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(31)大食らい
しおりを挟む俺が目を覚ますと、すでに朝日が昇っていた。
「信じられん!」
「だから、悪かったと言っておろうが」
モスキュリア(蚊女)のリアは、俺の目の前でブンブンと羽音を立ててホバリング中だ。
「こちとら失血死寸前だったんだぞ! ごめんで済めば警察要らんだろ!」
「……けいさつ?」
眉をひそめる彼女。
あああ、そうだった!この世界には『警察』はないのか!
「だから、わらわの血魔石をわけてやっただろう?」
「当然だろ、死ぬとこだったんだからな?!」
リアは昨日よりツヤツヤピカピカした顔でつまらなそうに呟いた。
「人間は脆いのう」
「普通だわ! お前が吸いすぎなんだ! やっぱり許せん! 成敗してやる!」
「わわっ! 待て待て待て──っ!!! 殺虫剤は仕舞え! こっちへ向けるなと言うに!」
俺がリアと追いかけっこをしてると、部屋のドアがガチャっと音を立てた。
「近江さん、朝食だそうで……きゃーっ!!! 蚊の魔族がいます──っ!!!」
──ザッバァァァァ────ッ!!!
部屋の中で豪雨にあうの巻。
「……」
「……」
こうして、部屋を水浸しにした俺とメイシアは、朝食抜きで部屋の掃除をする羽目になった。
部屋の惨状を目の当たりにした宿屋のおばちゃんがものすごく怖かった!
あんなに、チビりそうなほどビビったのは小学生以来だ。
ちなみにリアは、咄嗟に分体になってベッドの下に隠れたようで、聖女の水魔法で浄化されずに済んだらしい。
◇◇◇
掃除が終わったあとも、メイシアの顔色はまだ晴れなかった。
「ご、ごめんなさいっ! 皆さんを困らせるつもりはなかったんです。わたし、神殿でも失敗ばかりだったんです……ホントごめんなさい……」
「知らなかったんだから仕方ないな。ほら、これでも食べなさい」
課長はメイシアの口に梅干しを放り込んだ。
「むぐむぐ……美味しい! わたし梅干し好き!」
「課長の言う通りですよ! 僕たちにモンスターを手篭めにしたって知らせない先輩が悪いんですから! 報連相は大事ですよ、先輩」
「手篭めって、人聞きの悪いこと言うなよな? この場合、手篭めにされてんのどっちかっていうと俺なんだが? それに、俺もコイツが生きてることを、昨日知ったばっかなんだよ。どうしろってんだよ……」
「ちなみにわらわは、魔族でもモンスターでもないぞ。唯一無二のモスキュリアだからのう。それよりなんじゃ、この梅干しというのは? 随分と変わった味のする食べ物よの。しかし気に入った! この酸味がたまらん! 酸っぱいのぅ、酸っぱいのぅ」
──くふんくふん!
リアは、隙あらば俺の血を吸おうとしてくるので、課長が梅干しを口に放り込んだのだ。
どうやら、塩味と酸味の塩梅がお気に召したらしい。
もちろんウメコも、美味そうに梅干しを食べている。
ここから見える尻尾が、ブンブンとちぎれそうなほど左右に揺れているんだが。……あいつ、本当はやっぱり犬じゃないのか……?
それに課長ってば、避難訓練にどれだけ梅干し持ってきていたんだろう?
「おばちゃん、おかわり!」
「いやぁ、メイシアちゃん、相変わらずよく食べるねぇ! 見てて気持ちがいいよ! ちょっと待ってな」
反省時間短いな、おい。
すっかり立ち直ったメイシアが、宿屋のおかみさんにごはんをおかわりしていた。
「そういえば、お前たちは異世界から来たのであろう? 勇者の召喚に巻き込まれたのよな?」
リアが口をもごもごさせながら聞いてきた。
「はぁっ?! 何でお前がそんなことを知ってるんだ?!」
「まぁ、お前に関する大方のことは。何せお前の血から記憶をとみとったのでな」
彼女は涼しい顔で言った。
話してもいないのに知ってるとか、ストーカーちっくでちょっと不気味だ。
「元の世界へ戻れるとしたら戻りたいと思うか?」
「えっ……?!」
「それは、本当ですか?!」
「ぬ……?」
「……?(もぐもぐ)」
──もぐもぐ。
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