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36.いつから恋を
最初はそのつもりだった。
将来的に解消するもので、レオンスに頼まれてした婚約だった。
けれど今、クロヴィスはシャルロットと本気で結婚したいと思っている。
婚約を解消したくはない。
レオンスがシャルロットを閉じ込めたり、彼女を困らせるのであれば、自分の気持ちを突き通そうと──。
クロヴィスは深呼吸する。
(いや、親友を裏切れない……)
「……レオンス、君のしていることはシャルロットのためになっているとは思えない。彼女もしばらく家を離れたいと話している。今ここで強引に連れ戻せば、シャルロットは君に不信感をもち、君が結婚を望んでも、拒むかもしれないぞ」
レオンスは唇を引き結ぶ。
クロヴィスは説得を続ける。
「ラヴォワ公爵も部屋にシャルロットを置いていたと知れば、君とシャルロットを引き離そうとするかもしれない。それを危惧し、シャルロットを落ち着かせるためにも僕は家に彼女を連れてきたんだ」
「そうか……」
レオンスは納得してくれたようだった。
クロヴィスが安堵すると、レオンスはふっと目を上げ、静かに問いかけた。
「一つ訊く。クロヴィス、妹に惚れてないだろうな?」
心臓が大きく音を立てた。クロヴィスは一拍間ができた。
「君の話していたとおり可愛いと思うが、恋愛対象としては見ていない」
レオンスはクロヴィスを睨む。
「……ならいいが」
「しばらくすれば、シャルロットのほうから、家が恋しくなって帰りたがる。数日の辛抱だ。ラヴォワ公爵が戻る頃にはシャルロットも戻る。うちの両親はシャルロットのことを気に入っていて彼女を受け入れているから、こちらの心配はない」
「本当にデュティユー侯爵夫妻は、いつも妹のことを歓迎しているね。戸惑うくらいに」
両親は今すぐにでもシャルロットが嫁いできてくれることを望んでいる。
レオンスは苦々しげに、唇を歪めた。
「いろいろ想定外だったよ……」
「シャルロットが僕の家にいる間、困ることのないようにする。レオンス、安心してくれ。彼女も今は君に対して少々反発心があると思うし、冷却期間を置いたほうが、君にとってもシャルロットにとっても良い」
レオンスは忌々しそうにクロヴィスを見た。
「……今日のところは引き下がろう。だがクロヴィス。今後オレと妹の関係に口を挟むのはやめてもらえるか。友人とはいえ、どうこう言われたり、出しゃばってもらいたくない。妹のことはオレが一番理解している」
クロヴィスは深く頷く。
レオンスが帰りクロヴィスはひとまず、ほっとした。しゃしゃり出る気はないが閉じ込められているシャルロットを放っておくことなどできなかったのだ。
※※※※※
レオンスは気づいた。クロヴィスが妹に惚れたことに。
(いつからだ)
今日、シャルロットをレオンスの部屋から連れ出したクロヴィスの家に行くと、クロヴィスは妹のいる屋敷にいれず、門の外でレオンスと向き合った。
そこで話し、レオンスははっきりとクロヴィスの気持ちに勘付いた。
彼は慎重に自身の感情を覆い隠してはいたが、シャルロットへの想いが滲み出ていた。
いつから恋をしていたのか?
(そういえば)
王宮でのお茶会のときには、すでに様子がおかしかった。
シャルロットと婚約するつもりだったと言った王太子を、殺したほうがいいのではないかとクロヴィスは口にしたのだ。逆上したとしても、いきすぎていた。
あのとき、すでに恋におちていたのだろう。
虫よけとして妹と婚約させたのに、まさか堅物のクロヴィスが恋をするとは予想だにしなかった。
デュティユー侯爵夫妻も非常に乗り気で、クロヴィスとシャルロットを早く結婚させようとしている。
完全に見誤った。
策を練り直さなければならない。
見張らせていた従僕によれば、シャルロット自らデュティユー侯爵家に行くことを決めたようだし、ここで無理に連れ帰そうとしても、逆効果で妹は聞かないだろう。
クロヴィスが妹に強引な真似をすることはない。
しかしこれからはわからなかった。
彼が感情をずっと抑えられるかどうか。
元々彼は独身主義者で、恋愛に興味のない人間だった。だから安全だと踏んだ。けれど、あれほど心優しく愛らしいシャルロットに恋をしないわけがなかったのだ。
このまま妹とクロヴィスを婚約させておくわけにはいかない。
予定ではあと数年は継続させておくつもりだったが、このままでは本当にクロヴィスはシャルロットと結婚しようとするかもしれない。
クロヴィスは固く決意すると、突き進むようなところがある。
計画を大幅に変更する必要が出た。
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