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パーティ結成前夜
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「リトさぁん、ちょっとちょっと……」
コモデンタワー通りを歩いていると、リトマス・シケン氏は馴染みの顔に呼び止められた。
「あ、セレナさん」
ここ、コモデン地方の冒険者ギルドの受付嬢の一人だった。
「お久しぶりです。ちょうど明日、受付に伺おうと思っていたんです」
ソツのない応対で早くその場をやり過ごそうとしたのは、ラミーを寝かせている宿に買い出し物を持ち込まなければならないからだった。
「ええと、なにをそんなに急いでおられるのですか……? あ、ひょっとしてデートですかぁ?」
冒険者周辺の情報収集が趣味にもなっているセレナは、リトマス・シケン氏に関するものを必死で集めようとしているらしかった。
とはいえ、シケン氏は冒険者ではない。ギルドに公開されているパーソナルデータでは、
年齢・性別 非公開
身分・資格 紳士連盟 特命審議官
……としか、セレナは閲覧できないのがすこぶる不満なのだろう。しかもここ数日、かれの姿がみえず、誰も所在を知らないといった謎の生活パターンも、セレナの情報欲を掻き立たせているようだった。
「ところで……リトさん、パーティを組まれるそうですが?」
「ひゃ、さすがセレナさん、情報が早いですね。その件で明日、お願いしようとおもっていたんです。治癒士と剣士、できれば隠密スキル保持者のの方などをメンバーとして募りたいと……」
「なるほど! でも、もしかしてリトさんも剣士系ではないのですか? 登録データにはスキルに関する情報は一切出てきませんでしたけど」
幾分の嫌味を含んだセレナのことばにもシケン氏は動じない。ハハハと軽くいなしたかれは、
「いや、わたしは短刀しか遣えないのですですよ。あくまでも最低限度の防御ができるかできないかといったレベルでしょうか……」
と、軽く受け流してみせた。
「ふんふん、それで?」
なおもセレナはリトマス・シケン氏を離そうとはしなかった。
「いや、そもそもわたしは冒険者ではないので、戦闘やダンジョン攻略は無理だとおもうのです。だから、かりにダンジョンに潜るにしても、協力者が欠かせないんです」
「なるほど、だからパーティ・メンバーを募ろうとされておられるのですね……ふんふん、でも、そこが不思議ですよね。ま、リトさんは紳士連盟所属ですから、どのパーティにも同行できる権限があります。コモデンにはSランク、Aランクの冒険者はおりません。それだけにBランクが最高位になりますが、依頼が集中して超多忙のかれらには募集に応じる余裕はないかと……」
「あ、そうなのですね。そこまでは気づきもしませんでした……」
あっさりとシケン氏はおのれの配慮不足に愕然とさせられた。高額報酬を提示すれば、人選に困るほどの応募があるだろうと楽観していたのだ。このあたり、現場経験が浅いシケン氏のウィークポイントだといえようか。
「それに……」
それ見たことと言わんばかりにはセレナは淡々と続ける。
「……特定のパーティを率いるおつもりなら、そのパーティは新たに当ギルドに登録しなければなりませんし、リトさん以外のパーティリーダーを選定しなければなりませんけど……」
暗に催促する口調でセレナは意味ありげに口元に笑みを浮かべた。
「……で、ここはご相談なんですけどぉ、メンバーになりそうないい人材……わたしにちょっっっぉと、心当たりがあるんですけどぉぉ……」
セレナの眼にはリトマス・シケン氏は二十代後半か三十前半にみえる。受付仲間のなかには、
『いやもっと若いかも』
『ええ、四十近いと聴いたけど』
『二十代半ば前後プラスマイナス五歳』
などといった声もあるが、最大プラスならば三十前後ということなのだから、セレナの推測とはそう隔たりがない。シケン氏が数あるギルド事務職員のなかでセレナに目をつけた理由もここにあった。信用はしてはいないが一定の信頼は置ける。コモデン地方に来てまだ半月も経たないシケン氏にとっては、できるかぎり人脈を広げたいという企図もあり、セレナとはつかず離れずの関係を取りたいと願っていた。
ここコモデン地方は、行政的には不可侵エリアに該当する数少ない特区である。このセネパジャ大陸のどの王国、帝国、連邦国家、専族自治区にも属さない。
コモデン特区の区長は、それぞれのギルド代表者、推挙人数をクリアした立候補のなかから選挙によって選出される。現在の特区長は、商業ギルドのコモデン支局長マーチャントである。
一度だけリトマス・シケン氏はマーチャント区長に会ったことがある。やや腹がせり出ているが肩幅は広く背も高い初老の人物だった。物ごしも柔らかく、ひと通りの挨拶を交わした程度だが、シケン氏はそのとき区長の隣に佇んでいた二人のエルフに目を留めていた。隙のない動き、しかもこちらの動きを牽制するかのような瞬時の位置変え技に、内心シケン氏は驚いた。おそらくは矮小種族のエルフらしく、ヒューマンの十四、五歳程度の体格であった。両腰に短剣をぶら下げ、背には弓と弓矢袋……攻撃に特化した装いである。
(そうだ、あの二人のうち一人でも雇うことができないものかなあ……あとは、セレナさんが紹介してくれるという人物に期待するしかない……)
そんなことを考えながらシケン氏は宿に向かった。ラミーが熟睡しているはずである。彼女は昼間は行動しない。とはいえヴァンパイアとちがい、陽光に当たっても傷を受けることはないが、夕刻から夜明け前までが本調子が出る時刻帯であるらしかった。
(……だから、ラミコさんはパーティリーダーには無理だなあ……それに、昼間は行動しないラミーのことをみんなにどう紹介したらいいのか、そこを煮詰めておかないと……)
やらねばならないことは山積している。しかもいま最重要なことは、ラミーが何を食べるのかということだった。市場で多めに多品種のおかずを買い込んでおこうと、シケン氏は大通りから市場へ続く脇道へぬけた。
コモデンタワー通りを歩いていると、リトマス・シケン氏は馴染みの顔に呼び止められた。
「あ、セレナさん」
ここ、コモデン地方の冒険者ギルドの受付嬢の一人だった。
「お久しぶりです。ちょうど明日、受付に伺おうと思っていたんです」
ソツのない応対で早くその場をやり過ごそうとしたのは、ラミーを寝かせている宿に買い出し物を持ち込まなければならないからだった。
「ええと、なにをそんなに急いでおられるのですか……? あ、ひょっとしてデートですかぁ?」
冒険者周辺の情報収集が趣味にもなっているセレナは、リトマス・シケン氏に関するものを必死で集めようとしているらしかった。
とはいえ、シケン氏は冒険者ではない。ギルドに公開されているパーソナルデータでは、
年齢・性別 非公開
身分・資格 紳士連盟 特命審議官
……としか、セレナは閲覧できないのがすこぶる不満なのだろう。しかもここ数日、かれの姿がみえず、誰も所在を知らないといった謎の生活パターンも、セレナの情報欲を掻き立たせているようだった。
「ところで……リトさん、パーティを組まれるそうですが?」
「ひゃ、さすがセレナさん、情報が早いですね。その件で明日、お願いしようとおもっていたんです。治癒士と剣士、できれば隠密スキル保持者のの方などをメンバーとして募りたいと……」
「なるほど! でも、もしかしてリトさんも剣士系ではないのですか? 登録データにはスキルに関する情報は一切出てきませんでしたけど」
幾分の嫌味を含んだセレナのことばにもシケン氏は動じない。ハハハと軽くいなしたかれは、
「いや、わたしは短刀しか遣えないのですですよ。あくまでも最低限度の防御ができるかできないかといったレベルでしょうか……」
と、軽く受け流してみせた。
「ふんふん、それで?」
なおもセレナはリトマス・シケン氏を離そうとはしなかった。
「いや、そもそもわたしは冒険者ではないので、戦闘やダンジョン攻略は無理だとおもうのです。だから、かりにダンジョンに潜るにしても、協力者が欠かせないんです」
「なるほど、だからパーティ・メンバーを募ろうとされておられるのですね……ふんふん、でも、そこが不思議ですよね。ま、リトさんは紳士連盟所属ですから、どのパーティにも同行できる権限があります。コモデンにはSランク、Aランクの冒険者はおりません。それだけにBランクが最高位になりますが、依頼が集中して超多忙のかれらには募集に応じる余裕はないかと……」
「あ、そうなのですね。そこまでは気づきもしませんでした……」
あっさりとシケン氏はおのれの配慮不足に愕然とさせられた。高額報酬を提示すれば、人選に困るほどの応募があるだろうと楽観していたのだ。このあたり、現場経験が浅いシケン氏のウィークポイントだといえようか。
「それに……」
それ見たことと言わんばかりにはセレナは淡々と続ける。
「……特定のパーティを率いるおつもりなら、そのパーティは新たに当ギルドに登録しなければなりませんし、リトさん以外のパーティリーダーを選定しなければなりませんけど……」
暗に催促する口調でセレナは意味ありげに口元に笑みを浮かべた。
「……で、ここはご相談なんですけどぉ、メンバーになりそうないい人材……わたしにちょっっっぉと、心当たりがあるんですけどぉぉ……」
セレナの眼にはリトマス・シケン氏は二十代後半か三十前半にみえる。受付仲間のなかには、
『いやもっと若いかも』
『ええ、四十近いと聴いたけど』
『二十代半ば前後プラスマイナス五歳』
などといった声もあるが、最大プラスならば三十前後ということなのだから、セレナの推測とはそう隔たりがない。シケン氏が数あるギルド事務職員のなかでセレナに目をつけた理由もここにあった。信用はしてはいないが一定の信頼は置ける。コモデン地方に来てまだ半月も経たないシケン氏にとっては、できるかぎり人脈を広げたいという企図もあり、セレナとはつかず離れずの関係を取りたいと願っていた。
ここコモデン地方は、行政的には不可侵エリアに該当する数少ない特区である。このセネパジャ大陸のどの王国、帝国、連邦国家、専族自治区にも属さない。
コモデン特区の区長は、それぞれのギルド代表者、推挙人数をクリアした立候補のなかから選挙によって選出される。現在の特区長は、商業ギルドのコモデン支局長マーチャントである。
一度だけリトマス・シケン氏はマーチャント区長に会ったことがある。やや腹がせり出ているが肩幅は広く背も高い初老の人物だった。物ごしも柔らかく、ひと通りの挨拶を交わした程度だが、シケン氏はそのとき区長の隣に佇んでいた二人のエルフに目を留めていた。隙のない動き、しかもこちらの動きを牽制するかのような瞬時の位置変え技に、内心シケン氏は驚いた。おそらくは矮小種族のエルフらしく、ヒューマンの十四、五歳程度の体格であった。両腰に短剣をぶら下げ、背には弓と弓矢袋……攻撃に特化した装いである。
(そうだ、あの二人のうち一人でも雇うことができないものかなあ……あとは、セレナさんが紹介してくれるという人物に期待するしかない……)
そんなことを考えながらシケン氏は宿に向かった。ラミーが熟睡しているはずである。彼女は昼間は行動しない。とはいえヴァンパイアとちがい、陽光に当たっても傷を受けることはないが、夕刻から夜明け前までが本調子が出る時刻帯であるらしかった。
(……だから、ラミコさんはパーティリーダーには無理だなあ……それに、昼間は行動しないラミーのことをみんなにどう紹介したらいいのか、そこを煮詰めておかないと……)
やらねばならないことは山積している。しかもいま最重要なことは、ラミーが何を食べるのかということだった。市場で多めに多品種のおかずを買い込んでおこうと、シケン氏は大通りから市場へ続く脇道へぬけた。
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