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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
(19)悪役令嬢の侍女は想う
しおりを挟む奇跡が起きた。
なんと、リオルドもジェラルドのことが好きだったのよ!
多分……そうよね?
彼が私のことを何かと気にかけているように見えるのは、愛しい人(もちろんジェラルド)の婚約者がどんな人間か気になっていたからなのね。それに、ちょっかいをかけてくるのは嫉妬からだわ。
──ああ、私ってば思い合う恋人たちを引き裂いているわ!
待って。この状態は……まさに悪役令嬢じゃないのよ?!
なんてことなの。
そんなこと私も望んでないわよ。
彼らの恋を応援したい。
でも、私なんかに何ができるというの?
私にできることと言えば、ジェラルドとの婚約を解消するくらいだわ。
でも、この世界ではまだ同性同士の結婚は認められていない。
私がジェラルドとの婚約を解消したところで、彼にはまた別の婚約者があてがわれるだけよ。
彼らが一緒になれる可能性はかなり低い。
それならいっそ、二人の関係に理解のある私が隠れ蓑になるのはどうだろう?
そうすれば、彼らは好きな時に会えて愛を深め合えると思うの。私はジェラルドとは偽装結婚をして、白い結婚生活を送るのよ。
その方が、穏便な婚約解消よりも建設的じゃないかしら?
このまま二人のすれ違いを眺めているだけだなんて歯がゆすぎるわ!
あー、一体私はどうすればいいの?!
「とりあえず、お嬢様はこれ以上何もしない方がいいかと」
何だか、マリーの目が冷たいんだけど……今日はまだ高笑いしてないのにどうしてかしら?
「何もしなかったら二人はすれ違ったままかもしれないわ。そんなの切なすぎるでしょ?」
「まぁ、お二人の片想いが誰かさんには全く伝わらなくて、切なすぎるところにだけは同情いたしますが。お嬢様が要らぬお節介を焼くと、返って収まるものもおさまらないのでは?」
「何よ、失礼ね。わたくしだって全く考えなしじゃないわよ」
「そうでしょうかね? それに、もしもですよ? お嬢様がお二人の逢瀬を応援しようと考えて王子殿下と偽装結婚をしたとして、お嬢様はどうなるのですか?」
「えっ?」
「その計画にお嬢様の幸せはあるのかと、マリーは問うておるのです。お嬢様は幸せになれますか? あのクソバ……おっと……王子殿下はお嬢様と結婚すれば、正しい意味で幸せになれるかもしれませんが、お嬢様はそれでいいのですか? 毎日毎晩ブス呼ばわりされても、平気なのですか?」
「そ、それはっ! 平気ではないわ……思わず手が出るかもしれないし、そのうち食事に一服盛っちゃうかもしれないわ」
今までジェラルドにしていたのはあくまで報復で、処刑されないだろう範囲の『かわいい嫌がらせ』じゃなきゃいけなかったから、私なりのルールが存在していたのよね。
アレクサンドラのいじめ三ヶ条! ババン!
一つ、どんなにムカついても手足は出さないこと。
(暴力ダメ、絶対)
一つ、身体に害を及ぼす物は使用しないこと。
(毒とか刃物とか)
一つ、自分を犠牲にしてまでのイタズラはしないこと。
(自分の幸せも大事なの)
ジェラルドと偽装結婚したとしても、毎日顔を付き合わせる度に憎まれ口を叩かれたら……殺意がわいてきちゃうかもしれない。
そうしたら、あっさり三ヶ条を破って暗殺しちゃうかもしれないわ。
「お嬢様には愛し愛される方と出会って、幸せになって欲しいのです」
「マリー……」
私の幸せ……そうよね、私の幸せも大事だわ!
「まぁ、もしもの時はアレを調教し直せばいいだけですけど」
──ん? 今なんて……?
「いえ、なんでもありません。それに、お嬢様の幸せを願っているのは、何も私だけじゃございませんよ。旦那様も奥様も、ピーターさんもシエラも……この屋敷の者はみな、お嬢様の幸せを願っております。だのに、ご本人がそれを蔑ろにしないでください」
「……」
返す言葉もないわね。私もお父様やお母様、屋敷の皆が幸せであって欲しいもの。
──でも、私の幸せって何かしら?
私はお父様にもお母様にもマリーたちにも愛されていて、今でも充分幸せだと思うのだけど。
マリーが言うように、愛し愛される人と出会うことでもっと幸せになれるってこと?
アレクサンドラは外見も綺麗だけれど、前世の記憶を持ってる私としては、やはり私の内面を見て好きになってくれる人がいいわね。
美人は三日で飽きるって言うものね。
でも、私は今、この国の王子の婚約者だから、大手を振って次の婚約者候補探しをするわけにはいかないのが玉に瑕。
「そもそも、です。お嬢様は、殿下方に偽装結婚して欲しいとご依頼されましたか? されてませんよね? お嬢様のなさろうとしていることは、自己満足でしかないのですよ。殿下方は偽装結婚など望んではいないかもしれませんよ?」
マリーさんの仰ることが的確過ぎてグウのネも出ない。
確かに。
本人たちがそれを望んでいるとは限らないわ。
それに、私とジェラルドが偽装結婚したとしても、それは問題の先送りにしかならないのよね。
想い合う二人を引き裂く、私の立ち位置にも変わりはないし。
私ったら、自分で「本人の意志が大事。押しつけいくない」って言ってたくせに。本人たちの意志を無視して勝手に偽装結婚の話をしようとしていただなんて恥ずかしいわ。
「やっぱり偽装結婚よりも、まずは穏便な婚約解消の方がいいわよね?」
「はぁ……お嬢様……鈍感なのもほどほどにしないと、国際問題になりかねませんよ?」
「わかってるわよ! だからこうやって国際問題にせずに二人をくっつける方法を探しているんじゃないのよ」
「それを無駄な努力と言いたいのですがね……まぁ、お嬢様がそれで幸せになれるのならば、ようございましょ」
「?」
「お嬢様の幸せがマリーの幸せですからね」
「マリー……マリー、大好き! わたくし、あなたのことも幸せにしてあげるわ!」
「はいはい。それでは今度、旦那様との賃上げ交渉の場にお嬢様も同席してくださいましね。そしてちょっぴり口添えして頂けますか。それから、そろそろお休みになって私のお仕事を終わらせてくださいませ。それがマリーの小さな幸せにも繋がりますから」
「わかったわ」
私はこくこく頷いて、大人しくベッドに入った。
ジェラルドとリオルドもマリーも、もちろん私も。
みんなが幸せになれる方法があればいいのに。
私は部屋から退出するマリーの気配を感じながら、そんなことを考えていた。
──────────
次回、アレクサンドラの妄想が暴走します。
後4-5話程で終われればいいなぁ……。
10
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