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38.距離感がおかしい1
兄は基本的にシャルロットが出掛けるのをよくは思わない。
家を三日空けたあとから、そういった面は和らいだが、それでも王宮に行くとわかれば、止められるかもしれない。
「ええと……」
シャルロットが口ごもれば、ユーグが言葉を継いだ。
「王宮書庫に勉強をしに。レオンス様、ぼくが責任をもってシャルロット様を送り届けます」
レオンスはふっとユーグに視線を向けた。止められるのかと思えば──。
「わかった」
レオンスはすんなり理解を示してくれた。
「必ずシャルロットを、陽が暮れる前に送ってくれるね、ユーグ君」
ユーグが首肯すれば、レオンスはシャルロットの頬に手を添えた。
「シャルロット、気をつけてね」
「お兄様……良いんですの?」
驚くほどあっさり送りだしてくれるレオンスにシャルロットは尋ねる。レオンスは淡く微笑んだ。
「おまえの行動を制限してしまうのはいけないと考えをあらためたんだ。おまえのしたいことをするといい。でも帰りが遅くなりすぎたり、危ないことはしてはいけないよ」
シャルロットは兄の変わりようにびっくりし、感激もした。
「お兄様……ありがとうございます」
過保護で、シャルロットのことを信用してくれていない気がして哀しかったけれど、自分を信じてくれるようになったのだ。
レオンスは優しくシャルロットを見つめる。
「じゃ、がんばって勉強しておいで」
「はい」
本当は指輪の使いかたを調べるのだが……。
シャルロットは足取り軽く、ユーグと外に出て馬車に乗った。
「兄がこんなすぐに外出を許してくれるなんて思いませんでした」
気づかれないよう抜け出していた今までのことを振り返って、シャルロットが感慨深く思っていると、ユーグは口のなかで呟いた。
「レオンス様とは、手を組んで。あのかたはシャルロット様をぼくに見張らせているんです……」
「え?」
何と言ったか聞こえず、シャルロットがユーグに目線を向けると、彼は慌ててかぶりを振った。
「いいえ、なんでもありません。よかったですね」
「はい!」
馬車が王宮に到着した。
前にも訪れた王宮書庫に行き、広々とした中を移動し本を選ぶ。
席についてユーグと手分けして読んでいると、後ろから声を掛けられた。
「なんだ、シャルロット。来ていたのか」
振り返ると、後ろにエドゥアールが立っていた。
「エドゥアール様?」
「え……殿下?」
シャルロットとユーグは椅子から立った。
エドゥアールはちらりとユーグに視線を流す。
「シャルロット、その男は?」
「わたくしの友人ですわ。一緒に指輪の件について調べてくれています」
「ユーグ・グラックと申します。お初にお目にかかります、殿下」
緊張した面持ちでユーグが礼をする。エドゥアールは憮然としている。
「おい、シャルロット。俺に頼らず他の者に手伝わせているのか?」
「え?」
エドゥアールは機嫌が悪かった。
「エドゥアール様にたくさんお時間を割いていただきましたし、これ以上お手を煩わせるのも」
エドゥアールは不満げに片目を細める。
「ここまで関わったのだ。最後まで手伝うぞ」
「ですが、お忙しいでしょう」
「今日は時間があるし調べてやる。その件で書庫に寄ったのだ」
「そうだったのですか」
彼は俺様だが結構良いひとだ。
「ありがとうございます」
エドゥアールはシャルロットの横の椅子に腰を下ろした。
「さあ、調べよう」
それで王宮の書庫で、シャルロットはエドゥアールとユーグと、本を読んでいくことになった。
だがエドゥアールの位置が近すぎ、肩や腕が触れ合った。
机には余裕があるのに。シャルロットはエドゥアールに指摘した。
「エドゥアール様、距離が近すぎですわ」
彼はふっとこちらに眼差しをよこす。端整な顔がすぐ傍だ。慌てるシャルロットに彼は唇を引き上げて笑む。
「何か問題が?」
「もう少し離れてもらえませんか?」
「嫌だ」
エドゥアールは短く返してきた。
シャルロットは気にせず、本に集中することにした。
彼はこういうひとだ……。尊大で、聞いてもらえない。
家を三日空けたあとから、そういった面は和らいだが、それでも王宮に行くとわかれば、止められるかもしれない。
「ええと……」
シャルロットが口ごもれば、ユーグが言葉を継いだ。
「王宮書庫に勉強をしに。レオンス様、ぼくが責任をもってシャルロット様を送り届けます」
レオンスはふっとユーグに視線を向けた。止められるのかと思えば──。
「わかった」
レオンスはすんなり理解を示してくれた。
「必ずシャルロットを、陽が暮れる前に送ってくれるね、ユーグ君」
ユーグが首肯すれば、レオンスはシャルロットの頬に手を添えた。
「シャルロット、気をつけてね」
「お兄様……良いんですの?」
驚くほどあっさり送りだしてくれるレオンスにシャルロットは尋ねる。レオンスは淡く微笑んだ。
「おまえの行動を制限してしまうのはいけないと考えをあらためたんだ。おまえのしたいことをするといい。でも帰りが遅くなりすぎたり、危ないことはしてはいけないよ」
シャルロットは兄の変わりようにびっくりし、感激もした。
「お兄様……ありがとうございます」
過保護で、シャルロットのことを信用してくれていない気がして哀しかったけれど、自分を信じてくれるようになったのだ。
レオンスは優しくシャルロットを見つめる。
「じゃ、がんばって勉強しておいで」
「はい」
本当は指輪の使いかたを調べるのだが……。
シャルロットは足取り軽く、ユーグと外に出て馬車に乗った。
「兄がこんなすぐに外出を許してくれるなんて思いませんでした」
気づかれないよう抜け出していた今までのことを振り返って、シャルロットが感慨深く思っていると、ユーグは口のなかで呟いた。
「レオンス様とは、手を組んで。あのかたはシャルロット様をぼくに見張らせているんです……」
「え?」
何と言ったか聞こえず、シャルロットがユーグに目線を向けると、彼は慌ててかぶりを振った。
「いいえ、なんでもありません。よかったですね」
「はい!」
馬車が王宮に到着した。
前にも訪れた王宮書庫に行き、広々とした中を移動し本を選ぶ。
席についてユーグと手分けして読んでいると、後ろから声を掛けられた。
「なんだ、シャルロット。来ていたのか」
振り返ると、後ろにエドゥアールが立っていた。
「エドゥアール様?」
「え……殿下?」
シャルロットとユーグは椅子から立った。
エドゥアールはちらりとユーグに視線を流す。
「シャルロット、その男は?」
「わたくしの友人ですわ。一緒に指輪の件について調べてくれています」
「ユーグ・グラックと申します。お初にお目にかかります、殿下」
緊張した面持ちでユーグが礼をする。エドゥアールは憮然としている。
「おい、シャルロット。俺に頼らず他の者に手伝わせているのか?」
「え?」
エドゥアールは機嫌が悪かった。
「エドゥアール様にたくさんお時間を割いていただきましたし、これ以上お手を煩わせるのも」
エドゥアールは不満げに片目を細める。
「ここまで関わったのだ。最後まで手伝うぞ」
「ですが、お忙しいでしょう」
「今日は時間があるし調べてやる。その件で書庫に寄ったのだ」
「そうだったのですか」
彼は俺様だが結構良いひとだ。
「ありがとうございます」
エドゥアールはシャルロットの横の椅子に腰を下ろした。
「さあ、調べよう」
それで王宮の書庫で、シャルロットはエドゥアールとユーグと、本を読んでいくことになった。
だがエドゥアールの位置が近すぎ、肩や腕が触れ合った。
机には余裕があるのに。シャルロットはエドゥアールに指摘した。
「エドゥアール様、距離が近すぎですわ」
彼はふっとこちらに眼差しをよこす。端整な顔がすぐ傍だ。慌てるシャルロットに彼は唇を引き上げて笑む。
「何か問題が?」
「もう少し離れてもらえませんか?」
「嫌だ」
エドゥアールは短く返してきた。
シャルロットは気にせず、本に集中することにした。
彼はこういうひとだ……。尊大で、聞いてもらえない。
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