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第1話 できれば王子を泣かせたい!
(1)転生女子は頭ドンで思い出す
しおりを挟むそして、次に目が覚めた時には、前世を思い出していたという訳。
改めまして、前世持ちの悪役令嬢アレクサンドラ・イリガールです、こんにちは。
どうやら木から落ちて頭を打った衝撃で前世を思い出したようでして。
えへへ。前世は平和な日本でOLしてました!
前世の名前は覚えてない。
平々凡々な元OLには碌な知識もない。故に前世チートで俺TUEEEとかできなそうだけど、これだけは分かる!
ここは乙女ゲームの世界で、私は間違いなく悪役令嬢だ。
燃え上がるように真っ赤な髪。
そして悪役令嬢のトレードマークであるつり上がった緑の目。
綺麗だけどこのキツイ見た目!
──紛うことなき悪役令嬢アレクサンドラ!
そして、ようこそ全年齢対応の乙女ゲーム『フォルトゥーナ~運命の恋人たち~』の世界へ! なーんてね。
──ある日突然、異世界に転生しちゃったヒロインとイケメン攻略対象者たちが繰り広げる胸きゅんラブストーリー。あなたは運命の恋人を見つけることができますか?(公式HPより)
ちなみにこの『フォル恋』はシリーズもので、今となってはうろ覚えだけど、戦国時代編、幕末編に加えて現代編なんかもあったはず。
そして私ことアレクサンドラは、この異世界編の王子ルートでいい感じにヒロインちゃんをいじめる悪役令嬢って訳です。
いやーあはは。
ヒロインちゃんはデフォルトで転生者の設定だったのだけれど、まさか悪役令嬢も転生者になっちゃうとはねぇ……。
全年齢対応のこのシリーズ、史実に基づく事件などは別として、悪役にも大して残酷なざまぁとかはなかったはずよね、確か。
アレクサンドラもせいぜいが市井落ちとか国外追放だったかな?
だから。
何が言いたいかというと、シナリオ通りヒロインちゃんをいじめたとしても、生死に関わるざまぁはなしです! なしっ! パチパチパチ!
悪役令嬢主役のウェブ小説なんかだと、ヒロインちゃんをいじめて処刑とかされるのがあったもの──ガクブル。ホントヤメテコワイカラ。
それに、今の私は別にヒロインちゃんをいじめるつもりはない。
私は将来的に王妃を目指してるわけじゃないし、あの顔だけクソ王子に惚れてる訳でもない。
私はただ、あのクソ王子はいじめたいだけ!
そして、ヤツをいじめても悲劇的結果にならないという確証を得たいがために、全力でゲーム内容を思い出し中なのである。
ゲーム内でのアレクサンドラは、ヒロインちゃんを破落戸みたいな輩に襲わせても最悪国外追放で済んでた気がする。
うん、大丈夫!
だから、たかが王子を泣くほどいじめたとしても処刑にはならないわよね、多分だけれども。
「……あのクソ王子め」
何が悲しくて大貴族の令嬢が、罵倒された挙句に木登りなんてしなきゃならないのよ!
しかも、あのクソバカ王子、登らせるだけ登らせて放置して行きやがった!
まだ前世の記憶を取り戻してなかった私は、たった七歳のか弱い女の子だったのよ?
木の幹にしがみついた状態で置き去りにされた、あの恥辱と絶望マジ忘れまじ。
初めてのお茶会用にお母様が選んでくださったドレスも破れてしまった。
その事にショックを受けて泣いていたら、何でも出来る女子力激高侍女のマリーさんが繕ってくれると約束してくれたけど。
あのクソバカ王子、絶対許さん──略して絶許だ!
「王子、絶対泣かすっっ!!!」
私は一人、部屋の中で中指を立てながら叫んだ。
それは私の生きる方針が決まった瞬間でもあった。
どうせ王子は、どれだけ絶望しようと最終的にはヒロインちゃんと出会って癒される運命。
悪役令嬢の私を、ざまぁの絶望から救ってくれる救世主は、残念ながらゲーム上存在しない。
だから、ちょっとくらい私利私欲(という名のストレス発散)のために王子をいじめても許されると思うの!
ねぇ、神様?
なーんて──本当のところ、王子様の泣き顔が見たいだけかも。
あのツンと済ました綺麗な顔が、泣き顔に変わるところを想像するとゾクゾクするじゃない?
あら? 私ってサドっ気あるのかしらね?
程なくして私たちはシナリオ通りに婚約した。
まぁ、現実的に考えても年齢の近い王子と公女なら妥当なところかしらね。
七歳(の私)と八歳(のバカ王子)で婚約とか、前世の感覚から言ったらちょっと早すぎる気もするけど、この世界じゃ珍しくはないみたい。
拒否権があれば速攻拒否案件なんだけど、七歳の私にそんなものあるはずがない。
王子は私と婚約してないと婚約破棄イベント起こせないものね。そういう意味では必須イベントだから仕方ない。
さぁ、ここからがお楽しみの時間よ。
ヒロインちゃんが現れるまで後八年くらい?
婚約者としての交流を、という話で月一回は王宮でお茶会をする事になったのよね。それって月イチで嫌がらせできるってことじゃない?
存分に楽しませてもらおうじゃないのよ。ふふふ……。
「おい、ブス!」
「…………」
「返事しろ、ブス!」
「……わたくしはブスではなくアレクサンドラです」
「ぎゃあああ──っ! 貴様、何をした──っ?!」
「貴様でもなくてアレクサンドラですわ、殿下。うふふっ」
「せっ……背中が痒いっ!」
「あー今殿下の背中に毛虫が落ちたような気がしますねぇ。ポトッと」
「ひっ……毛虫?! とととと取ってくれ!」
「あら嫌ですわー。その毛虫、ブスには触れない毛虫なんですのー」
「なっ!この役立たずめっ……かゆいっ! かゆいかゆいかゆい! だ、誰かぁ……っ!!!」
「では役立たずのブスは失礼しますわね! おほほほほ!」
王子の背中にイタズラしたのはもちろん私ね。
とりあえずヤツが『ブス』とか悪口を口にしたり、酷い態度をとる度にやり返す所存。
これは躾よ、躾! NO体罰!
あ、ちなみに王子の背中に放り込んだのは、毛虫じゃなくて『毛虫草』と呼ばれてる草の猫じゃらしに似ている花房の部分。
あれ、フサフサなように見えて、肌に当たると結構チクチクするのよねぇ!
普段シルクみたいな上質な生地の服しか着たことないお坊ちゃんにはさぞかし刺激的でしょうよ! うふふ。
泣かせたい。
泣かせたい。
あー、泣かせたい!
こうなりゃ意地だ。
もう理屈じゃない。
さっきもちょっと涙目になってたけど、涙はこぼれてないからノーカンね!
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