僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥

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開店するよ!

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特に宣伝はしていないが、「アンジュノラン」の名前を掲げたお菓子屋さんが出来るという噂はすぐに広まった。
店の建築中ですら見学者が多く、アンジュノランのクッキーセットとチョコレートアソートが毎日売り切れ状態で手に入らない人達の期待が凄かった。

こっそり進捗状況を確認するのにも一苦労で、どこぞの怪盗みたいに箱の中に入って出入りしたよ。
その箱を運ぶ役目の1人を兄上が担った。
内装は兄上のこだわりだから、自分で確認したかったみたい。
よれよれの作業着に着替えた兄上は、無駄に姿勢がよくて貴族オーラがだだ漏れ。これはいけない。

「兄上!猫背にっ猫背にするのです!」
「こ、こうか?」
「兄上!それは顔だけ前に出てます!背骨を、背骨を曲げるのです!」
「くっ…これでどうだっ」
「ああ~惜しいですっ、足が真っ直ぐ過ぎて小文字のエフになってます!」
「猫背って難しいな!」

なんてやり取りをしたのも楽しかったな~。

そして開店日にあわせて、とうとうお菓子屋さんのオーナーはランス・テールムであると宣言をする事になった。
集まってきたお客さんに向けて開店の挨拶とテープカット、学園長の防御魔法を店舗にかけて、この店に無体なことをするなよ~っていう圧力もかける。

全てのイベントは事前予告無しで行い、来てくれたお客様、先着100名様に小さめのシフォンケーキをプレゼント。
宣伝しなくても建築中から見学に来る人で、既に100人超えてそうだけど。
当日は何人集まるのかなーって思うと少し怖かった。






開店当日。

店の前には豪華なお花がたくさん飾られていて、昨日までは無かったお知らせの看板がある。
内容は本日の予定。
開店のお知らせと、挨拶、イベントの催し、営業時間が書かれている。
知らずに来たお客はそれを見ると歓声をあげ、ゾロゾロと店の前に溜まり始めた。
すぐに整列用のポールが用意され、蛇行する行列が出来上がった。

その様子に、ランスの緊張は嫌でも高まる。

「ひぇ。いっぱい居る…」
「大丈夫、何があってもランは俺が守る」

正装したランスとグランは店の中から表を覗く。
その後ろでテールム家の両親と兄姉が学園長とベルさん、ギルドの販売員と段取りや販売の流れを確認している。

ランスは集まっている人達の中に見知った顔が居ることに気がついた。

「あ、あそこにクラスメイトの子達もいるね」
「そうだな。奴らも楽しみにしてたみたいだ」
「あれ?親分と子分1、2もいるよ!」
「それは誰だ?」
「え?グランと一緒にコントしてた人達だよー?」

ハテナを浮かべながら首を傾げるグラン。

忘れたのね。

グランとの会話で緊張を紛らわしていたが、とうとう時間になる。

「ランス、先に私が挨拶をする。その時にお前を紹介するから前に出なさい」
「は、はい!」
「頑張れよランス」
「ランスってばそんなに緊張し過ぎて挨拶出来るかしら?」
「貴方なら出来るわ。しっかりね」

家族に励まされ、兄上に頭をぽんぽんされ、姉上に頬をぺちぺちされ、母上に手を握られる。

「頑張ります!」

後ろからそっとグランが腰を支えて、

「俺のランの晴れ舞台だ。しっかり見守ってるからな」

………僕、いつの間にグランのものになったのかな?

何故誰も突っ込まないのか、挨拶よりもそれの方が気になったランスだった。


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