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結末
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「課長ー、ただいま戻りましたー」
トレインは悪夢課の扉を開くと部屋に良く響く声でそう言った。
「うるさいぞ・・・・・・トレイン」
ロギの姿からまた元の珍妙な獏の姿に戻っていたバクは気怠そうにそう言った。
「また反動ですか? まるで二日酔いみたいですよね」
バクは人型から元の姿に戻った後、反動で体が非常に怠くなるという特性があった。
「好きでこうなってるのではない」
「課長、これエルリィスさんの案件でのレポートです」
「うむ」
バクは腕をプルプルと震わせながらそのレポートを受け取った。
体調が悪くても読むのだけは早いバクは全てのページに目を通すと、ニヤリと口角を上げて言った。
「お前、あの嬢ちゃんが夢を見れなかった日、干渉しただろ?」
夢界での掟では、みだりに人の夢に干渉してはならないとされている。
トレインはその言葉に悪びれもせずに言った。
「えー、何の事でしょうかね~? 僕はただ、あの日たまたま寝床を探していて、たまたまたま丁度良さそうな場所がエルリィスさんの居る塔の真上で、たまたまたまたまエルリィスさんと夢の波長が悪くて干渉してしまっただけであって、一言で言うと不可抗力です!」
「・・・・・・無茶苦茶グレーじゃねぇか!」
勿論、それは計算だった。トレインはエルリィスの傍を通りかかっただけで干渉してしまった事があり、真上で寝ていればより強い干渉作用があると踏んでいた。
「まあ、いいや、それがなかったらこの結果にはならなかったかもしれんしな」
「上司がそんな事言っていいんですか?」
「言っただろ。こういうのはお偉いさんにバレなきゃいーんだよ」
バクは元々目つきの悪い顔を更に凶悪にさせて笑った。
「そうですか。・・・・・・彼らはこれからどうなるんでしょうね」
「あいつらなら心配いらんだろう」
トレインは遠い世界のアルフ達を想い窓から空を見た。彼らなら、この先何があっても乗り越えられる、そう祈りを込めてトレインは微笑んだ。
青い空を一羽の白い鳥が飛んでいた。
鳥は迷う事なく、とある城のとある部屋の窓辺に向かった。
鳥は嘴で窓のガラスをつついた。
「殿下、不振な鳥が窓に!」
側近の者がそう言うと、白髪の老人は椅子から立ち上がると側近の者に手で窓に近づくのを制した。
「よい、私への報せだろう」
老人は窓を開け、鳥を部屋に入れると、大人しく老人の手に止まった。老人は鳥の首に括られた手紙を手に取った。
「さて、吉と出るか、凶と出るか・・・・・・」
まるで占いの結果でも見るように老人は手紙を開いた。そして、その結果を見るや老人は豪快に笑いだした。
「殿下?」
「ハッハッハッハッ! やりおったか! あやつら、やはり見込んだ通りの者だったようだな。軍の準備は?」
「はっ! 既に国境近くに待機させております」
「うむ、一気に攻め込むよう伝令を頼む」
「御意」
老人は窓から鳥を放した。
「朋友よ、主の孫は世を変える英傑になるやもしれん。それとも・・・・・・」
そう一人呟き、老人は小さく空に消えていく鳥を見つめ続けていた。
曇天の空の下、深緑の森の中で、一つの黒く小さな球体が黒いローブを着た人物の手へと舞い降りた。
その人物はフードを目深に被り、男とも女とも分からない様な出で立ちだった。
「戻ってきたか。所詮は仮初の器、紛い物の天啓・・・・・・、また新しい玩具を用意せねば。・・・・・・ん?」
手に取った物を眺めると、その者は何かを読み取り笑みを零した。
「ほう、だが興味深い情報は得られた。これからももっと私を楽しませろ・・・・・・」
その者はその球体を手に握るとその口を一層禍々しく歪めて笑い、とある人物の名を呟いた。
「これで良かったんでしょうかね・・・・・・」
ルドは段々と遠くなるオルディンの城を見ながら呟いた。問いかけた先の人物はと言うと疲れているのか馬車の荷台の上で寝っ転がり、返事の代わりにゴロンと背を向けるように寝返りを打っただけだった。
アルフ達は国境を越え、隣国に移動するにあたり、目的地の近くを通るという荷馬車に乗せてもらっていた。馬車の荷台は狭く、山の様に積まれた干し草を真ん中に挟み、ルドとアルフはそれぞれ両端に乗っていた。
「はあ・・・・・・、勿体ない。城ですよ城!」
「興味ない」
アルフはそう一言だけ言った。
「何故ですか! こんな機会そうそうありませんよ? オルディンの居なくなった今、若様ならこの国を制圧して王になる事だって造作もない筈なのに!」
「うるせぇ、若様って言うな。興味ないっつってんだろ。次言ったら馬車から突き落とす」
「も、申し訳ありません! それだけはご勘弁を」
ルドはアルフに静かな脅しをかけられ、主人に叱られた犬の様に身を縮こまらせた。
「それより、依頼人には知らせたんだろうな」
「はい、大公殿下には先程泣く泣く伝書鳥を飛ばしました。暫くすればあっという間にこの国は大公殿下の手に渡るでしょうね」
「それでいい。これで大金をせしめる事が・・・・・・」
「あ、それがですね、今回エルリィスさんの治療に超最上位薬を使ってしまい、今回の報酬と材料費がトントン位になりますね」
「はあっ!?」
アルフは寝耳に水どころか洪水でも来たかのように驚き飛び起きた。
「てめえ! トントンとかどういう事だよ!」
計算外の出来事にアルフは鬼とも悪魔とも呼べる様な恐ろしい形相でルドの胸ぐらを掴み、前後にガクガクと激しく揺らした。エリクシルは普段ルドがいざという時用に一本は備蓄として作るようにしていたが、その材料費は豪邸が一つ買える程高い代物だった。
「アアアア、アルフ様がっ、どれだけ値が張っても構わないって、言ったんじゃないですかあ~。エルリィスさんの消耗した魔力と体力はっ、流石のエリクシルですからあっという間に回復出来たんですけど・・・・・・」
揺れで舌を噛みそうになりながらも勿体ぶるルドの言い方にアルフは嫌な予感がした。
「けど、何だ?」
「呪いまでは解くことが出来ませんでしたねー、あはははは」
ルドは笑って誤魔化したが、それが通用する相手ではなかった。
「ルードー、てめぇ、呪いなら聖水でもかけておけばいいだろ!」
「そんなの最初に使いましたよ。でも全然効かなくてですねえ、駄目元でエリクシル使ってみちゃいました。あは」
「あは、じゃねえよ、エリクシル使って駄目だったとか洒落にならねぇじゃねえか・・・・・・」
自分が言った事とはいえ、実際の損得勘定をすると、あれだけ苦労した労力を考えて殆ど儲けが無い、下手をすると損になってしまう事にアルフは意気消沈した。
「まあ、不幸中の幸なのはあの呪いが・・・・・・あ、城見えなくなりましたね」
話題を変えようとして言ったルドのその言葉に反応するように、アルフ達の真ん中に積まれていた干し草が小刻みに動き出した。
「ぷはっ」
干し草の山から飛び起きたのはエルリィスだった。エルリィスはこの国を抜け出す為に、兵達に見つからぬよう、国境を越え、更に城が見えなくなるまで隠れる様にアルフに言われていた。
「大丈夫か?」
アルフはエルリィスの頭についた干し草を取り払いながらそう言った。エルリィスはというと城があった方角をぼーっと見つめていた。
「うん、ちょっとうとうとしてた」
そう言って、エルリィスは笑ってみせた。やっとあの城から、そしてこの国から出られた事、隣にはアルフやルドが居て一人じゃない事、久し振りに見る本物の色のある世界、何もかもが新鮮でエルリィスは心の内から喜びの気持ちが溢れ出ていた。
「どうした? 楽しそうな顔をして、いい夢でも見てたのか?
エルリィスは腕に残った印を擦りながら首を振った。
「・・・・・・んーん、私達の旅はこれからまだまだ続きそうだなって!」
そう言ってエルリィスはずっと憧れていた曇りない青い空に向かって今まで生きてきて一番の笑顔を向けた。
トレインは悪夢課の扉を開くと部屋に良く響く声でそう言った。
「うるさいぞ・・・・・・トレイン」
ロギの姿からまた元の珍妙な獏の姿に戻っていたバクは気怠そうにそう言った。
「また反動ですか? まるで二日酔いみたいですよね」
バクは人型から元の姿に戻った後、反動で体が非常に怠くなるという特性があった。
「好きでこうなってるのではない」
「課長、これエルリィスさんの案件でのレポートです」
「うむ」
バクは腕をプルプルと震わせながらそのレポートを受け取った。
体調が悪くても読むのだけは早いバクは全てのページに目を通すと、ニヤリと口角を上げて言った。
「お前、あの嬢ちゃんが夢を見れなかった日、干渉しただろ?」
夢界での掟では、みだりに人の夢に干渉してはならないとされている。
トレインはその言葉に悪びれもせずに言った。
「えー、何の事でしょうかね~? 僕はただ、あの日たまたま寝床を探していて、たまたまたま丁度良さそうな場所がエルリィスさんの居る塔の真上で、たまたまたまたまエルリィスさんと夢の波長が悪くて干渉してしまっただけであって、一言で言うと不可抗力です!」
「・・・・・・無茶苦茶グレーじゃねぇか!」
勿論、それは計算だった。トレインはエルリィスの傍を通りかかっただけで干渉してしまった事があり、真上で寝ていればより強い干渉作用があると踏んでいた。
「まあ、いいや、それがなかったらこの結果にはならなかったかもしれんしな」
「上司がそんな事言っていいんですか?」
「言っただろ。こういうのはお偉いさんにバレなきゃいーんだよ」
バクは元々目つきの悪い顔を更に凶悪にさせて笑った。
「そうですか。・・・・・・彼らはこれからどうなるんでしょうね」
「あいつらなら心配いらんだろう」
トレインは遠い世界のアルフ達を想い窓から空を見た。彼らなら、この先何があっても乗り越えられる、そう祈りを込めてトレインは微笑んだ。
青い空を一羽の白い鳥が飛んでいた。
鳥は迷う事なく、とある城のとある部屋の窓辺に向かった。
鳥は嘴で窓のガラスをつついた。
「殿下、不振な鳥が窓に!」
側近の者がそう言うと、白髪の老人は椅子から立ち上がると側近の者に手で窓に近づくのを制した。
「よい、私への報せだろう」
老人は窓を開け、鳥を部屋に入れると、大人しく老人の手に止まった。老人は鳥の首に括られた手紙を手に取った。
「さて、吉と出るか、凶と出るか・・・・・・」
まるで占いの結果でも見るように老人は手紙を開いた。そして、その結果を見るや老人は豪快に笑いだした。
「殿下?」
「ハッハッハッハッ! やりおったか! あやつら、やはり見込んだ通りの者だったようだな。軍の準備は?」
「はっ! 既に国境近くに待機させております」
「うむ、一気に攻め込むよう伝令を頼む」
「御意」
老人は窓から鳥を放した。
「朋友よ、主の孫は世を変える英傑になるやもしれん。それとも・・・・・・」
そう一人呟き、老人は小さく空に消えていく鳥を見つめ続けていた。
曇天の空の下、深緑の森の中で、一つの黒く小さな球体が黒いローブを着た人物の手へと舞い降りた。
その人物はフードを目深に被り、男とも女とも分からない様な出で立ちだった。
「戻ってきたか。所詮は仮初の器、紛い物の天啓・・・・・・、また新しい玩具を用意せねば。・・・・・・ん?」
手に取った物を眺めると、その者は何かを読み取り笑みを零した。
「ほう、だが興味深い情報は得られた。これからももっと私を楽しませろ・・・・・・」
その者はその球体を手に握るとその口を一層禍々しく歪めて笑い、とある人物の名を呟いた。
「これで良かったんでしょうかね・・・・・・」
ルドは段々と遠くなるオルディンの城を見ながら呟いた。問いかけた先の人物はと言うと疲れているのか馬車の荷台の上で寝っ転がり、返事の代わりにゴロンと背を向けるように寝返りを打っただけだった。
アルフ達は国境を越え、隣国に移動するにあたり、目的地の近くを通るという荷馬車に乗せてもらっていた。馬車の荷台は狭く、山の様に積まれた干し草を真ん中に挟み、ルドとアルフはそれぞれ両端に乗っていた。
「はあ・・・・・・、勿体ない。城ですよ城!」
「興味ない」
アルフはそう一言だけ言った。
「何故ですか! こんな機会そうそうありませんよ? オルディンの居なくなった今、若様ならこの国を制圧して王になる事だって造作もない筈なのに!」
「うるせぇ、若様って言うな。興味ないっつってんだろ。次言ったら馬車から突き落とす」
「も、申し訳ありません! それだけはご勘弁を」
ルドはアルフに静かな脅しをかけられ、主人に叱られた犬の様に身を縮こまらせた。
「それより、依頼人には知らせたんだろうな」
「はい、大公殿下には先程泣く泣く伝書鳥を飛ばしました。暫くすればあっという間にこの国は大公殿下の手に渡るでしょうね」
「それでいい。これで大金をせしめる事が・・・・・・」
「あ、それがですね、今回エルリィスさんの治療に超最上位薬を使ってしまい、今回の報酬と材料費がトントン位になりますね」
「はあっ!?」
アルフは寝耳に水どころか洪水でも来たかのように驚き飛び起きた。
「てめえ! トントンとかどういう事だよ!」
計算外の出来事にアルフは鬼とも悪魔とも呼べる様な恐ろしい形相でルドの胸ぐらを掴み、前後にガクガクと激しく揺らした。エリクシルは普段ルドがいざという時用に一本は備蓄として作るようにしていたが、その材料費は豪邸が一つ買える程高い代物だった。
「アアアア、アルフ様がっ、どれだけ値が張っても構わないって、言ったんじゃないですかあ~。エルリィスさんの消耗した魔力と体力はっ、流石のエリクシルですからあっという間に回復出来たんですけど・・・・・・」
揺れで舌を噛みそうになりながらも勿体ぶるルドの言い方にアルフは嫌な予感がした。
「けど、何だ?」
「呪いまでは解くことが出来ませんでしたねー、あはははは」
ルドは笑って誤魔化したが、それが通用する相手ではなかった。
「ルードー、てめぇ、呪いなら聖水でもかけておけばいいだろ!」
「そんなの最初に使いましたよ。でも全然効かなくてですねえ、駄目元でエリクシル使ってみちゃいました。あは」
「あは、じゃねえよ、エリクシル使って駄目だったとか洒落にならねぇじゃねえか・・・・・・」
自分が言った事とはいえ、実際の損得勘定をすると、あれだけ苦労した労力を考えて殆ど儲けが無い、下手をすると損になってしまう事にアルフは意気消沈した。
「まあ、不幸中の幸なのはあの呪いが・・・・・・あ、城見えなくなりましたね」
話題を変えようとして言ったルドのその言葉に反応するように、アルフ達の真ん中に積まれていた干し草が小刻みに動き出した。
「ぷはっ」
干し草の山から飛び起きたのはエルリィスだった。エルリィスはこの国を抜け出す為に、兵達に見つからぬよう、国境を越え、更に城が見えなくなるまで隠れる様にアルフに言われていた。
「大丈夫か?」
アルフはエルリィスの頭についた干し草を取り払いながらそう言った。エルリィスはというと城があった方角をぼーっと見つめていた。
「うん、ちょっとうとうとしてた」
そう言って、エルリィスは笑ってみせた。やっとあの城から、そしてこの国から出られた事、隣にはアルフやルドが居て一人じゃない事、久し振りに見る本物の色のある世界、何もかもが新鮮でエルリィスは心の内から喜びの気持ちが溢れ出ていた。
「どうした? 楽しそうな顔をして、いい夢でも見てたのか?
エルリィスは腕に残った印を擦りながら首を振った。
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