異世界へ追放された魔王、勇者召喚に巻き込まれて元の世界で無双する

朔日

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どうも、巻き込まれです

どうも、勇者召喚です

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 魔法陣から2人現れたという事実に人間風情、じゃなかった、人々は驚いている。
 眼下で淡く残光の余韻を引く魔法陣は勇者召喚に使われるものだ。ということは、ここは代々勇者召喚の魔法陣を守護しているセイント王国の王城の地下だろう。

 神によって強制的に平凡な世界へ、ただの人間として転生させられてから8年間、神により記憶改竄された人間の中で「家族」とやらのフリをして「学校」とやらにも通って俺なりにコミュニケーションスキルを磨いてみたが、どうにも遊戯というか暇というか…。

 そこで暇潰しに、どうやら幼馴染設定されているらしいハーレムの中心イケメン(他称。俺の見解ではない)の横で、奴が「喧嘩の仲裁」と称した仲裂きや「チンピラに絡まれた女を助ける」と称した身代わりサンドバッグ化へと精を出すのを見て内心大笑いしていたのだが、運悪く奴が勇者召喚されたときに一緒に居たために、俺まで巻き込まれてしまった。まったく、どこまでいっても問題児め。

 こうして思わぬ形での帰郷となったが、帰郷自体には満足している。勇者に巻き込まれたのが不幸で不快なだけで。

 召喚で転送されている間に一度神の空間に呼び出されたついでに確認したが、どうやら俺の魂に刻まれた魔力がこの世界との繋がりを作ったらしい。つまり奴がこの世界の勇者として召喚されたのは俺と一緒に居たから、ということだな。非常に逆説的だ。
 無駄な正義感ゆえ奴はいずれどこぞの世界へ勇者として喚ばれていたとのことだが、俺まで一緒なのは神にも予想外だったそうだ。改心したようだから頑張れと言われた。余計なお世話だ。

 さて、まずは告げておかなければならない。

「あ、勇者はこいつです! 正義感が異様に強くて! 俺は巻き込まれただけです!」

 間違っても俺が勇者だなんて思われたときには死ねる。

 俺のひと言で皆の注目は未だ失神している茶髪バカに移った。これだから人間の扱いは楽なんだよな。

 神の意思とは真逆に、あの強制転生は俺の傲慢さを増長させた。傲慢って自覚してるだけ謙虚ってもんだろ? あと敬語も覚えたしな。敬語を使うだけで偉そうに見えないらしい。形式だけの人間のチョロさよ。たかが敬語で神をも欺けるとは思わなんだぞ。

 とりあえずこの空気に飽きた俺は奴を蹴り起こしてやった。感謝しろよな、床で寝てると風邪ひくんだから。

「えと………ここどこ?」

 起きた第一声が首を回しながらの場所確認とは。さっきまで一緒にいたハーレムメンバーは気にならないのか。
 …気にしないだろうな。なにせ此奴は女どもを侍らせ増やしながらもその好意に気づかない鈍感ときた。

「あ、アゲハ! ここどこ?」

 そして馬鹿である。全力で馬鹿である。
 俺も同じ状況なのだから、尋ねても本来はわかるまいに。

 奇遇にもわかるがな! 説明はしてやらん。
 俺は此奴がよくわからん勘違いで無駄に突進しては自滅する無様な姿を傍観して愉しみたいだけだ。

「あの…説明してくれる方は?」

 だから俺は仕方なく覚えてやった処世術を使う。
 存在感を薄くし下手に出て目立たなければ、隣の馬鹿イケメンに注目が集まる。

 神すらも「改心した」と騙しおおせた、それとない小物感を出しておく。すると玉座に座る長い顎髭の国王風情が口を開いた。

 仕方ない。国王が長ったらしい前口上付きで勇者に説明していることを簡潔にまとめるとするか。

 ここは剣や魔法の飛び交う世界。
 最近魔物が活性化して魔王が復活したと思われる。
 諸君には勇者として魔王を倒してほしい。

 短いな。とても1時間かけて話す内容ではない。演技力だけでなく忍耐力も底上げされていたようだ。

 そして「魔王の復活」か。
 やはり俺は死んだことになっていたのだな…。魔界はどうなっているのだろうか…。

 思案する俺の横で馬鹿が「倒す」と即答していた。
 …大丈夫か? 地球のチンピラごときにフルボッコにされる奴だぞ?

「巻き込まれたからには、君も魔王討伐に参加してくれるか?」

 国王だけでなく、並んでいる宰相? 貴族らしい豪奢な服を纏った者どもから威圧されたので、「できる限りで」と答えておく。

 俺は魔王だからな!

 しかし魔王の復活というからには、俺が離れていた間に新しい魔王が生まれているかもしれんな。

 それも含めて、勇者覚醒の儀式である「覚醒の泉」という名の水風呂で確認するとしよう。
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