悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない

葵川真衣

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28.王宮のお茶会2

「え……!?」

 彼は長い指で、シャルロットの唇に触れた。

「貴様との婚約を進める手筈でいたのだ。だが昨日、視察から戻れば、貴様はすでに婚約したと。どういうことだ? なぜ俺以外の男と婚約をした?」

 エドゥアールの双眸は怒りに激しく燃えている。なぜ彼が憤っているのか、シャルロットと婚約しようと思ったのか、こんなことをするのか、まったくわからず混乱した。

「エドゥアール様、どういうことなのですか」
「わからないか?」
「わかりませんわ」
「ならば、わからせてやる」

 エドゥアールに首筋に唇を寄せられ、シャルロットはぎょっとする。

「ちょっ……!?」

(この状況、何!?) 

「貴様を気に入っているのだ。婚約は解消し、俺のものなれ。俺は、貴様を俺のものにすると決めている」
「勝手に決めないでください!」

 シャルロットはエドゥアールを容赦せず蹴り上げた。

「……う……」

 身体の上からエドゥアールが退いたので、シャルロットは寝台から降り、彼の部屋から急いで逃げ出した。
 日々の鍛練の効果が出た。毎日稽古していてよかったと思いながら、宮殿を抜けて、お茶会の会場に向かって駆けていると、途中でクロヴィスと遭遇した。

「シャルロット!」
「クロヴィス様」

 彼はシャルロットの腕を掴んだ。

「何があった……!?」
「いえ、何も……わたくし、もう帰りたくて」

 冷静になれば、王太子を思いきり蹴ってしまった。
 でもあのままだとどうなっていたかわからないし、逃げるために仕方なかった。
 クロヴィスはシャルロットの顔を覗き込む。

「何かされたのか」
「いえ……」

 シャルロットは目を泳がせる。先程のことを口にしたくはなかった。
 何もなかったとはいえ、恥ずかしい。
 瞬間、クロヴィスの瞳に憎悪が突っ切って、彼は奥歯を噛みしめ、シャルロットを腕に抱き寄せた。痛いほど抱擁され、シャルロットはびっくりした。

「シャルロット、もし何かされたのであれば……僕が王太子を殺してやろう」

(──え?)
 
 ……最後、とてつもなく怖い言葉が吐かれたような気がする。気のせいだと思いたい。不穏な気配を感じたので、シャルロットは説明した。

「ただ、気分が優れないので帰りたくなっただけです」
「王太子は何の話を?」

 仄暗く鋭く光る彼の眼差しに、シャルロットは怯える。

「わ、わたくしたちの婚約が突然だったので驚かれたようで、その話を。あの……クロヴィス様、離していただいてもよろしいでしょうか」
「ああ……すまない」

 クロヴィスはシャルロットから腕を解き、溜息をついた。

「家まで送る。レオンスはまだ会場だから、言付けを頼んでおこう」
「……はい」

 兄は多くの令嬢に囲まれている。
 自分のせいで帰ることになれば、令嬢らの怨みを買う。シャルロットはクロヴィスに家まで送ってもらうことにした。
 

 家に着くと、兄もすぐに戻ってきた。

「シャルロット、一体何があった? 気分が悪くなったと聞いたが」

 居間でホットミルクを飲んでいたシャルロットの横には、屋敷に留まっていたクロヴィスがいた。クロヴィスは立ち上がり、レオンスに告げる。

「殿下と遭遇したんだ。そこで殿下は君の妹と婚約しようとしていたと話し、彼女を連れて行った」

 レオンスは顔色を変えた。

「やはりオレが心配したとおりじゃないか……」
「ああ」

 レオンスはシャルロットの肩に手を載せた。

「シャルロット、殿下に連れていかれて、なぜ気分が悪くなった? 何かおかしなことでもされたの?」

 何もなかったし、心配をかけられないのでシャルロットははっきり否定する。

「いいえ。ただ貧血を起こしただけですわ。先に帰ってきてしまって、申し訳ありません、お兄様」
「それはいいが、体調が悪いのなら、部屋で休んだほうがいい」

 シャルロットは頷く。
 エドゥアールを蹴ってしまったことで、今度こそ処罰されるに違いない。
 暗い気持ちになりながら、兄に送られ部屋に戻った。
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