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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
(15)レッツ女子トーク(?)
しおりを挟む娼館や居酒屋の建ち並ぶ花街の、割といい土地にその店は建っている。
『カシペラ』
その名は神話に由来する。結婚の約束をした男女を引き裂いて見目麗しい男の方を天の国へ連れ帰ったのが、男神カシペラード。その際、引き裂かれた婚約者の涙が夜空に散って星になったとも言われている。
「あらァ~かわい子ちゃんたちいらっしゃ~い! 二名様ご案内よォ~」
私を迎えてくれたのは、騎士団と張り合うほどのガッチリした男性だった。もし、黙って立っていたら、お店の用心棒か何かと絶対勘違いしてたわ。
えっと、彼らのことは……なんて呼んだらいいのかしら? 普通にゲイ? でも、もし心が女性の場合はゲイは当てはまらないような……?
うーん……なんと呼べばいいかわからないからとりあえず『おねえさま』で!
店の中には、女性の格好をしている人もいればそうじゃない人もいる。割合的には半々な感じかしら。
だからか、女である私がいてもそれほど目立たないようだった。
誰もが生き生きとしているわね。
「そちらの男の子は二度目ね。また来てくれて嬉しいわ!」
「え……オレのこと覚えてるんですか? 半年も前に一回来ただけなのに?」
私の後ろから顔を覗かせたディモンが驚いていた。
そうそう。以前遊び半分でこの店に訪れた、うちの使用人その一がこのディモンなのよ。
「当たり前でしょ~! こちとら客商売なんだから。お客様の顔は覚えてなんぼよォ」
「な……るほど?」
ディモンが目をぱちくりさせていると、私たちの周りにわらわらと人が集まってきた。
「あらァ、いつかの子犬ちゃんじゃなァい! いらっしゃーい! 待ってたのになかなか来てくれないんだもの。あたし寂しかったわァ」
「ちょっと姉さん! 子犬ちゃんはあたしが狙ってるって話したわよね? その手をどけなさいよ!」
「何よ、指名されたわけじゃないんだから、まだあんたのものじゃないわよ!」
「お、オレはお嬢様のお側を離れるわけにはいかなくて!」
やっぱり彼を連れてきて正解だったわね。
彼を連れてきた私はあくまで同伴者だもの。ディモン効果で出身その他深くは詮索されないといいんだけど。
私は、そんな計算的思考を押し込めて、それはいい笑顔で彼のことを見送った。
「いいわよディモン、いってらっしゃい!」
「おっ、お嬢様ぁぁぁぁぁ──っ!」
あっという間に煌びやかなおねえさま方に囲まれたディモンは、ガッチリ両脇を挟まれて奥の席へと連れ去られた。
私の前に残ったのは、一番最初に出迎えてくれたガチムチ系の用心棒風おねえさま……おねえさまでいいのかしら? この人は女性の服を着ていないのね。
薄手のシャツの上から見ただけでわかるくらい、いい筋肉してるわ。剣を持たせたら騎士団にでもいそうな感じ。
おねえさまの方もまた、私を上から下までジロジロと眺めて尋ねた。
「それで? あなたは女でしょう? それにこんなところに来るような身分のお嬢さんじゃないはずだわ? 一体何が目的なのかしら?」
これでも、今は休暇中のマリーの代打で私の側付き侍女をやってくれてるシエラと相談して、町娘っぽく変装(?)したつもりだったのだけれど。
見る人が見ればいいとこの娘だってことはわかっちゃうのかぁ……。ま、さっき焦ったディモンが「お嬢様」とか口走ってたしね。……約束のおもちワッフルポイント一点減点しとこう。
「ただ……」
「ただ?」
「私の知り合いの話なんですけど。彼女の婚約者が他の人間に想いを寄せているらしいんです。それがどうやら同性のようで……それで、知り合いはその人の恋を応援したいのに、どうしたらいいかわからないみたいで。どうしたらいいか……是非アドバイスをください!」
「……ねェ、お嬢さん」
おねえさまは私をカウンターの席に座らせた後、オレンジジュースを出しながら言った。
「知り合いの話としての相談は、大抵本人のことだったりするのよ?」
ああ、至極もっともです……。
私は観念して、ジェラルドの名前だけを伏せて、店に来た経緯をかいつまんで話した。
「まぁ、あなたの婚約者は従兄弟に恋を?」
「ええ……彼は立場的にも、道ならぬ恋は周囲に認められない立場の人で……相手に告白することすら諦めていると思うんです」
「切ないわねェ」
「そうなんです! 切ないんです! 報われない想いを抱き続ける彼のことを思うと、何だか胸がぎゅーってなって……」
「でも、彼はあなたの婚約者なんでしょう? あなたはその婚約者を許せるの? 他の人を想っていながら、あなたと婚約を続けているその彼を。それは、浮気じゃないの?」
おねえさまにそう指摘されると、何故だか少しだけ胸の奥がチクリとした気がした。
──うん? 何故かしら?
「許せるも何も、彼との婚約は元々政略的なものですし、情はあっても愛はありません。それに、誰しも心の中は自由なのですわ。彼が誰を想っていても浮気ではありませんよ。ただ私は……できることならば彼の恋を叶えてあげたいのです!」
常日頃からブス呼ばわりしてくるあのモラハラ王子の方はと言えば、私への情さえあるかどうか怪しいけども。
それから。こんなことになって、ちょっぴり納得もしていることがあるのよね。
私だって、自分の美にはそれなりに自信があるけれども。確かに、彼と比べたら月とすっぽんかもしれない。
ジェラルドと同じくらい美人さんなリオルドを見てしまうとね。
こんな美少女アレクサンドラちゃんをブス呼ばわりするなんて、ジェラルドの目が腐ってんじゃないかと、以前から思っていたけれど、比較の対象がリオルドじゃ仕方ないわ。
これからは私のことをブス呼ばわりしても、寛容に受け止めてあげなくちゃね。
「あ、あなた……っ!!」
「……っ?!」
突然おねえさまにガシッと手を鷲掴みにされてびっくり。
「いい子ねっ!! もう、あたし全面的に協力するわよ?! それで? 何を聞きたいの?!」
前のめりになったおねえさまに若干引きつつ、私は答えた。
「男性同士の恋愛について色々とお伺いしたいのです!」
私もガシッと握り返したわよ。
「いいわよ! なんでも聞いてちょうだい、お嬢さん!」
「お嬢さんじゃなくて、ドーラとお呼びくださいおねえさまっ!」
「じゃああたしのことはおねえさまじゃなくてヴィヴィと読んでちょうだい!」
「ヴィヴィさん!」
「ドーラちゃん!」
そうして意気投合した私たちは、何とすっかり朝まで話し込んでしまったのだった。女子(?)トーク恐るべし。
気がついた時には空が白み始めていて、さすがの私も焦ってしまった。
すっかり酔いつぶれてしまったディモンは、そのまま置いて屋敷へ帰ることにしたんだけど……まぁ、彼も子供じゃないんだし自分でなんとかするでしょ。
問題は、まだお子ちゃまな私の方だわ……お父様たちに何て言い訳したものか。
今頃屋敷では、早起きした使用人たちによって私の不在が発見されて、大騒ぎになっているかもしれない。
久しぶりの失態に顔を青ざめさせていたら、ヴィヴィさんが屋敷まで一緒に来て、事情を説明して下さるとおっしゃった。
嬉しくてつい抱きついてしまったんだけど、めちゃくちゃいい筋肉してたわ!
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