9 / 60
9.悪役令息
しおりを挟む王宮でお茶会が開催され、シャロンはエディと出席した。
クライヴも付き添ってくれている。
エディはシャロンの横から離れず、なぜか険しい目で辺りを睨んでいた。
「どうしたの? 目つきがよくないように感じるんだけど」
エディはフンと鼻を鳴らした。
「ぼくがしっかりしなきゃ、姉様が大変な目に遭うのです!」
「?」
(わたくしが大変な目に遭う?)
「どういうことかしら」
「姉様はこのままだと地獄をみるでしょう!」
その言葉にシャロンは肝が冷えた。
(え、ひょっとしてエディは知っている……!? わたくしが悪役令嬢で、将来断罪されるってことを……!?)
エディも転生者なのだろうか。
シャロンは息を呑み込んで、義弟を凝視する。
「あなたまさか、この世界の真実を……っ!?」
「ええ、姉様よりこの世界のことをよくわかっています!」
(転生者……!)
シャロンは慄いた。
自分のほか、こんなそばに転生者がいたとは……!
灯台下暗しであった。
「近頃、姉様の頭から大切なことが抜け落ちています。ぼくが目を光らせていないと非常に危険です」
今の時点では危険はないはず。
見落としがあったのだろうか。
「姉様は愚かになってしまわれました」
「若様、お嬢様に対して──」
クライヴが口を挟むが、エディは無視して続ける。
「身分の違いすらわからなくなってしまわれたのですから」
気が気でないシャロンは、周りを見まわした。
「ちょっとエディ、来てちょうだい」
「? なんです?」
「大切な話があるのよ!」
シャロンはひとけのない場所に義弟を連れていく。
一緒に付いてきたクライヴは、ふたりの後ろに控えた。
シャロンはすうと息を吸い込み、義弟に重要なことを確かめる。
「エディ、本当にこの世界の真実を知っているの……?」
エディは顎を引く。
「はい、知っています。姉様よりも」
「な、なぜ?」
義弟は前世で乙女ゲーをプレイしていて、自分よりも熱心にやり込んでいたのか。
目を見開くシャロンに、エディは胸を張って答えた。
「それは、ぼくは世間知らずではないからです」
「あなたは……」
ごくり、とシャロンは喉を鳴らす。
「前世の記憶があるのね」
核心をついてみれば、エディは、え? と瞬いた。
「前世の記憶……」
「そう」
「姉様……まさか……」
彼も他に転生者がいるとは思わなかったのだろう。
(わたくしたちは姉弟で前世持ちだったのよ!)
「……前世などというものがあるとお考えなんですか、姉様?」
義弟はよもや、という顔をしている。
「あるでしょう?」
するとエディはやれやれと、頭を抱えた。
「そんなもの、あるわけないです! 命はひとつですよ。ひとつ。姉様はもう九歳ですよね。死を迎えれば、それで終わり! 死んだらそれで終了、完! なのです」
エディはさらに危機感を抱いた表情になる。
「やっぱり姉様は放っておけませんよ。まるで赤ん坊じゃないですか。このままだと本当に大変なことになってしまう……」
何やらぶつぶつ呟く。
どうやら彼は前世持ちではなかったようである。
(なんだ、違ったのね……! びっくりしてしまったわ)
「わたくし、おかしなことを言ってしまったようね」
「はい、本当に。ぼく頭痛がします」
「ごめんなさい。戻りましょう」
シャロンは力が抜けた。
同じ境遇の仲間がいたと思ったのだが。少々残念だった。
エディとクライヴと共に会場に戻る。
義弟のぴりぴり具合は先程より強くなっており、目つきもさらによくない。
見かねたらしいクライヴが言った。
「若様、周囲には俺が注意を向けておきますよ。若様がそんな用心する必要はございません」
きっ、とエディはクライヴを睨んだ。
「何言ってるんだ、必要あるよ! 僕は姉様の親族として、姉様を守らないといけない。クライヴ、ずっと思っていたけれど、おまえ胡散臭いんだよ。一番怪しいのはおまえなんだからね!」
「エディ……!」
シャロンはびっくりしてしまう。
どうして義弟はこうも攻撃的なのか?
ゲームでは心の中はどうであれ、外面はよかったのだが、今はズバズバときついことを口にする。
まるで悪役令嬢である。
(そういえばゲームで、悪役令息とキャラ紹介されていたわ)
シャロンは義弟に注意をした。
「エディ、そういう態度はよくないわ」
シャロンもゲームに登場していないクライヴを最初警戒していたが、今は信頼している。
「ほら。姉様騙されているし!」
義弟はしがみつかんばかりに、シャロンの腕を掴んだ。
「だから愚かだと言うんです」
「愚か……」
内心で毒ついているより、まあ、表に出しているほうが健康的か。
クライヴが静かに言葉を発した。
「若様。俺には何をおっしゃってくださって構いませんが、お嬢様にそのようなことをおっしゃるべきではありません」
エディは強く主張する。
「姉様は、このところおかしくなってしまったんだよ。ぼくが見ていないといけないんだ!」
「わたくしはあなたに見てもらわなくても、大丈夫よ」
十五歳時の記憶がある。エディよりも大分大人だ。
「シャロン」
そのとき後ろから声がした。
振り返ると王太子の姿があった。
「ライオネル様」
198
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。
このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる!
それは、悪役教授ネクロセフ。
顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。
「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」
……のはずが。
「夢小説とは何だ?」
「殿下、私の夢小説を読まないでください!」
完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。
破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ!
小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる