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世界滅亡級の魔法と小さな虫
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授業が終わるや否や、私たちは揃って河川敷へ向かった。信長と義元はすでにやる気満々で、まるで遠足に行く子どもみたいに足取りが軽い。
「今朝の一杯で裕美子は少し回復したけど……」
歩きながら振り返る。
「完全に戻るには、やっぱりもっと必要ね」
裕美子は苦笑しながら頷いた。
「正直、身体がまだ重いの。黄金タピオカって本当にあるなら、そっちを狙いたいくらい」
「ふはは! 出れば天下を制する至宝じゃ!」
信長は大げさに笑う。
河川敷に到着すると、夕日が川面を照らして眩しい。草むらからは、かすかな羽音が聞こえていた。
「いたぞ!」
信長が指差す。そこにいたのは――目を凝らさなければ見えないほど小さな虫。
「これ……? あまりに小さすぎない?」
「名はジャイアントブザーインプ。名ばかりの巨人じゃ」
「どう考えてもコバエなんだけど!」
信長が刀を抜き、気配を読むように一閃。風を切っただけに見えたが、次の瞬間、地面に宝箱が現れた。
「おお! 出おったぞ!」
義元が歓喜し駆け寄る。箱を開けると、中にはつやつやと黒光りするタピオカの粒。
「これが……本物のドロップ品……」
裕美子は慎重に手に取り、試しにひと粒口に含んだ。
「……うん。少し魔力が流れ込む感じがする」
「やっぱり効果あるんだ」
私も安堵の息をつく。
「だがのう、狩りすぎは禁物じゃぞ」
信長が刀を収めながら言った。
「絶滅させては明日からの商売が成り立たん」
「持続可能なタピオカ経営じゃ!」
義元がうなずく。
(まさか信長と義元から“サステナブル”を聞く日が来るとは……)
裕美子は笑みを浮かべながら呟いた。
「……黄金のタピオカ。もし本当にあるなら、今の私には必要かもしれない」
「出るかどうかは運次第じゃな」
信長の目がギラリと光る。
放課後の河川敷は、すっかりタピオカ探索の狩場となった。黄金の粒を求める冒険が、静かに幕を開けた。
「じゃあ、この辺り一気に」
私は闇世終焉の詠唱に入った。
「そんなもん唱えるな! 虫どころか世界が滅ぶ!」
「そうじゃ! 少しは加減するのじゃ!」
「そんなこと言われても、私が自力で使える闇魔法なんかこれしかないんだもの!」
今朝、裕美子を待つ間、自力で魔物を倒す手段を考えたとき、自分がまともに戦ったことがないことに気づいた。
「ねぇ、起きてよ。私、魔法使いたいんだけど」
『なら闇世終焉を習得しておけば問題なかろう。寝てたんだから起こすでない』
悪魔姫なら詠唱無効できるのだろうが、私には無理だ。
「今まで戦った時は謎の空間が出来たんだけど……」
「戦闘空間のことじゃな。あれは街や民を守るために張られる。神や神に近い者のみ使用可能じゃ」
勝手に空間が現れると思ったのだが、どうやら毎回誰かが張っていたようだ。
「ねぇ、空間張ってよ。今まであんたでしょ?」
眠りこけているであろえ悪魔姫に問いかけたが返事はなかった。
「世界滅亡させたくなかったら、おとなしくタピオカを差し出しなさい!」
私は大事で恐喝する。
「まるで野盗じゃな」
「下剋上よりタチが悪いのう」
「うるさい! 私は悪魔姫なんだから悪に徹したっておかしくないわ!」
そんなやりとりをしていると、
「ついに尻尾を出したわね。やはりあなたは悪。さぁ主様! あの悪魔を滅ぼしましょう!」
レミットがギャーギャー騒ぎ出す。
「いやー、マジで世界を滅ぼすことなんかしないだろ? それに俺にはあの虫は斬れないし。虫取り網の方がいいんじゃないか?」
「倒すのが目的で飼うことじゃないよ?」」
裕美子が静かに教える。
「なら、コバエ取りホイホイとかダメなのか?」
あ、それだ。
私と裕美子はレンタローを指さしたのであった。
近所のスーパーからコバエ取りホイホイをそっと置く。
「これで明日の朝には宝箱の山が積み上がってるわ」
「近代の文明にそんな便利な物があるのか。おそれいったわ」
「まぁ宝箱を盗みに来る人がいるかもしれないから見張は必要ね。じゃ、信長に義元。よろしく」
「何故ワシらなのじゃ。ワシらはこの後タピオカドリンクに足りない材料を取りに行かなければならぬのじゃ」
そのときだった。草むらの羽音が、一瞬にして不気味に増幅した。私たちが仕掛けたコバエ取りホイホイに、いつの間にか女が近づいている。手に取ったその姿勢は、ただの好奇心というより挑発に近い。
「あ、触ったらダメよ。てか、いつの間にいたの?」
私が言うと、女は肩を震わせながら低く笑った。口調は──なぜか関西弁の軽いノリだ。
「おまえら、ウチらジャイアントブザーインプをハエ扱いか? なめられたもんや」
女の声は地面に響いた。
レミットがポッキーをかじりながら平然と告げる。
「悪魔姫、それジャイアントブザーインプの女王やで。人型に実体化してる、しかも……関西風ギャルって感じ」
皆が一斉に女を見返す。
女は一歩前に出て、瞳が鋭く瞬いた。羽音は急に低い地鳴りのように変わり、風が抜ける音が周囲を包む。女王の口元が歪み、赤い光がほんの一瞬その瞳を満たした。
「昨日からウチらの縄張りを荒らして……こんなふざけたことしよって……殺す!」
彼女の声が切り裂くように響いた。
次の瞬間、羽音は単なる音ではなく、圧力になって襲いかかってきた。放課後の河川敷が、黒い影に覆われる気配を帯び――私たちは反射的に構えた。女王が動いた、その瞬間、世界がひとつ濃くなるのを私の全身が感じたのだった。
「今朝の一杯で裕美子は少し回復したけど……」
歩きながら振り返る。
「完全に戻るには、やっぱりもっと必要ね」
裕美子は苦笑しながら頷いた。
「正直、身体がまだ重いの。黄金タピオカって本当にあるなら、そっちを狙いたいくらい」
「ふはは! 出れば天下を制する至宝じゃ!」
信長は大げさに笑う。
河川敷に到着すると、夕日が川面を照らして眩しい。草むらからは、かすかな羽音が聞こえていた。
「いたぞ!」
信長が指差す。そこにいたのは――目を凝らさなければ見えないほど小さな虫。
「これ……? あまりに小さすぎない?」
「名はジャイアントブザーインプ。名ばかりの巨人じゃ」
「どう考えてもコバエなんだけど!」
信長が刀を抜き、気配を読むように一閃。風を切っただけに見えたが、次の瞬間、地面に宝箱が現れた。
「おお! 出おったぞ!」
義元が歓喜し駆け寄る。箱を開けると、中にはつやつやと黒光りするタピオカの粒。
「これが……本物のドロップ品……」
裕美子は慎重に手に取り、試しにひと粒口に含んだ。
「……うん。少し魔力が流れ込む感じがする」
「やっぱり効果あるんだ」
私も安堵の息をつく。
「だがのう、狩りすぎは禁物じゃぞ」
信長が刀を収めながら言った。
「絶滅させては明日からの商売が成り立たん」
「持続可能なタピオカ経営じゃ!」
義元がうなずく。
(まさか信長と義元から“サステナブル”を聞く日が来るとは……)
裕美子は笑みを浮かべながら呟いた。
「……黄金のタピオカ。もし本当にあるなら、今の私には必要かもしれない」
「出るかどうかは運次第じゃな」
信長の目がギラリと光る。
放課後の河川敷は、すっかりタピオカ探索の狩場となった。黄金の粒を求める冒険が、静かに幕を開けた。
「じゃあ、この辺り一気に」
私は闇世終焉の詠唱に入った。
「そんなもん唱えるな! 虫どころか世界が滅ぶ!」
「そうじゃ! 少しは加減するのじゃ!」
「そんなこと言われても、私が自力で使える闇魔法なんかこれしかないんだもの!」
今朝、裕美子を待つ間、自力で魔物を倒す手段を考えたとき、自分がまともに戦ったことがないことに気づいた。
「ねぇ、起きてよ。私、魔法使いたいんだけど」
『なら闇世終焉を習得しておけば問題なかろう。寝てたんだから起こすでない』
悪魔姫なら詠唱無効できるのだろうが、私には無理だ。
「今まで戦った時は謎の空間が出来たんだけど……」
「戦闘空間のことじゃな。あれは街や民を守るために張られる。神や神に近い者のみ使用可能じゃ」
勝手に空間が現れると思ったのだが、どうやら毎回誰かが張っていたようだ。
「ねぇ、空間張ってよ。今まであんたでしょ?」
眠りこけているであろえ悪魔姫に問いかけたが返事はなかった。
「世界滅亡させたくなかったら、おとなしくタピオカを差し出しなさい!」
私は大事で恐喝する。
「まるで野盗じゃな」
「下剋上よりタチが悪いのう」
「うるさい! 私は悪魔姫なんだから悪に徹したっておかしくないわ!」
そんなやりとりをしていると、
「ついに尻尾を出したわね。やはりあなたは悪。さぁ主様! あの悪魔を滅ぼしましょう!」
レミットがギャーギャー騒ぎ出す。
「いやー、マジで世界を滅ぼすことなんかしないだろ? それに俺にはあの虫は斬れないし。虫取り網の方がいいんじゃないか?」
「倒すのが目的で飼うことじゃないよ?」」
裕美子が静かに教える。
「なら、コバエ取りホイホイとかダメなのか?」
あ、それだ。
私と裕美子はレンタローを指さしたのであった。
近所のスーパーからコバエ取りホイホイをそっと置く。
「これで明日の朝には宝箱の山が積み上がってるわ」
「近代の文明にそんな便利な物があるのか。おそれいったわ」
「まぁ宝箱を盗みに来る人がいるかもしれないから見張は必要ね。じゃ、信長に義元。よろしく」
「何故ワシらなのじゃ。ワシらはこの後タピオカドリンクに足りない材料を取りに行かなければならぬのじゃ」
そのときだった。草むらの羽音が、一瞬にして不気味に増幅した。私たちが仕掛けたコバエ取りホイホイに、いつの間にか女が近づいている。手に取ったその姿勢は、ただの好奇心というより挑発に近い。
「あ、触ったらダメよ。てか、いつの間にいたの?」
私が言うと、女は肩を震わせながら低く笑った。口調は──なぜか関西弁の軽いノリだ。
「おまえら、ウチらジャイアントブザーインプをハエ扱いか? なめられたもんや」
女の声は地面に響いた。
レミットがポッキーをかじりながら平然と告げる。
「悪魔姫、それジャイアントブザーインプの女王やで。人型に実体化してる、しかも……関西風ギャルって感じ」
皆が一斉に女を見返す。
女は一歩前に出て、瞳が鋭く瞬いた。羽音は急に低い地鳴りのように変わり、風が抜ける音が周囲を包む。女王の口元が歪み、赤い光がほんの一瞬その瞳を満たした。
「昨日からウチらの縄張りを荒らして……こんなふざけたことしよって……殺す!」
彼女の声が切り裂くように響いた。
次の瞬間、羽音は単なる音ではなく、圧力になって襲いかかってきた。放課後の河川敷が、黒い影に覆われる気配を帯び――私たちは反射的に構えた。女王が動いた、その瞬間、世界がひとつ濃くなるのを私の全身が感じたのだった。
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