千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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うまく言葉にできなくて

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 「花凛、最近真面目に図書委員やってるよね。てか今宮と仲良くない!? どうしたのよ!」
 「いや、話してみたらいい奴で」
 「マジか!」


 実は、小説家を目指していることも、今宮と仲良くなったことも、全部サナには言っていない。
 小さい頃からバカやってる私を見てきたサナだ。多分信じてもらえないだろうし、打ち明けるのが恥ずかしかった。「小説! 読みたい!」ってなるに決まってるし。とてもとても見せられない。
 人のことを笑うような人ではないというのはわかっているけど。あまりにも現実味がないというか。噓をつくのは心苦しいが、話しにくい。
 サナは紙パックの野菜ジュースをベコべコにへこむまで吸い上げる。


 「ねー、もし進展あったら教えてね」
 「絶対ないから」


 ーー「一週間で、この本を写してほしい」
 「……え?」


 放課後、委員会の時間。今日はやることが少ない上に利用者が少ない。暇になったら何か本でも読もうと思ったところ、今宮が一冊の本を差し出してきた。


 「写す?」
 「そう、写す。千里さんは文章が書けないから、まずは書き方を覚える。これは今年の短編ファンタジー文学賞金賞の作品。
 写していくうちに書き方はもちろん表現の仕方も身に着くと思うんだ」


 何だかとんでもなく失礼なことを言われた気がしたが、否めない。100ページほどの中編だ。文字も大きめで見やすい。


 「やってみる」


 今宮からの宿題、バイト、読書。なかなか忙しくなってきたぞ。
 文学マーケットの後家から帰ると、早速ひかりさんの作品を読んだ。
 三冊とも全て恋愛小説。面白くて、ページ数もそんなになかったからすぐに読めてしまった。そしてそれと同時、こんなに書けても、一次さえ通らないことにひどく絶望した。
 何で? 面白いのに。


 「いや、まあ正直ほかの2冊は3ページでちょっと」
 「3ページ!?」
 「設定は良いと思うんだけど、なんというか、文章が単調というか」


 マジか。
 今宮も言いにくいのかはっきりしない。あの文章で3ページなら、私は3行だ。


 「無理な気がしてきた。てか、私バカじゃん。こんなバカに小説なんて難しいもの書けるわけないよ。
 もうやだ、和泉君に会いたい」


 和泉君に会いたい。最後ライブ行ったのいつだっけ。今の私には、圧倒的にときめきが足りない。和泉君からでしか、得られない栄養素がある。干からびそう。嗚呼、和泉君。


 「大丈夫だよ、小説にバカも何も関係ないから。これから色々学んでいくんだから、上達するよ」


 そーですか。天才秀才の今宮様には、バカの気持ちなんてわかりませんよ。


 「そうだ」


 今宮が、思い出したように言う。


 「そういえば、和泉君と会った」
 「は?」
 「やっぱり作者だからさ。マネージャーの人も交えて、事務所呼ばれたんだ。あと、サインももらった」
 「噓でしょ?」
 「あー。小説家になったらいつでも会えるなぁ」


 瞬時に辿る記憶。勉強のことは三歩歩けば忘れるのに、和泉君のこととなると全てが脳にインプットされてる。


 「本日、『初恋上級者』の作者の零さんが来てくれました! ささやかですが、本にサインを入れさせていただきました。零さんの名に恥じぬよう、精一杯頑張ります! よろしくお願いします! ゆーと」


 思い出した、公式の呟き。
 あれって、今宮だったんだ。


 「いや、マジ死ぬ気でやるわ。先輩、よろしくオナシャス」
 「よし、頑張ろう」


 私って、本当単純だ。
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