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好き好き目を見て言えたなら
Ⅳ
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完全に小説から離れ、数か月が経った。
3月に入り、私は長い長い春休みを満喫していた。大学生の春休みって、2か月ある。高校より長い。すごい。まあ、満喫と言っても、たった数日サナと旅行に行っただけだが。
大学でも友達は出来たけれど、プライベートで遊ぶ仲かと言ったらそうではない。もともと大人数で活動することが好きではないし、オタクの時から連番(一緒に参戦すること)するのはサナ一人で十分だった。てか、サナといるのが居心地が良すぎた。
ひかるちゃんとは、距離を置いていた。しばらく休む、とだけ連絡を入れて、それきり。何かを察したのか、ひかるちゃんは何も聞いてこなかった。それが有り難かった。
あー、なんかもう良いかな、小説。だいたい地道すぎて私に合わないし。読んでくれる人とか全然いないし。目標もないし。てか、ずぼらな私が一本書き上げただけでもすごくない? あり得ないことだよ。お昼のワイドショーをぼーっと見ながら、そんなことを考えていた。
新しい趣味、そろそろ探すか。
サナに誘われてた、新しいグループのライブでも行ってみようかな。
テレビを消して、自分の部屋に向かう。パソコンの電源を入れると、ブックマークからみんなの文芸部を探し出す。
私は、上げていた作品を削除した。消した作品は、二度と元には戻せない。別に良い。だって、誰も読んでないし。
ーー「自分の作品ってさ、我が子みたいだよね」
「何それ」
「どんなに下手でも、ダメでも、愛着わいちゃうんだ。必死に悩んで、必死に書いたからさ。読み返すと本当恥ずかしいけどね」
そんな、ひかるちゃんとの会話を思い出して。
やっぱり非公開にしようかな、と思った矢先、ページが切り替わり「削除しました」の文字。……まあいっか。
そのままSNS用のアカウントもログアウトしようとしたときだった。通知欄に、ひかるちゃんからリプライが届いていたのは。
「凛ちゃん! 小説大賞の結果見て!」
もう2日前だ。文面と一緒に、URLも張り付けてある。
小説大賞? 何だっけ。考えること5秒。ああ、オーラスの前日に応募したやつだ。結果出たんだ。めちゃくちゃどうでも良い。そもそも思い出したくない。
でも、最後の作品だし。私はURLをタップする。すると、画面には「20XX年小説大賞 一次通過作品発表」、と出てきた。北海道から始まり、ずらりと作品名と名前が載っている。
よく見ると、2作品通過している人もいる。才能の塊か。羨ましい。ようやく東京都にたどり着くと、早速見慣れた名前を見つけた。
「東京都 『真夏の逃避行』 逢沢ひかり」
ひかるちゃんだ! そういえば、純文学大賞の方はどうなったんだろう。もう二次の結果も出てるはずだ。いや、下手したら三次通過の結果も出てる。
そのまま文字を追っていくと、二度見した。あやうくスマホを投げ出しそうになった。
「東京都 『シークレット・ライセンス』 和泉凛」
私の名前だ。私の作品だ。私の、名前。紛れもない、私の名前。
思わずスクショする。動揺して、2枚撮ってしまった。
信じられない。どうしよう、初めて通った。
椅子から立ち上がり、大きなガッツポーズ。やっと、やっと通った。
やっと!
「今見た! どうしよう、手が震えてる。ひかりちゃんの名前載ってて、私まで嬉しくなっちゃった!」
「お、やっと見たか! 私も凛ちゃんの名前見つけたとき叫んじゃったよ(笑)。ねー、続き書かないの?」
返信すると、すぐに返ってきた。嬉しすぎて、今なら何でも出来そうだ。
興奮しすぎて、汗かいてきた。
「消しちゃった(笑)。でも、USBには入ってるはず」
「消した!? もったいない! 私のフォロワーさんも、続き楽しみにしてたのに!」
「そうなの? 初耳だ」
「その人読む専だから、今度感想送りなって言っといた! 凛ちゃんの書き方が好き~とか、結構惚れてたよ(笑)」
ーー和泉君はもういない。映像化して、ピアノを弾いてもらう夢はなくなった。
でも、私。小説家になりたい。今宮に、読んでもらいたい。今私の作品を読んでいない人を、後悔させてやりたい。
アイツ、私の先生になるだとか言って結局途中から何もしてくれてないし。ムカつく。連絡の一つもない。ムカつく。
ムカつく。
負けず嫌いが顔を出す。オタクの時からそうだった。自分が和泉オタの中で、一番じゃないと嫌だった。いつも舞台は最前。ライブは行ける所なら全て行った。
書かなきゃ。書いて、大賞取らなきゃ。私の夢、そう、恋愛小説家の零になること。
そもそも小説家になれば、もしかしたら和泉君読んでくれるのでは? 初恋上級者をきっかけに、読書に目覚めたって言ってたし。好きなジャンルはミステリーとホラーって言ってたけど。
どうしよう、目標が出来ちゃった。私やっぱり、和泉君が好きだ。だって和泉君を思えば、なんだって出来ちゃう気がするんだ。
3月に入り、私は長い長い春休みを満喫していた。大学生の春休みって、2か月ある。高校より長い。すごい。まあ、満喫と言っても、たった数日サナと旅行に行っただけだが。
大学でも友達は出来たけれど、プライベートで遊ぶ仲かと言ったらそうではない。もともと大人数で活動することが好きではないし、オタクの時から連番(一緒に参戦すること)するのはサナ一人で十分だった。てか、サナといるのが居心地が良すぎた。
ひかるちゃんとは、距離を置いていた。しばらく休む、とだけ連絡を入れて、それきり。何かを察したのか、ひかるちゃんは何も聞いてこなかった。それが有り難かった。
あー、なんかもう良いかな、小説。だいたい地道すぎて私に合わないし。読んでくれる人とか全然いないし。目標もないし。てか、ずぼらな私が一本書き上げただけでもすごくない? あり得ないことだよ。お昼のワイドショーをぼーっと見ながら、そんなことを考えていた。
新しい趣味、そろそろ探すか。
サナに誘われてた、新しいグループのライブでも行ってみようかな。
テレビを消して、自分の部屋に向かう。パソコンの電源を入れると、ブックマークからみんなの文芸部を探し出す。
私は、上げていた作品を削除した。消した作品は、二度と元には戻せない。別に良い。だって、誰も読んでないし。
ーー「自分の作品ってさ、我が子みたいだよね」
「何それ」
「どんなに下手でも、ダメでも、愛着わいちゃうんだ。必死に悩んで、必死に書いたからさ。読み返すと本当恥ずかしいけどね」
そんな、ひかるちゃんとの会話を思い出して。
やっぱり非公開にしようかな、と思った矢先、ページが切り替わり「削除しました」の文字。……まあいっか。
そのままSNS用のアカウントもログアウトしようとしたときだった。通知欄に、ひかるちゃんからリプライが届いていたのは。
「凛ちゃん! 小説大賞の結果見て!」
もう2日前だ。文面と一緒に、URLも張り付けてある。
小説大賞? 何だっけ。考えること5秒。ああ、オーラスの前日に応募したやつだ。結果出たんだ。めちゃくちゃどうでも良い。そもそも思い出したくない。
でも、最後の作品だし。私はURLをタップする。すると、画面には「20XX年小説大賞 一次通過作品発表」、と出てきた。北海道から始まり、ずらりと作品名と名前が載っている。
よく見ると、2作品通過している人もいる。才能の塊か。羨ましい。ようやく東京都にたどり着くと、早速見慣れた名前を見つけた。
「東京都 『真夏の逃避行』 逢沢ひかり」
ひかるちゃんだ! そういえば、純文学大賞の方はどうなったんだろう。もう二次の結果も出てるはずだ。いや、下手したら三次通過の結果も出てる。
そのまま文字を追っていくと、二度見した。あやうくスマホを投げ出しそうになった。
「東京都 『シークレット・ライセンス』 和泉凛」
私の名前だ。私の作品だ。私の、名前。紛れもない、私の名前。
思わずスクショする。動揺して、2枚撮ってしまった。
信じられない。どうしよう、初めて通った。
椅子から立ち上がり、大きなガッツポーズ。やっと、やっと通った。
やっと!
「今見た! どうしよう、手が震えてる。ひかりちゃんの名前載ってて、私まで嬉しくなっちゃった!」
「お、やっと見たか! 私も凛ちゃんの名前見つけたとき叫んじゃったよ(笑)。ねー、続き書かないの?」
返信すると、すぐに返ってきた。嬉しすぎて、今なら何でも出来そうだ。
興奮しすぎて、汗かいてきた。
「消しちゃった(笑)。でも、USBには入ってるはず」
「消した!? もったいない! 私のフォロワーさんも、続き楽しみにしてたのに!」
「そうなの? 初耳だ」
「その人読む専だから、今度感想送りなって言っといた! 凛ちゃんの書き方が好き~とか、結構惚れてたよ(笑)」
ーー和泉君はもういない。映像化して、ピアノを弾いてもらう夢はなくなった。
でも、私。小説家になりたい。今宮に、読んでもらいたい。今私の作品を読んでいない人を、後悔させてやりたい。
アイツ、私の先生になるだとか言って結局途中から何もしてくれてないし。ムカつく。連絡の一つもない。ムカつく。
ムカつく。
負けず嫌いが顔を出す。オタクの時からそうだった。自分が和泉オタの中で、一番じゃないと嫌だった。いつも舞台は最前。ライブは行ける所なら全て行った。
書かなきゃ。書いて、大賞取らなきゃ。私の夢、そう、恋愛小説家の零になること。
そもそも小説家になれば、もしかしたら和泉君読んでくれるのでは? 初恋上級者をきっかけに、読書に目覚めたって言ってたし。好きなジャンルはミステリーとホラーって言ってたけど。
どうしよう、目標が出来ちゃった。私やっぱり、和泉君が好きだ。だって和泉君を思えば、なんだって出来ちゃう気がするんだ。
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