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(22)課長に命じられて調査中
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*虫描写注意続きますよ。
──────────
えー……っと、そんなわけで今俺は、ここカローの町のほぼ中央を流れているカロー川へと来ております。
この川は町をほぼ縦断していて、この主流から派生した支流が、水路を通して町中を四方に走っているようだ。
碁盤の目のように町中を走るこの水路が、この町の主な観光資源になっているらしいんだけど。
「きちゃない……川がきちゃない……あと臭い。死ぬほど臭い」
「先輩、代わりましょうか?」
「ううん。いいよ……胴長(※)これしかないからね。やる。俺は頑張るよ!」
「先輩、ファイトですよ!」
こんな時、可愛い女の子の黄色い声援でもあればやる気になるんだけどなぁ……。
メイシアとウメコはお留守番だし、鼻をつまんでる九重のおかしな声援じゃちょっと頑張れない。
今、俺が何をしてるかって? 端的に言えば川の調査である。
この町の生命線だと言われたこの川がねぇ……どよーんと澱んでいるんですよ。それはものすごく。
田舎の生活排水が流れる用水路を思い出すけど、淀み具合があれの比じゃないんだなこれが。
何かの要因で流れが滞っているのが、この淀みの原因っぽいのだが。
その原因を調べてこいと、俺は課長に言われたのだった。
そんでもって、副町長さんの家で胴長を借りてきてここにいるわけだけど。
川底のヘドロがちょっとした底なし沼化している。
灰色のヘドロって見たことある? ないよねー。俺も初体験! はっはっはっ……はぁ……。
──ゴポッ……ゴポッ!
これまたお借りした長い棒で、グリグリと灰色のヘドロを掻き回すと、ヘドロの下に溜まっていたガスの泡が水面に浮き上がって弾ける。
「ぐぅ……臭い……」
鼻栓が欲しい。何ならガスマスクでもいい。
課長と副町長の越後屋的会談の後、俺と九重は川の調査を命じられた。少し前にこの世界では上司も部下もないって言ってなかったかな、あのおっさん……。
あの吸血蚊柱は、ここ一ヶ月ほど前から起こり始めた現象らしい。
そこから課長が推測したのは、この澱んだ水路が奴らの発生源になっているのではないかということだった。
蚊はどうやって増えるか知ってる?
成虫が水の中に卵を産み付けて、それが孵化してボウフラになって、それが羽化して成虫になるんだよ。その間、約十日ほど。
だけど、水にある程度の流れがあると、ボウフラが流されちゃうから蚊が発生しにくいんだよね。
逆に言うと、留まっていたり澱んでいるところには発生しやすいってこと。
俺が足を踏み入れてるこのカロー川は、間違いなく後者だ。
「九重、サンプル送るぞ」
俺は水面の水と、水中の水と、底に溜まったヘドロをそれぞれ別のプラコップに入れた。岸に括りつけてあるカゴの中にそれらを入れると、今度は九重が引き上げた。
「はいはーい……あっ……うーん……はは……」
九重が苦笑いした理由はわかっている。
「すごいですね」
「ああ。うじゃうじゃいるよな」
何がって……アレが、だ。(食事中の方に配慮)
水面は濁っているため、中を見通すことはできないのだが、すくい上げるとその汚染具合がよくわかった。
何か、オタマジャクシみたいなのがうじゃうじゃしているのだ。
いやまぁ、その……それがオタマジャクシじゃないことはわかってる。
でも、想像するのはオタマジャクシの方が何千倍もマシでしょ?
「まぁ、町中に発生してる蚊柱は、間違いなくコイツらが原因だな」
「ですねぇ……」
ちなみに俺たちが今、作業に集中していられるのは虫除けスプレーのおかげだ。
しかもこれ、何と課長の手作りなんだって。
植物の『除虫菊』って知ってる?
俺は知らなかったんだけど、何やら蚊取り線香なんかにも使われている植物なんだそうだ。
それを使って作ったという虫除けスプレーなんだけど、驚いたことにこれがこの異世界の蚊に効果覿面だったのだ。
「ボウフラって、どうやって駆除するんだろうな? 生活の基盤になってる川だと、殺虫剤垂れ流すわけにも行かないしなぁ……」
「ああ、十円玉入れたらいいとかって聞いたことありません?」
「あー……銅か。試すにしても、こんだけ広い川だと大量に必要だよな。……いっそボウフラを食べる魚とかいればいいんだろうけどなぁ」
「ウメコちゃん、確か食べてましたよね?」
「いや、あれは食べられなかったんだろ」
ペッペッって吐き出してたし。吐き出したやつ俺の服に擦り付けてたし。
「サンプル取ったし、もう上がりますか?」
「そうねぇ……」
──ガツッ!
生返事を返しながら、相変わらず灰色ヘドロをグリグリしていると、棒の先がゴミか何か硬いものに当たった。
俺はそれを拾い上げてから、川の上流の方をじっと見つめた。
「……悪ぃ、九重。ちょっと課長呼んできてくんない?」
「あ、はい。わかりました!」
九重の後ろ姿が見えなくなってから俺は、不安定なヘドロの上をザバザバと歩いて、そこへ向かった。
──────────
*胴長……釣りとかで着る、胴から足先まで繋がったゴム製の作業着のこと。
*次話~カケルsideを数話挟みます。
《 登場人物覚書》
・近江幸(おうみ ゆき)……主人公。28歳会社員。勘がいい。
・五島薫(ごとう かおる)……近江の上司、課長。限りなくチートっぽい。
・九重理玖(ここのえ りく)……近江の同僚。後輩。三高イケメン男子。
・ウメコ……自称フェンリル。梅干し好き。
・メイシア=ルクソミー……大食らいの(元)聖女。青髪青眼。草原の真ん中に落ちていた。
・柴崎翔(しばさき かける)……近江のまた従兄弟。同僚。幼なじみ。偽装勇者。
・矢城遊花(やしろ ゆうか)……近江の同僚。好きだった女性。偽装聖女。
・アリステラ=バークリンド……バークリンド国の王女。美人。
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えー……っと、そんなわけで今俺は、ここカローの町のほぼ中央を流れているカロー川へと来ております。
この川は町をほぼ縦断していて、この主流から派生した支流が、水路を通して町中を四方に走っているようだ。
碁盤の目のように町中を走るこの水路が、この町の主な観光資源になっているらしいんだけど。
「きちゃない……川がきちゃない……あと臭い。死ぬほど臭い」
「先輩、代わりましょうか?」
「ううん。いいよ……胴長(※)これしかないからね。やる。俺は頑張るよ!」
「先輩、ファイトですよ!」
こんな時、可愛い女の子の黄色い声援でもあればやる気になるんだけどなぁ……。
メイシアとウメコはお留守番だし、鼻をつまんでる九重のおかしな声援じゃちょっと頑張れない。
今、俺が何をしてるかって? 端的に言えば川の調査である。
この町の生命線だと言われたこの川がねぇ……どよーんと澱んでいるんですよ。それはものすごく。
田舎の生活排水が流れる用水路を思い出すけど、淀み具合があれの比じゃないんだなこれが。
何かの要因で流れが滞っているのが、この淀みの原因っぽいのだが。
その原因を調べてこいと、俺は課長に言われたのだった。
そんでもって、副町長さんの家で胴長を借りてきてここにいるわけだけど。
川底のヘドロがちょっとした底なし沼化している。
灰色のヘドロって見たことある? ないよねー。俺も初体験! はっはっはっ……はぁ……。
──ゴポッ……ゴポッ!
これまたお借りした長い棒で、グリグリと灰色のヘドロを掻き回すと、ヘドロの下に溜まっていたガスの泡が水面に浮き上がって弾ける。
「ぐぅ……臭い……」
鼻栓が欲しい。何ならガスマスクでもいい。
課長と副町長の越後屋的会談の後、俺と九重は川の調査を命じられた。少し前にこの世界では上司も部下もないって言ってなかったかな、あのおっさん……。
あの吸血蚊柱は、ここ一ヶ月ほど前から起こり始めた現象らしい。
そこから課長が推測したのは、この澱んだ水路が奴らの発生源になっているのではないかということだった。
蚊はどうやって増えるか知ってる?
成虫が水の中に卵を産み付けて、それが孵化してボウフラになって、それが羽化して成虫になるんだよ。その間、約十日ほど。
だけど、水にある程度の流れがあると、ボウフラが流されちゃうから蚊が発生しにくいんだよね。
逆に言うと、留まっていたり澱んでいるところには発生しやすいってこと。
俺が足を踏み入れてるこのカロー川は、間違いなく後者だ。
「九重、サンプル送るぞ」
俺は水面の水と、水中の水と、底に溜まったヘドロをそれぞれ別のプラコップに入れた。岸に括りつけてあるカゴの中にそれらを入れると、今度は九重が引き上げた。
「はいはーい……あっ……うーん……はは……」
九重が苦笑いした理由はわかっている。
「すごいですね」
「ああ。うじゃうじゃいるよな」
何がって……アレが、だ。(食事中の方に配慮)
水面は濁っているため、中を見通すことはできないのだが、すくい上げるとその汚染具合がよくわかった。
何か、オタマジャクシみたいなのがうじゃうじゃしているのだ。
いやまぁ、その……それがオタマジャクシじゃないことはわかってる。
でも、想像するのはオタマジャクシの方が何千倍もマシでしょ?
「まぁ、町中に発生してる蚊柱は、間違いなくコイツらが原因だな」
「ですねぇ……」
ちなみに俺たちが今、作業に集中していられるのは虫除けスプレーのおかげだ。
しかもこれ、何と課長の手作りなんだって。
植物の『除虫菊』って知ってる?
俺は知らなかったんだけど、何やら蚊取り線香なんかにも使われている植物なんだそうだ。
それを使って作ったという虫除けスプレーなんだけど、驚いたことにこれがこの異世界の蚊に効果覿面だったのだ。
「ボウフラって、どうやって駆除するんだろうな? 生活の基盤になってる川だと、殺虫剤垂れ流すわけにも行かないしなぁ……」
「ああ、十円玉入れたらいいとかって聞いたことありません?」
「あー……銅か。試すにしても、こんだけ広い川だと大量に必要だよな。……いっそボウフラを食べる魚とかいればいいんだろうけどなぁ」
「ウメコちゃん、確か食べてましたよね?」
「いや、あれは食べられなかったんだろ」
ペッペッって吐き出してたし。吐き出したやつ俺の服に擦り付けてたし。
「サンプル取ったし、もう上がりますか?」
「そうねぇ……」
──ガツッ!
生返事を返しながら、相変わらず灰色ヘドロをグリグリしていると、棒の先がゴミか何か硬いものに当たった。
俺はそれを拾い上げてから、川の上流の方をじっと見つめた。
「……悪ぃ、九重。ちょっと課長呼んできてくんない?」
「あ、はい。わかりました!」
九重の後ろ姿が見えなくなってから俺は、不安定なヘドロの上をザバザバと歩いて、そこへ向かった。
──────────
*胴長……釣りとかで着る、胴から足先まで繋がったゴム製の作業着のこと。
*次話~カケルsideを数話挟みます。
《 登場人物覚書》
・近江幸(おうみ ゆき)……主人公。28歳会社員。勘がいい。
・五島薫(ごとう かおる)……近江の上司、課長。限りなくチートっぽい。
・九重理玖(ここのえ りく)……近江の同僚。後輩。三高イケメン男子。
・ウメコ……自称フェンリル。梅干し好き。
・メイシア=ルクソミー……大食らいの(元)聖女。青髪青眼。草原の真ん中に落ちていた。
・柴崎翔(しばさき かける)……近江のまた従兄弟。同僚。幼なじみ。偽装勇者。
・矢城遊花(やしろ ゆうか)……近江の同僚。好きだった女性。偽装聖女。
・アリステラ=バークリンド……バークリンド国の王女。美人。
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