冷熱のはざまに

海善紙葉

文字の大きさ
1 / 7

ニキビができたよ!

しおりを挟む
「ひゃあ、よかった! ついにできたかぁ! 本当によかったぁ」

 学校の先生が飛び上がって喜んだよ。部屋のなかにつないだオンライン授業用のモニターのなかだけど。
 でもね、こうしてめられすぎると、照れくささを通り越して、なんだか妙な気分になってくる。
 気恥ずかしいというか、照れくさいというか、そんな感じ。
 だって、あたしはなにも特別なことなんかしていないよ。政府から全学童・生徒に配給された〈ニキビのもと〉を飲んだだけ。そうなんだ、これは国民の義務なんだって。法律で決まっているみたい。 
 でもね、誰もがニキビができるわけじゃないの。
 ……ニキビができる確率は、全国平均0.002%ほどらしいから、まあその点は少しだけ自慢していいのかもしれないけれど。
 だからさ、ニキビができるってことは、選ばれた、ってことなんだってさ。
 おかしいね、不思議だね。
 お父さんもお母さんも
『がんばったわね、よかった、よかった、誇らしいわ』
なんて、喜んでくれたよ。
 でも、みんなから同じことを言われると、かえってこれから先のことがちょっと不安になってくる……。
 不安? というのは、できたニキビの中に、今度は“明日の種《たね》”を植え付けるの。
 ここからが大変なの。
 明日の種を植えても、芽生えるかどうかは、これまた天文学的確率みたいだから。だから、慎重に慎重に、政府の人が家までやってきて、検査をして、それからるみたいだけど、芽がでるかどうかを考えると不安になってくるの。
 ま、まだ先の話なんだけどね。
 ニキビができたとき、お父さんは、
「おお、さっそく、国家安全保障大臣からお祝いの電話をもらったぞ。首相官邸からも祝メールが届いたぁ!」
と、てんやわんや。お父さんが大はしゃぎしてるのは、ニキビ特典があるからね。
 一つは、ニキビ給付金。
 金額は……その年度に小・中学生の総数によって異なるけど、ま、一家四人が五年はラクに暮らせるレベルだって……。
 二つ目は、県警から特殊リムジンがドライバー付で一定期間、貸与されるの。ドライバーはもちろん警官、あたしの警護を兼ねるみたい。
 ちなみに、車の愛称は、ニキビ・カー。あ、これ、「ニキビかぁ?」のシャレみたい。保健管理省のお役人さんが考えたネーミングらしいけど、案外、みんな、使ってるよ。
 三つ目は、ニキビがもっと大きくなる栄養素を含んだ特別食が一日三度、県庁から届けられるの。外出はさっき言った県警専用リムジンでの送り迎え。肌が、ニキビが育たないから。だって、外には、ニキビの生育を邪魔する光がいっぱいだから。

 でもね、家の中は……危険はないよ。
 だから、お父さんも仕事は家でする。お母さんも、ほとんど外には出かけない。会社の会議も、商談も、部品の発注も、自治会の会合も、親戚の談笑も、すべてモニターですませられるから。
 お買い物も、ぜんぶ宅配。
 第一、外を歩いている人は、まったくいないよ。特殊仕様車がないと外にはいけない、出られない……。
 だって、外には危険がいっぱい。危ない光がいっぱいだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...