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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!

閑話 四月のイタズラの悲劇(護衛視点)

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*閑話休題です。こちらは本編進行に一切関係ないお遊び回なので、お急ぎの方は飛ばして頂いて差し支えありません。
*なお、少しグロい感じの表現が出てきますのでグロ耐性の無い方は自衛お願いします。
*ジェラルドの護衛ローガン視点。
──────────



 俺はちゃんと忠告しましたよ?
 しましたからね、坊ちゃん!
 どうなっても知りませんよ?!

 俺が何をこんなに焦ってるのかって?
 今日は『四月のイタズラエイプリルトリック』デーなんですよ。
 ちょっとしたイタズラを仕掛けたり、かわいい嘘をついて、みんなで笑い合って幸せになる……そんな日です。本来は。
 坊ちゃんがイタズラを仕掛けようとしているのはもちろん彼のご令嬢ですよ。

 ──ね? 大事故になる予感しかないでしょう?

 そもそも、わざわざ『四月のイタズラ』デーに呼び出すなんて、何かやりますよって言ってるようなものじゃないですか!
 まぁ、それをやってしまうのが坊ちゃんの可愛いところなんですが……アホ可愛い。異論は認めません。

 イリガール嬢を待つ坊ちゃんの手の中には、小さな天鵞絨びろうど張りの箱が握られてます。そしてその小箱の中に蒼玉ブルースフィアを嵌め込んだ可愛らしい指輪が収まっているのを知ってます。ええ、護衛は知ってますとも!
 普通なら「あら、もしかしてプロポーズかしら?」なんて、思うところですよね?
 彼のご令嬢もそう思ってくれるでしょうかね? いや、99.9パーセント思わないでしょうね。普段甘い言葉の欠片もかけられておりませんからね。
 もちろんプロポーズなんかではなくてですね。その指輪にはある仕掛けが施されているんです。
 そんなに大層な仕掛けじゃないですよ? はめた瞬間に、ピリッと刺激がはしるくらいのものです。
 先日、同僚が面白いものが手に入ったと言ってこれを見せてきたものですから、ついうっかりその話を坊ちゃんにしてしまったんですよね。
 いや、俺は止めましたよ? 本当に止めましたけどもね。

「今年のイタズラはどうしようか悩んでたところだったんだ。助かった」

 とか言われて感謝されちゃった。

 それにしても、去年もこの日に酷い目にあったのを忘れちゃったんですかね?

「今年こそはアレクサンドラを驚かせてやる!」

 だなんて意気込んでましたけど……大抵毎年返り討ちにあってるのに懲りないなぁ。
 もしや、もしや、このループが快感に変わってるなんてことないと信じてますよ! 信じてますからね?!
 いやーどうにも怪しいんですよね。あの陛下にしてこの息子ありなのかもしれないなぁ、と思いつつある今日この頃です。

「おい、ブス! 喜べ! お前にこれをやる!」
「あら素敵な指輪ですこと! 嬉しいですわ! では殿下がはめてくださいますか?」
「あ、あれ……かわ……」

 あのご令嬢が笑っている……だと?
 ああ、もう嫌な予感しかない!
 坊ちゃんは微笑むご令嬢の顔を凝視して「アレクサンドラ可愛い……」とか口の中でちっちゃく呟いてますけど、多分それ彼女には聞こえてませんのでね。

 どうか。
 どうか坊ちゃんが五体満足で生きて帰れますように!
 俺はツンデレの神様に祈った。

 ご令嬢がすっと差し出した細く白い指。
 その手を取って、ちょっと顔を赤くする坊ちゃん──俺の目には(多分誰の目にも)好意は明らかだと思うんですけど、何で彼女は気づいてくれないんですかね、ホントに。
 そして、坊ちゃんがその指にそっと指輪を嵌めようとした瞬間……。

 ──指がポロっともげた。

「「「「……っ!!!」」」」

 時間も空気も一瞬で凍りつく。
 何が起きたのか誰にも分からないまま、その場の者全てが顔を蒼白にしたまま。時が止まった。
 坊ちゃんも、もげた指を手にしたまま固まってるし目が点になってる。

「あら、困ったわ、指が取れちゃったわ」

 なんて呑気な声が響いて……何と、ご令嬢は固まってる坊ちゃんの手から取れた指を抜き取って、パクパクと食べ始めた。
 指からは赤い液体がトロリと垂れて……ぎゃぁぁぁああーっ!

「ひっ……!」

 耐え切れずに坊ちゃんが気絶した。
 いや、坊ちゃんだけじゃなくて、部屋に控えていた侍女達も気絶してしまい、騎士たちが介抱する羽目になっているようだ。その騎士たちもまた、顔が青ざめている。

 え? 俺ですか?
 俺は何とか堪えましたよ。朝食べたものが口からこんにちはしそうになったことは、内緒ですからね!

 倒れた坊ちゃんをとっさに支えたのは彼のご令嬢で、坊ちゃんはそのまま彼女の膝の上へ倒れ込んだみたいですね。今現在、膝枕という奇跡が起きてます。
 坊ちゃん、坊ちゃん! 良かったですね坊ちゃん!
 夢のひとつが今叶いましたよ! 本人、白目剥いちゃってるけども。

「うふふ。ちょっぴりやりすぎちゃったわね。モーガンさん、後で殿下が気がつかれたら謝っておいてくれるかしら?」
「あの、その、指はご無事なんですか?」

 俺が倒れ込んだ坊ちゃんをソファーに横たえながら恐る恐る聞くと、ご令嬢はにっこり笑ってパッと左手を開いて見せてくれた。
 さっき食べたはずの薬指は、きちんとそこにあった。

「え……あの、いったい」
「驚かせちゃってごめんなさいね。さっきわたくしが食べたのは、餅粉を固めて中にラズベリージャムを入れた生菓子なのよ。本物の指は折り曲げていて、お菓子の指をくっつけていたのだけれど、つなぎ目を誤魔化すのが大変だったのよ。バレないかヒヤヒヤしちゃったわ。ふふ……」

 今度うちのお抱えの商会傘下のカフェで、販売しようと思ってるんです。是非モーガンさんも買いに来てくださいね。

 そう言って、実にいい笑顔で笑った。

 俺の名はローガンです、ご令嬢……。

 ううっ……でも、怖くて直接言えないや。

 そして、気を失っているはずなのに何だか少し嬉しそうな顔をしてた坊っちゃん。
 今、膝枕の夢でも見られているといいんですけど、ね。


──────────


「アレクサンドラの指が……指がっ!」

 それから数日、坊ちゃんは悪夢に悩まされることになりましたとさ。





(閑話 おしまい)
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