千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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こんなに苦しくないのかな

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 ――「卒業生代表、今宮悠人」
 今宮は、相変わらずぼさっとした髪で立派に答辞を読んでいた。マイクを通しているから、珍しくはっきりと声が聞こえる。
 桜がちらちらと咲き始め、体育館をゆったりとした風が流れてく。三月中旬、卒業式。高校生が、終わってしまった。


 ……秀才幼馴染と、何をしてもダメなクラスメイト。うん、アリ。
 暇があれば、こうして少しでも小説のネタになるようなものを探す癖がついてしまった。
 結局、連絡を取らないまま卒業式を迎えてしまった。そもそも何で私だけこんな必死なんだろう。今宮は、私のこと気にならないのだろうか。気にならないか。ただのクラスメイトだし。いや、今はそもそもクラスメイトでもない。


 こんな頭脳も文章力も天地の差がある私なんか、気にも留めないか。
 わかっているのに、悔しいというかムカつくと言うか。
 本当に、これで良いのかな? だって、明日からもう登校しないんだよ。制服のスカートを握り締める。
 壇上にいる今宮が、答辞を読み終えると頭を下げた。体育館を拍手が包む。



 時間だけが、淡々と進んでいく。


 結論から言うと、私と今宮は会えなかった。
 高校生活最後のホームルームが終わって、一目散に5組の教室に行ったけれど、今宮はもういなかった。用事があるらしくて、すぐさま出て行ってしまったと言う。周りがハグを交わしたり写真を撮る中、私はトボトボと廊下を歩いていた。


 その時。目の前から猪みたいな勢いで誰かがやってきた。


 「かりーん! ウチらの友情は永遠だからね、卒業しても遊ぼうね」
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のサナが抱きついてきた。私はさりげなく避けつつ、ティッシュを渡す。
 「そうだね、ウチら家近いし定期的に会おう」
 「本当さ、花凛だけだったよ、オタクの価値観合うの。なーんか今の界隈、しっくりくる子いなくてさ」
 「奇遇。私も同じこと思ってたよ」
 「にしても、わざわざ走ってまで今宮に会いに行くとはねえ。もっと早く教えてくれればいくらでも協力したのに」
 「変な誤解してない?」


 私が好きなのは、和泉君だけなので。でも、変な心残りが出来てしまった。
 夕方から、クラスで焼肉に行くらしい。本当に、高校生が終わってしまった。一つの大きなチャンスを、私は逃したのだ。


 和泉君が好き、大好き。世界で一番好き。ピアノ、弾いてほしい。幼馴染に一途な男子高校生役を演じてほしい。でもいくら好きでも、出来ることと出来ないことがある。私が小説家になるのは、後者なのかもしれない。

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