乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

文字の大きさ
10 / 60

10.ゲーム時の片鱗

しおりを挟む

 皆、彼に礼をする。

「よくきてくれたね」

 ライオネルは華やかな笑みを浮かべた。

「エディも元気そうだ。ん? どうしてシャロンの腕を掴んでいるの?」

 不思議そうにするライオネルに、エディが説明した。

「姉様が心配で仕方なくて。放っておけないんです」
「心配?」
「はい。近頃、姉様はどこか変わってしまわれ。騙されそうで気がかりなんです」
「あはは」
 
 可笑しそうに、ライオネルは声を立てて笑った。

「その心配はわからないでもないかな」

 ライオネルは安心させるように、エディに声をかける。

「でもね、僕が気を付けるから、君が心配することはないよ。シャロンとふたりで話したいんだけど、いいかな?」
「……はい……」

 エディはシャロンから手を離す。

「姉様をどうかよろしくお願いします、ライオネル様」
「ああ」

 自分はそんなに心配されるような危なっかしさがあるのかと、シャロンは悩んだ。

「じゃ、行こうか」
 
 ライオネルはシャロンの手を取り、会場から出た。
 王宮の薔薇園を彼と歩く。
 色とりどりの薔薇が咲き誇っていて、幻想的で美しい。

「君と一緒にここを歩きたくて」
「綺麗で、目を奪われますわ」

 ライオネルは唇を綻ばせる。

「君のことを、エディはとても心配しているようだね?」
「そうなのです」

 シャロンは吐息を零し、髪をかきあげた。

「義弟は最近、心配性になってしまったようなのですわ」

 エディは公爵家を継ぐからか、色々なことが気にかかるみたいだ。
 前世の記憶があるのかとびっくりしたけれど、そうではないらしい。
 薔薇園を通りながらライオネルは眉を上げた。

「でも僕も心配しているよ? 君は以前と少し感じが変わってしまったから」
「ご心配なさらないでくださいませ」

 魔法学校に入学すれば、ハッピーエンドになるよう暗躍するが、今は外国語を中心に勉学に励み、武術を学びつつ、ふつうに生活すると決めた。
 後日ヒロインと攻略対象との仲を後押しする。悪役令嬢になるのだ。

(でもそれって具体的にどうすればいいのかしら?)
 
 自分にはゲームであった極悪なことを行うのは難しい。
 だが役回りを全うすることは必要だ。
 ヒロインと攻略対象との仲は、悪役令嬢の嫌がらせにより、深まったりするから。

(難易度が高いわね……!)
 
 周りに迷惑をかけず、誰も傷つけず、頑張るしかない。
 一応、声を張って、ヒロインに金切り声で難癖をつける必要があるため、発声法も学んでいる。
 ライオネルは足を止めた。

「君はいったい、何を抱えているの?」
「え?」
「前にも聞いたけれど、悩みがあるんでしょう?」
「……魔法学校の入学後のことを考えてみることがあるだけですわ」
「まだ先のことだよ」
「ええ」

 そうこうしているうちに、時間なんてものはきっとあっという間に過ぎ去ってしまう。
 うかうかしていられないのだ。

「魔力を持つ者は皆入学することになる、君も僕も」

 そこからゲームがはじまる……。

「魔法学校での何について考えているの? 魔力をうまく扱えるかと?」
「そうです」

 本当はゲームのどのルートを辿るか、命は助かるか、世界は救われるかが心配である。
 ライオネルは薔薇を手折って、シャロンに差し出した。

「君の魔力は高いし、今から考え込むことはないよ。美しいものを眺めれば、気が晴れる」
「ライオネル様、ありがとうございます」
 
 シャロンはライオネルから花を受け取ったが、指に棘が刺さってしまった。

「? どうしたの?」
「いえ……」

 シャロンの手を掴み、指先から、ぷくりと血が浮き出ているのを彼は目に映した。

「ごめん、棘が刺さったんだね」

 ライオネルは薔薇をシャロンから取り、ベンチに置く。

「怪我をさせてしまった」
「怪我というほどのものではありませんわ」

 彼はシャロンの指を唇に寄せ、血を吸った。

(え)

「ラ、ライオネル様……?」
 
 彼の唇のぬくもりを受け、シャロンは瞠目する。
 ふっと視線を上げた彼の麗しかったこと、色気の凄まじかったこと。

(九歳なのよね?)
 
 前世より平均寿命が短いということもあってか、この世界は精神年齢が皆高い。 
 エディは、子供のあどけなさがまだあるのだが、ライオネルはすでにゲーム時の片鱗が垣間見える。
 
 さすがメインヒーロー。
 前世の記憶があっても、ときめいてしまう。

(すごいわ)

「手当てをしたほうがいいね」
「い、いえ、平気ですわ」
「駄目だよ、行こう」

 彼はシャロンを促し、道を引き返した。
 宮殿内に入り、彼は医師に、シャロンの手当てをさせる。
 医師が去り、室内にふたりだけとなって、ライオネルはシャロンにやさしく問うた。

「痛くない?」

 シャロンは頷く。

「大丈夫です」

 刺さった瞬間は少し痛みが走ったものの、何ともない。

「ごめんね、これから気を付ける」

 ライオネルは棘の刺さっていないほうの、シャロンの手を握って、じっとシャロンを見つめる。
 彼の金の髪が、窓から入る陽光に煌めく。
 どぎまぎしてしまうが、いずれ婚約破棄となると思えば、複雑な胸中である。

「やっぱり、シャロン、どこかおかしい」
「そんなことありませんわ」

 彼はシャロンの顎に手を添えた。
 瞳をのぞき込まれ、シャロンは冷や冷やとした。

「ライオネル様?」

 彼のセレストブルーの瞳が甘やかに光る。

「たとえるなら。そうだな……君のなかに違う人格が入ったような感じだね」

(ぎく)

 当たらずとも遠からず。
 鋭い。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...