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第一章
31.遭遇する2
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髪をかき上げて建物から出れば、入口の傍にソニアが心配そうに立っていた。クリスティンは目を瞬く。
「なぜ逃げず、ここにまだ?」
大通りに向かったと思っていた。
「あなたが心配で、行けずに……。大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「大丈夫。さっきの男たちの仲間がまだいるかもしれないし、大通りまで送ろう。こっちだ」
クリスティンは、彼女の手をとり大通りへと誘う。
しかし……ヒロインの窮地に皆は一体何をしているのだろう。
攻略対象たちに苛立ちを覚えながら、彼女を連れて足早に歩く。
「こんなひとけのない路地に、女の子一人で来てはいけない。連れは? はぐれたの?」
「いいえ、わたし一人で花祭りに来ていたのです。友人を誘ったのですが、勉強するからと断られてしまって」
その友人とはフレッドだろう。
「路地に可愛い雑貨店があったので、中に入って見て……。そこを出たあと、方向を間違ってしまったようで」
恐らく今は、まだ誰のルートでもない。
大通りに辿り着くと、クリスティンは彼女から手を離した。
「今後ひとけのないところには、一人で行かないように気をつけて」
「はい、助けてくださってありがとうございました……! わたし、ソニア・ブローンといいます、魔術学園に通う一年生です!」
よく知っている。
「あの、あなたは?」
彼女はクリスティンに気づいていないようだ。男装し、しかも仮面をつけているから当然だ。
唇を引き結んで、その場を離れ人込みの中に入る。
ソニアの目の届かない場所まで来ると、仮面を外した。
アイスクリーム売り場に戻るが、もうそこにはメルの姿はない。
きっと買い終え、クリスティンがいないことに気づき、捜しているのだろう。
どうしようかと思っていると、聞きなれた声が自分を呼んだ。
「クリスティン様!」
メルが人の波の間からこちらに駆けよってくる。クリスティンはほっとした。
「メル」
「姿がみえなくなったので、どうなさったのかと……。一体どちらへ行かれていたのですか?」
クリスティンは彼と会えて、身体が弛緩する。
「実はさっき、ソニアさんを見かけて。説明は後でするわ。まず洋服店に行かなくては」
「洋服店?」
「着替えないといけないのよ」
この格好でまたソニアと出くわしたら、クリスティンが変装していたとわかってしまう。
バレてはいけない訳ではないが、彼女とは極力接触しないようにしている。
屋敷内ならまだしも外で大立ち回りをし、男装していたのを知られれば、クリスティンだけでなく公爵家の評判にもかかわる。
メルと洋服店に入り、出来合いの青いワンピースを買って、店内で着替えた。
そのあと二人でカフェに入った。
「一体どういうことなのです」
紅茶を頼み、クリスティンは先程の一部始終を彼に話してきかせた。
「クリスティン様、危ないではないですか!」
「あなたやリー様に稽古をつけてもらっていたから、危なくもなんともなかったわよ」
「それでもいけません!」
「突然消えて、心配をかけてしまったのは謝るわ。ごめんなさい」
クリスティンはメルに深く謝罪して許してもらったあと、先程食べ損ねたアイスクリームを買って食べた。
海沿いに行き、潮風を受けながら二人で歩き、大通りに戻ると、アドレーとラムゼイとスウィジンが向こうからやってくるのがみえた。
隠れる間もなくばったり出くわし、クリスティンは身が強張る。
三人も驚いた顔をしている。
「体調が悪いからと言っていなかった? クリスティン?」
アドレーに目を細められ、クリスティンは汗がどっと出る。
(……変装をやめてしまっていたのだった……)
「ええと……」
口ごもると、手前の店からリーとルーカスが出てきた。
リーは肩を竦める。
「あれ。皆お揃いで」
リーの横で、ルーカスが眉を寄せクリスティンを見る。
「用事というのは、彼らと見て回ることだったのか」
「いえ……」
しかしクリスティンはリーとルーカスを意外な組み合わせだと感じた。
「……リー様とルーカス様、ご一緒に花祭りにいらっしゃったの?」
リーは頭の後ろで両腕を組む。
「いいや、おれ一人で来てたんだけどさ。先輩も来ているのをさっき見つけて。一緒に見て回ろうってことになったんだよ」
スウィジンは笑顔を浮かべる。
「生徒会の皆が勢ぞろいだねえ。丁度良い。役員全員で一緒に花祭りを楽しもうよ」
「……ですけれど……」
このメンバーで歩いたら目立ちすぎるではないか。
王太子、その右腕、大貴族の令息、魔術剣士、神秘的な留学生。
攻略対象勢ぞろい。皆、目映い人気者、有名人だ。彼らと一緒に歩くなんて。クリスティンは震撼する。
メルと花祭りに来ているのに。
視線をメルに向けると、彼は小さく囁いた。
「スウィジン様に無理だと言っても、聞いてくださいません、たぶん……」
(……そうね……)
スウィジンはにっこり笑いながら、無言の圧をかけてくる腹黒である。
そろそろ日も暮れるし、それまでの我慢だ。
「……わかりました」
それで日没までの間、生徒会役員皆で花祭りを見て歩くという、恐ろしい状況となった。
「なぜ逃げず、ここにまだ?」
大通りに向かったと思っていた。
「あなたが心配で、行けずに……。大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「大丈夫。さっきの男たちの仲間がまだいるかもしれないし、大通りまで送ろう。こっちだ」
クリスティンは、彼女の手をとり大通りへと誘う。
しかし……ヒロインの窮地に皆は一体何をしているのだろう。
攻略対象たちに苛立ちを覚えながら、彼女を連れて足早に歩く。
「こんなひとけのない路地に、女の子一人で来てはいけない。連れは? はぐれたの?」
「いいえ、わたし一人で花祭りに来ていたのです。友人を誘ったのですが、勉強するからと断られてしまって」
その友人とはフレッドだろう。
「路地に可愛い雑貨店があったので、中に入って見て……。そこを出たあと、方向を間違ってしまったようで」
恐らく今は、まだ誰のルートでもない。
大通りに辿り着くと、クリスティンは彼女から手を離した。
「今後ひとけのないところには、一人で行かないように気をつけて」
「はい、助けてくださってありがとうございました……! わたし、ソニア・ブローンといいます、魔術学園に通う一年生です!」
よく知っている。
「あの、あなたは?」
彼女はクリスティンに気づいていないようだ。男装し、しかも仮面をつけているから当然だ。
唇を引き結んで、その場を離れ人込みの中に入る。
ソニアの目の届かない場所まで来ると、仮面を外した。
アイスクリーム売り場に戻るが、もうそこにはメルの姿はない。
きっと買い終え、クリスティンがいないことに気づき、捜しているのだろう。
どうしようかと思っていると、聞きなれた声が自分を呼んだ。
「クリスティン様!」
メルが人の波の間からこちらに駆けよってくる。クリスティンはほっとした。
「メル」
「姿がみえなくなったので、どうなさったのかと……。一体どちらへ行かれていたのですか?」
クリスティンは彼と会えて、身体が弛緩する。
「実はさっき、ソニアさんを見かけて。説明は後でするわ。まず洋服店に行かなくては」
「洋服店?」
「着替えないといけないのよ」
この格好でまたソニアと出くわしたら、クリスティンが変装していたとわかってしまう。
バレてはいけない訳ではないが、彼女とは極力接触しないようにしている。
屋敷内ならまだしも外で大立ち回りをし、男装していたのを知られれば、クリスティンだけでなく公爵家の評判にもかかわる。
メルと洋服店に入り、出来合いの青いワンピースを買って、店内で着替えた。
そのあと二人でカフェに入った。
「一体どういうことなのです」
紅茶を頼み、クリスティンは先程の一部始終を彼に話してきかせた。
「クリスティン様、危ないではないですか!」
「あなたやリー様に稽古をつけてもらっていたから、危なくもなんともなかったわよ」
「それでもいけません!」
「突然消えて、心配をかけてしまったのは謝るわ。ごめんなさい」
クリスティンはメルに深く謝罪して許してもらったあと、先程食べ損ねたアイスクリームを買って食べた。
海沿いに行き、潮風を受けながら二人で歩き、大通りに戻ると、アドレーとラムゼイとスウィジンが向こうからやってくるのがみえた。
隠れる間もなくばったり出くわし、クリスティンは身が強張る。
三人も驚いた顔をしている。
「体調が悪いからと言っていなかった? クリスティン?」
アドレーに目を細められ、クリスティンは汗がどっと出る。
(……変装をやめてしまっていたのだった……)
「ええと……」
口ごもると、手前の店からリーとルーカスが出てきた。
リーは肩を竦める。
「あれ。皆お揃いで」
リーの横で、ルーカスが眉を寄せクリスティンを見る。
「用事というのは、彼らと見て回ることだったのか」
「いえ……」
しかしクリスティンはリーとルーカスを意外な組み合わせだと感じた。
「……リー様とルーカス様、ご一緒に花祭りにいらっしゃったの?」
リーは頭の後ろで両腕を組む。
「いいや、おれ一人で来てたんだけどさ。先輩も来ているのをさっき見つけて。一緒に見て回ろうってことになったんだよ」
スウィジンは笑顔を浮かべる。
「生徒会の皆が勢ぞろいだねえ。丁度良い。役員全員で一緒に花祭りを楽しもうよ」
「……ですけれど……」
このメンバーで歩いたら目立ちすぎるではないか。
王太子、その右腕、大貴族の令息、魔術剣士、神秘的な留学生。
攻略対象勢ぞろい。皆、目映い人気者、有名人だ。彼らと一緒に歩くなんて。クリスティンは震撼する。
メルと花祭りに来ているのに。
視線をメルに向けると、彼は小さく囁いた。
「スウィジン様に無理だと言っても、聞いてくださいません、たぶん……」
(……そうね……)
スウィジンはにっこり笑いながら、無言の圧をかけてくる腹黒である。
そろそろ日も暮れるし、それまでの我慢だ。
「……わかりました」
それで日没までの間、生徒会役員皆で花祭りを見て歩くという、恐ろしい状況となった。
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