デビルプリンセスは死なない。

みずほたる

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女王と校門前の屋台

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「ふぅ……」

黄金のタピオカを手に、思わず大げさに安堵のため息をつく。

闇黒炎ダークフレア詠唱無効スペルキャンセルで唱えられたのは、無我夢中の産物。でも、練習すればもっと自由に扱えそうだ。

「赤髪の女よ、黄金のタピオカ……どうするのじゃ?」

疲労困憊の信長がよろよろと近づく。

「一粒しかないのに、5人で分けるの?」

裕美子が首をかしげる。

「私はいらないわ。平等に分けてタピオカドリンクにすればいいんじゃない?」

私の提案に、信長は真剣にうなずく。

「うむ、売るより皆で楽しむのが一番じゃな。義元と他の材料を取ってくるぞ。明日まで待たれよ」

「ちょっと待ちなさい。あんたも協力したから、治癒してあげるわ」 

レミットが全員に魔法をかける。

「傷は治っても、疲労感は残るのう」

「贅沢言わないでちょうだい。治癒してあげただけでも感謝なさい」

信長も素直に頭を下げ、レミットは顔を赤らめる。

「でも、一粒を五等分は無理じゃない?」

「仕方ないわね。普通のタピオカのために、ジャイアントなんとかを狩ろうか」

よっこらせ、と立ち上がると――

「命ばかりはお許し下され!」

幼い女王が頭を地面にこすりつけて土下座していた。

「タピオカは差し上げます。ですから、一族をお許しくださいませ」

「なんか私たち悪人みたいね」

「実際、悪人だな」

「私は善でも悪でもないわ。どうするの?」

「ならば、我が織田家の家臣にならぬか?」

信長が真顔で提案。

「お主らは人間の姿に変えられるのじゃろう? タピオカドリンクを作ってくれたら、財も作れるし養える」

幼き女王は目を見開き、希望と不安が入り混じった顔で小さくうなずく。

「てか、あんたらホームレスなのに、どこに住ませるつもりよ?」

私が訊くと、信長の額に一筋の汗。

「お館様。住処でしたら郊外に空き城がございます。ご購入されては?」

女王は不動産情報誌を差し出す。

「なんでそんなものを持っているのよ?」

「夢は城に住むこと。いつかのために定期購入しておりました」

あの強さで下等なのか……悪魔姫の圧勝記録がますます光る。

「てか、城って私の知る過去にはなかったわよ」

「え? あったわよ。バブルで失敗した有名物件」

「記憶違いか……まぁいいや」

「ちなみに城っていくらなの?」

裕美子が不動産情報誌を覗き込む。

「土地建物が50円だって。ただし固定資産税や光熱費が鬼高い」

私は指をさして解説。

「ならば購入しよう。主らの仲間は何人いるのじゃ?」

「100人ほどおります」

「ならば伝えよ、忠義を誓う者には報いよう」

「ハハーッ!」

「で、黄金のタピオカって、まだあるの?」

「黄金のタピオカ? 今あなたが持ってる失敗作のことですか?」

「え? 失敗作?」

「たまに作り損じるんですよ」

「失敗作を勝手にレア認定してたのね。魔力回復能力は?」

「タピオカに魔力回復能力はありません」

「だったら何故?」

裕美子を見る私。

「魔力は“気持ち”で回復するってことなんだよ」

まさかの“風邪扱い”!?

結局、タダ働きだったことに気づき、意気消沈したままモグドナルドに向かうと、店長が両手をこすりながら頭を下げてくる。

「お客様、お待ちしておりました。先程クロエ様が来られまして、『タピオカには魔力回復能力はない』と申されましたので、今回の依頼は“なし”でございます」

――黄金のタピオカ、完全に空振り。

私たちは肩を落としつつ、タピオカの味だけを楽しむことになったのであった。

家に帰ると、クロエが

「おかしいと思ってタピオカを調べたんですけど魔力回復要素がございませんでしたのでモグドナルドに伝えておきました」

「うん。モグドナルドで聞いた」

私は今日あったことを報告すると、

「わかりました。レポートにまとめておきます。それよりもお疲れでしょう。お風呂沸かしてますからゆっくりして下さい」

そう言われて安心したまま、1日を終えた。

翌日、大学の校門前。朝の通学ラッシュの中、小さな屋台が設置されていた。

「黄金タピオカドリンク」と書かれた幟が風に揺れ、甘い香りが通行人を誘う。

「……あれ、昨日の女王じゃない?」

裕美子が目を丸くする。

幼い女王はカウンターの向こうで、真剣な表情でタピオカを混ぜている。

配下たちも人間の姿に変わり、ぎこちない手つきながらも丁寧にドリンクを渡していた。

「おはようございます!」

女王が深く頭を下げる。

「本日より、我ら一族はお館様のため、この大学前の露店で働かせていただきます」

配下の一人が緊張した声で言う。

「初めての仕事ですが……お館様のため、一生懸命務めます」

裕美子が注文すると、女王は慎重にタピオカドリンクを作る。

一口飲むと――

「うん、美味しい! なんだか、ほっとする味ね」

私が笑顔を見せると、女王と配下たちも少し誇らしげに胸を張った。

「これから毎日、主様のために働き、魔物一族の未来を築きます」

女王の瞳が真剣に輝く。

通学途中の学生たちが興味津々に覗き込み、賑やかな声が屋台を包む。

黄金タピオカの騒動は一段落したが――この大学前の小さな屋台から、一族の新しい歴史が始まろうとしていた。


――その視線の先に、ひときわ鋭いオーラを放つ女子大生が立っていた。

長い銀髪が風に靡き、通学途中の学生の視線を避けることなく、堂々と屋台を睨みつける。

「魔物が商売? そんなこと、許されると思ってるの?」

杖を軽く握る手元が光を帯び、魔力がちらりと見えた。

「化けの皮は……この聖女ミユが、必ず剥いで差し上げます!」

その鋭い眼差しに、屋台の女王も配下たちも一瞬動きを止める。

朝の穏やかな風に、緊張がさざ波のように広がる――。
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