悪魔姫は世界征服よりも昼寝がしたい!

みずほたる

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姫様、魚文明を発明する

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「姫様。修練のお時間です」

「オカリナ。場所を考えて言って」

「ピアニカ帝国城内の王の間ですが、修練の場所としては問題ございません」

「おおありよ。誰かに見られたら恥ずかしいでしょ」

「大丈夫です。今日は『お腹を空かせて泣いているカバの子供に、自分の顔を食べさせる修練』ですから。貧困にあえぐ現状にピッタリです」

「私の顔はこしあんじゃないわ!」

「粒あんでも問題ありません!」

そんなやりとりをしていると、扉の外がざわめいた。

クラリの報告によれば、民衆が昨日の返事をしに来ているという。

「姫様、謁見を」

「よい。通せ」

重い扉が開き、ボロボロの服を着た民衆たちがひざまずいた。

代表者が震える声で言う。

「我ら一同、姫様についていくと決めました!」

「ウム。忠義に励むとよい」

「ところで姫様。率直に申し上げます。ご存知の通り我らは食糧に困っております。どうかお助けくださいませ!」

私は玉座から立ち上がり、机の上の古地図を広げた。

海や山の位置、魔物の分布――だが、どこも不毛な地ばかりだが

「それでも南に海があるのぅ。魚がとれそうではあるの」

「え?」

民衆たちは一斉に顔を見合わせた。まるで聞いたこともない単語を聞いたように。

「え? とはなんじゃ。魔物がおるのか? それとも宗教的な理由か?」

「いえ。魚って食べれるんですか?」

「え?」

今度は私の番だった。

「オカリナよ。そなたは魚を食べるよな?」

「初耳です」

私は玉座の肘掛けに手をつき、目をぱちくりさせた。

この世界、まさか……魚を食べない文化だったの?

よく考えたら、生まれ変わってから見たことないわ。長い間、森の中で生きていたようなものだし、仕方ないじゃない。

「お主ら今まで何を食べて来たのじゃ?」

「肉や野菜は根こそぎ帝国に徴収されてきたので、これまで人の不幸を見て木の実がすすむと言ってきました」

「なんじゃそれは?」

私はバンと机を叩き、勢いよく立ち上がった。

「よい。ならば妾が教えてやろう。海の幸というものを!」

民衆の間にざわめきが広がる。

不安と期待の入り混じった目。

それを見て私はニヤリと笑った。

「ついてくるがよい。そして準備せよ――目指すはピアニカ帝国南、ディープブルーへ!」

ピアニカ帝国南部、ディープブルー海岸。
朝靄に包まれた浜辺には、初めて海を見た民たちが一斉に立ちすくんでいた。

「うわ……でっかい水……!」

「近づくな! 毒の沼だぞ!」

波が寄せるたびに、民衆がびくっと後ずさる。
私はため息をつき、腰に手を当てた。

「これは毒などではない。ただの海水じゃ。ちょっと塩っぽいだけじゃ」

そう言って、私はしゃがみ込み、手のひらで海水をすくい、ぺろりと舐めてみせた。

周囲の民が悲鳴を上げる。

「ひ、姫様が毒を!?」

「無事です!」

「生きてる!? 海を飲んだのに!?」

……何をそんなに驚いておる。

「よいか。海には魚が住んでおるのじゃ。見よ」

私は空中に魔力を集中させ、海面に絶望のオーラを薄く流した。

すると、小魚たちが一斉に跳ね上がり、光を反射して銀の雨のように散った。

「おおぉぉ……」

「星みたいだ……!」

「これが、魚……?」

民の目が輝く。

「これを捕まえる。だが素手では無理じゃ。網を使うのじゃ」

「網……?」

「ほれ、こうして――」

オカリナが持ってきた麻布を広げ、私がそれに即興で魔力糸を編み込む。

簡易漁網が完成した。

「これで海に投げて引くと、魚がこうして――」

バシャァッ!

勢いよく引き上げると、ぴちぴち跳ねる魚たちが中に入っていた。

民衆が息をのむ。

「こ、これを食べるのですか?」

「そうじゃ。火を通せば美味じゃぞ」

「ひ、火で焼く……? そんな乱暴な……!」

「黙って見ておれ」

私は焚き火を起こし、魚を串に刺して炙った。
香ばしい匂いが風に乗って広がる。

「……なんか、いい匂いがしますね」

「焦げた木の実の匂いとは違う……」

「うむ。これが“旨味”というやつじゃ」

私は焼き上がった魚をひと口かじる。

塩気と油が広がり、懐かしい記憶が蘇る。

「……やはり、魚はうまいのぅ」

恐る恐る民たちも口にする。

次の瞬間――

「うま……!」

「な、なんですかこれ! 幸せの味がします!」

「涙が出てきた……!」

民衆の歓声が浜辺に響く。

その様子を見て、私はニヤリと笑った。

「よいか。これが“文明”というものじゃ。今日より、海は毒沼ではない。**神の食卓《オーシャン・キッチン》**と呼ぶがよい!」

民たちが一斉に跪き、

「姫様、万歳!」

「魚、万歳!」

と叫ぶ。

その横で、オカリナがぼそっと言った。

「姫様……魚の食べ過ぎで、しばらく塩分過多になりますね」

「知らぬ! 文明には犠牲がつきものじゃ!」

――こうして、民衆は魚を食べる文明を手に入れた。

以来、ピアニカ帝国、いや今は海岸都市ピアニカでは魚を“神の贈り物”と呼び、海辺の村々には焼き魚の香りが絶えなくなった。

その夜、浜辺には篝火が並び、民たちは一斉に歌い踊った。

「姫様、あれをご覧ください!」

オカリナが指さした先では、子どもたちが魚をくわえたまま走り回っていた。

「おいしい! もっと食べたい!」

「こっちの黒いの、なんか苦い!」

「それはイカじゃ! 食うならよく焼け!」

私は砂の上に腰を下ろし、焚き火の明かりを見つめながら小さく息を吐く。

「……ふむ。民が笑う姿、悪くないのぅ」

「姫様が導いた結果です。これで飢えはしばらく凌げますね」

「塩を自己生産できるようになれば流通の武器になるしの。これで領内は豊かになるじゃろうな」

しばらく都市に留まり、漁業が発展していくのを見守っていたのだが。

「最近魚だけでなくサメとかピラニアが普通に食卓に並ぶんだけど、どうやってとってるの? てか、海にはいないはずの魚がなんでいるの?」

「姫様。おっしゃっていることがよくわかりません。いるものはいるんですよ」

「……いや、理屈になってないのよ。あとフグって、そのまま出すもんじゃないでしょ。毒あるのよ? これ」

「普通にみんな食べてますよ?」

「全員、強くなりすぎじゃない?」

浜辺では今日も笑い声と、どこからともなく聞こえる海の咆哮が響いていたのであった。
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