悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない

葵川真衣

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27.王宮のお茶会1

 最初は唖然としたが、レオンスが切羽詰まっていたので、クロヴィスは頼みをきくことにした。
 レオンスには昔、怪我を負わせたという借りがある。
 シャルロットと今している婚約は仮のもので、数年後には解消をする。

 レオンスが溺愛するだけあって、彼の妹は美しい。
 ただ、いつも顔色が悪いような気がして、それだけは心配だった。

 他に特に思うところはなかったが──。
 シャルロットは、クロヴィスにこう言った。
 世のためになる力をもつ、貴重な人間だと。
 お世辞だろう。それでも嬉しかった。心が和らぎ、癒されるのを感じた。
 
 クロヴィスは自身の強すぎる魔力を忌んでいる。
 心を破壊するような大きな力を、暴走しないよう、いつも抑え込んでいなければならない。
 子に遺伝すれば不憫だし、妻子を傷つけてしまうかもしれない恐れから、家庭をもつ気はなかった。恋をする気も。
 
 だがシャルロットと婚約し一緒に過ごすようになって、彼女が気になるようになってしまった。
 会うときは、いつもレオンスも一緒だ。しかし今日は両親によって二人きりにされた。シャルロットは常になぜか緊張して見えるが、先程は媚薬によって血色が良くなっていた。
 
 クロヴィスは紅茶を全部飲み干していたので、強烈な渇望感をいだいた。
 彼女が倒れ込んできたとき、危うく何かしてしまいそうになった。
 ぬくもりを感じ、離れなければと思うのに、硬直し動けなかった。

(このままだと危うい)

 シャルロットはレオンスの妹。親友が結婚しようとしている相手だ。
 手を出すわけにはいかないのだ。
 今日はなんとか抑えきれたが。会う機会が増え、もっと惹かれていくと何をしてしまうかわからない。

(レオンスに顔向けできない……)
 
 クロヴィスは思ってもみなかった事態に激しく動揺していた。



※※※※※



 数週間後、王宮でお茶会が開催された。
 クロヴィスと婚約したために、クロヴィスが迎えに来てくれることになり、シャルロットは彼と兄とともにお茶会に出席した。
 鮮やかな花々の咲き誇る会場に、多くの人々がいて、知人と挨拶を交わしたが、ユーグの姿は見えない。
 
 先日、ユーグの家に連絡をすると彼は旅行に出ているとのことだった。
 もし旅行から戻っていてもこういった集まりをユーグは苦手としているし、出席しないだろう。
 近頃、いろいろなことがあって会えていないが、元気にしているだろうか。
 
 シャルロットが気にかけていると、たくさんの令嬢が兄に近づきはじめた。
 いつものことである。

「お兄様、皆様と会話を楽しんでくださいませ」
 
 レオンスが令嬢らを避けようとするので、シャルロットがそう声をかければ、兄は眉を寄せた。

「オレはおまえと過ごしたいんだよ、シャルロット」
「わたくしたちは屋敷でいくらでも過ごせます」
 
 こういう公の場では兄を独占できない。皆と会話してもらいたい。多くの令嬢に恨まれたくはない……。

「レオンス、僕が君の妹に付いておこう」
「お兄様、クロヴィス様がいてくださるから、心配ございませんわ」

 レオンスは仕方なさそうに息を零した。

「じゃ、クロヴィス、妹を頼むよ。シャルロット、クロヴィスの傍を離れないようにね」
「わかりました」

 あっという間に兄は令嬢らに取り囲まれて、シャルロットはクロヴィスと移動した。
 会場は人が多いので、庭園を歩く。
 クロヴィスは物静かなので、会話が弾むということはないが、疲れることもない。
 
 会うことが増え、前ほどクロヴィスが怖くはなくなっていた。
 この間、媚薬を飲んだクロヴィスは、シャルロットにおかしなことをしようとはせず、紳士だった。そのあとから彼に信頼感のようなものをいだくようになった。
 ゲームのことを思うと、用心は怠れないが。

 クロヴィスと美しい庭園を見て歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「シャルロット」

 振り返ると、王太子エドゥアールの姿があった。

「エドゥアール様」

 シャルロットとクロヴィスは足を止めた。二ヵ月ほど前にエドゥアールに会ったとき、彼は視察に行くと話していたが、帰ってきたようだ。

 エドゥアールはクロヴィスに目を眇める。

「貴様がシャルロットの婚約者の、デュティユー侯爵令息か」
 
 クロヴィスは礼をした。

「はい。クロヴィス・デュティユーです」

 エドゥアールは眉間を皺めた。

「俺が地方に行っている間に婚約したらしいな? 昨日帰ってきて知った。俺がシャルロットと婚約しようと思っていた矢先に、かっさらうように話を決めたのか」

(え?)

 婚約しようと思っていた?

 エドゥアールの言葉に、シャルロットとクロヴィスは驚く。
 エドゥアールはシャルロットの手を掴んだ。

「話がある。来い」

 クロヴィスは眉をぴくりと動かした。

「殿下、僕もそのお話にご一緒させていただきたいのですが」
「クロヴィス・デュティユー、貴様に用はない。俺はシャルロットに話がある」

 エドゥアールはシャルロットの耳元に唇を近づけて囁いた。

「地下洞窟の指輪のありかについて、二人で話したい」
 
 シャルロットははっとした。それはとても気になることだった。
 シャルロットはクロヴィスのほうを向いた。

「クロヴィス様、わたくし、エドゥアール様にお話を伺ってまいりますわ。会場でお待ちください」
「だがシャルロット」
「すぐ戻りますので」
「来い」

 それでシャルロットはエドゥアールに付いてその場を離れた。エドゥアールはシャルロットの手を掴んだまま進んでいく。
 彼の宮殿に向かっているようだった。
 
 エドゥアールは自室まで行くと、シャルロットを引き入れ、扉を閉めた。
 室内を横切り、彼は天蓋付きの巨大な寝台の前まで大きなストライドで歩く。

「エドゥアール様?」
 
 エドゥアールはシャルロットを寝台に押し倒した。

「……!?」

 彼はシャルロットの上に覆いかぶさり、シャルロットの両の手首をひとまとめに掴んで頭上にあげさせた。

「シャルロット。なぜ違う男と婚約した? 俺が幸せにすると言っただろう」
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