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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
番外編 侍女の告白(マリー視点②)
しおりを挟む「ヴィヴィさんはどちらが勝つと思いますか?」
「わざわざこんな居酒屋なんかに呼び出すから何かと思ったら……知らないわよぉ~。それにしてもあのお嬢ちゃんの妄想が、まさかの王子様たちのことで、しかも勘違いだったなんてねぇ……」
目の前の筋肉男が、運ばれてきた串焼きを手に溜息をつきました。
私がお休みを頂いている間に、お嬢様は私が前々から興味があった花街の店『カシペラ』へ遊びに行ったそうで。
それに対して恨み言をちょっとばかり申し上げましたら、次は私も一緒に連れていってくれるという約束を取り付けたのですが。
色々と妄想でお忙しいお嬢様の手を煩わせるのも申し訳ないと思い、一人で勝手に遊びに行った次第です。
そうして知り合ったのが、この目の前の筋肉男ことヴィヴィさんですね。以来、ちょうどいい飲み仲間です。
「ええ。お嬢様は色恋沙汰に関しては鈍いにも程がありますからね。」
「まぁでも……確かに、子供の頃から憎まれ口叩かれてちゃ、相手がまさか自分のことを好きだなんて思わないわよねぇ」
「そうでございましょう? 私もあの王子はあんまり好かないのですよ。うちの可愛いお嬢様に向かってブス呼ばわりするクソ……じゃなくて最低人間ですからね」
「それ、言い直した意味ある? ……まぁいいわ。じゃあマリーちゃんは銀色の味方というわけね?」
そう言われた私はうーん、と悩むフリをします。本当は決めていたんですけど。
「クソとは腐れ縁ですしねぇ、金にかけようかしら」
「じゃあ、あたしは銀にかけるわね。負けた方はあたしの店の高級酒のボトルおごりね」
ちなみに金が金髪のジェラルド殿下で、銀が銀髪のリオルド殿下のことです。仮にも王子殿下の名前を、こんな場末の居酒屋で気安く呼ぶわけにはいかないので、隠語で呼んでおります。
「いいでしょう。負けませんよ」
「ぷっ! あんたが戦うわけじゃないでしょ!」
「そうですね」
「あんた、無表情で何考えてるかわかりにくいけど、話してみると面白いわよね。最初におひとり様で来店した時は本当に驚いたもの。女のくせに度胸あり過ぎでしょ」
「お褒めに預かり光栄です」
「あはは!褒めてないわよ!でも、本当に金の方にかけても後悔しないかしらん?」
「女に二言はありませんよ」
「ふふん。わかったわ。その勝負受けて立つわよ!」
「戦うのは金銀ですけどね」
私の言葉を聞いて不敵に微笑むヴィヴィさん。嫌な予感がしますねぇ……。
「ねぇ、マリーちゃん知ってた? 銀の方は隣国で冒険者やってるのよ? しかも結構腕の立つ、ね」
「えっ……」
情報の後出しずるいです。決闘の内容は魔獣狩りですから、冒険者の方が有利ですよね。
「うふふふ。高級ボトル楽しみにしてるわね!」
「うう……ぶ、分割払いできますか?」
「仕方がないわねぇ」
一息ついたところで、私は今日の本題を切り出しました。
「ところでヴィヴィさん!」
「はいぃ? えっ……びっくりしたわ。いきなり大声出して何なのよ?」
「一つ、ご提案というか、お願いがあるのですが」
ふぅー……さすがの私でも緊張しますね。テーブルについた手が少し震えます。
多分一生に一度のことだと思いますのでね。それも仕方ないです。
やはり女は度胸です!
「改まって何よ? 今、分割払いでも大丈夫だって言ったつもりだったんだけど、伝わらなかったかしら?」
「いえ、そうではなく」
「?」
「私と結婚してください!」
「は?」
あらま……ぽかんと口を開いたまま固まっておりますね。
こういうのは勢いが肝心です。
私は床に頭を擦り付ける勢いで土下座しながらもう一度言いました。
「どうか、私と、結婚してください!」
え? 突然過ぎる……ですか?
前々から考えていたところだったので、私にとっては突然ではないし、小説のような真実の愛に目覚めた訳でもありません。
「え……ちょっと……酔いが回ってるのかしら? 幻聴と幻影が見えるわ……」
「残念ながら幻聴でも幻影でもありません」
やはり私のパフォーマンスは、ヴィヴィさんの心を鷲掴みにしたようです。
ヴィヴィさんはまだ目をぱちくりとさせていました。うちのお嬢様には及びませんが、筋肉男のぱちくりはちょっと可愛いです。
「あなた、あたしが、」
「男性を愛する方だということは、もちろん存じております」
「じゃあ、何故……」
「失礼ながら。風の噂でヴィヴィさんのご実家のご事情などを耳にしまして……」
すると、彼(彼女)の眼光がたちまち鋭くなりました。
「あなた、一体何が目的なのよ? あたしと結婚すれば貴族の仲間入りできるとか考えてんじゃないでしょうね? 悪いけどあたしは三男だから爵位なんか継承できっこないわよ?」
「えっと……そうではありません。何て言ったらいいのか……私はあなたと偽装結婚……? 契約結婚……? 名目上は何でも良いのですが、とにかく家族になりたいのです」
「家族……?」
「ええ……」
「何故あたしなのよ? あなた、まだ若いし可愛いし、こんなおっさんよりもいい男はいっぱいいるでしょう?」
「私も三十路を超えましたし、若くはないですね。何より私は子供を産めませんので、普通にはお嫁にいけないのですよ」
「は?」
「……えー、少し話が長くなりますが聞いて頂けますか?」
「……ま、まぁ、話だけなら……」
渋々ではありますが頷いて下さったので、私はしばし自分語りをすることにしました。
ま、頷いて下さらなくても何だかんだと難癖つけて聞かせるつもりではありましたけれども。
✳︎今朝公開したはずの話が、今確認したら何故か非公開になっておりました。もし、お読み頂いていた途中でしたら申し訳ございません(>_<)
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