千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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こんなに苦しくないのかな

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 「花凛ちゃん! 遅れてごめんね!」
 「とんでもないです!」
 約束の13時を、3分過ぎたとき。約一年ぶりに会うひかるさんが、私を見つけて走ってきた。胸元で揺れる三つ編み。白のダッフルコートに赤のベレー帽。私が着たら事故るやつ。似合わな過ぎて。


 カレンダーは三月にまでめくられ、指先はかじかむような寒さ。AO入試の私とは違い、ひかるさんは一般入試で女子大に合格した。


 遊ぼう! と連絡が来たのはつい先日で、とんとん拍子に話が進んだ。早速受験お疲れ様会を開こう、ということで、渋谷にあるアフタヌーンティーを予約していた。
 ずっと会いたかったひかるさん。私たちは、会うなり熱いハグを交わす。
 もう嫌なことは終わった、たくさん語れるのだ。


ーー「花凛ちゃんは、S女子大の文学部だっけ」
 「はい、そうです」
 「やっぱり私たちは文学部だよね!」


 なんて言いながら、ひかるさんが笑う。テーブルには、三段のティースタンド。ポットの紅茶はストロベリーティー。周りのお客さん、女性しかいない。高い天井にきらめくシャンデリア、ボルドーのサテンの椅子と大理石のテーブル。女の子の「好き」が、これでもかとくらい詰まっている。
 ひかるさん、実はアフタヌーンティーが初めてみたいで、店内を見て感動していた。


 「ねね、ところでさ、花凛ちゃんも日本純文学大賞応募したんだよね」
 「うん、出した。でも初めてだから、絶対ダメ。期待してない」
 「まあまあそんなこと言わずに。私も出したんだけどさ、いやー、手ごたえないよね……」


 日本純文学大賞。先月の2月29日が締め切りの新人賞だ。
 さすがにまだ早いだろう、と思っていたけれど、「応募しなきゃ始まらないよ」、とひかるさんに熱弁された。ということで、急遽「君の指先は恋を奏でる」をかなり改変して出したのだ。
 話していくうちに、いつのまにか外れていく敬語。なかなか減らないスイーツたち。


 「わ、私初めてひかるちゃんの話読んだとき感動した。同い年なのに、こんなに書ける人がいるんだ、頑張ろうって」
 「そんな嬉しいこと言ってくれるの、花凛ちゃんだけだよ」


 ひかるちゃんが照れたのか、頬をかく。
 いつか、会って伝えたかった。
 小説を書いて気づいた。めちゃくちゃ孤独。だから、感想が来ると飛び上がるほど嬉しい。


 「でも、同い年って言ったらやっぱり零さんだよ。あの人本当にすごいよね。女性かな」
 「……性別もわからないんだっけ」
 「そう。相変わらず自分の情報は一切明かさない。まあそこも魅力的というか。零さん、大学行ったのかな。いや、あそこまで売れたらもう小説一本かな」


 同じ学校です、と喉まで出かかった。
 もはや、ひかるちゃんには話しても良いのでは? なんて思い始めていた。
 だって、口堅そうだし、真面目だし、何より本当に零のことを尊敬している。
 いや、でも。
 約束した。誰にも言わないって。だから今宮は、私に色々教えてくれたんだ。裏切るわけにはいかない。グッとこらえた。


 「そういえば、ひかるちゃんは好きなアイドルとかいないの?」


 あんまり長く話しているとボロが出そうで、私は話題を変える。


 「アイドルかー。実はあんまり興味なくて。花凛ちゃんはいるの?」
 「WORLDっていうグループ知ってる?」
 「ワールド……。なんか聞いたことある。あ、友達が好きなグループだ。久我君? って人が好きなんだって」


 久我君か。やっぱり人気なんだな。
 もしひかるちゃんも興味がありそうだったら、ライブに誘おうかと思ったけどそんなこと微塵もなさそうだ。
 一人参戦も悪くないけど、やっぱり公演後に感想を言い合える仲間が欲しい(和泉推し以外で)。
 その後私たちは、プリクラを撮って駅前のパルコに寄った。ひかるちゃんはまだメイクに疎いようで、今度色々教えてほしいと頼まれた。


 「あったりまえよ。私のガッツリメイクで良かったらいつでも教えるよ」
 「ありがとう、助かる。褒め言葉として言うけど、花凛ちゃん化粧上手いよね。可愛い」
 「うわ、直接言われると照れる」
 「そうだな、じゃあ私、花凛ちゃんの作品の読書感想文書くよ。……いや、前やったな」
 「いいの!? めちゃくちゃ嬉しいんだけど。早く次の作品書かなきゃ」
 「そんなので良いなら! 私もそろそろ書こうかな。受験終わったから、今ならサクサク書けそう」


 そう意気込んだ私たち。次会うときは、メイク講座と古本屋巡りの計画を立てた。
 次会うときは、大学生だ。初めて遊んだのに、気まずい時間が一秒たりともなかった。まるで、昔からの友達のようだった。

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