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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
(16)カレー臭はなかなかとれない(護衛視点)
しおりを挟む俺はローガン・ランフォード。
泣く子も黙るジェラルド王子殿下の護衛ですよ……いや、別に俺の顔は怖くないんですけども。
元々騎士団畑の人間ですが、殿下が三歳の頃に護衛を拝命致しまして、今年でもう護衛歴十四年目です。
護衛っていうのは何も殿下に付き従ってゾロゾロ歩くだけじゃないんですよ?
殿下の居室の夜間警護とかもまた、職務のうちです。
今まさに夜勤明けでフラフラと帰宅中です。
いやー、朝日が眩しいっ!
独身のやつなんかは騎士団所属の頃から住んでる寮に帰るんですけどね。
俺は家族持ちなので王都の外れに家があるんです。
はぁ……。
え? ちょっといつもよりテンションが低くないかって?
まぁね……はぁ……。
昨日、仕事前に国王陛下に呼び出されて坊ちゃん(ジェラルド殿下のことですよ?)のことについてお願いされたことがありまして。
陛下にそろそろ閨事の授業を受けるように言ってくれって頼まれたんですよねぇ。閨事とはお子様づくりのあれこれを伝授するための授業のことだそうで、王族にはそんな授業があるんですねぇ。
坊ちゃんはその授業をずっと拒否してるご様子で、手を焼いてるんだそうです。
そこで白羽の矢が立ったのが何故か一介の護衛でしかない俺ですよ。
えっ? それ、護衛の役目なの? って感じでしょ?
まぁ、いつものことなんで別にいいんですけど。
それに、授業を拒否する坊ちゃんの気持ちもわからんでもないです。
坊ちゃんの頭の中にはかのご令嬢のことしかないでしょうからねぇ。先生とはいえ他の女性と色々致すのは不本意なんだと思います。
青春ですねぇ。
ただ、明るい家族計画を立てようと思ったら必要でしょう、色々と。近いうちに、それとなく坊ちゃんにお話しようとは思いますけど。
それより昨日、ちょっとしたことで奥さん怒らせちゃって、そっちの方が俺にとっては重大事件なんですよね。まだ怒ってるだろうなぁ。
夜勤だったから出勤前に自主鍛錬をしていたんですけど。
自主鍛錬の後、汗でビショビショになった服をうっかりそのまま洗濯籠に入れたら、めちゃくちゃ怒られたという訳で。
奥さん曰く、一緒に洗うと脂が浮いてくるから普段は俺の服だけ別洗いしているとの事。「カレー臭がキツい。豚のニオイがする、豚のニオイが!」って言いながらフローラルな香油をドボドボ入れてましたけど、一昨日食べたポークカレーの匂い、まだ取れてないのかな?
いやぁ、旦那様の服だけ特別に洗ってくれる奥さんなんてそうそういないよね? 愛されてるんだなぁ~って思うわけ。そんな奥さんの好意を無にしちゃった俺。怒られて当然だよね。
すぐにごめんなさいしたんですけど、昨日一日中口聞いてくれなくて。
まだ怒ってるかなぁ……花でも買って帰る?
いや、さすがにこの時間からやってる花屋なんてないよなぁ。
んー……待てよ?
確か、花街の方に一件、深夜に開けてる花屋があるって聞いたような……。
あっ! 俺は娼館とか行ったことないですよ! 奥さん一筋です!
現在は陛下直々の任命で坊ちゃんの護衛をやってる俺ですけど、元々は騎士団所属なんで騎士団の知り合いが多いんですよ。
独身連中の中には花街の娼館の娘に入れ揚げてるやつなんかもいて。そいつから仕入れた情報です。
娼館は大抵夜から朝にかけての営業だから、目当ての娘に花やちょっとしたプレゼントを買う為の店が花街の中にあるんだそう。
はぁ、仕方がない。ちょいと回り道して花街の方に寄ってくかな~。
「……んん? あれ? うそぉ……」
見間違いかな~? と思ったけど、俺の両目視力は2.0。見間違えるはずないんですよねぇ。
俺は思わず路地に隠れてその様子を眺めた。
俺の視線の先にいたのは……。
「えっ? あれは、確かに坊ちゃんの愛しのご令嬢」
今、どこかの店から出てきたような……?
続いて店から出てきたのは、ご令嬢よりもかなり大柄な男だった。ご令嬢の護衛でしょうかね?
俺は男の顔を確認しようと身を乗り出して……息を呑んだ。
それは、俺もよく知る人物で──。
「あいつは……ヴィクトール?!」
どういうことだ。
一体どうなってるんだ?
ヴィクトールは騎士団時代の俺の後輩で。奴はケガで騎士団を辞めたと聞いていたんだけど……こんなところで何をしてるんでしょうか。
しかも親しげに肩を叩きあっている……。
あっ! ご令嬢が奴に抱きついた?!
これは坊ちゃんに知らせた方がいいんでしょうかね?
いや、知らぬが仏という言葉もあるし……いや、伝えれば少しは危機感を覚えてくださるんじゃ。
俺は葛藤するのだった。
まさか、まさかですけれども。
彼のご令嬢には坊ちゃんの危惧してる通り本当に別の想い人がいて、それがヴィクトールだってことはないですよね?!
いやいやいや、ないでしょ~!
俺が言うのもなんですけど、筋肉しか取り柄がないような男ですよ?
俺より少し年下とはいえ、ご令嬢とは父親と娘ほどの年の差があるのですよ?
まさかまさか──。
ご令嬢は実は筋肉フェチだったのですか──?
「くっ……!」
やっぱりこのことは坊ちゃんにお伝えせねば!
だって、知らぬは本人ばかりなりってことになったらかわいそうでしょ?
いくら普段ツンツンな態度をとってるからご令嬢には嫌われて……じゃなくてそれほど好かれてないんだとしても!
これではあんまりにも坊ちゃんがかわいそうすぎる!
そして、親子ほども年が違う娘とつきあうなんて、ヴィクトールのやつはロリコンだったというのか?
騎士団にいる間浮いた話ひとつなくて、硬派の権化として知られていたあのヴィクトールが?!
いや、逆にこれほどまでの年下が恋愛の対象だったのなら、浮いた噂がなかったのも頷けるかも。
でも、いけません!
ましてやご令嬢は、坊ちゃんという婚約者のいる身ですから。
いけない道に足を踏み込む前にご令嬢を止めなければ!
怖くて本人には言えないからもちろん坊ちゃん経由で!
俺は動揺のあまり、花束を買うのも忘れて家へ帰ってしまった。
それで仲直りできたのかって?
そりゃもちろんしましたよ!
俺と奥さんはラブラブなんですから! 誠心誠意土下座したら許して貰えました!
その代わり、今度の休みに花街にあるっていう『ペラペラ』?か何かのお店に連れてくことになりました。俺のお小遣いで。
何でも最近主婦仲間でその店に行くことが流行ってるらしくて。
俺の奥さん美人だから、花街なんかウロウロして変な男とかに声かけられちゃったりしないか心配ですけど……ま、俺もついていくつもりなので、滅多なことにはならないと思いますけどね!
後で騎士団の誰か捕まえて、ペラペラのこと聞いてみようそうしよう。
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