天誅殺師 天誅殺参ノ件(くだん) 【短篇・中篇・長篇集】

比嘉環(ひが・たまき)

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惨劇ノ参事⑶・第七章《烈女死ノ肆竦みと緋色桜舞吹雪の外道箱》弐

拾七之罰「戀夏毒花刺青抄」ー毒娘と女師と禍ノ生き刺青ー

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 三竦みーー。
最もわかりやすい例はじゃんけんだ。
 グー(石)
 チョキ(はさみ)
 パー(紙)。
 石ははさみに勝ち、はさみは石に負ける。
 はさみは紙に勝ち、紙は石に勝つ。
 どの組み合わせでもどちらかが勝ち、負ける。
 絶対的勝者が存在しない。
 ーーこれを蛇と蛞蝓と蝦蟇に当てはめると。
 蛇は蝦蟇(蛙)に勝ち。
 蝦蟇(蛙)は蛞蝓に勝ち。
 蛇は蛞蝓に負ける。
 つまり、この烈女達の三竦みでは、
 ーー蛇の戀夏は蝦蟇のおるいに勝ち。
 ーー蝦蟇のおるいは蛞蝓のお絹に勝つが。
 ーー蛞蝓のお絹は蛇の戀夏に勝つ。
 ということだ。
 だが、
「ーー勝負事に勝負者なき、斯様なこと、面白くも何もないではないかえ」
 お百が、飼い主たるスサノヲの頭に座し、ひざの上に乗せていた緋色の桜舞い散る箱を開けた。
 それは玉手箱なるか。
 雀の御宿で善良なる翁が選んだ小さな箱か、強欲で残虐な媼が選んだ大きな箱だったのかーー。
  
「…………ァ…………アァ…………ァ…………アァ……ハ…………ハ、ハ…………」

 笑いを含んだ異様な息遣いとともに、
 ずるり、と緋色の箱から這い出して来た者があった。

 左右の肩から壱本ずつ。
 両乳房の脇から壱本ずつ。
 その真下に、左右壱本ずつ。
 左右対象に参対参の腕を生やした、小ぶりの乳房を晒した上半身裸の若い女が、ぐちゃぐちゃに乱れた長い黒髪を垂らし、箱の中からへそ下までその異形の身を乗り出した。
 計・陸本の腕はいずれも毒蟲らによる噛み痕だらけで、右の弐本目の腕と左の参本目の腕は壊死したようにどす黒く変色しているが、しっかりとその裸体の脇に根を張っている。
 いずれの爪も深緋に染まって限りなく鉤爪に近い形状をしていた。
 その陸本の腕にはすべて、百足、蚰蜒、女郎蜘蛛が刺青として肩から手首までびっしりと覆いつくされ。
 鎖骨の下には、あの互一の生首がこちらも刺青となって埋め込まれていた。
 左顔の鼻から下半分が抉れ、歯茎も剥き出しになり、眼球のない左眼窩には、ドスが刺し込まれた壮絶な容貌を晒していた。
 さらに、乳房の真下にはあのお源が、本来の姿である蝦蟇の刺青と化し。
 細くくびれた腰周り全体が、毒液を含んだ疣という疣びっしりと、おぞましく埋め尽くされていた。
 ーーその元の肉体は、箱に飲み込まれた実花だ。
 それだけでもう、その者は人ではないと、場に居合わせた誰もが思った。
「い、いいぃ、嫌や! 嫌や!何なんこれ!? 何やの、何やねんて!!」
 真っ先に悲鳴を上げ、両掌で頭を抱えてその場にへたり込んだのは、ちゃら梅だった。
 その直後、昌が後ろ手に両掌をついて腰を抜かすと、尻をついたまま動けない地面が色を変え、それが染みとなって広がる。
 ーー失禁したのだ。
「あが、ぁぐ、おご……」
 昌は唇の両端から泡立った唾液を大量に垂れ流し。
 全身を瘧(おこり)のように激しく震わせた。
 笙と小助は、直立不動で箱から這い出して来た女の姿を、自身の暗器である十手と鉄棒を握り締めながら、その姿を見つめて ーーいや、違う。
 わずか十数年の人生の中で遭遇した、この最大の恐怖のあまり、身動きひとつ取れなかったのだ。
 金切り声を上げて叫び、その場にへたり込んだちゃら梅より。
 腰を抜かして失禁し、錯乱状態に陥った昌よりもずっと恐怖に怯え、恐怖に全身を硬直させながら、恐怖に耐えているのだ。
 それはただ、己の男としての矜恃のために。
「…………ついに姦姦蛇螺(かんかんだら)を造り出したか、お百様…………」
「天刑かえ。あの按摩の足止めはどうなった?」
 そこに現れたのは、病葉天刑。
 そして、
「予想通りでござんしたよ、姫巫(ひめかんなぎ)様。あんた様、人を使って【蠱毒】をなさいやしたねーーこいつぁもう、外法ならぬ外道ですぜ。どれだけの跳ね返りが来るか、それをお覚悟の上のことでなさったんでござんすか?」
「黯!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おいよ、タヲヤメ。そこらのこき汚ねぇ夜鷹ども、全員姦(や)って、殺(や)っちまいな」
 ……オォ……ォォ……と、唸るような小声を上げ。
 タヲヤメは腹の内側から無数の触手を、自我を失い女同士の乱交の群がりに、幾度なく覆いかぶさった。
 それは鎌で根深い雑草を刈るがごとく幾度となく繰り返され、絶頂に達した夜鷹達の嬌声と悲鳴とが延々と続いたのちーー。
  夜鷹集団【山谷堀五百旗頭一座】は、ひとり残らず壊滅した。
「ふふふ、これで三竦みでは勝者なけれど、四竦みの、勝者ありの勝負が遠慮なく出来るわぇーー」
 スサノヲの頭に横座りになっていたお百が、箱をさらに傾けた。
 そこから、銀の鱗身の大蛇の下半身を持った実花が、全身を現した。
 蛇身のとぐろを巻いたその姿は、優に六尺はある。
「あァっはっはっはっはァ!!」
 その場にはまるでそぐわない、甲高い笑い声が辺りに響いた。
 ーー戀夏が、そっくり返って笑っている。
「やるじゃねェかよォ、お香ーーじゃねェや、お絹!夜鷹ちゃん嫌いのあたしにとっちゃ、最っ高にいい仕事してくれたじゃねェかィ!」
 笑い過ぎて目尻からにじんだ涙を拭い、さらに腹を押さえながら、戀夏はひぃひぃ笑い続けた。
「ーーさァ。とっととやっちまォうぜェ。四竦みってやつをよォ?」
「待たれい」
 静かだが、よく通る男声が戀夏を制した。
 天刑だ。
「……一斉の四竦みでは……その生き刺青の主ら全滅は……明瞭……なり……故に……」
 本来なら、間違いなく反発するだろう戀夏を黙らせるほどの凄まじいまでの圧が、その声には含まれていた。
 天刑が右の裾をめくると、そこにはくり小刀と、小筆が巻きつけられていた。
 そのくり小刀が、ぞりっと左腕のひじから下の内側の肉を掘るように刃を立て、短く深い傷が出来ると、そこから大量の血が溢れ出る。
 天刑はそこにじっくりと小筆の後ろに咥えで先を浸し。
 ややあってから、袂から取り出した四枚の半紙に、何やらしたため、ぐしゃぐしゃに両掌で丸めると、それを天に向けて高く放り投げた。
 ーーあろうことか、それは宙で一枚の長い書き初め用の長い半紙になり。
 一通の書状と化した。
 戀夏、お絹、おるい、実花こと姦姦蛇螺の中間に、音もなく地面に落ちた。
「でぇじょうぶでやすよ。姐様方は、今は姦姦蛇螺様以外、半妖の身でござんす。天刑病の者の血に触れたとて、病は絶対に伝染りゃぁしやせん。御心配なく」
 滅黯のその言葉に、真っ先に半紙を手にしたのは、スサノヲの触手であった。
 地に落ちた長い半紙を広げ、血墨で書かれたそれを、主たるお百に見せた。
 しばし、月光を灯り代わりに見ていたお百は、四人中、もっとも高い場所からそれを投げ捨てた。
 それを次に奪ったのは、姦姦蛇螺と化した実花だった。
 下腹についた、蝦蟇のお源の長い舌がそれを絡み取り、合わせて六本の腕のうち、肩口から生えた両腕が書状の両端を持ち。
 白眼は黒く、黒眼は深紅に変じた異形の両眼で、文字通り書状に眼を通すと、鼻で笑い、地面に放り投げた。
 それを素早く受け取ったのは、戀夏だった。
 そして、お絹が横からそれを覗き込んだ。
 それは、四竦みの決戦図であった。
 壱、お絹タヲヤメ(蛞蝓)×姦姦蛇螺(大蛇)
 弐、おるいヰカヅチ(蝦蟇)×戀
夏(蝮数匹)
 参、お百スサノヲ(蛞蝓)×勝ち残り者(?)
 ーーであった。
「こりゃ、あたしがトリだねェ。決まってらァ」
 戀夏が言い終わるか終わらぬかのうちに、姦姦蛇螺が下四本の腕でお絹の身を抱き上げ、そのままきつく抱きすくめた。
 いちばん上の両腕が、首に交差する。
 みしみしと音を立て、お絹の頚椎と背骨がきしみ、その背が折れんばかりにしなり、背骨がきしむ。
「タヲヤメ!」
 主の危機と呼びかけに、蝦蟇にとってもっとも恐るべき相手である大蛇に向かう。
 腹から幾本も生えた触手で主たるお絹を奪い返すと、お絹は全身長い金毛に覆われた、タヲヤメの頭頂に乗せられた。
 それと同時に、お絹の下半身がタヲヤメの頭頂にずぶずぶと沈み込んだ。
「タヲヤメ、あんたは獅子之獬、蛞蝓だ。蛇に勝つんだろ? あていもこいつと一心同体になった甲斐があるさね」
《イトッ……シャ……ノウ……》
 タヲヤメはふたたび、腹の内からおびただしい粘液にまみれた触手を、姦姦蛇螺目がけて放った。
 しかし、姦姦蛇螺もやられっぱなしなわけがない。
 シャッ! と牙を剥き、襲いかかる触手に喰らいつき、下半身のお源の疣という疣からは、大量の毒液が、四方八方に霧状に噴出した。
「危ねぇ!」
 盲目ながら、唯一その場で緋砂
と桜乙が身を隠しているシャボン玉の紗を手刀で引き裂き。
 戀夏に昌、小助、ちゃら梅、おるい、天刑。そして自身と緋砂と桜乙の全身を覆った。
「あぁっ、おやた、姐さん! そないなとこにおったんですか!?」
「誰がどこにいたかて、かまわんやろが。ここは天下の往来や。誰のもんでもあらへん」
「せやせや、あてらが伴吉はんとの商談しとる最中に、そこの醜女ん夜鷹が、自分らの火場所荒らしやちゅうていちゃもんつけに来よって」
「ーーせっかく伴吉はんがわしらふたりのために特別に作ってくれはった美ん味いお重食べてたん邪魔しくさりよったんを。デカ蛞蝓に喰い尽くされて、えぇ気味やで、ホンマ」
「えっ、お重!?」
 頭から不可視のシャボン玉の紗をかぶり、鼻から口まで二重に巻きつけたちゃら梅が、緋砂と桜乙が座す二枚の畳に駆け寄って来た。
「残りもん、あれへん?」
「卑しいで、ちゃら梅! あの蝦蟇の毒かかっとるかも知れんねんぞ!」
「ふん、卑しゅうかてかまへんわ。あてらはガキん頃から生ゴミまで喰うとったんやで? 忘れてんか、笙。たかがエボガエルの毒が、どないやっちゅーねん」
「おちゃら、ほれ。まだあてが箸つけとらんもん、ようさんあるで」
 桜乙がひょい、と自身のお重を差し出し、図々しくもちゃら梅はその隣りに座し。
  桜乙は自身の使った箸の先を懐紙で拭くと、ちゃら梅は一切の遠慮もためらいもなしに、その箸で残りの惣菜を食べ始めた。
「えっ、何これ、玉子ん味、全然ついてへんのに、中身のタレつき焼き穴子味濃いから、めっちゃ味ちょうどええわ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ぶじゅるっ、と粘い音を立てて、タヲヤメの触手がスサノヲの六本腕の根元に、幾重にも絡みついた。
 ずるずると、左右両脇に備わった腕が、脇からどろどろと溶けて、姦姦蛇螺の肌を浸食して行く。
 蛞蝓の粘液には、蛇の身を溶かす効果があるというーー。
「まったく、こんなんじゃ張り合いも殺(や)りがいもねぇなぁ」
 じゅわじゅわと腐臭を上げながら溶け落ちて行こうとする六本腕のつけ根に、腹に寄生した蝦蟇のお源の長い舌が、タヲヤメの粘液をあらかた舐め尽くすと。
 生き刺青の女郎蜘蛛の大群が押し寄せ、巣を貼る糸でギリギリと斬り落とされそうになる六本の腕を、蜘蛛の糸で張り巡らし、繋ぎ止めた。
 それらは人の手で払い除けられる、粘い糸ではなく、極細の針金に近かった。
「……オ、惜……シカッ……タ……ネ……ェ、オ……香……チャ……、ン……」
 かつての妹分が、かろうじてまだしゃべれる人語を、ひどいしゃがれ声で口にした。
「はン、バケモンになりやがったてめぇに言われたかねぇよ。だいたい互の字も互の字でぇ、そんな醜態晒してまで、てめぇの女の乳の上にひっついてーー」
 顔半分を腐らせて骨までさらし、歯茎まで剥き出しになった上、空洞になった眼窩にドスを突き刺された互一の右眼が、凄まじい憎悪を湛えてかつての姉貴分をにらみつけた。
「その様子だと、口もろくに利けねぇみてぇだねぇ、互の字。腹の蝦蟇より、何の役にも立ちゃぁしねぇようだなぁ?」
  無言のまま、実花こと姦姦蛇螺の鎖骨に埋め込まれた互一の凄惨な生首が、歯噛みした。
「ーーだぁから、使えねぇってんだよ、てめぇらってのぁ!」
 タヲヤメの頭上から右腕を振り上げると、お百の両腕に獅子之獬と同じ金毛がびっしりとひじまで生え、その二の腕の両腕は、筋骨隆々とした腕に変じた。
 爪は姦姦蛇螺と化した実花が猫や犬の鉤爪ならば。
 お絹の十指はさながら鷹や鷲の猛禽類の爪である。
「ーーたかが大蛞蝓と侮った、獅子之獬タヲヤメが主、夜嵐お絹の力を知るンだねぇ、実花!互の字ぃ!」
 ギャリン! と、固いもの同士がぶつかり合う、嫌な音がした。
「!?」
 左側の半分が抉られ、上下の歯茎が奥歯まで剥き出しになり。
 左眼窩を貫くドスが、姦姦蛇螺の右掌に、逆手に握り締められていた。
 非力な女が短刀を振るい、接近戦となる場合はこの逆手持ちが最も腕力を振るえるのだ。
「へっ、互の字も生き刺青だったかい。こいつぁうっかりだ。だけどなぁ」
 良く見れば、互一の眼窩を貫いたドスは、彼の舌を斜めに斬り落としていた。
「死んだ男のツラぁ乳の上にくっつけて、ドス持ったぐれぇで、イキってんじゃねぇやぃ!」
 ーー猛禽類の鉤爪を備えた右掌が、自身が優勢になったと自負した姦姦蛇螺の隙をつき。
 鎖骨の上に彫られた、互一の物言えぬ生き刺青を、両掌で大量の生肉ごと引き剥がした。
 ーー無言の互一の断末魔の悲鳴と、生肉を深く引き剥がされた姦姦蛇螺の悲鳴が、同時に響き渡る。
 その胸元に、深さ二寸、幅八寸もの、傷口というよりわずかな穴から、大量の血が噴出した。
 耳を塞ぎたくなるような絶叫とともに、相打ちを狙った逆手のドスはお絹の心の臓を目がけて突進し、確かに心臓を貫いたはずだったがーー。
 蛞蝓そのままに、ぶにゅぶにゅとしたお絹の裸身には貫通しなかった。
 それどころか、タヲヤメの粘液にまみれた刃はそれを容易に押し返した。
 そうしてタヲヤメの触手に奪い取られたドスは、お絹の鉤爪に握り締められ、その口内に根元まで含まれると。
 ドスは、蛞蝓の粘液にまみれた諸刃に変じた。
 それが、女郎蜘蛛の糸に繋ぎ止められた六本腕を繋ぎ止めていた、針金並みの強度を持つ糸を立て続けに斬り落とし。
 姦姦蛇螺の腹についたお源の長い舌を左掌で付け根近くまで引きずり出し、こちらもまた、ためらいなくーー。
 斬り落とした。
 地に落ちたお源の長い蝦蟇舌は、巨大な山蛭か山ミミズの如くのたうちまわっていたが、やがて動きを止めた。
 そして、お絹の唾液で強化したドスがまっすぐに姦姦蛇螺の額を貫こうとした、その瞬間。
 生首の生き刺青と化した互一の歯が、それを押し留めた。
 ギリ、ギリ、ギリ……と、上下の歯が喰い込む。
「てめぇ、離しゃあがれ、互の字ぃ!」
 お絹が叫ぶと同時に、ガギャ!と音を立て、折れたドスの刃は、そのまま互一の歯で、彼の歯を数本折り、歯茎に舌、上顎から下顎までズタズタに傷つけ、血まみれにしながら、飲み下された。
「ァア……互一ッツァン、アリガトヨ、ァ、リガト、ョ……アタシノタメ……二……ィ、イ……、イィィィィィィィィ、ウッ、ゲッ、ゲハァァァァッッ!?」
「けっ、バカタレどもが」
 六本腕のすべてで、姦姦蛇螺が全身をかきむしり、激しく悶絶した。
「蛇は金物に弱いのさ。それをてめぇ、互の字は自分の女ぁ守るつもりでドスを噛み砕いて、飲み込みやがった! 」
「ーー!!」
 (ーー!?)
「てめぇらバカ揃って、心中でぇ!」
 叫びながら、刃の半分以上が折られひび割れたドスが、姦姦蛇螺の心の臓を貫いた。
 ひび割れた刃が、さらに心の臓を貫いた衝撃で砂利状に砕けた。
 砂利状の刃が全身の血管を瞬く間に流れ込むや否や、姦姦蛇螺は後頭部が腰につくほど背中を仰け反らせーー。
 口から大量の百足、蚰蜒、女郎蜘蛛の死骸と、一匹の大蝦蟇を。 げろげろと、墓参り用の桶の五、六杯分の真っ黄色な胃液とともに吐き出した。
 姦姦蛇螺の全身が、毒蟲の死骸まみれの吐瀉物とともに、どすんと地に伏しーー。 
 孔雀の羽根に似た巨大な鱗二枚を遺し、夜空にかき消えた。
「肆の内壱戦……夜嵐お絹と姦姦蛇螺。夜嵐お絹の勝利也……」
 天刑の一言に、白子が故の白銀の髪に、紅の両眼。
 可憐な銀髪をお下げ髪にした、小柄な少女ながら、蠱毒遣いたる【妲己のお百】の双眸が本紫に変じ、般若の如き憎悪の表情を浮かべた。
「あぁ、あぁぁぁぁぁっ!! せっかく人のおなごが蠱毒を勝ち抜いたというに、えぇい口惜しや! まだ本物の《姦姦蛇螺》ではなかった!」
ーーその瞳の色は、魔性の者の証。
「最後は我が勝つ。そして貴様と、貴様の女となったお絹も【巫蠱ノ遣・佐餌】の果てなき外法の旅の従者となるのよ」

《第壱対戦結果》
⭕️夜嵐お絹・蛞蝓(獅子之獬)️
❌実花・六本腕大蛇(姦姦蛇螺)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほれほれ、早ぉ次ぃーー、江戸っ子の姐さんと夜鷹はんやで、おきばりやっしゃー!」
 緋砂と桜乙が隣り合う二畳の畳の端、桜乙に空けてもらった畳に斜め座りになり。
 ひざの上に伴吉が作った惣菜をつめた重箱を乗せ。桜乙から譲ってもらったそれを食べながら声をかけたときには、笙も小助も昌も、ようやく正気を取り戻していた。
「うわ、これまためっちゃ美味いやん。なぁ姐さん、これとこれ、何なん?」
「自分から見て、右から二枡目が小鯵の南蛮漬け。ほんで、三枡目が酢蛸や。どっちもちぃとばかし酸っぱいはずやで」
「いちばん下の枡は? 何や、甘そうなもんばっかみたいやけど」
「ふふふ、伴吉はんも粋なお人やわ。まさか芋蛸南瓜、芋栗南瓜知ってはるとはなぁ」
「芋、蛸、南瓜。うん、順番違とるけど、確かに揃っとんな」
「それよかおちゃら、自分、あの夜鷹の用心棒気取りのガキに鉄棒で肩ぁ打たれとったやろ。大丈夫かいな」
「あはは、あてはガキの頃から残飯漁りで年上の兄さんやおっかないおっさまどもにようけボコられよってたさかい、あん程度でーー」
「ちゃら梅ぇっ!!」
 そこに、笙が脱兎の如く駆け寄って来た。
「ちゃら梅ぇ! こないなときに、何のんきに弁当なんぞ喰っとんねん!」
「は? それを自分が言えた立場かいな、笙」
「お、おやた?」
「こないなときでも平気で飯食ってられるちゃら梅の方が、よっぽど肝座っとると思うで、わしゃあ。それが何や、自分は。あっさり魂消た思うたら、それきり身動き取れんようなりくさって」
「……」
「そんでも自分、男かぁ? 金玉と竿、ちゃんとついとんのかいな。こんヘタレ!チンカスどっさり溜まりよった皮っかむりかぃ、アホンダラ!」
 笙はまさか、このように叱責されるとは夢にも思っていなかった。
 叱責されるのは、ちゃら梅の方だとばかりーー。
 やがて、心の底から湧き上がって来た自身の不甲斐なさに、笙は全身をわななかせ、緋砂に額づいていた。
「も、申し訳ありまへんでした……お、おや、た……」
「わかっとんなら、そんでえぇ」
 重い身体を無理やり起こし、ひどく情けない気持ちで【鬼来迎】の面々に背を向け、その場から離れようとしたとき。
「笙!」
 反射的に振り返ると、突然竹皮の包みを投げつけられ、笙はとっさにそれを両腕で受け取った。
「腹ぁ、減ってんのやろ。こいちつはな、伴吉はんが『笙さんはぎょうさん食べはるでしょうから』言うて、自分のために作ってくれたもんや。よう味わって食いなや」
「お……おおきに、おおきに、おやた!」
 緋砂に向け、笙は幾度も頭を下げた。
「アホ、礼いうんも、頭下げんのもわしやない。後で伴吉はんにうんと礼言うて、ようさん頭下げたれ」
 緋砂と桜乙に背を向けて走り出す笙を、ちゃら梅が追いかける。
「待たいや笙!あてもそれ、一口食いたいわ!」
 その一方で、小助が近くの浅い池に何度も何度も昌の顔を沈めては上げ、上げては沈めてを繰り返していた。
 気つけと、鼻水とよだれでぐちゃになった顔を洗い落とすためだ。
「……ん……ぇ、あ、兄ぃ?」
「気づいたか、昌」
 その直後。
 昌の横顔に、小助の右拳が喰らわされ。昌は強制的にに正気を取り戻させられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 次なる対戦は、六匹の蝮と蝦蟇一匹ーー戀夏とおるいだ。
「うっわ、あの両腕に蝮絡めた江戸っ子のお姐やん、どえらいべっぴんはんやなぁ。そのうえ乳でこうて、背中はごっつい御不動様や。仏様、どんだけ気合い入れてあのお姐やんの顔と体作らはって、根性叩き込んでこの世に送り込んだんやろ」
 今、笙とちゃら梅がいるのは、巨木の樫の樹の太く長い枝の上だ。
 向かって右の枝にちゃら梅が乗り、上の枝に左掌でつかまり。
 右掌に割り箸乗せた重箱を手にし、無邪気にゆっさゆっさと枝を揺らして、完全に見物人気分だ。
「ちゃら梅! 枝ァ揺らしなや、わしゃあ落ち着いて、伴吉はんの飯ぃ食いたいねん!」
「おほほ、さいでっか」
 わざとらしく右掌の親指側を左の口端に添えると、ちゃら梅も笙と同様、足場にしていた枝に腰かけた。
 ちゃら梅にとっては食後の甘味。
 笙にとっては天ぷら以外で味わう、初めての伴吉の料理であった。
 笙が開いた竹皮の包みの中身は。上方の者には馴染みのない、三角のにぎり飯三種だった。
 ひとつめは、海苔の代わりにおぼろ昆布に巻かれた握り飯。
 中身は胡麻あえ刻み昆布と、大豆の佃煮。
 ふたつめ、ごく少々の辛口塩鮭のほぐし身と筋子をまぶした、海苔なし。
 三つ目は、すぐきをみじん切りにして握った、こちらも海苔なし。
 そしてーー。
 ちゃら梅に渡された重箱の最後の列。
 芋蛸南瓜のうち、蛸は既に出た。
 残りの芋と栗と南瓜はと言えば。
 芋は言うまでもなくさつまいもだが、それを短冊切りにして揚げ、水飴と黒胡麻でまぶしたもの。
 一方、栗は小粒の実を混ぜた栗きんとんに仕上げられていた。
 南瓜は粗い餡状にされ、一口大の焼き饅頭に。
「はぁん、みぃんな美味いわぁ。あて、伴吉はんのこと嫁にしたい~!」
「アホか」
 そう一言吐き捨てると、笙は潤んだ眼で、おぼろ昆布の握り飯を喰らっていた。
「昌ぁ、これは現実でぇ。もっかいションベン漏らしたら、シメるぞ」
「……へ、へぇ! あ、兄ぃ!」
 みっともなく失禁した昌の褌を小助が近くの井戸から汲んだ水をかけ、きつく絞り。
 まったく乾いていない、濡れ雑巾のような褌を小助が履かせてやると。
 昌は内股になって両ひざをガタガタ振るわせながら、小助の背中に隠れ、その背中にしがみつき。
 彼なりに必死に、この半妖の女達の戦いを最後まで見守ろうと、あちこち虫歯でなくしてしまった、残りのボロい歯を喰い縛った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 第弐対戦ーーは、戀夏とおるいであった。
 しかし、
「悪りィけど、あたしァこいつとはやれねェよ」
「!? どういうことだ、蝮の女よ」
「蛇が蛙に勝つのは当たり前じゃねェかィ。そんな結果のわかり切ってる、弱い者いじめと同じことしたくねェんだよ、デカ蛞蝓の嬢ちゃん。そんならあたしァ不戦敗でかまわねェさ。煮るなり焼くなり好きにしやがれってんだァ!」

 樫の樹の枝の上で、両掌で枝にぶら下がりながら、ちゃら梅は口笛を吹いた。
「うっひょー、これが江戸っ子の粋って奴やんな。桜乙の姐さんみたいや」
「……ちゃら梅、自分今何ちゅうた?」
 最後の刻みすぐき入り握り飯を食べ終え、指にまとわりついた米粒を口に入れながら、笙がちゃら梅に聞き返した。
「ん? あの江戸っ子の姐やん、何や桜乙の姐さんみたいやな、て言うたんで?」
「…………」
 何故か、笙は黙り込んだ。
 そして、戀夏と桜乙の顔を、じっと交互に見くらべた。
「どないしたん、笙?」
「いや、な、何でもあれへんわ」
 竹皮の包みを懐にしまい、笙は話を打ち切った。
「ーーでは、先に我とその蝦蟇の女を戦わせろと申すか、戀夏とやら」
「同じこと何べんも言わせんじゃねェよ、どうせ最後は嬢ちゃんが勝つ気満々なんだろがィ? だったら相手はあたしでも、その蝦蟇遣いの年増の夜鷹ちゃんでも変わんねぇじゃねェか」
「それとも何かィ? この蝦蟇遣いの夜鷹ちゃんじゃ、三竦みの理屈だと蝦蟇は蛞蝓に勝てるから、負け戦は御免こうむるってか? ーー情っさけねェなァ!」
 ギャハハハハハ!! と、戀夏がそっくり返って笑う。
 それは、あからさまな嘲笑だった。
 怒りにわななくお百が頭に乗った獅子之獬、スサノヲが巨体を揺らすと、その瞬間、ビシビシと音を立て、辺り一面に蜘蛛の巣状の地割れが走り抜けた。
 それでも戀夏は一切怯むことなく、
「ーー蠱毒遣いの姫巫様とやらよォ、てめェァ必ず勝てる相手でなきゃ、戦わねェ、いや、戦えねェってのかィ?」
 お百に向けて不敵な笑みを浮かべ、わざとらしくその身をくねくねさせながら、皮肉たっぷりの口調で煽った。
「黙りゃ、下衆の雌蛇!!!」
「じゃかましィや! あたしが下衆なら、てめぇは卑怯者(もん)でェ!」
「貴様……この下衆の雌蛇が……我【妲己のお百】しっかと言質を取ったでの……天刑! 弐回戦はこの蝮女ならず。蝦蟇の女ぞ!」
「……御意」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ヰ、ヰカヅチ……あていは……あていは……」
(案ずるな)
 あくまでも優しい声で、とうに巨体化していたヰカヅチの両前足が、おるいの両腕の脇を前足で抱え上げ、頭の上に乗せた。
 ずず、ずぶぶ……と、下半身が沈み込む。
 お百にお絹、姦姦蛇螺こと実花のわかく美しい体にくらべずとも、年増の夜鷹のその身は乳房も下腹も二の腕も弛み、崩れ、美しくはない。
 だが、頭にかぶり続けていた、土の色が染み込んだ、薄汚れた青い蚊屋釣草が染められた手ぬぐいが、頭からふわりと浮かぶと。
 それは一枚布の晒しと化し、おるいの裸体にきつく巻きついた。
 それと同時に、何故かすべての恐れが内面から消え失せた。
 そしてーー。
 にゅうっ、と。
 長い蝦蟇舌が、義眼代わりにおるいが左眼窩に無理やり押し込んでいた白玉石を絡め取った。
(くれてやる)
  その長い蝦蟇舌が、ヰカヅチの左眼をえぐると、それは長い間盲目だったおるいの左眼窩にするりと潜り込み。
 がっちりと嵌め込まれた。
 「ヰ、ヰカヅチ! あんた、何てこと……え?」
 確かに視界は左右に広がったが、右は色づいたまま。
  しかし、左は白黒であった。
 (蝦蟇なぞ、眼のひとつなくなったところで、大したことはない。田畑や池の中林に森の長い叢の中、前足後ろ足なき獣や虫なぞ、有象無象におる。しかし、人はどこかひとつでも欠けておれば)
「…………」
(かたわと呼ばれ蔑まれるのであろう? 我は地に這いつくばりながら、かような人間どもを幾人も見て来た。人は五体満足でなければ、人として認められぬのであろう? しかしそれは、何と愚かしいことと思わぬか)
「……あていは……そんな扱いしか
されて来なかった。それが当たり前(めぇ)だと……」
(当たり前ではないのだ。自由に動く四肢、見える眼に聞こえる両耳、物言える口、すべてが揃っておらねば人として認めぬ人こそが異端なのだ)
「わかったよ、ヰカヅチ。あていは……あていは……」
 左右の視力を得たおるいは、憎悪に満ちた口調で言い放った。
「ーーもう、人間なんか辞めてやらぁ!」
 牙もなき身で、おるいは少し前にちゃら梅が言った女児雷也のごとく、蝦蟇の跳躍に合わせ、お百に突進して行った。
 びしゅ、ぶしゅ、と。
 ヰカヅチの蝦蟇の疣が弾け。
 疣の中の無数の毒が、スサノヲに浴びせられる。
「はん。即席の半妖の蝦蟇遣いの主の妖女とその疣毒如きが、妲己のお百とスサノヲにーー……」
 お百が自信満々に言い放った、その瞬間。
 がくん、とスサノヲの巨体がぐらついた。
「ス、スサノヲーーまさか、あの蝦蟇如きの毒に……」
「へぃ、仰っるとおり。毒に中(あた)ったんでごぜぇやすよ」
「な……ーー貴様は!」
「へぃ、姫巫様の従者様の御御足に、不遜にも抹茶塩をぶっかけやした、あの無礼者でごぜぇやす」
「貴様ぁ、我が片割れを傷つけた屈辱、今ここで晴らしてくれるわ!」
「……『浪花胃の腑袋(なみのはないのふぶくろ)が術』……」
 ぼそりと滅黯がつぶやくと、その口腔から、細くも、恐ろしく長い魚の浮き袋が引きずり出されて行く。
 それが宙に浮いたその瞬間、滅黯は助走もつけず一枚歯の下駄で高く飛び上がり、樫の樹の枝にぶら下がっていたちゃら梅の左腰から、熟練の掏摸並みどころではない素早さで、竹筒鉄砲を抜き取った。
「ふぇ?」
「ちょいと、本当にちょいとだけでやす。こいつをお借りしやすぜ【鬼来迎】の娘さん」
 その直後、銃弾代わりの爆竹も銀玉も切れた銃口に、息を吹き込んだ。
  ーーちゃら梅が小助の肛門に発砲したより早く、銃口に仕込んだ縫い針が細長い銃弾のように流れ、一気に浮き袋を破るとーー。
 大量の塩水が、豪雨となって空からお百とスサノヲの身にだけ、ドザザザザザ、と降り注いだ。
 それと同時に、二種類の声色の違う断末魔の悲鳴が、辺り一面に響き渡った。
 「江戸前の海水のお味はいかがでやすかぃーー加賀百万石生まれの姫巫様」
 生身の人間ならどうということはないが、今のお百は大蛞蝓たる獅子之獬、スサノヲと同化している。
 身を焼くような苦痛に、お百はスサノヲの頭頂で激しく悶絶した。
「と……溶ける、縮むぅ!」
 その瞬間、戀夏の身に彫られた夾竹桃の葉の縁が薄い刃を生やし、固い枝が蔓の如く伸び。
 一枚残らずスサノヲの黄金の毛を生やした異形の身に突き刺さった。
 断末魔の悲鳴とともにその巨体が溶けながら、地に倒れ込んだ。
「お、おやた……」
「へっ、どないに大きゅうかて、獅子之獬かて、しょせん蛞蝓は蛞蝓や。塩をぶっかけたらしまいやで。塩の代わりに海水使いよるん思いつきよるとは、あの盲の按摩、若いくせしよって相当賢いでぇ……ウチとこで貰い受けたいぐらいや」
「そ、それやったら……あの目隠しの按摩はん、まさか」
「せや、例の『天誅殺師』やで。おまけに、あの御不動さん背負っとるあのどえらいべっぴんのおなごの生き刺青、夾竹桃やさかいに」
「きょう、ち、く、とう……?」
「何や自分知らんのかいな。紅白のめっちゃ綺麗な花ぁ咲かす樹木や。せやけど、葉っぱは毒持ちやねん」
「ふぅ……ん。それって、毒はあれへんけど、ガリカ薔薇や木香薔薇の棘がごっつうキッついやつみとぉなもん?」
「おほ、自分にしちゃえろぉ的を射たこと言うやんか、桜乙。そん通りや」
 崩れ溶け落ちるスサノヲを見つめながら。
 滅黯が、竹筒鉄砲を枝の上にいるちゃら梅の脇に飛び乗り、素早く会釈して返した。
 それだけで、ちゃら梅の胸はときめいた。
「はぁ~、江戸っ子の男はん、見てくれも中身もめっちゃえぇ男ばっかりや~あかん、あかんて、惚れてまう~」
「アホか。こん色キチが。死にさらせ」
 笙の心底からの悪態などまるで聞こえず、ちゃら梅はひとりで浮かれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お互い、ひとつの体で二対二だ、何の卑怯もあるめェよ!」
 戀夏が避けぶや否や、六匹の生き刺青たる蝮が。
 お百の両眼。
 両耳。
 口腔。
 へそを破って体内へ潜り込み。
 眼球、鼓膜、舌、内臓に牙を立て、どくとくと毒液を注ぎ込む。
「アァァァァッ!? イギァァァァァァァァァァァァァ!!!」
 その衝撃で、お百の右半身が大量の肉塊とともに鮮血を噴出して、空中にかき消えた。
 ーー三竦みの理屈ならば、蛇は蛞蝓に負けるはずだが。
 有毒の夾竹桃の葉が金毛の下、体内まで喰い込んだ上、大量の海水たる塩水を浴びせられたスサノヲは、完全に弱体化しきっていたのだ。
(嫌だ、まだ、我は……完全なる姦姦蛇螺を……造り出しては、おらぬ……本物の、姦姦蛇螺を造り上げるまて、は……死……ね……ぬ……!)
「そんなら、あたしがなってやろうじゃねェかィ、その姦姦蛇螺とやらにさァ!」
 ーー声を上げたのは、戀夏だった。
「姐さん! 何をなさいやす!? お止めなせぇ!」
 滅黯の必死の静止も無視して、
先のーー出来損ないではあったがーー実花の遺した孔雀の羽根に似た大きな二枚の鱗を、左右の腕に深々と。
 戀夏がその右腕に、生きた肉を破って刺し込んだ。
 そして戀夏の全身は、彼女の凄まじい絶叫とともに、黒いもやに包まれた。

















 


 







 
 




 

 


 
 
 


 










  


  

  


  



  



  





  


  
  
  

  
  

  
  
  






  


  








  
  
  



  




  

   

  
  
  



  




  


  
  

  

  

  

  




  
  




  


  




  
  
  
  




  
  
  
  
  

  

  
  
  
  








  






  
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