!ま、交わるとは、その…………」
棗は紅くなった顔を手で覆い、ちらりと蛇神の顔を見る。生娘で色恋には疎い棗であったが、交わるという言葉がどういうことを指しているのか大体予想はついた。
「ああ、平たく言えば性行だ。私が其方を抱く。」
「っ……」
棗は思わず息を飲む。
「確かに私は豊穣神であり天候神だが、その力を振るうには神力が必要だ。神は人間の信仰があってこそ神力を得、これを行使することができる。
かつての私なら雨を降らせるなど造作もないことであったが……楠木耕弥が亡くなってから村の人間がこの社に来ることは無くなり、私の神力はもはや枯渇寸前。今やこの社を維持することが限界だ。
まったく、危機に陥ったときのみ神に頼るとは……私も都合良く扱われたものだ。」
「そうだったんですね……申し訳ございません、此度の非礼をお詫びします。
つまり、私と……その、交わることで神力を得ることができるんでしょうか。」
「そうだ。本来は、周囲一帯の土地に住む者の信仰心により十分な神力が得られるのだが、手っ取り早い方法が、私を信仰する生娘との交わりだ。早く雨を降らせなくてはならないのだろう?」
「はい。」
「ならば私に十分な神力が戻るまで励め。ある程度の時間は掛かるであろうが。」
棗は改めて蛇神の身体を見た。棗の胴体よりも太い蛇の腹は白銀の緻密な鱗に覆われ、湿ったようにてらてらと光っていた。
こんなに巨大な蛇の身体と交わるとなると、蛇神の加減次第では先ほどの冗談の如く絞め殺されたり、押し潰されたりする可能性も大いにある。私はどのみち死ぬのではないか、と棗の顔は一気に青ざめ、額に冷や汗が滲む。すると、蛇神はそれを察してこう続けた。
「案ずるな、交わるときには私が人間の姿になる。先程も述べたように、神力は〝私自身のことを神だと認識し信仰している者〟と交わることで得ることができる。其方は信仰心が比較的薄いようだからな。……その境遇を鑑みれば無理もない話だが。
このように、初めに真の姿を見せることに意味があるのだ。」
「は、はぁ……なるほど……」
棗は安堵し、深く息をつく。
「蛇の姿では多少加減が効かないからな。其方を絞め殺してしまうかもしれない。それに……」
蛇神の胴体が音も無くするすると床を滑り、棗の周囲を囲った。蛇神は彼女の背後に回り、肩に手を添え耳元で囁く。
「蛇の陰茎を知っているか?先が二つに分かれ、全体に密集して生えたかえしのような棘が長時間相手を捕えて逃さない。柔い人間の身体にそんなものを挿れてしまえばどうなるか…………試してみようか。」
吐息交じりの問い掛けに、棗は目を固く閉じ、ぶんぶんと首を振った。蛇神は、その様子を見てくすりと笑うと、棗から離れ従者二人に命じた。
「右月、左月、湯浴みの用意を。今夜は手短に済ませるから、彼女の部屋の用意も頼む。」
「は。」
右月、左月と呼ばれた従者は、本殿を後にする蛇神に深々と頭を下げたあと、棗の方に向き直る。
「さあ、湯浴みに行こうか、棗ちゃん。」
「右月、仮にも我が主への捧げ物だぞ。そんなに馴々しく呼ぶものではない。」
「ほんとに左月はつまらない奴だなぁ。いいじゃん、ねぇ、棗ちゃん。」
「はぁ……、私は何でも……」
目の前で交わされるやり取りを聞きながら、棗は二人のことをまじまじと見つめた。砕けた口調の右月、丁寧な口調の左月、やはり口調以外に異なるところは見受けられなかった。
二人の案内で連れて来られたのは浴室であった。元々裕福な家で育った棗も見たことが無いほど立派な檜の浴槽がそこにはあった。着替えの襦袢を渡され、棗は何時間か振りに一人きりになる。服を脱ぎ湯に浸かると緊張の糸が緩み、深く息をつき浴槽の壁にもたれかかった。足を伸ばし束の間の安らぎを感じながらも、これから行われる未知の行為への不安が尽きない。
「……私が決めたことなんだから、しっかりしなくちゃ。」
棗は浴室に響かないくらい小さな声でぽつりと呟き、意を決して湯から上がった。
さて、渡された襦袢であるが、着てみると肌がはっきりと透けて見える。緻密で美しい白の刺繍が施された見事な代物であったが、棗にとってはそれどころではなかった。廊下へ出る引き戸から顔を出し、手で胸元を押さえながら小声で右月と左月を呼ぶ。
「右月さん、左月さん?この襦袢……正気ですか?」
「お、似合ってるね。大きさもぴったりだ。」
「ええ、間に合わせのものですが、良かった。それでは棗様、主の元へ参りましょう。」
「いや、大きさとかの問題じゃなくて、こんなに透けていたら恥ずかしいんですが……」
棗が顔を紅くしてそう伝えると、二人は一瞬ぽかんとして互いに目を見合わせ、呆れるようにくすりと笑った。
「な、何がおかしいんです。」
「棗様、貴女はこれから主の前で、生肌はもちろん、あられもない姿まで晒すのですよ。このような格好如きで恥ずかしがっていては……」
「そうそう。初心な女の子は可愛いねぇ。」
確かに正論である二人の返答に、棗はさらに顔を紅潮させながらも、観念してその格好で蛇神の待つ部屋へと向かった。
部屋の前に辿り着くと、右月と左月は襖の両端に立ち、中の蛇神へと声を掛ける。
「我が主、棗様をお連れしました。」
「御苦労、通してくれ。」
開かれた襖の奥は、四隅に行灯が置かれた薄暗い部屋だった。棗が部屋に入ると襖がぴたりと閉められる。中央の寝台に腰掛ける蛇神は確かに人間の姿をしている。棗は、橙の灯に照らされた蛇神の端正な顔に一瞬目を奪われるが、はっとしてその場に伏して自らの到着を伝えた。
「蛇神さま、大変お待たせいたしました。」
「構わない。棗、こちらに来なさい。」
棗を自身の隣に招き座らせると、蛇神は彼女の髪をするりと撫で、恐怖と緊張でかすかに身を震わす彼女に優しく語り掛けた。
「そう怯えるな。今夜は手短に済ませて無理はさせない。なるべく苦痛を感じることの無いように努めよう。」
「……はい。」
「棗、顔を上げなさい。」
蛇神は棗の後頭部に手を回し、口付ける。
初めは唇が触れ合う程度の軽い口付けであったが、徐々に深いものへと変化する。固く閉じた棗の唇を、蛇神の長い舌が割り進もうとする。一度侵入を許してしまえば、棗の口内はされるがままに蹂躙され、彼女は時折くぐもった声を上げた。
「んぅ………ぁ、ふぅ…………」
苦しそうだったその声も次第に甘みを帯びるようになり、蛇神の舌が歯茎を優しく擦ると、棗の身体からは力が抜け、蛇神の支え無しには姿勢を維持することすらできなくなっていた。
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