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最終章
2.私が消えるとしたら
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ガチャン、とドアが閉まる音が聞こえて、私は目を覚ました。
目を開けると、目の前にはさっきラップをかけたご飯とおかずがあって、ダイニングテーブルで突っ伏したまま眠ってしまったのだと気付く。
ぼうっとした頭のまま振り向くと、申し訳なさそうな顔をした平原さんが仕事用の鞄を持ったままリビングの入り口に立っていた。
「ごめん、起こしちゃったね。ただいま」
「あ……おかえりなさい。ごめんなさい、私寝ちゃって……」
「ううん、いいよ。でもこんなところで寝てたら風邪ひくから、ベッドで寝て」
「でも、平原さんが……」
彼の帰りを待っているうちに、うっかり眠ってしまっていたらしい。
変な体勢で寝ていたせいか固くなった体で立ち上がると、正面からぎゅうっと彼に抱きすくめられた。
「ふふっ、寝ぼけてるね。もう倫も『平原』なんだよ?」
「あ、そうでした……」
「もう、可愛いなぁ。もうお風呂も入ったんでしょう? 俺もすぐ行くから、ベッド行って寝てて」
「でも、ごはん……」
「大丈夫。倫も仕事で疲れてるんだから、大人しく寝てなさい」
一人でご飯を食べるのは寂しいだろうから、せめて平原さんが食べ終わるまでは起きていようと思ったけれど、今日はどうも眠すぎる。
彼の分のご飯はレンジで温め直してもらえばいいし、また変な所で寝て彼に迷惑をかけてもいけない。ここは彼に甘えて、先に寝かせてもらうことにしよう。
「おやすみ、倫。今日もお疲れ様」
「大和さんも、お疲れ様でした。おやすみなさい」
おやすみのキスをしてから、彼を残して寝室へ行く。
二人のダブルベッドにごろんと寝転がると、すぐにまた睡魔が襲ってくる。それに逆らうこと無く目を閉じて、私は眠りに落ちた。
肌寒さを感じて、私は眠りから覚めた。
おぼろげな意識の中布団を手繰り寄せて、ふと違和感に気付く。
「やまと、さん……?」
隣で寝ているはずの平原さんの姿がない。
いつも彼に抱きしめられて眠っているから、肌寒さを感じたのは彼がいなかったせいだろう。
締め切ったカーテンの隙間からは、少しだけ明るい光が差し込んでいる。壁に掛けてある時計を見ると、五時を指していた。
平原さんは今よりもっと早い時間に起きて出勤することもあるけれど、今日は休日である。
昨夜は彼より先に眠ってしまったが、夜中に抱きしめられた記憶があるから、それからは一緒にこのベッドで寝ていたはずだ。
トイレにでも行ってるのかな、と思いながらも、妙に寂しくなって私は起き上がった。
ぼさぼさの髪を手でとかしながら、洗面所とトイレのある方に向かう。
しかし、トイレには鍵もかかっていないし電気も点いていない。一応ノックもしてみたけれど、彼はここにはいないみたいだ。
別に何か用があるわけではないけれど、居ると思っていたのにいないとなると少し不安になる。
眠気はもう完全に覚めて、私は家の中で平原さんを探した。
「大和さん……?」
キッチンの方を見ても、やっぱり彼はいなかった。
私たちが住んでいるこのアパートは、ちょっと広めの2LDKだ。でも、ちょっと広いと言ったってどこかの部屋で声を出せば大体聞こえる。それなのに、私の呼びかけには何の応答もなかった。
「大和さん? どこですか……?」
だんだんと不安になってくる。
まだ夜も明けきらない薄暗い部屋の中で、心臓がばくばくと早く動いている音だけが妙によく聞こえた。
「大和さん……いますよね? 返事、してください……っ」
これだけ呼びかけてもいないなんて、どこかに出かけたんだろうか。でも、こんな早朝に?
嫌でもあの日のことが思い出されて、私はいつの間にか涙を流しながら彼を呼んでいた。
「大和さん、大和さんっ! なんで、なんでいないのっ……!?」
どうして。何も言わないでどこに行ったんだ。
その思考まであの日と重なって、私は半ばパニック状態になっていた。
怖くなって、もう家中を探すこともできずにしゃがみこむ。
怖い。
なんで、どうしていないの。どうして、私を置いていなくなったの?
ここ最近忘れていたはずだったのに、彼がいなくなった日々のことがぐるぐると脳内を駆け巡る。
怖い。寂しい。悲しい。苦しい。会いたい。
平原さんに会いたい。助けて。
ぐしゃりと自分の頭を抱え込んだその時、玄関の方からバタンと音がした。
「ひっ……平原さんっ!?」
思わずそう叫んで、一直線に玄関へと向かった。
そこには、驚いたように目を見開く平原さんの姿があった。
「ひ、平原さん、平原さぁんっ……!」
「わっ……倫、起きちゃったの? ていうか、なんで泣いて……?」
心の底から安堵して、目から大量の涙が溢れた。
裸足のまま玄関に降りて、まだ状況を飲み込めていない彼をぎゅうぎゅうと抱きしめた。溢れ出た涙が彼の服に染みるのもおかまいなしに、私は彼に縋りつく。
「い、いなくなっちゃったかと思って、私、怖くてっ……! よかったぁっ……!」
「あ……そうだったんだね。ごめんね、倫」
少しの間黙って家を空けただけなのに、私がこんなにも泣いてしまう理由を、平原さんは分かっているようだった。
泣きながら縋りつく私の背中を、優しく擦ってくれる。
大げさだとか、これくらいで騒ぐなとか、そんな言葉は決して口にしなかった。彼はただじっと、私が落ち着いて泣き止むのを待ってくれていた。
「ごめん、なさいっ……でも、平原さんがどっかに行っちゃうなんて、もう嫌なんです……っ」
「……うん。分かってるよ」
「ずっと、傍にいてくれますか? わ、私のこと、置いていきませんか?」
「うん。ずっと傍にいる。倫を置いてどこかに行ったりしないよ」
涙を流しながら必死に尋ねる私に、平原さんはどこまでも優しく答えてくれる。
でも、それだけではまだ足りなかった。
いくら強く抱きしめても、優しい言葉を返してもらっても、一度蘇ったあの孤独感と絶望感はどうしても消えてくれなかったのだ。
「ひ……、や、大和さん」
「なーに、倫」
「……だ……てっ……」
「ん?」
優しく微笑みながら、平原さんが泣き腫らした私の顔を覗き込む。
その彼の琥珀色の瞳を見つめながら、私は震える声で懇願した。
「抱いてっ……、抱いて、ください……っ」
「え……」
「お願い、します……大和さんが、ちゃんとここにいるって、感じたいんです……」
「……倫」
「お願いっ……! もう、怖くなくなるくらい、めちゃくちゃにしてっ……ん、んんぅっ!」
言い終わる前に、噛みつくようにキスをされる。
一瞬驚いたけれど、平原さんが私の我が儘を聞いてくれるつもりなのだと悟って、私は大人しく彼の舌を受け入れる。ちゅく、ちゅく、と唾液が絡む音がして、それすらも今の私には安心感を与えた。
「っ、はぁ……倫、ベッド行こうか」
「んっ……は、い」
まだパジャマ姿の私をひょいっと抱えて、平原さんは寝室へ向かった。
足でドアを開けて寝室に入ると、すぐにベッドに寝かされてその上に彼が跨る。はしたないとは思ったけれど、私は彼の後頭部を引き寄せて下手くそなキスをした。
「んん、んふっ、んぅっ……」
「っは、倫、ちょっと待ってっ……!」
「や、いやですっ、もっと、もっとキスしたい……っ」
平原さんは腕を突っ張って一度離れようとしたけれど、私はそれすら許さなかった。
両手で彼の頭を押さえて、無理矢理舌を突っ込む。がつん、と歯が当たるのも気にせずに、ひたすら彼の唇を貪った。
「ん、んっ、はぁ、やまと、さんっ……」
「んっ、もう……倫、がっつきすぎ」
「ごめ、なさっ……、でも、大和さんが、ほしくて……」
「うん、慌てなくてもあげるから。一回落ち着いて」
困ったように笑いながら、平原さんは羽織っていたパーカーを脱いだ。
それからそっと私の髪を撫でて、さっき私がしたキスなんかよりずっと優しくて気持ちいいキスをしてくれる。
「んぅ、んんっ……あ、はぁんっ……」
「ん、ふ……っ、倫、もっと口開けて……」
「はぁ、はいっ……、んぁ、んんっ」
付き合い始めた頃から、結婚した今でも、平原さんのキスは丁寧でこの上なく優しい。
水音がするくらい激しいのにどこか柔らかさもあって、気持ちよすぎてこれだけで秘所が湿ってくるのが分かる。無意識のうちに太ももを摺り合わせていると、それに気付いた平原さんにくすっと笑われる。
「倫、欲しくてたまらないみたいだね?」
「あっ……ん、はい……」
「脱ごうか。めちゃくちゃにしてあげる」
その言葉だけで、また蜜が溢れるのが分かった。
私の着ているパジャマのボタンを一つずつ外しながら、平原さんは少し赤くなった顔で私を見下ろしている。私が、彼にめちゃくちゃにされるのを期待していることも、きっと気付いている。
「倫、いやらしい顔してる……可愛い、たまんない」
「……大和さんも、です」
「ふふっ、そうかな?」
言いながら、平原さんが私の脚を割り開いた。
いつもだったらここで抵抗するところだけど、今日は彼にされるがままだ。なぜか恥じらいも感じなくて、ただ早く彼に満たしてほしくて焦れていた。
「すごい、まだ触ってないのにびしょびしょだ……」
「っ……、も、はやくっ……」
「うん、分かってるよ。ほら、溢れて止まんないから栓してあげる」
「あっ、あああっ!!」
いきなり二本の指が入ってきて、私は悲鳴にも似た声を上げた。
そしてそのまま、焦らすことなく私の感じるところを的確に押し上げられる。平原さんしか知らないその弱点を責められて、思わず彼の腕を握った。
「あっああっ! はぁっ、うっ、んんーっ!!」
「ふふっ、気持ちいい? これだけで気持ちいいんだったら、俺のいらないね?」
「あ、やぁっ! やだぁっ、大和さんのっ、大和さんのがほしいっ……!」
「そう? じゃあ素直な倫に免じて、今日はもうイかせてあげる」
「え……っ、あ、うああっ! あ、で、でちゃっ……、ああああっ!!」
感じるところを擦られて、私は達する前にはしたなく潮を吹いた。
ぷしゃっと陰部から音がするのが自分でも分かって、それでも止められなくてただ喘ぐことしかできない。
荒い息を整えながら平原さんの方を見ると、彼の二の腕のあたりまで私の吹いた液体がかかってしまっていた。
「あっ……! ご、ごめんなさっ……」
「ううん、いいよ。けど倫、最近すぐ潮吹くようになっちゃったね?」
「やぁっ、い、言わないでっ……!」
「どうして? 本当のことでしょう?」
最初は私の必死さに狼狽えていた平原さんだけど、もういつものように意地悪なことを言ってくる。でも、彼にそんな意地悪をされるのが嫌いじゃないから困る。
びしょびしょに濡れた私の陰部を優しく撫でながら、彼がさっきのように優しくて気持ちいいキスをしてくれる。それだけでも十分気持ちいいけれど、今の私は体中を平原さんで満たしてほしくてたまらないのだ。
熱の籠もった視線で彼を見上げると、そんな私の意志をくみ取ったのか、彼自身も着ていた服をすべて脱ぎ捨てた。
そして、お互い全裸でしっかりと抱き合う。彼の素肌が触れるのが心地よくて、でもそれだけでは足りなくて、彼の全てが欲しくなる。
この温もりが離れてしまう寂しさを知っているからこそ、もうその寂しさには耐えられそうになかった。
彼が私の前から再び消えることがあるとすれば、きっとその瞬間に私自身も消えてしまう。比喩でも何でもなく、心の底からそう思っていた。
目を開けると、目の前にはさっきラップをかけたご飯とおかずがあって、ダイニングテーブルで突っ伏したまま眠ってしまったのだと気付く。
ぼうっとした頭のまま振り向くと、申し訳なさそうな顔をした平原さんが仕事用の鞄を持ったままリビングの入り口に立っていた。
「ごめん、起こしちゃったね。ただいま」
「あ……おかえりなさい。ごめんなさい、私寝ちゃって……」
「ううん、いいよ。でもこんなところで寝てたら風邪ひくから、ベッドで寝て」
「でも、平原さんが……」
彼の帰りを待っているうちに、うっかり眠ってしまっていたらしい。
変な体勢で寝ていたせいか固くなった体で立ち上がると、正面からぎゅうっと彼に抱きすくめられた。
「ふふっ、寝ぼけてるね。もう倫も『平原』なんだよ?」
「あ、そうでした……」
「もう、可愛いなぁ。もうお風呂も入ったんでしょう? 俺もすぐ行くから、ベッド行って寝てて」
「でも、ごはん……」
「大丈夫。倫も仕事で疲れてるんだから、大人しく寝てなさい」
一人でご飯を食べるのは寂しいだろうから、せめて平原さんが食べ終わるまでは起きていようと思ったけれど、今日はどうも眠すぎる。
彼の分のご飯はレンジで温め直してもらえばいいし、また変な所で寝て彼に迷惑をかけてもいけない。ここは彼に甘えて、先に寝かせてもらうことにしよう。
「おやすみ、倫。今日もお疲れ様」
「大和さんも、お疲れ様でした。おやすみなさい」
おやすみのキスをしてから、彼を残して寝室へ行く。
二人のダブルベッドにごろんと寝転がると、すぐにまた睡魔が襲ってくる。それに逆らうこと無く目を閉じて、私は眠りに落ちた。
肌寒さを感じて、私は眠りから覚めた。
おぼろげな意識の中布団を手繰り寄せて、ふと違和感に気付く。
「やまと、さん……?」
隣で寝ているはずの平原さんの姿がない。
いつも彼に抱きしめられて眠っているから、肌寒さを感じたのは彼がいなかったせいだろう。
締め切ったカーテンの隙間からは、少しだけ明るい光が差し込んでいる。壁に掛けてある時計を見ると、五時を指していた。
平原さんは今よりもっと早い時間に起きて出勤することもあるけれど、今日は休日である。
昨夜は彼より先に眠ってしまったが、夜中に抱きしめられた記憶があるから、それからは一緒にこのベッドで寝ていたはずだ。
トイレにでも行ってるのかな、と思いながらも、妙に寂しくなって私は起き上がった。
ぼさぼさの髪を手でとかしながら、洗面所とトイレのある方に向かう。
しかし、トイレには鍵もかかっていないし電気も点いていない。一応ノックもしてみたけれど、彼はここにはいないみたいだ。
別に何か用があるわけではないけれど、居ると思っていたのにいないとなると少し不安になる。
眠気はもう完全に覚めて、私は家の中で平原さんを探した。
「大和さん……?」
キッチンの方を見ても、やっぱり彼はいなかった。
私たちが住んでいるこのアパートは、ちょっと広めの2LDKだ。でも、ちょっと広いと言ったってどこかの部屋で声を出せば大体聞こえる。それなのに、私の呼びかけには何の応答もなかった。
「大和さん? どこですか……?」
だんだんと不安になってくる。
まだ夜も明けきらない薄暗い部屋の中で、心臓がばくばくと早く動いている音だけが妙によく聞こえた。
「大和さん……いますよね? 返事、してください……っ」
これだけ呼びかけてもいないなんて、どこかに出かけたんだろうか。でも、こんな早朝に?
嫌でもあの日のことが思い出されて、私はいつの間にか涙を流しながら彼を呼んでいた。
「大和さん、大和さんっ! なんで、なんでいないのっ……!?」
どうして。何も言わないでどこに行ったんだ。
その思考まであの日と重なって、私は半ばパニック状態になっていた。
怖くなって、もう家中を探すこともできずにしゃがみこむ。
怖い。
なんで、どうしていないの。どうして、私を置いていなくなったの?
ここ最近忘れていたはずだったのに、彼がいなくなった日々のことがぐるぐると脳内を駆け巡る。
怖い。寂しい。悲しい。苦しい。会いたい。
平原さんに会いたい。助けて。
ぐしゃりと自分の頭を抱え込んだその時、玄関の方からバタンと音がした。
「ひっ……平原さんっ!?」
思わずそう叫んで、一直線に玄関へと向かった。
そこには、驚いたように目を見開く平原さんの姿があった。
「ひ、平原さん、平原さぁんっ……!」
「わっ……倫、起きちゃったの? ていうか、なんで泣いて……?」
心の底から安堵して、目から大量の涙が溢れた。
裸足のまま玄関に降りて、まだ状況を飲み込めていない彼をぎゅうぎゅうと抱きしめた。溢れ出た涙が彼の服に染みるのもおかまいなしに、私は彼に縋りつく。
「い、いなくなっちゃったかと思って、私、怖くてっ……! よかったぁっ……!」
「あ……そうだったんだね。ごめんね、倫」
少しの間黙って家を空けただけなのに、私がこんなにも泣いてしまう理由を、平原さんは分かっているようだった。
泣きながら縋りつく私の背中を、優しく擦ってくれる。
大げさだとか、これくらいで騒ぐなとか、そんな言葉は決して口にしなかった。彼はただじっと、私が落ち着いて泣き止むのを待ってくれていた。
「ごめん、なさいっ……でも、平原さんがどっかに行っちゃうなんて、もう嫌なんです……っ」
「……うん。分かってるよ」
「ずっと、傍にいてくれますか? わ、私のこと、置いていきませんか?」
「うん。ずっと傍にいる。倫を置いてどこかに行ったりしないよ」
涙を流しながら必死に尋ねる私に、平原さんはどこまでも優しく答えてくれる。
でも、それだけではまだ足りなかった。
いくら強く抱きしめても、優しい言葉を返してもらっても、一度蘇ったあの孤独感と絶望感はどうしても消えてくれなかったのだ。
「ひ……、や、大和さん」
「なーに、倫」
「……だ……てっ……」
「ん?」
優しく微笑みながら、平原さんが泣き腫らした私の顔を覗き込む。
その彼の琥珀色の瞳を見つめながら、私は震える声で懇願した。
「抱いてっ……、抱いて、ください……っ」
「え……」
「お願い、します……大和さんが、ちゃんとここにいるって、感じたいんです……」
「……倫」
「お願いっ……! もう、怖くなくなるくらい、めちゃくちゃにしてっ……ん、んんぅっ!」
言い終わる前に、噛みつくようにキスをされる。
一瞬驚いたけれど、平原さんが私の我が儘を聞いてくれるつもりなのだと悟って、私は大人しく彼の舌を受け入れる。ちゅく、ちゅく、と唾液が絡む音がして、それすらも今の私には安心感を与えた。
「っ、はぁ……倫、ベッド行こうか」
「んっ……は、い」
まだパジャマ姿の私をひょいっと抱えて、平原さんは寝室へ向かった。
足でドアを開けて寝室に入ると、すぐにベッドに寝かされてその上に彼が跨る。はしたないとは思ったけれど、私は彼の後頭部を引き寄せて下手くそなキスをした。
「んん、んふっ、んぅっ……」
「っは、倫、ちょっと待ってっ……!」
「や、いやですっ、もっと、もっとキスしたい……っ」
平原さんは腕を突っ張って一度離れようとしたけれど、私はそれすら許さなかった。
両手で彼の頭を押さえて、無理矢理舌を突っ込む。がつん、と歯が当たるのも気にせずに、ひたすら彼の唇を貪った。
「ん、んっ、はぁ、やまと、さんっ……」
「んっ、もう……倫、がっつきすぎ」
「ごめ、なさっ……、でも、大和さんが、ほしくて……」
「うん、慌てなくてもあげるから。一回落ち着いて」
困ったように笑いながら、平原さんは羽織っていたパーカーを脱いだ。
それからそっと私の髪を撫でて、さっき私がしたキスなんかよりずっと優しくて気持ちいいキスをしてくれる。
「んぅ、んんっ……あ、はぁんっ……」
「ん、ふ……っ、倫、もっと口開けて……」
「はぁ、はいっ……、んぁ、んんっ」
付き合い始めた頃から、結婚した今でも、平原さんのキスは丁寧でこの上なく優しい。
水音がするくらい激しいのにどこか柔らかさもあって、気持ちよすぎてこれだけで秘所が湿ってくるのが分かる。無意識のうちに太ももを摺り合わせていると、それに気付いた平原さんにくすっと笑われる。
「倫、欲しくてたまらないみたいだね?」
「あっ……ん、はい……」
「脱ごうか。めちゃくちゃにしてあげる」
その言葉だけで、また蜜が溢れるのが分かった。
私の着ているパジャマのボタンを一つずつ外しながら、平原さんは少し赤くなった顔で私を見下ろしている。私が、彼にめちゃくちゃにされるのを期待していることも、きっと気付いている。
「倫、いやらしい顔してる……可愛い、たまんない」
「……大和さんも、です」
「ふふっ、そうかな?」
言いながら、平原さんが私の脚を割り開いた。
いつもだったらここで抵抗するところだけど、今日は彼にされるがままだ。なぜか恥じらいも感じなくて、ただ早く彼に満たしてほしくて焦れていた。
「すごい、まだ触ってないのにびしょびしょだ……」
「っ……、も、はやくっ……」
「うん、分かってるよ。ほら、溢れて止まんないから栓してあげる」
「あっ、あああっ!!」
いきなり二本の指が入ってきて、私は悲鳴にも似た声を上げた。
そしてそのまま、焦らすことなく私の感じるところを的確に押し上げられる。平原さんしか知らないその弱点を責められて、思わず彼の腕を握った。
「あっああっ! はぁっ、うっ、んんーっ!!」
「ふふっ、気持ちいい? これだけで気持ちいいんだったら、俺のいらないね?」
「あ、やぁっ! やだぁっ、大和さんのっ、大和さんのがほしいっ……!」
「そう? じゃあ素直な倫に免じて、今日はもうイかせてあげる」
「え……っ、あ、うああっ! あ、で、でちゃっ……、ああああっ!!」
感じるところを擦られて、私は達する前にはしたなく潮を吹いた。
ぷしゃっと陰部から音がするのが自分でも分かって、それでも止められなくてただ喘ぐことしかできない。
荒い息を整えながら平原さんの方を見ると、彼の二の腕のあたりまで私の吹いた液体がかかってしまっていた。
「あっ……! ご、ごめんなさっ……」
「ううん、いいよ。けど倫、最近すぐ潮吹くようになっちゃったね?」
「やぁっ、い、言わないでっ……!」
「どうして? 本当のことでしょう?」
最初は私の必死さに狼狽えていた平原さんだけど、もういつものように意地悪なことを言ってくる。でも、彼にそんな意地悪をされるのが嫌いじゃないから困る。
びしょびしょに濡れた私の陰部を優しく撫でながら、彼がさっきのように優しくて気持ちいいキスをしてくれる。それだけでも十分気持ちいいけれど、今の私は体中を平原さんで満たしてほしくてたまらないのだ。
熱の籠もった視線で彼を見上げると、そんな私の意志をくみ取ったのか、彼自身も着ていた服をすべて脱ぎ捨てた。
そして、お互い全裸でしっかりと抱き合う。彼の素肌が触れるのが心地よくて、でもそれだけでは足りなくて、彼の全てが欲しくなる。
この温もりが離れてしまう寂しさを知っているからこそ、もうその寂しさには耐えられそうになかった。
彼が私の前から再び消えることがあるとすれば、きっとその瞬間に私自身も消えてしまう。比喩でも何でもなく、心の底からそう思っていた。
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