プリンセス・サーバンツ

みずほたる

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姫様、静かなスローライフを望んだらベリーハードだった件

姫様、世界征服よりも衣食住を優先する

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「では姫様。早速ですが世界を征服しましょう! この悪魔大元帥オカリナに、なんでも命じて下さい!」

張り切って巨大な鎌をブンブン振り回すオカリナに、私は首を振る。

「世界征服の前に、今日寝る場所と食料の確保が先よ。……あなた、昨日どうしてたの?」

「雑草を食べ、そこら辺で雑魚寝しました」

「野宿よりひどいじゃない! 私はそんなサバイバル生活無理だからね! せめて雨風をしのげる場所と、まともな栄養のある食べ物が欲しい!」

「それなら周囲の村を襲撃しましょう。それが最も簡単です!」

「そんなことしたら逆に狙われる存在になっちゃうでしょ!」

「ではどうなさいますか? 姫様のご様子から察するに、我々には建築・採集・調理スキルは皆無……」

「そうね。私たちにできることは一つしかないわね」

私は深いため息をついた。



森を抜けた先に、小さな集落が見えてきた。

「姫様。どうされます? やはり襲撃を」

「しないってば! お尋ね者にはなりたくないの。今必要なのは寝床と食料の確保。それだけ」

「しかし姫様。人間の世界では貨幣が必要だとか」

「そう。だから“稼ぐ”のよ。いい? 絶対に暴れないでね。これは命令」

「かしこまりました!」

村に足を踏み入れると、村人たちの視線が集まる。

「姫様。やはりジロジロ見られております。顔を見られた以上、口を封じ──」

「封じない! 田舎ってのは外から来た人を見るだけで珍しいのよ。人間も魔族も関係ないの」

「さすが姫様。人間界の知識が豊富でございます」

「質屋くらいどこにでもあるでしょ」

あたりを見回すと、木製の看板が目に入った。

「あれ、多分質屋か道具屋ね」

私は扉を押して中へ入る。

「客かと思ったら魔族かよ。何の用だ?」

ぶっきらぼうなオッサンがこちらを見る。

「この店は魔族でも客として扱ってくれる?」

「商売になるなら構わんさ。金払いさえよけりゃ、人間でも魔族でも関係ねぇ」

「魔族相手に動じないのね」

「魔王が勇者に倒されてからは、聖女様の結界で魔族は本来の力の十分の一も出せん。今じゃ人間と大差ねぇ」

オッサンはオカリナの巨大な鎌をジト目で眺める。

「例えばお前みてぇな物騒な鎌でも、今の魔族じゃ人間一人やっと倒せるかどうかってレベルだ。脅しにもならん」

「……姫様。侮辱されました。粛清をしてもよろしいですか?」

「するなっ!!」

オカリナは不満げに鎌を握り直すが、確かに威圧感は薄い。

「で、何しに来た?」

「売りたい物と買いたい物があってね。売りたいのは今着ている服一式。買いたいのは安くて動きやすい服一式よ」

「姫様。本気でおっしゃられてるのですか?」

オカリナは慌てて止めるが、私は続ける。

「この服じゃ動きにくいし不自由なの。高く売れれば宿代や食事代にもなるでしょ」

「魔族のくせに人間くさい姉ちゃんだな……。
まぁいい。差別なしに鑑定してやるよ」

オッサンは水晶玉をカウンターの上に置くと、

「前に立ちな。査定額が出てくる」

言われた通り、私は水晶玉の前に立つとオッサンが驚いて聞いてきた。

「金貨五万枚だと! 姉ちゃん。その服どこで仕入れたんだ!?」

「仕入れたも何も、最初からこの服を着ていたわ。そんなに価値があったのは意外だわ」

「ぜひ買い取りたいが、見ての通りうちは小さな村の商店だ。そんな金貨は持ち合わせていないんだ」

このパターンは予想していなかった。買い叩かれてトントンか、思ったよりも高く売れてしばらく食べていけるかのどちらかと考えていたからだ。

「なら、私たちあの森の中に住みたいんだけど、二人が生活出来る家を建てれる代金にしばらくの食事代と交換ってのは駄目?」

「俺はかまわんが相当損するぞ?」

「いいよ。今はしばらくの生活をどうするかが最優先だから」

「わかった。ならば家が建つまで村の宿を使うといい。そこなら三食付きだから飯には困らんだろう」

「家だけど新築なら希望聞いてくれるのかな?」

「あぁ。大工を紹介するから彼らとうまく打ち合わせしてくれ。お前さんたちが魔族だからといって差別はしないから大丈夫だ」

オッサンから紹介状を受け取ると、着ていたドレスを渡して、代わりに一般女性が着るような服を何着かもらい、宿に向かって歩いた。

「姫様。良かったのですか? 神の衣セラフィック・ドレスを二束三文で売ってしまって」

オカリナがおそるおそる聞いてきたので、

「神の衣? まだタダでもらったようなもんだし、深く考えないことにしてるよ」

「さすが姫様。懐が広い」

宿に着いて紹介状を渡すと不審がられながらも部屋に案内してもらった。ツインベッドでなかなかの部屋だ。

「で、しばらくは生活に困らないとはいえ、その後どうするか考えないと」

ベッドに座って私は考える。

森の中にポツンと一軒家が建ったところで、生活手段がなければ今後が続かない。

「まぁ通貨は違えど会話は通じるのよね。この村で働くのが一番なんだろうか」

「姫様が働くなんて私は反対です!」

「かといって、森でサバイバル生活なんかしたくないしなぁ」

そう答えると疲れがどっと押し寄せてきて、わたしは寝てしまった。

宿で一晩を過ごした翌日、私たちは朝食をとった後に紹介状を手に、大工の手配された現場に向かった。

「姫様、これから我々の城が建設されるのですね! まさに世界征服の第一歩です!」

「城じゃないわよ、オカリナ。森の中の小さな家よ。生活できれば十分」

オカリナは大鎌を背に、まるで儀式でも行うかのように深々と頭を下げる。

「姫様の御言葉があれば、森の木々も従うでしょう!」

「木は従わないから安心して。力技は使わないわよ」

建築現場には二人の大工が待っていた。彼らは私たちを見るなり、

「魔族とはいえ大切な客人だ。よろしくな!」

手を出してきたので私も応え、握手をする。

「森の中で暮らす家をお願いしたいの。サイズは3LDKで風呂トイレ別よ」

「ログハウスみたいな感じでいいのか?」

「かまわないわ。どれくらいで建ちそう?」

「二週間くらいで建てられる。あと家具はサービスする手はずになっているから、すぐに住めるようになるぞ」

打ち合わせを終え、オカリナと共に森の探索をすることにした。家の周りに何があるかくらいは把握しておきたいからだ。

「木の実や果物はあるけど、食べられるのかなぁ?」

キノコも生えているが、私には毒キノコとの見分けができないのであきらめていた。

「採集スキルや調理スキルがないのであれば危険かと。食中毒は死と隣り合わせですから」

なんかオカリナが遠い目をしている。死にかけたことがあるのだろう。

「てか、誰か倒れてない?」

先の方でうつ伏せになっている人を見つけては走り出した。駆け付けてみると、白いワンピースを着た女性。いかにも森に散歩、まして採集に来るような格好ではない。

「大丈夫? 意識ある?」

上半身を抱えて確認をする。

「うぅ.......」

意識はあるようだ。しかしオカリナが冷たい声で、

「姫様、こいつ女神です。おそらく空腹で倒れているだけかと思います」

「......は?」

よく聞いてみると、

「おなかが......すきました」
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