千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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うまく言葉にできなくて

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 眠い。眠い。当たり前だ、昨日本を読んでいたら寝落ちしたらしく、ベッドに入らず寝てしまったからだ。おかげで顔に本の痕はつくわ体は痛いわで最悪。でも、面白かった。短編集から読み始めたけれど、たった一晩で半分読んでしまった。こんな私でも、読めた。朝の出欠確認から船を漕いでいると、やはり担任から注意された。


 ふと思った。今宮は、どんな話を書いているのだろう。


 3冊すべてを読み終わったのは、借りてから5日後のことだった。初恋上級者、すごい面白かったんだけど。学年一のイケメンと、地味な幼馴染との恋。こてこてのテッパンだし、王道のシチュエーションなのに、読みやすくて退屈しなかった。漫画化しても面白そうだ。読んでよかった。それに、これは絶対和泉君のハマり役。どうして今宮は、私からこの本を遠ざけようとしたんだろう。まあ恋愛とか興味なさそうだし、本当に合わなかったのかもしれない。


 「あ。世界史の課題プリント忘れた」


 校門を出てからすぐの横断歩道で、信号待ちをしていたときだった。何か忘れてる、と帰りのホームルームからずっと引っかかっていたものが、今取れた。明日提出のプリントだ。しかも一時間目だから、答えを写す時間もない。めんどくさい、けど行かなきゃ。出席番号的に、私は明日絶対当てられる。


 「え、ごめん私今日バイトだから先行ってて良い?」
 「全然。また明日!」


 長い髪をなびかせ、自転車をこぎ始めるサナ。私は再び校門をくぐる。吹奏楽部が練習する楽器の音がまばらに聞こえる。私は一番入口から近い一組の場所に自転車を止めると(本来禁止である)、小走りで教室へ向かった。


 2年生の教室は、3階にある。それからその奥に自習室があるのだが、正直ここで勉強している人はあまり見ない。いつも二人、三人いるかいないかだ。空調設備があまり整っておらず、今の時期は蒸し暑い。自称進学校なんだから、早く直せば良いのに。


 いつもなら素通りした。が、今日立ち止まったのは、見慣れた後ろ姿を見つけたからである。今宮だった。


 ちょうど本の感想を誰かに言いたかったところだ。どうせなら驚かせてやろうと、そっとドアを開け背後に忍び寄る。そして気づく。今宮が、ずっと下を向いていることに。上下に呼吸する背中。もしや、と思い顔をのぞきこむと、寝ていた。


 なーんだ、つまんないの。すっかり拍子抜けしてしまい、隣の椅子に座る。初めて自習室なんて入った。壁には食品持ち込み厳禁の張り紙。大きく開いた窓から、生ぬるい風が入り込む。それと一緒に、校庭で部活動に励む野太い声も聞こえてくる。


 いつもいつも、どんな内容の小説を書いているんだろうか。起きる気配がない今宮。画面には、びっしりと文字が羅列している。左下のページ数は、なんと100。嘘でしょ、こんなに書いてるの。ちらっと読んでみると、人が死んでいる。なるほど、サスペンスですか。


 勝手にマウスを使って操作していくと、いくつものフォルダが表示された。それは、作品のタイトルだった。適当に一つクリックすると、登場人物、あらすじ、プロット、元ネタ……と言ったワードが並んでいた。


 すごい。一つの作品に、こんな細かく設定するなんて。そりゃ休み時間もパソコンに向かってるわけだ。今宮は、まだ寝てる。


 スクロールしていくと、ふと気になるタイトルを見つけた。「初恋上級者」。私のバッグに、入っている本。フォルダ作成日時は、1年前の春。高校1年生。


 指が止まる。……もしかして。この短時間で、少し勘づいていた。今宮は、趣味なんかで小説を書いているんじゃない。


 だから、つまり。フォルダを開く。「本文」のワードには、まだ記憶に残ってる冒頭部分が書かれていた。
 私はバッグから本を取り出すと、一番後ろの作者ページにもう一度目を通す。


 ――作者:零。本作で20XX年小説家大賞を受賞。同年の本屋恋愛小説大賞にもノミネートされ、二位を獲得。現在15歳の期待の新人。


 15歳って。え? 周りの男子たちが漫画やゲームの話題で盛り上がってる中、これ書いてたってこと? ありえない。頭の中が嘘でしょ、で埋め尽くされる。だってクラスメイトがこんな、大賞受賞だとか映画化だとか。それも変人で影の薄い今宮が。誰よりもキラキラしていて、誰よりも目立つ存在だったなんて。
 漫画みたい!


 再び画面をスクロールしようとした瞬間、今宮の肩がビクッと動いた。ヤバいと思うももう遅い。勢いよくパソコンが閉じられ、椅子から落ちた。今宮が。そして同時に、ゴンっと鈍い音がした。


 「ちょ、大丈夫? すごい音したけど……」
 「み、みみ見た? パソコン……」


 鼻の下までずり落ちている眼鏡。それも直さずパソコンを胸に抱え、私をじっと見ている。多分。前髪で目が見えないから想像である。
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