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潰すと効かない。でも、潰さないと不便
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伊勢海人が異世界に来て、最初に正式に任された仕事は、思っていたよりも静かなものだった。
「冒険者の回復草の携帯について、少し相談がありまして」
王国人事局の執務室。
リリアはいつも通り背筋を伸ばし、書類を胸に抱えている。
「新人冒険者の方が、途中で動けなくなる事例が増えています」
「回復薬が足りない?」
「量は足りています。ただ……」
彼女は机の上に、布袋を並べた。
中から覗く回復草は笹の葉のような平行脈をしていた。
「使える状態で、残っていないことが多いのです」
伊勢は一つを手に取り、軽く指で触ってみる。
本来は葉にない、しっとりとした感触。ところどころが破れている。
(潰れた部分から、効き目が落ちてるな)
現実世界でも、よくある話だ。
設計上は問題がなくても、運用で壊れる。
「現場を、見せてもらえますか」
伊勢はそう言った。
◆
ギルドの倉庫は、思った以上に雑然としていた。
籠、袋、ロープ、予備の装備。
回復草は、その中に“他の荷物と同じように”放り込まれている。
「普段はこうだ」
ギルド長が、袋に草を入れて肩に担ぐ。
「効き目が小さいから数が要る。だから、どうしても雑になる」
歩くたびに、袋の中で葉が擦れ合う音がした。
「壁に当たる。地面に置く。他の荷物に押される。潰れたところから効きが落ちる。魔力の流れが乱れるんだ」
(“潰すとダメ”は、もう結論なんだな)
伊勢は否定しなかった。
否定せず、そのまま考える。
(本当に問題なのは……“潰したこと”か?)
「これって潰れたら全く使い物にならないのですか?」
「全部だったら、誰も使わん」
豪快に笑うが、現場をよく見ている人間の目だった。
「潰れるとダメ。だから皆、余分にたくさん持つ」
それが、この世界の答えだった。
◆
執務室に戻り、伊勢は考えを続けた。
(潰すとダメ。でも、そのままだと不便)
彼は、選択肢を二つに分けるのをやめた。
(問題は“潰す”ことじゃない。“潰れ方”なんじゃないか?)
机いっぱいに潰れた回復草を広げた。
試しに葉脈に沿って傷のある葉と、葉脈を横断するように傷のある葉を分けてみる。
(ビンゴだ…)
「伊勢様?」
「潰れた薬草って、どれもバラバラなんですよ、葉脈の向きも、折れ方も、圧のかかり方も。無秩序に潰れるから、魔力も乱れる。だったら――」
伊勢は、一枚一枚、葉の向きを揃え、葉脈が重ならないように少しずらして重ね始めた。
「“潰し方”を揃えられたら、どうなるか」
試しに揃った葉を布で包み、上から少し圧をかける。
ギルド長が腕を組む。
「……潰れてるじゃないか」
「潰れてます。でも、壊してはいません」
圧をかけて薄くなったが、葉脈同士は干渉せず葉脈の間が少し潰れている
さらに葉の束が動かないように、茎の部分をめざしのように布紐で軽く束ねた。
「……見た目は今までとあまり変わらんな」
「魔力は葉脈に詰まってるのではないですか?葉脈を分断した傷のあるものは効き目が悪かったので向きと位置を揃えて、動かないようにしただけです」
試しに使うと、効果はそれほど落ちていない。
「持ちやすい」
「数が分かりやすい」
冒険者の反応は、どれも静かだった。
「ただし」
伊勢は言葉を足す。
「手間は増えます。雑にやると、意味がありません」
万能ではない。
だが、現実的だ。
◆
「潰すと性能が落ちると思っていました」
リリアは束ねられた回復草を見つめる。
「ですが……考え方を変えれば、選択肢は残るのですね」
「全部を変える必要は、なかったみたいです」
ギルド長が腕を組む。
「難しい理屈は分からんが」
「現場で助かる。それで十分だ」
その言葉を聞いて、伊勢は思った。
(……ああ、こういう評価でいい)
派手じゃなくていい。
役に立っているなら。
伊勢海人は、束ねた回復草を手にしながら、
次に持ち込まれるであろう“別の困り事”を、少しだけ予感していた。
「冒険者の回復草の携帯について、少し相談がありまして」
王国人事局の執務室。
リリアはいつも通り背筋を伸ばし、書類を胸に抱えている。
「新人冒険者の方が、途中で動けなくなる事例が増えています」
「回復薬が足りない?」
「量は足りています。ただ……」
彼女は机の上に、布袋を並べた。
中から覗く回復草は笹の葉のような平行脈をしていた。
「使える状態で、残っていないことが多いのです」
伊勢は一つを手に取り、軽く指で触ってみる。
本来は葉にない、しっとりとした感触。ところどころが破れている。
(潰れた部分から、効き目が落ちてるな)
現実世界でも、よくある話だ。
設計上は問題がなくても、運用で壊れる。
「現場を、見せてもらえますか」
伊勢はそう言った。
◆
ギルドの倉庫は、思った以上に雑然としていた。
籠、袋、ロープ、予備の装備。
回復草は、その中に“他の荷物と同じように”放り込まれている。
「普段はこうだ」
ギルド長が、袋に草を入れて肩に担ぐ。
「効き目が小さいから数が要る。だから、どうしても雑になる」
歩くたびに、袋の中で葉が擦れ合う音がした。
「壁に当たる。地面に置く。他の荷物に押される。潰れたところから効きが落ちる。魔力の流れが乱れるんだ」
(“潰すとダメ”は、もう結論なんだな)
伊勢は否定しなかった。
否定せず、そのまま考える。
(本当に問題なのは……“潰したこと”か?)
「これって潰れたら全く使い物にならないのですか?」
「全部だったら、誰も使わん」
豪快に笑うが、現場をよく見ている人間の目だった。
「潰れるとダメ。だから皆、余分にたくさん持つ」
それが、この世界の答えだった。
◆
執務室に戻り、伊勢は考えを続けた。
(潰すとダメ。でも、そのままだと不便)
彼は、選択肢を二つに分けるのをやめた。
(問題は“潰す”ことじゃない。“潰れ方”なんじゃないか?)
机いっぱいに潰れた回復草を広げた。
試しに葉脈に沿って傷のある葉と、葉脈を横断するように傷のある葉を分けてみる。
(ビンゴだ…)
「伊勢様?」
「潰れた薬草って、どれもバラバラなんですよ、葉脈の向きも、折れ方も、圧のかかり方も。無秩序に潰れるから、魔力も乱れる。だったら――」
伊勢は、一枚一枚、葉の向きを揃え、葉脈が重ならないように少しずらして重ね始めた。
「“潰し方”を揃えられたら、どうなるか」
試しに揃った葉を布で包み、上から少し圧をかける。
ギルド長が腕を組む。
「……潰れてるじゃないか」
「潰れてます。でも、壊してはいません」
圧をかけて薄くなったが、葉脈同士は干渉せず葉脈の間が少し潰れている
さらに葉の束が動かないように、茎の部分をめざしのように布紐で軽く束ねた。
「……見た目は今までとあまり変わらんな」
「魔力は葉脈に詰まってるのではないですか?葉脈を分断した傷のあるものは効き目が悪かったので向きと位置を揃えて、動かないようにしただけです」
試しに使うと、効果はそれほど落ちていない。
「持ちやすい」
「数が分かりやすい」
冒険者の反応は、どれも静かだった。
「ただし」
伊勢は言葉を足す。
「手間は増えます。雑にやると、意味がありません」
万能ではない。
だが、現実的だ。
◆
「潰すと性能が落ちると思っていました」
リリアは束ねられた回復草を見つめる。
「ですが……考え方を変えれば、選択肢は残るのですね」
「全部を変える必要は、なかったみたいです」
ギルド長が腕を組む。
「難しい理屈は分からんが」
「現場で助かる。それで十分だ」
その言葉を聞いて、伊勢は思った。
(……ああ、こういう評価でいい)
派手じゃなくていい。
役に立っているなら。
伊勢海人は、束ねた回復草を手にしながら、
次に持ち込まれるであろう“別の困り事”を、少しだけ予感していた。
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