きみこえ

帝亜有花

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Boys Talk

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    文化祭の広告作成が一段落したほのか達は今度は看板の作成を手伝っていた。
    廊下沿いに取り付ける看板はかなり長さがあり、大人数で絵を描いたり色を塗ったりしていた。

「へえー、小宮さんと友達になったんだ! 良かったね、本当に良かった。友達百人計画一歩前進したね」

    ほのかから里穂と友達になった話を聞いた陽太は我が事の様に喜んだ。

【文化祭も一緒に遊ぶ約束をした】

    ほのかはペンキを塗る手を止め、嬉々とした顔でスケッチブックにそう書いた。

「そっかー、文化祭かあ・・・・・・」

    陽太はほのかと里穂がもうそこまで打ち解けている事に安心したが、それと同時に寂しさも感じていた。
    これから自分達よりも同性である里穂と一緒に居る事が多くなるのではないかと思ったからだった。
    それはごく自然で普通の事のはずだったが、陽太には何故かそれがたまらなく切なく感じた。

「これってあれか? 親離れ子離れ的なやつか?」

【?】

    陽太がそう呟くと、何の話かさっぱり分からないほのかは小首をかしげながらそんな記号をスケッチブックに記した。

「おーい、春野ー、男子は椅子作りだ。こっち集合ー」

    そう手を振りながら言ったのは文化祭実行委員の和也だった。

「おー、じゃあ行ってくるね。色塗り頑張って!」

    ほのかは頷くと手を振って去る陽太に手を振り返した。




    陽太達は裏庭に木材や工具を運び込み、長椅子の作成に取り掛かっていた。

「なー冬真、月島さんが小宮さんと友達になったって聞いた?」

    陽太は木材に釘を打ちながら一緒に作業をしている冬真に問いかけた。

「そうなのか? 良かったじゃないか」

「うんうん、良かったよなー・・・・・・、本当に」

    そう言いながら陽太は伏し目がちに声を落とした。

「なんだ? 良かったとか言いながら不満なのか?」

「いや、そんなんじゃないんだけど・・・・・・」

    冬真には陽太が何故気を落とすのかが分からなかった。
    ほのかに友達が出来た事は喜ばしいし、相手は愛華と違って里穂なら安心出来ると冬真は思った。

「なんていうか・・・・・・ほら、巣立つ子を見送る親的な!」

「はあ?」

「因みに俺が父さんで、お前が母さんな」

「誰が母さんだ! 気持ち悪い事を言うなよ」

    変な事を言い出す陽太のせいで冬真は危うく自分の手をトンカチで打ちつけるところだった。

「母さん、今日は赤飯だな」

「そのネタまだ続けるのかよ。そんなにめでたいならもっと喜んだ顔すれば?」

    冬真がそう言うと陽太はまた一段と微妙な表情を浮かべた。

「そうなんだよなぁ、文化祭も小宮さんと回る約束したらしいし・・・・・・」

    話を聞いていると、冬真には段々と陽太の心内が分かってきた。

「そんなに寂しいのか?」

「・・・・・・うん、寂しいかな。これからきっと、もっと友達が増えて俺達よりも女同士つるむ事が多くなるんじゃないかなとか思うとさ・・・・・・。冬真は? 寂しくないのか?」

    冬真は考え事をするように沈黙し、暫くしてそっと口を開いた。

「そうだな。寂しいかもしれないな」

「そうだよな!」

    同意を得られた事に安心した陽太はパッと顔を明るくさせた。

「で? 文化祭、一緒に回りたかったのか?」

「うっ」

    陽太は言葉に詰まり、顔は段々と熟れたトマトの様になって押し黙っていたが、一つの釘を打ち終わる頃に小さく「うん」と頷いた。

「だってさ! きっと色んな行きたい所とかあるだろうし、案内してあげたいし、色んな反応とか見てみたいっていうか!」

「だったら誘えばいいだろ」

「え?」

「小宮さんだって実行委員の仕事やクラスの当番とかあるだろうからずっと月島さんと一緒という訳ではないだろう。まあ、それは俺達もだが」

    冬真は着々と作業を進めながらそう言った。
    悩みながら作っている陽太と違って冬真はペースが早く、茶屋に置いてありそうな長椅子の形が完成しつつあった。

「そ、それもそうか! 俺、誘ってみようかな・・・・・・」

    そんな事せずとも、実際はお世話係としてほのかとはどちらかが一緒に行動する様なシフトになるだろうと冬真は予測していたがそれは黙っておいた。

「おお! なになに? 春野、誰を誘うんだって?」

    しゃがみ込む陽太の背に伸し掛る様にして現れたのは和也だった。

「おわっ、危なっ! あーもー、釘曲がったし」

    陽太は首に回された和也の腕を振り払うと、中途半端に木に刺さった釘を抜く為にバールを探した。

「なー、なー、誰を? 好きなやつ?」

「すっ、好きって! 別にそんなんじゃ・・・・・・、友達としてだし!」

    少しムキになって言う陽太の姿を見て冬真は呆れた顔をした。

「えー、怪しーなー。まあ、三寒四温の二人が女子なんか誘ったらそれはそれで学園のスキャンダルだな」

「はは、スキャンダルって、そんな大袈裟な。・・・・・・なあ冬真、俺達ってそんなに女子誘ったらダメなの?」

    陽太は和也に対しては笑って誤魔化したが、心配になって冬真に近づき耳打ちした。

「別に、月島さんとはお世話係として最初から一緒に行動しているだろ。何の問題がある?」

 「だよな! 大丈夫だよな! って事で、大丈夫だから!」

    陽太は和也に向かって開き直った。

「ん? ああ、よく分からんけど、まあいいか。あー、俺も誘ってみようかなー」

「えっ! カズやんそれは女子? 好きな子居るの?」

    今度は陽太が反撃する番だった。

「お、おう・・・・・・まあ、実行委員の仕事もあるし、そんな暇あるか分かんねえけどな」

    和也は少し照れた様に頬を掻きながら顔を赤くさせた。

「か、カズやんが青春している・・・・・・、いいな、なんかいいよなそういうの。カズやん、俺は応援するよ! なにかあったらなんでも言って!」

「おう、ありがとよ。そういう春野こそ頑張れよ! 頑張って好きな子誘うんだぞ!」

    そう言って和也キラリと白い歯を見せて笑い、グッと親指を立てた。

「い、いや、俺のは友達なんだって!」

    陽太がそう言うのも聞かず、和也は笑いながら他の班の方へと歩いていった。

「はー、なんか誘うの恥ずかしくなってきた」

    盛大な溜め息をついた陽太は弱気な顔をしながら釘打ちを再開した。

「じゃあやめるか?」

    冬真がそう訊ねると陽太はいつもの顔に戻って言った。

「や、やめたりなんかしないし! ちょっと緊張するけどさ・・・・・・。文化祭楽しみになってきたなぁ」

    陽太は空を見上げながらほのか達と過ごす文化祭に思いを馳せた。
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