私とエッチしませんか?

徒花

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二人で一人

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 二日目。
 朝七時に起きた僕は、着替えた後ホテルの食堂で朝食を取る。
 バイキング型式の食事で、ソーセージやらサラダと言った食べ物が台の上に載せられている。
 利用者たちは自分の食べたいものを皿に移し、各々適当な座席へと歩いていく。
 僕もそれに倣って食事を摂った。トレーの上にいくつか載せられた皿の上には、全部で丁度腹八分目程度満たしてくれるだけの食べ物が載せられている。
 腹が減っては戦はできぬとは言うが、適量というものがあるため僕はその程度にしておいた。
 あまり食べ過ぎると、ぼうっとしすぎて試験に悪影響がありそうだからだ。
 僕は朝食を胃袋に収めると、試験会場へと向かう。
 バスに乗り、同じく試験に臨むのであろう人たちと共に揺られる。
 皆参考書やら単語帳を見つめている。最後のダメ押しということなのだろう。
 負けてはいられないよなと思い、僕はノートを取り出して、英文章を読み始める。
 今日、午後五時に最後の科目を終了させれば、僕の入試は終わる。
 でも、受験が終わる訳ではない。
 合格が決定するまで、気の休まらぬ日は続く。
 ……まあ、合格したらしたで様々な手続きが待っているから休めないのだが。
 学習をしている内に、バスは僕らを大学まで送り届けてくれた。
 ここで降りる乗客は、皆僕と同じ受験生のようだった。
 リラックスしている表情の人もいれば、目を不安に彩らせている人もいる。
 僕はどうなのかというと、奇妙にも冷静だった。
 感情がこの状況に適応している。心理状態が、受験日というこの日に順応している。
 なぜかはよく分からない。
 二日目である程度慣れてしまったのか、僕がプレッシャーに強いのか。
 とにかく、今はやることをやるだけだ。
 そう思いつつ、受験会場へと僕は歩んだ。

 会場の様子は昨日と変わらない。
 広い空間に何人もの受験者がいて、開始の時刻を待っているというだけだ。
 僕は机の上に必要なものだけを並べ、スマホの電源を切って鞄に仕舞う。
 つまらないことで不合格にされたら元も子もないので、何回か確認を行う。
 シャープペンシルも、念のため二本用意しておいた。
 何も恐れることは無い。
 模試と同じようにやるだけだ。しっかりA判定だって貰っている。きっと、行ける。
 試験開始前の注意事項、配られる問題の用紙。
 瑠璃葉さんは、もう起きているかな。僕の成功を願っているはずだ。そうだといいな。
 僕も、瑠璃葉さんのことをしっかりと考える。彼女が付いていてくれている。
 今この会場にはいないけれど、僕の心の中に彼女の存在は刻まれている。
 セックスで肉体を繋ぎあわせなくても、僕と彼女はいつも一緒だ。
 試験が始まった。
 僕ら受験者は、問題の用紙を捲った。

***

「……終わったんだな」

 最終日の全科目の試験が終了し、僕は会場から出てくる。
 疲労感はなかった。
 やり遂げたんだなという感情が、ぼんやりと心の中に留まっている。
 全てを出し切った。人生で勉強してきたことの何もかもを叩きつけてきた。
 結果はどうなるかは分からない。解けたほうだとは思うけど、同じように修羅場をくぐっきた他の受験生も同じだろう。
 油断はできない。
 漏れて不合格の三文字に終わるかもしれないけれど、でもたぶん大丈夫だと思う。
 不思議と、そんな確信があった。

「……瑠璃葉さんの家に行くんだったな」

 昨日、約束した。
 今まで頑張ったご褒美に、セックスをさせてくれるのだと。
 彼女と出会えばいつもそうしてる気がするが、祝ってくれようとしているのだということは素直に嬉しかった。
 瑠璃葉さんの家は覚えている。
 半年以上前に行っただけだが、どこにあるのかは記憶にある。
 まあ、迷ったら瑠璃葉さんに連絡して訊いてみればいいだろう。
 気になるのは、エッチ以外にもう一つ何かを用意しているという話だった。
 何のことだろう。
 キス……は違うと思う。どこかに食事に誘ってくれるのだろうか。

「まあ、行けば分かるか」

 僕はそう呟くと、丁度停留所に止まったバスに乗り込んだ。

 瑠璃葉さんの住むマンションの最寄で降り、そこまで歩いていく。
 辿り着くと、彼女の部屋のある階まで階段を使って登っていく。
 瑠璃葉さんには、これから向かうとはバスの中で予めラインで伝えてあった。
 彼女の部屋の前にまで着く。チャイムを鳴らし、僕の来訪を伝えると、内部でパタパタと音が近づいてきて、扉が開く。

「真一さん! ようこそいらっしゃいました!」
「こんにちは、瑠璃葉さん。確認もなしにいきなりドアを開けるのは危ないと思いますよ?」
「えへへ……真一さんが来てくれるの楽しみで、忘れちゃいましたね……」

 どうぞ入ってくださいと誘われて、僕はお邪魔する。
 部屋の中は、最後に来た時と殆ど変わっていない。よく掃除されていて、無駄なものも特に見当たらなかった。
 きっちりとした、優等生の居宅というような空間だ。
 彼女は僕の方を向いて立ち止まり、にっこりと笑いながら口を開く。

「まずは真一さん。本当に、お疲れ様でした。ここまで来たのは、あなたの努力あってのことです。本当に、よく頑張りました」
「いや、瑠璃葉さんのお陰です。分からないことがあれば、僕なんかにも理解しやすいようにして教えてくれたし、辛いときは励ましてもくれた。瑠璃葉さんがいたからこそ、ここまで来ることができた」
「そんなっ。私、当然のことをしただけです。一応先輩として、ほんの少し手助けしただけですし……」
「その当然のことが本当に支えになったんです。ありがとうございます、瑠璃葉さん」

 彼女は目を逸らし、頬を指で搔いている。照れているのが一目で分かった。
 ああ、可愛いな。

「きょ、今日は、私にいっぱい甘えてくれていいんですからね? 真一さんの好きなように、私の身体を使って欲しいな……って」
「ええ。甘えさせてください。時間の許す限り、お願いします」
「じゃあ、早速お風呂に入りましょうか……寒いですし、身体暖めてからにしましょう」

 僕は彼女に案内されて、浴室にやってくる。服を脱いで、二人で入室する。
 正直、あまり広くなかった。身体を洗うスペースは三人入れるかと言ったところだ。

「ごめんなさい。窮屈ですよね……」
「いや、大丈夫ですよ。瑠璃葉さん、先に身体洗ってください」

 一人で浴室に入って身体を洗い、風呂に浸かったらもう一人が入れば窮屈なのは解決するのだろうが、少しでも二人でいる時間を延ばしたかった。
 それに、この狭い空間だとお互いの肌がよく触れ合う。好きな人の裸体と密接しているのに心地良さを感じている自分がいた。

「じゃあ、背中流しますね」

 僕はお湯加減を確認した後、瑠璃葉さんの背中に掛ける。
 彼女の体のラインは、後ろから見ても美しかった。
 均整の取れた肉体、程よく縊れた腰周り。白桃を思わせるぷりぷりとした尻は、プラスチックの椅子に軽く潰れてその柔らかさを引き立てている。

「どうです? 熱くないですか?」
「大丈夫ですよ。続けてください」

 僕はしばらくお湯を掛けていたが、手元にあったボディソープの中身をスポンジに流し、程よくあわ立ててから彼女の背中に塗っていく。
 程なくして、彼女の背中は泡だらけになる。白熊みたいに、真っ白だ。
 彼女の柔肌を傷つけないように、力を入れすぎないように気をつけながら、垢や汚れを落としていく。

「真一さん、やっぱり上手いですね。女の子を扱う感覚、よく分かってる」
「ありがとうございます。まあ、瑠璃葉さん以外の女の子のことはよく分からないですけど」

 とりあえず、満足の行くまで背中は洗えた。次は前だ。

「前もお願いしちゃおうかなぁ。入試成功のご褒美も兼ねて」
「以前も僕、瑠璃葉さんの前を洗いませんでしたっけ」
「それはそれです」

 洗ってもらいたいというよりかは、僕にもっと身体を触って欲しいらしい。
 僕も触りたいし、公平な条件だな。
 瑠璃葉さんは前を向き、僕に向き合う。
 スポンジに再び少しボディソープをつけると、僕は彼女の裸体を擦り始めた。

「へへへっ、くすぐったいくすぐったい」

 首や脇の下、胸、腹部を擦る。彼女が雪のような白さに包まれていく。
 その内、僕は陰部にまで到着した。
 ちゃんとここも洗ってくださいねと言われ、僕は手を近づけさせる。

「あっ……私の下の毛も、しっかり洗ってください。しっかりと擦って」
「ここをしっかりと洗うんですか?」
「ほら、えーと、そうっ、性病って陰毛からも感染するらしいですよ。毛と毛が触れ合って、毛じらみが移るらしいんです。それの予防で」

 理由を付けているが、僕に掻き分けて触って欲しいだけなのが何となく分かる。
 変態だなぁと思うけど、嫌な気はしない。
 彼女の望むままに、指を使って細かな毛を触る。
 ざらざらとしている。
 ある程度の長さを残して剃られているその淫靡な毛の奥に指を這わせ、地肌に触れてみる。

「ちゃんと洗わなくちゃ駄目ですよ~?」

 そうは言うが止めるつもりはないらしい。彼女が少し興奮しているのが感じられる。
 泡が付いていない部位から見える素肌が、ほんのり赤みを帯びたようにも思えた。

「変なこと言うようですけど……陰毛の質も凄くいいですね。髪の毛だけじゃなく」

 相当変態的な発言をした気がするが、瑠璃葉さんは笑ってくれた。

「あそこも触っていいですよ?」

 彼女が僕の手を握り、陰部に誘う。
 泡のついた手で試しに開いてみると、とろとろとした桃色の淫肉が露になった。
 ボディソープとは違う、ぬめぬめとしたものが指に触れる。少し濡れていた。

「ベッドまで待てないし、ここで始めちゃいます?」

 瑠璃葉さんは誘惑を掛けてくる。顔を見ると、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
 普段の真面目そうな態度からはあまり想像の付かない表情。

「……なーんて、嘘です。ゴム、ここには無いですよね。それにこの場所狭いし」

 誘惑しておいて、僕が襲い掛かったらどうするというのだろう。そのスリルも込みで楽しんでいるらしい。
 とりあえず満足に洗えたかなというところで、僕は湯を掛け泡を流す。
 今度は僕が洗われる番だなと思いつつ、彼女と席を入れ変えた。

***

 入浴が終わり、身体を拭いた僕らは服を着ずに寝室までやってくる。

「気持ちよかった~! 身体温まりましたね」
「瑠璃葉さん、結構お風呂のお湯の設定高くしてましたね。今日寒かったからいいですけど」

 部屋も予めつけておいた暖房が効いていて、結構暑い。

「身体の芯まであったかいでしょ。ちょっと高い入浴剤使ったんです」

 冬だからいいのだが、なぜか瑠璃葉さんは身体を温めることに拘っているらしかった。
 何か考えがあるのだろうか。

「じゃあ、お待ちかねのセックスしましょうか。頑張った真一さんに、いっぱいご奉仕してあげなくちゃ」
「じゃあ、いっぱい甘えさせてください。今日は僕が主役ですね」
「おっと……その前に、ちょっとだけ待っててください。すぐ戻ります」

 そう言うと、瑠璃葉さんは部屋の外に出て行ってしまった。
 トイレだろうか。そんな失礼な予想をしてしまう。
 彼女はすぐに戻ってきた。
 手には何か小さな箱を持っている。結構綺麗な包装が掛けられて、可愛らしいリボンが巻かれている。
 プレゼントの箱のように見えた。

「開けてみてください」

 はい、どうぞ。と言うかのようにして、僕にその包みを渡してくる。
 リボンを外し、包装を丁寧に剥がす間、彼女は期待したような眼差しで僕のことを見ていた。
 箱を開け、中身を確認する。

「あっ、これは……」

 中に入っていたもの。それはチョコレートだ。ハートの形をした黒い板が収まっている。
 見たところ、市販品の類ではなかった。手作りだ。

「今、二月ですよね。丁度今日はバレンタインデーですよね。真一さんの試験が今日丁度終わって、君に出会えるのなら、絶対に渡したいなと思って作ったんです」

 バレンタイン。受験の忙しさですっかり忘れていたが、確かにそうだ。

「去年は私が受験だったから、忙しくて渡せなかったけど、次こそは真一さんに渡すって思ってたんです。嬉しい……ですか?」
「勿論。ありがとうございます。これ、瑠璃葉さんが作ったんですよね」
「そうです。本命かどうかは、言うまでもないですよね」

 にこっと瑠璃葉さんは笑う。彼女の乙女な部分が浮き出て、僕はすこしどきりとする。
 今日この日に僕に渡すため、前から準備をしていたのだ。

「嬉しいです。後でゆっくりと食べさせてもらいます」
「それなんですけど……」

 彼女が流れを切ってくる。何かあるというのだろうか。
 変なものが混ぜられているとか。

「変なものは入ってないんですけど……引かないでくださいね?」

 さらっと心の中を読まれると同時に、彼女が保険を掛けてくる。
 瑠璃葉さんは少し躊躇っている様子だった。

「大丈夫ですよ。今までも、結構無茶なこと言われましたから。……酷いこと言うようですけど」
「自覚はあります。でも、こんなこと言っちゃって平気なのかなぁ……」
「思い切って言ってください。それなりに覚悟はできてます。受験をここまで乗り切ってきたくらいですし」
「じゃあ、言いますよ?」

 瑠璃葉さんは一旦溜めてから、その言葉を言い放つ。

「そのチョコ、これからエッチなことに使いませんか?」
「……エッチなこと?」

 驚くというよりは、何に使うんだという困惑の声が出る。
 あんまり予想がつかないが。

「この部屋、暖房効いてますよね? 私たち、お風呂に入ったばかりで身体が温まってますよね。チョコ、どうなると思います?」
「溶けます……あっ」

 何となく、瑠璃葉さんの言いたいことが分かった。
 でも、せっかくのバレンタインチョコレートをこんなことに使っていいのだろうか。

「そうです。私の体温でゆっくりと溶かして、それを真一さんに舐め取ってもらいたいなと……駄目ですか?」
「せっかく作ったチョコを?」
「やりたくないなぁ~というなら私、やめておきます。……食べ物で遊んじゃいけませんからね」
「食べるわけですから、粗末にはしませんけどね」

 ゆっくり食べたいなという気持ちもあるけれど、でも少し魅力もあった。
 瑠璃葉さんがやりたいというなら、やってみよう。

「やります。もうチョコも溶け始めてるようですしね」
「ありがとうございます。身体が冷めちゃわない内に、やりますか」

 僕らはベッドの上に乗る。
 こうして彼女の部屋でセックスするのは久しぶりだ。
「大学に合格して東京に住むことになったら、私と一緒に住みませんか」と瑠璃葉さんから持ちかけられていた。
 もしも同棲が始まったら、頻繁にセックスすることになるかもしれない。
 それは構わないのだが、問題は僕らの両親のことだ。
 僕は自分の両親には、「友達の家に同棲させてもらうかもしれない」とはあらかじめ報告している。
「信頼出来る子なのか」など根掘り葉掘り訊かれたが、意外と説得は楽だった。
 たぶん、僕が男だからだろう。女の子に比べて、どこかにやることに抵抗は少ないのかもしれない。
 同棲させてもらう人が、女の子だということは結局喋ってしまった。隠し通すのも難しいだろうし。
「デキ婚はするなよ」と父親に誓わされ、僕に関してはOKを貰っていた。
 問題は、瑠璃葉さんだ。
 女の子が、少なくとも彼女の両親にとっては見知らぬ、どこの馬の骨ともつかぬ男と共に暮らすことを許諾してもらえるのか、正直なところ自信がない。
 瑠璃葉さんは自分の両親に電話で話をしたらしい。やはりというべきか、彼女の両親は渋った様子だったという。
「今度あなたが帰ってくる時、その人と会わせてみなさい」と、当然といえば当然のことを母親から言われたと瑠璃葉さんは教えてくれた。
 彼女の両親と面会かと思うと、正直なところ気が重い。
 でも、今はセックスに集中しよう。僕をお祝いしてくれる、瑠璃葉さんの想いに答えて。
 瑠璃葉さんは僕からチョコを受け取ると、ベッドに寝そべりそれを自分の胸の谷間に挟み込んだ。
 ハンバーガーみたいに、乳房と乳房をパンズとして、ハート型のチョコレートの板が押し付けられる。
 彼女は丹念に捏ねる。ハート形にせっかく固めたのに溶かしちゃうのかとは思うが、興が冷めるので口には出さない。
 そうしていると、部屋の熱と瑠璃葉さんの体温で段々チョコが柔らかく濡れていく。
 色白い彼女の肌に、チョコレートの濃い茶色が染み付いていく。
 その間に、僕は愛撫をすることにした。
 瑠璃葉さんの性器の周囲を、丹念に指の腹で摩る。
 陰核を時々擦りながら、じっくりと濡らしていく。
 そうしているうちに、チョコレートは原型がなくなっていった。
 塊が僅かに残る程度で、とろとろとした液体が胸の狭間を中心として広がっている。
 瑠璃葉さん、お風呂に入ったとはいえ体温高いんだな。

「真一さん、ゴムつけてください。もう挿入していいですよ」

 瑠璃葉さんに誘われて、手元に置いてあったゴムの包装を破き、丁寧に装着する。
 ラテックス製のコンドームは油分に弱く、破れる原因になる。
 チョコレートにうっかり触れないように気をつけつつ、僕は自分のものを擦り付けるようにして、彼女の中に流れ込む。
 動こうと思った時、瑠璃葉さんは突然止めてくる。

「すぐにイっちゃうの、勿体無いですよね。腰は動かさず、繋がったままにしませんか? チョコ舐めながら」

 ポリネシアン・セックスのようなことをしようということらしい。あれほど前戯は長くは行っていないけど。

「真一さんへのご褒美だから、いっぱい楽しませてあげたいです。ね?」
「分かりました。僕も少しでも瑠璃葉さんの肌に触れていたいですから」

 瑠璃葉さんに覆いかぶさり、僕らは向かい合う。
 彼女は僕の胴に両手を回し、控えめに愛を伝えてくる。
 早く放精したいという男の本能と、焦らして官能を高めるのだという理性がぶつかり合う。
 でも、腰の動きは最低限。

「……胸、舐めてください」

 チョコでトッピングされた、瑠璃葉さんの乳房に顔を近づける。
 舌で舐め取ると、甘い味が口内に広がった。

「美味しいです。好きな味だ」
「ふふっ……嬉しいです」

 舌の先でなぞる様にして乳首に汚れを擦り付けて、それを吸う。
 甘味が流入してくる。母乳を吸っているかのように錯覚する。

「まだ、おっぱい出ないですよ?」
「……いつかは出るようにしてあげます」

 待ってますからねと瑠璃葉さんは微笑み、僕の動作を観察する。
 彼女の肌を舐めることだけに集中した。
 茶色い染みに舌を這わせると、その下部に隠れていた素肌が表出する。
 身体に塗られた甘美を、下品に貪らない程度に舐めていく。愛撫するように。

「私にも食べさせてください」

 瑠璃葉さんの顔を見ると、期待したような表情を僕に向けていた。
 それの言わんとすることを理解すると、僕はチョコの塊を口に含み、彼女に接吻する。

「んっ……」

 合わせた唇から、彼女の中にチョコを流し込む。親鳥が雛に餌を分け与えるように。
 唾液の含まれた甘い液体を、彼女に注ぐ。
 衛生面では問題がありそうだけど、雑菌とかそんなものなど関係ないとばかりに、そんな存在を上回る分の愛を僕らは分かち合う。
 文字通りの、甘いキス。
 瑠璃葉さんとキスをするのは、何度目なんだろう。
 しばらくの間口付けを交わしていたが、十分満足した辺りで僕はそれを解く。
 愛おしげな表情の瑠璃葉さん。口の端からは茶色い色の混じった、粘度の高い涎が微かに伝っている。

「チョコ、美味しく出来てますね……初めてだったけど、上手く作れてよかった」

 瑠璃葉さんは、僕の汗ばんだうなじに手を伸ばす。そっと僕を抱き寄せ、少しだけ奥に僕を沈める。

「まだ、動いちゃ駄目ですよ? もうちょっとこのまま……」

 こんな風に繋がっていると、段々身体が高められていくような気がする。
 彼女の肌の熱さ。濡れた感触。一つ一つの動き。
 全てに対して、過敏な反応を取りそうになる。
 ペニスは半分程度まで膣内に入っている。一気に奥まで入れて突き上げたくなる。瑠璃葉さんに全部を飲み込んでもらいたくなる。
 でも、辛抱。この時間を、まだ終わらせたくない。
 少し勃起が収まりそうになった時に最低限の動きをするのみで、僕らは静寂を貫いていた。
 その僅かな動きも、あえて彼女の弱いところを外して微弱な刺激を与えるのみに留める。

「瑠璃葉さん」
「ん? 何ですか……?」
「……好きです」

 何でそう言いたくなったのかは、よく分からない。
 お互い繋がって、まるで両者の存在が同一のものであると錯覚しそうになるほどに、熱と熱が混ざり合うこの状況。
 静かな、しめやかなセックス。
 僕は何かを、彼女に伝えたかったのかもしれない。ピストンという動物的な愛情表現ではなく、人間の言葉として。

「私もですよ。真一さん」

 瑠璃葉さんの熱が、全身に感じられる。彼女の肌に僅かに残っているチョコは、もう全部溶けていた。
 掃除をするように、それを舌で舐め取る。

「真一さん、赤ちゃんみたい」

 軽く瑠璃葉さんは笑う。馬鹿にしているのではなく、僕を愛しむような調子で。
 何分こうして繋がっているだろうか。
 身体全体が性感帯になったかのように錯覚する。触れられている部分が快楽を感じている。
 それは彼女も同じらしかった。肌はほんのり赤みを帯びて、色らしい蒸気すら発していそう。
 我慢できず、少しづつ奥に突き入れる。腰を激しく動かさない程度に。
 やがて僕の全てが彼女の中に入り込む。
 目蓋を閉じ、僕は瑠璃葉さんに再びキスをした。
 胴に回していた手を離し、彼女は僕の頬をそっと撫でてくれる。
 僕らの身体は汗ばんでいた。しっとりと湿ったお互いの肌。
 僕の身体に、瑠璃葉さんは再び腕を絡み付ける。深くなった繋がりに答えるように。
 少しだけ、意地悪をしてみたくなって僕は最奥にぐりぐりと擦りつける。
 突然の刺激に正直僕自身も射精しかけるかと思ったが、どうにか堪えることができた。

「ひゃ! ……卑怯ですよっ、今の」

 本気では怒っていない。この状態が壊れない様に、諭すかのように僕に言う。

「すみません。ちょっと悪ふざけしてみたくなって」
「お詫びにもう一回キスしてください。もっと濃いやつ」

 僕は瑠璃葉さんの唇を塞ぐと、激しく口内を攻めたてる。
 舌を絡ませ、口と口を密着させて愛を交わす。

「んっ……ん……」

 何十分も経っていたから、流石にチョコの味はしなかった。
 口付けを解き、口の端から零れている、飲みきれなかった唾液を舐める。

「ねえ……真一さん……私っ……もう……」

 瑠璃葉さんは期待するような眼差しで僕を見つめる。
 その瞳を覗き込むと、濡れた艶やかな目の中の虹彩が、好奇心にキラキラと輝いていた。
 僕も、そろそろ律動を開始したい。
 お互い、高まっている。

「動きますよ……」

 腰を少しづつ、僕は振り始める。小刻みに揺らす程度だったが、敏感になった身体は少しの刺激だけでどうにかなりそうだった。

「やっ……何これっ……いつもと全然違うっ」

 僕も同じだ。激しさは無いけれど、興奮の度合いが違う。
 瑠璃葉さんと本当に一つになれているかのような、心と心が繋がっているような、そんな充実感。
 何十分もかけて解れた彼女の肉は、蕩けるかのようだった。
 きゅんと的確に僕のことを刺激して、その摩擦が僕に吐精を持ちかけてくる。

「真一さんっ。もう少しだけ激しくしていいですよ……っ」

 僕はその通りにする。ただ、いきなり終わるのは避けたいので控えめに速度を上げる。

「あんっ……ひゃっ、くっ……んぁ♡」

 幸せそうな顔を彼女はしていた。大好きな人と一つになっている。
 身も心も共有している。そんな悦楽に、悦んでいる。
 熱い指先。滲む汗。混ざる吐息。どちらが自分なのかも分からない。
 生まれた時から僕らは一心同体だったかのように、精神も肉体も密接していた。
 快楽が少しづつ忍び寄ってくる。
 動くたびに膣の締め付けが強くなっていくような気がする。
 もしもゴムを付けていなければ……それがたまらぬほどに惜しい。

「くっ……るり、は、さんっ……もう……」

 僕の方が先に果てそうだった。

「いいですよっ。出してっ、くださいっ」

 箍が外れたかのように、それまでの均衡していた状態が一気に崩れた。
 僕の鈴口から熱いものがほとばしる。
 強すぎる絶頂感が全身に駆け巡る。手足が震える。神経が、襲われている。
 瑠璃葉さんは思い切り僕を引き寄せて、一片の隙間すらも残さぬほどに密着させた。
 手足をがっしりと僕の胴に絡みつけ、逃さないというように固定している。
 僕らは目をしっかりと閉じていた。
 跳ねる精液。容赦なく放たれる白濁。ゴムを貫きそうなほどに、大量の体液が飛び出すのを感じる。
 それはいつもの何倍もの時間にも感じられた。
 性感帯となった全身が堪能する肉悦。その感覚に、僕らは身を委ねていた。
 射精が終わる。
 強い滑りが僕の肉棒を包んでいる。ゴムが破れてしまったのだろうかと不安になるが、自分の精液の感覚なのだと思い出す。

「まだ、抜かないでください……」

 瑠璃葉さんが微笑みながら僕に言う。
 もっとこうしていたい。それが、ポリネシアン・セックスの醍醐味なのだから。
 甘い囁きは、自分の耳すらも性感帯に変わってしまったのだと錯覚させるほどだった。

「まだ、抜きませんよ……」

 セックスを始めて一時間半は経っている。
 本当のポリネシアン・セックスに比べれば時間は短いけど、けれど深い充実感を得られた気がした。
 僕の腕の中にいるこの娘と、本当の意味で一つになれた気がする。
 有り余る快感は、まだ続いている。
 ぎゅっと彼女の身体を抱きしめる。頬をすり合わせて、幸せなのだということを身体で伝える。
 彼女はそれを黙って受けとめてくれた。僕の無言の愛情表現に、くすぐったそうにしながら。
 体温を分かち合う。愛を噛み締める。

「……私、待ってますからね」

 何のことなのかを理解する。
 一緒に大学に通おう。一緒に生活をしよう。

 勿論。と、僕は微笑みながら返した
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