【R18】約束の花を、きみに

染野

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第3章

2.里帰り

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「おはようございます、ユキ様! お迎えにあがりました!」
「おはよう、リサちゃん! ごめんね、急にお願いしちゃって」
「いいえ! 城での仕事より、ユキ様と一緒にいる方が絶対楽しいですから!」

 次の日の朝、部屋まで迎えに来てくれたリサと共に馬車に乗り込んだ。リサの手配で、調理場に作ってもらったお弁当も一緒だ。
 結婚後初めての帰省ということもあって、楽しみである反面少し緊張もする。

「今、ノース城の一階は役所になっていて、便利になったと国民に好評みたいです。それから上の階の一部は観光ツアーで使われているんですけど、ユキ様たち王族の方々の住居だった部分はそのままにしてあるそうですから、ご安心ください」
「そうなんだ……少しでも役に立ってるならよかった」
「お写真、見つかるといいですね! あ、それと……少し気がかりなことが」

 少し声を落として、リサが不安そうに言う。

「確か、ゴウマ大臣ってノース城の警備に回されたんですよね? ばったり会ってしまって、ユキ様に何かしでかさないか不安で……」
「あ……そういえば、そうだったね」

 合併後の大幅な人事改革で、ゴウマは大臣から一介の警備員へと配置替えされることとなった。それまでの悪行を見ていた人たちからは、当然の異動だと何も不平は出なかったが、本人はそう思わなかったことだろう。
 あれから、周りの人たちからも、ソウからもゴウマの話は一つも出なかったから、わたしもすっかりそのことを失念していた。ゴウマが、ソウやわたしを恨んでいても何らおかしくはない。

「でも、私がついてますから大丈夫です! それに、警備はゴウマだけではないはずですし」
「そうだね! ゴウマ大臣も、改心してくれてたらいいんだけど」
「それは……期待しないでおきましょう」

 そんなことを話しているうちに、ノース城に着いたらしい。馬車から降りると、懐かしい風景が目の前に広がっていた。

「久しぶり……外観は何も変わってないんだね」
「はい。内装だけ、少し手を加えたみたいです」

 正面玄関は役所の入り口になっているとのことで、混乱を避けるために東口にある小さな玄関から城内に入った。
 そこで出迎えてくれたのは、警備服に身を包んだ真面目そうな青年だった。ゴウマでなかったことに安心していると、その青年にリサが小さな声で尋ねる。

「あの、ゴウマ元大臣がこちらで働いていると思うのですが、今はどちらに?」
「え、ゴウマ……? す、すみません、自分はこちらに配属されたばかりなもので……ですが現在、そのような名前の警備員は在籍していないと思うのですが」
「え……?」
「あっ、先輩! ゴウマさんってご存知ですか? 以前、ここで働いていたそうなのですが」

 青年が、偶然通りかかった少し年上の警備員にそう聞くと、その警備員は眉を寄せた。どうやら、何か事情があるらしい。

「……ゴウマ元大臣は、こちらに配属されてすぐに退職されました。なんでも昔からの知人を頼りに、ウツギ国へ移住なさるとかで」
「え……!?」
「陛下がゴウマ元大臣を解雇せずに異動させたのは、あの歳では再就職も難しいだろうと考えてのご慈悲であったと思います。それをあの男は理解しようとせず、ここで働く前に辞めてしまいました」

 苦々しげにそう教えてくれた警備員の話を聞くと、彼は昔ゴウマ直属の部下として働いていたらしい。
 ゴウマに言われるがままにこなしていた仕事が、国のためでなくゴウマ自身のためであったことに気付き、それに反発して一度サウス城を出たそうだ。そんな彼をもう一度雇ったのが、ソウだったという。

「陛下には感謝しています。ゴウマの部下であった私など、見てくれてはいないと思っていましたから……ですから再就職のお話を頂いた際も、これは何かの罠だと思って陛下に理由を聞いたところ、『キミは仕事ができるから』……とだけおっしゃいまして」

 ソウの言いそうなことだ。他人のことなど何も気にしていないように見えて、ソウは誰よりも人をよく見ている。それに、所属や出自よりもその人自身の内面を重視するのだ。だからこそ、城内で働く者たちだけでなく、国民もソウについてきてくれるのだろう。

「あの、ゴウマ大臣が辞めたこと、ソウ……陛下は知ってるんでしょうか」
「はい、もちろん。少し残念そうでしたが、こうなることも予想はしていた、といったご様子でしたね」

 仕事があるので、と言ってその警備員は深々と礼をして去って行った。その後ろ姿を見ながら、わたしはなぜか複雑な気分になる。

「……ゴウマ大臣、外国に行って大丈夫なのかなぁ」
「大丈夫ですよ、あの図太い男なら。さあ、ユキ様! あんな男はどうでもいいですから、早くお写真を探しに行きましょう!」

 明るく返してくれるリサに、思わず笑顔になる。ぽかんとした顔で話を聞いていた警備員の青年も、はっとした様子で案内を再開してくれた。
 確かに、あのゴウマ大臣ならどこでも生きていけそうな気がする。リサに促されて、わたしは久しぶりの自分の部屋に向かうことにした。
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