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おくりもの。
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□二十日前
「なにか、ほしいもの、ある?」
いつもこの季節になると、おかあさんがたずねてくるのです。その声を耳にすると、どきどきしてきます。欲しいものを口にすると、12月25日の朝には、それが靴下のなかに入っているからです。
おおきいものは枕元に……それがあなたのお家のきまりごと。
あなたは……ちょっと首をかしげて、
「かんがえとく……」
と、こたえました。
一年前には、
『お月さん!』
と、言ったら、おかあさんは、さっそくひょいと手をのばして、ささっと夜空のお月さんを手につかんで、あなたの足元に置いてくれました。
とてもよろこんだあなたは、次の日からお月さんをけったり、コロコロころがしたりしてあそびました。
でも、日がたつとそれにもあきてきて、いま、お月さんは、あなたのお家の戸だなのなかに放りこんだままです。
だから、この世界から、お月さんがなくなってしまいました……。
□十日前
(よしっ、決めた……ことしは、お日様にしようかな)
あなたはそうおもいました。お日様と、戸だなのなかのお月さんをいっしょにあそばせてあげようと考えたのでした。
そうなれば……
きっと、たのしいだろうな。
きっと、わくわくするだろうな。
そんなことを考えるだけで、あなたもわくわく、たのしくなってきました……。
でも……と、あなたは、ふいに一年前のことをおもいかえしてみました。
お月さんをねだったけれど、いまは戸だなのなかにしまったまま。
うーん、どうしようかな……あなたは迷ってなかなか、何がほしいのか決めることができません。
そこで、お月さんに相談してみることにしました。
戸だなの奥で、しくしく泣いていたお月さんは、あなたの顔をみて、
「おねがいだから、もとにもどして……」
と、たのんできました。
「でも……」と、あなたはふくれます。
「……もうすぐ、お日様がここにくるはずだよ。だから、きっと、たのしくなるよ」
「ええっ? そ、そんなことしたら、この世界から太陽がなくなって、みんながとても困ってしまう……」
「みんなって? だれのこと?」
「みんなは……みんな」
「でも、お日様がここにくれば、お月さんもあそび相手ができて、たのしいでしょ?」
あなたはそう言いはって、お月さんのたのみをきこうとはしません。むしろ、お月さんが賛成してくれないことに、あなたは不満たらたら。
よけいにお月さんは泣き出して、うるさいなあと、あなたはバタンといきおいよく戸だなをしめました。
(せっかくお日様がここにきたらお月さんもよろこんでくれるとおもったのに……)
ぷんぷんと怒ったあなたは、どこかしらさみしい気持ちになってきました。
□三日前
早く早く……と、おかあさんがあなたをせっつきます。
「もう決めたの?」
顔を合わせるたびに、そんな声があなたの耳にとどきます。
(うーん、どうしよう?)
でも、なかなか、あなたは決められません。
……それに、お月さんがつぶやいた“みんな”の意味が、あなたにはわからなかったのです。
(だれのことだろう?)
あなたはそのことばかりを考えています。
(さあ、どうしよう?)
あなたは、もう考えるのがいやでいやでたまらなくなるほどです。
「ねえ、おかあさん……一年前のおくりもののお月さんを元にもどしてあげてもいい?」
ついにあなたはそんな願いごとをしてみました。すると、おかあさんは、言いました。
「いいわよ! でも、そうしてほしいのなら、今回のあなたへのおくりものは、なにもないわ。それでいい?」
「ええっ? そうなの?」
「はい、そうなのです」
おかあさんはニッコリともせず、きっぱりとあなたにそう告げました。
あなたの耳には戸だなの奥で泣きすするお月さんの声がひびいてきます。
「うん、それでも、いいよ」
あなたはしぶしぶながら、そう言いました。
「お月さんをもとにもどしてあげて!」
□その当日
いつもなら、その日、あなたの枕元か足元、あるいは、靴下のなかに、あなたへのおくりものが置かれているはずなのに、ことしはなあんにもありません。
……でも、あなたは、ふしぎとちっとも悲しくはありませんでした。
お月さんが元にもどって、その復活に喜んでいるおおぜいの、数えれないひとの声が耳にはいってきたからです。
(ああ、そうかぁ! みんな、って、このことなんだ)
そう気づいたあなたは、おくりものがなくても、みんなの声をきくだけで、なんともいえないうれしい気分になってきたのでした。
(じゃあ、来年は、こちらから、みんなへおくりものをとどけてあげようかな)
そんなことまでおもっているあなた、そうです、あなたが、やがて、サンタクロースと称ばれることになる、ずっと前の小さい頃のできごと。復活したのは……お月さんではなく、どうやら、あなたのほうだったのかもしれません……。
( 了 )
「なにか、ほしいもの、ある?」
いつもこの季節になると、おかあさんがたずねてくるのです。その声を耳にすると、どきどきしてきます。欲しいものを口にすると、12月25日の朝には、それが靴下のなかに入っているからです。
おおきいものは枕元に……それがあなたのお家のきまりごと。
あなたは……ちょっと首をかしげて、
「かんがえとく……」
と、こたえました。
一年前には、
『お月さん!』
と、言ったら、おかあさんは、さっそくひょいと手をのばして、ささっと夜空のお月さんを手につかんで、あなたの足元に置いてくれました。
とてもよろこんだあなたは、次の日からお月さんをけったり、コロコロころがしたりしてあそびました。
でも、日がたつとそれにもあきてきて、いま、お月さんは、あなたのお家の戸だなのなかに放りこんだままです。
だから、この世界から、お月さんがなくなってしまいました……。
□十日前
(よしっ、決めた……ことしは、お日様にしようかな)
あなたはそうおもいました。お日様と、戸だなのなかのお月さんをいっしょにあそばせてあげようと考えたのでした。
そうなれば……
きっと、たのしいだろうな。
きっと、わくわくするだろうな。
そんなことを考えるだけで、あなたもわくわく、たのしくなってきました……。
でも……と、あなたは、ふいに一年前のことをおもいかえしてみました。
お月さんをねだったけれど、いまは戸だなのなかにしまったまま。
うーん、どうしようかな……あなたは迷ってなかなか、何がほしいのか決めることができません。
そこで、お月さんに相談してみることにしました。
戸だなの奥で、しくしく泣いていたお月さんは、あなたの顔をみて、
「おねがいだから、もとにもどして……」
と、たのんできました。
「でも……」と、あなたはふくれます。
「……もうすぐ、お日様がここにくるはずだよ。だから、きっと、たのしくなるよ」
「ええっ? そ、そんなことしたら、この世界から太陽がなくなって、みんながとても困ってしまう……」
「みんなって? だれのこと?」
「みんなは……みんな」
「でも、お日様がここにくれば、お月さんもあそび相手ができて、たのしいでしょ?」
あなたはそう言いはって、お月さんのたのみをきこうとはしません。むしろ、お月さんが賛成してくれないことに、あなたは不満たらたら。
よけいにお月さんは泣き出して、うるさいなあと、あなたはバタンといきおいよく戸だなをしめました。
(せっかくお日様がここにきたらお月さんもよろこんでくれるとおもったのに……)
ぷんぷんと怒ったあなたは、どこかしらさみしい気持ちになってきました。
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早く早く……と、おかあさんがあなたをせっつきます。
「もう決めたの?」
顔を合わせるたびに、そんな声があなたの耳にとどきます。
(うーん、どうしよう?)
でも、なかなか、あなたは決められません。
……それに、お月さんがつぶやいた“みんな”の意味が、あなたにはわからなかったのです。
(だれのことだろう?)
あなたはそのことばかりを考えています。
(さあ、どうしよう?)
あなたは、もう考えるのがいやでいやでたまらなくなるほどです。
「ねえ、おかあさん……一年前のおくりもののお月さんを元にもどしてあげてもいい?」
ついにあなたはそんな願いごとをしてみました。すると、おかあさんは、言いました。
「いいわよ! でも、そうしてほしいのなら、今回のあなたへのおくりものは、なにもないわ。それでいい?」
「ええっ? そうなの?」
「はい、そうなのです」
おかあさんはニッコリともせず、きっぱりとあなたにそう告げました。
あなたの耳には戸だなの奥で泣きすするお月さんの声がひびいてきます。
「うん、それでも、いいよ」
あなたはしぶしぶながら、そう言いました。
「お月さんをもとにもどしてあげて!」
□その当日
いつもなら、その日、あなたの枕元か足元、あるいは、靴下のなかに、あなたへのおくりものが置かれているはずなのに、ことしはなあんにもありません。
……でも、あなたは、ふしぎとちっとも悲しくはありませんでした。
お月さんが元にもどって、その復活に喜んでいるおおぜいの、数えれないひとの声が耳にはいってきたからです。
(ああ、そうかぁ! みんな、って、このことなんだ)
そう気づいたあなたは、おくりものがなくても、みんなの声をきくだけで、なんともいえないうれしい気分になってきたのでした。
(じゃあ、来年は、こちらから、みんなへおくりものをとどけてあげようかな)
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