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仕事着なのか普段着なのかキチッとした貴族服に着替えて部屋に戻ってきたシュラーフェンに亮は寝かしつけについて要点をまとめて書いた紙を渡した。
「もう書いたのか」
「オレは仕事が早いできる男やからな」
フン、と胸を張る亮の前でシュラーフェンが懐から出した眼鏡をかけて紙に書かれた内容を読み始めた。
(美形の眼鏡姿! これまた、カッコよすぎるやろ!)
胸の内で悶えながらも、亮はそれを表に出さずに軽いノリで言った。
「宰相っていうのは、眼鏡をかけても様になるんやなぁ。眼鏡が似合う男って羨ましいわ。そういえば、オレの国の言葉で書いたけど大丈夫か?」
その問いに眼鏡の下のアイスブルーの瞳がチラッと動く。それから、すぐに視線が紙へと戻った。
「眼鏡に関してはおまえも似合うと思うがな。あと、この眼鏡は翻訳機能があるから問題ない」
「なんや、その超高性能な眼鏡! 凄い技術やん!」
「そのぶん、超高額になる。宰相の仕事で必要だから持っているだけだ。で、寝かしつけの報酬は何がいい?」
読み終わったシュラーフェンが眼鏡を外しながら訊ねる。
視線をずらせば、いつの間に入ってきたのか部屋の入り口に昨日、亮をこの世界に召喚した魔法使いが控えていた。その光景に元の世界に還るという実感が湧き出る。
(本当に還れるんやな)
ほんの少しの名残惜しさと寂しさを感じながら亮は茶色の髪をかいた。
「報酬って言われてもなぁ……特にほしいものも浮かばへんし」
「そうなのか?」
「せやで。オレって無欲やからな」
そう笑いながら、ふと探している子のことが浮かんだ。
(望むものを召喚できる魔法……それを使ったら、あの子を召喚できるんやろうけど……)
そこまで考えた亮はフッと軽く頭を横に振った。
「オレは元の世界に還れるだけで十分や」
「……そうか」
そう言って頷いたシュラーフェンがフードを深く被った魔法使いに小声で指示を出す。
すると、前に出て来た魔法使いが大理石の床に膝をついて何かを描き始めた。
「なにをしとんや?」
黙々と手を動かしている魔法使いの代わりにシュラーフェンが答える。
「おまえを元の世界に還す魔法陣を描いている」
「昨日、オレを召喚した魔法陣は使えへんのか?」
「…………あれとは別物だ」
妙な間に亮が首を捻る。
そこに魔法陣を描いていた魔法使いが立ち上がりシュラーフェンへ耳打ちをした。
「わかった」
返事とともにアイスブルーの瞳が亮を見下ろす。
「なんや?」
「もうらうぞ」
スッと大きな手が近づく。
「は? なにを……痛っ!?」
チクッとした痛みとともに太い指には一本だけ抜かれた茶色の髪の毛があった。
「なんで、オレの髪がいるんや? いや、その前にいるって言ってくれたらオレが自分で抜いたで」
人に抜かれるより自分で抜いた方が痛みはマシなのに、とブツブツと文句を言う亮を無視してシュラーフェンが自分の髪の毛も抜く。
そして、白銀と茶色の髪を揃えて魔法使いへ渡した。
「いや、なんでおまえの髪もいるんや? オレのは還るために必要とか言うなら分かるけど、おまえはここにいるから必要ないやろ」
「……細かいことは気にするな」
「たぶん気にしないといけないヤツやろ」
亮の疑問にアイスブルーの瞳がスッと逃げる。
「……気にするな」
「おまえ、実は嘘つくのが下手やな?」
その問いに答えはない。
視線を合わさないシュラーフェンに対して亮が体を寄せて下から覗き見ていると、魔法使いが声をかけてきた。
「帰還の魔法陣が描けました。リョウ様、魔法陣の上にお立ちください」
「……あ、そうか」
なんとなく後ろ髪を引かれるような感覚を覚えながらシュラーフェンから離れる。
立派な大理石の床に描かれた幾何学模様を組み合わせた魔法陣。この世界に来た時と若干違うようにも見えるが、還るためのものだからかもしれない。
そんなことを考えながら亮は魔法陣の上に立った。
自分を追いかけるように響く足音がやけに耳につく。
俯いていると背後から影がかかった。導かれるように振り返ると、無表情のまま立つ眉目秀麗な男と目があった。
どこかしょぼんとしたような、元気のない子犬のような姿になぜか笑みが漏れる。
「男前なんやから、オレを見習ってもう少し愛想よくせえよ」
「必要な時はしている」
「宰相だし、それぐらいは朝飯前か。いらん心配やったな」
フワッと足元の魔法陣が輝き出した。この世界に召喚された時と同じ光に亮の胸がざわつく。
何か伝え忘れたことがないかと言葉を探して、必死にしゃべった。
「ちゃんとオレが書いたことをして、しっかり寝るんやで! あと寝る前に酒は飲むなや! それと……」
誰かと別れる時、こんなに焦ったことはなかった。
どうして、こんな気持ちになるのか。たった一晩、寝かしつけをしただけなのに……
そんな亮の気持ちとは反対に魔法陣の光が視界を埋め尽くした。
次に目を開けた時、そこは見慣れた部屋だった。
「はぁ、戻ったんやな」
夢のような時間。いや、異世界に転移していたなんて、夢としか思われない。
「配信のネタにもならないし、誰にも言えへんな。とりあえず、シャワーでも浴びて……」
「……どこだ、ここは?」
突如、背後から聞こえた声に慌てて振り返る。
そこには、ついさっき別れたはずの眉目秀麗な男が白銀の髪を揺らしながらキョロキョロと訝しげに室内を観察していた。
「ちょっ、いや、なんで、おまえがここに!?」
指さして口をパクパクと動かす亮にシュラーフェンが軽く首を傾げた。
「おまえがほしいモノを言わなかったから、一番欲しいと思っているモノが召喚されるようにしたのだが……間違って私が召喚されたのか?」
その言葉に翡翠の瞳が丸くなる。
「オレが一番欲しいモノ……まさか!? いや、そんなはずは……」
「心当たりがあるのか?」
たしかに会いたいと願っている子の召喚を望んだ。ならば、幼い頃に会ったのは……
半信半疑のままシュラーフェンを見上げる亮。
一方のシュラーフェンは何事もなかったように淡々と頷いた。
「まあ、いい。還るだけなら、私の魔法でも還れる」
「そ、そうなのか?」
ホッとしつつ、寂しいと感じた気持ちに蓋をする。
「これでルートは完全に覚えた」
「ルート?」
亮が首を傾げると、薄い唇がフッと笑った。
「細かいことは気にするな」
「それ、絶対に気にしないといけないやつだろ!」
「気にするな」
そう言うと大きな手が伸びてきて優しく茶髪を撫でた。
穏やかなアイスブルーの瞳がふわりと見つめる。
「な、なんや?」
「おまえの声は心地良いな」
その言葉に翡翠の瞳が大きくなり、朧気だった記憶の底が叫ぶように激しく波打つ。
「……」
あまりの衝撃に声が出せない亮に綺麗な眉が残念そうにさがった。
「この後の予定が詰まっていてな。長居できないのだ」
言葉とともにフワッと蜃気楼のようにシュラーフェンの姿が揺れる。
「あ……え?」
思わず手を伸ばした亮にアイスブルーの瞳が柔らかく微笑んだ。
「また会おう」
白銀の髪が粉雪ように消え、甘い花のような香りだけが残る。
何も掴めなかった手がダランと落ちた。
「いや、まさか、嘘だろ……」
亮は両手で頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
(ずっと探していた子が、まさか……いや……)
考えれば考えるほど認めたくないと思ってしまう。だが、心は素直で寂しいという気持ちとともにシュラーフェンを求めていて……
「また会おうって言っていたし、気が向いたら会いに来るかもしれへんな」
微かな希望と願いのこもった声が小さな部屋に落ちた。
~※~
三日後。
亮は再び見覚えがある絢爛豪華な部屋に召喚されていた。
まさか、こんなに早くまた召喚されるとは思っていなかったため、唖然としたまま室内を眺める。何一つ変わっていない部屋。ただ、肝心のシュラーフェンの姿がない。
そのことに亮は残念のような、少しホッとしたような複雑な気持ちになった。
(三日とはいえ、どんな顔をして会えばいいか分からなかったしな)
シュラーフェンがずっと探していた子のような気がするが、確実な証拠がない。この三日間、自分にそう言い聞かせることで感情を誤魔化してきた。
「ってか、なんでまた突然、召喚や!? 前もって連絡ぐらいしろや!」
嬉しさを誤魔化すために怒っていると、フードを深く被った魔法使いがおずおずと出てきた。
「あ、あの、突然召喚をして、誠に申し訳ありません。その……リョウ様が書き残された安眠方法をすべておこなったのですがシュラーフェン様は眠ることができず……その、不眠のままでして……」
「え?」
目を丸くした亮に魔法使いが説明を続ける。
「人を変えて何度もおこなったのですが、それでも無理でして……」
少しの間を置いた後、言いにくそうに魔法使いが口を動かした。
「その結果、リョウ様がシュラーフェン様の寝かしつけ係に任命されました」
予想外すぎる展開に亮が盛大にツッコミを入れた。
「寝かしつけ係ってなんやねん! そのために召喚って、魔力の無駄使いやないんか!? そもそも、あいつも少しは寝る努力とかしとんか!? 人に頼り過ぎやろ!」
そこに聞き覚えのある足音が近づいてきた。
「ほら、寝かしつけろ。湯には浸かってきたぞ」
薄い寝間着を着て仁王立ちのシュラーフェン。相変わらず色気やら何やらが凄い。
その姿に亮は再会を喜ぶより先に怒鳴っていた。
「まずは、そのでかい態度をどうにかせえ!」
こうして、宰相の寝かしつけ係に任命された亮は夜な夜な召喚されることになるのだが、それはまた別のお話。
「もう書いたのか」
「オレは仕事が早いできる男やからな」
フン、と胸を張る亮の前でシュラーフェンが懐から出した眼鏡をかけて紙に書かれた内容を読み始めた。
(美形の眼鏡姿! これまた、カッコよすぎるやろ!)
胸の内で悶えながらも、亮はそれを表に出さずに軽いノリで言った。
「宰相っていうのは、眼鏡をかけても様になるんやなぁ。眼鏡が似合う男って羨ましいわ。そういえば、オレの国の言葉で書いたけど大丈夫か?」
その問いに眼鏡の下のアイスブルーの瞳がチラッと動く。それから、すぐに視線が紙へと戻った。
「眼鏡に関してはおまえも似合うと思うがな。あと、この眼鏡は翻訳機能があるから問題ない」
「なんや、その超高性能な眼鏡! 凄い技術やん!」
「そのぶん、超高額になる。宰相の仕事で必要だから持っているだけだ。で、寝かしつけの報酬は何がいい?」
読み終わったシュラーフェンが眼鏡を外しながら訊ねる。
視線をずらせば、いつの間に入ってきたのか部屋の入り口に昨日、亮をこの世界に召喚した魔法使いが控えていた。その光景に元の世界に還るという実感が湧き出る。
(本当に還れるんやな)
ほんの少しの名残惜しさと寂しさを感じながら亮は茶色の髪をかいた。
「報酬って言われてもなぁ……特にほしいものも浮かばへんし」
「そうなのか?」
「せやで。オレって無欲やからな」
そう笑いながら、ふと探している子のことが浮かんだ。
(望むものを召喚できる魔法……それを使ったら、あの子を召喚できるんやろうけど……)
そこまで考えた亮はフッと軽く頭を横に振った。
「オレは元の世界に還れるだけで十分や」
「……そうか」
そう言って頷いたシュラーフェンがフードを深く被った魔法使いに小声で指示を出す。
すると、前に出て来た魔法使いが大理石の床に膝をついて何かを描き始めた。
「なにをしとんや?」
黙々と手を動かしている魔法使いの代わりにシュラーフェンが答える。
「おまえを元の世界に還す魔法陣を描いている」
「昨日、オレを召喚した魔法陣は使えへんのか?」
「…………あれとは別物だ」
妙な間に亮が首を捻る。
そこに魔法陣を描いていた魔法使いが立ち上がりシュラーフェンへ耳打ちをした。
「わかった」
返事とともにアイスブルーの瞳が亮を見下ろす。
「なんや?」
「もうらうぞ」
スッと大きな手が近づく。
「は? なにを……痛っ!?」
チクッとした痛みとともに太い指には一本だけ抜かれた茶色の髪の毛があった。
「なんで、オレの髪がいるんや? いや、その前にいるって言ってくれたらオレが自分で抜いたで」
人に抜かれるより自分で抜いた方が痛みはマシなのに、とブツブツと文句を言う亮を無視してシュラーフェンが自分の髪の毛も抜く。
そして、白銀と茶色の髪を揃えて魔法使いへ渡した。
「いや、なんでおまえの髪もいるんや? オレのは還るために必要とか言うなら分かるけど、おまえはここにいるから必要ないやろ」
「……細かいことは気にするな」
「たぶん気にしないといけないヤツやろ」
亮の疑問にアイスブルーの瞳がスッと逃げる。
「……気にするな」
「おまえ、実は嘘つくのが下手やな?」
その問いに答えはない。
視線を合わさないシュラーフェンに対して亮が体を寄せて下から覗き見ていると、魔法使いが声をかけてきた。
「帰還の魔法陣が描けました。リョウ様、魔法陣の上にお立ちください」
「……あ、そうか」
なんとなく後ろ髪を引かれるような感覚を覚えながらシュラーフェンから離れる。
立派な大理石の床に描かれた幾何学模様を組み合わせた魔法陣。この世界に来た時と若干違うようにも見えるが、還るためのものだからかもしれない。
そんなことを考えながら亮は魔法陣の上に立った。
自分を追いかけるように響く足音がやけに耳につく。
俯いていると背後から影がかかった。導かれるように振り返ると、無表情のまま立つ眉目秀麗な男と目があった。
どこかしょぼんとしたような、元気のない子犬のような姿になぜか笑みが漏れる。
「男前なんやから、オレを見習ってもう少し愛想よくせえよ」
「必要な時はしている」
「宰相だし、それぐらいは朝飯前か。いらん心配やったな」
フワッと足元の魔法陣が輝き出した。この世界に召喚された時と同じ光に亮の胸がざわつく。
何か伝え忘れたことがないかと言葉を探して、必死にしゃべった。
「ちゃんとオレが書いたことをして、しっかり寝るんやで! あと寝る前に酒は飲むなや! それと……」
誰かと別れる時、こんなに焦ったことはなかった。
どうして、こんな気持ちになるのか。たった一晩、寝かしつけをしただけなのに……
そんな亮の気持ちとは反対に魔法陣の光が視界を埋め尽くした。
次に目を開けた時、そこは見慣れた部屋だった。
「はぁ、戻ったんやな」
夢のような時間。いや、異世界に転移していたなんて、夢としか思われない。
「配信のネタにもならないし、誰にも言えへんな。とりあえず、シャワーでも浴びて……」
「……どこだ、ここは?」
突如、背後から聞こえた声に慌てて振り返る。
そこには、ついさっき別れたはずの眉目秀麗な男が白銀の髪を揺らしながらキョロキョロと訝しげに室内を観察していた。
「ちょっ、いや、なんで、おまえがここに!?」
指さして口をパクパクと動かす亮にシュラーフェンが軽く首を傾げた。
「おまえがほしいモノを言わなかったから、一番欲しいと思っているモノが召喚されるようにしたのだが……間違って私が召喚されたのか?」
その言葉に翡翠の瞳が丸くなる。
「オレが一番欲しいモノ……まさか!? いや、そんなはずは……」
「心当たりがあるのか?」
たしかに会いたいと願っている子の召喚を望んだ。ならば、幼い頃に会ったのは……
半信半疑のままシュラーフェンを見上げる亮。
一方のシュラーフェンは何事もなかったように淡々と頷いた。
「まあ、いい。還るだけなら、私の魔法でも還れる」
「そ、そうなのか?」
ホッとしつつ、寂しいと感じた気持ちに蓋をする。
「これでルートは完全に覚えた」
「ルート?」
亮が首を傾げると、薄い唇がフッと笑った。
「細かいことは気にするな」
「それ、絶対に気にしないといけないやつだろ!」
「気にするな」
そう言うと大きな手が伸びてきて優しく茶髪を撫でた。
穏やかなアイスブルーの瞳がふわりと見つめる。
「な、なんや?」
「おまえの声は心地良いな」
その言葉に翡翠の瞳が大きくなり、朧気だった記憶の底が叫ぶように激しく波打つ。
「……」
あまりの衝撃に声が出せない亮に綺麗な眉が残念そうにさがった。
「この後の予定が詰まっていてな。長居できないのだ」
言葉とともにフワッと蜃気楼のようにシュラーフェンの姿が揺れる。
「あ……え?」
思わず手を伸ばした亮にアイスブルーの瞳が柔らかく微笑んだ。
「また会おう」
白銀の髪が粉雪ように消え、甘い花のような香りだけが残る。
何も掴めなかった手がダランと落ちた。
「いや、まさか、嘘だろ……」
亮は両手で頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
(ずっと探していた子が、まさか……いや……)
考えれば考えるほど認めたくないと思ってしまう。だが、心は素直で寂しいという気持ちとともにシュラーフェンを求めていて……
「また会おうって言っていたし、気が向いたら会いに来るかもしれへんな」
微かな希望と願いのこもった声が小さな部屋に落ちた。
~※~
三日後。
亮は再び見覚えがある絢爛豪華な部屋に召喚されていた。
まさか、こんなに早くまた召喚されるとは思っていなかったため、唖然としたまま室内を眺める。何一つ変わっていない部屋。ただ、肝心のシュラーフェンの姿がない。
そのことに亮は残念のような、少しホッとしたような複雑な気持ちになった。
(三日とはいえ、どんな顔をして会えばいいか分からなかったしな)
シュラーフェンがずっと探していた子のような気がするが、確実な証拠がない。この三日間、自分にそう言い聞かせることで感情を誤魔化してきた。
「ってか、なんでまた突然、召喚や!? 前もって連絡ぐらいしろや!」
嬉しさを誤魔化すために怒っていると、フードを深く被った魔法使いがおずおずと出てきた。
「あ、あの、突然召喚をして、誠に申し訳ありません。その……リョウ様が書き残された安眠方法をすべておこなったのですがシュラーフェン様は眠ることができず……その、不眠のままでして……」
「え?」
目を丸くした亮に魔法使いが説明を続ける。
「人を変えて何度もおこなったのですが、それでも無理でして……」
少しの間を置いた後、言いにくそうに魔法使いが口を動かした。
「その結果、リョウ様がシュラーフェン様の寝かしつけ係に任命されました」
予想外すぎる展開に亮が盛大にツッコミを入れた。
「寝かしつけ係ってなんやねん! そのために召喚って、魔力の無駄使いやないんか!? そもそも、あいつも少しは寝る努力とかしとんか!? 人に頼り過ぎやろ!」
そこに聞き覚えのある足音が近づいてきた。
「ほら、寝かしつけろ。湯には浸かってきたぞ」
薄い寝間着を着て仁王立ちのシュラーフェン。相変わらず色気やら何やらが凄い。
その姿に亮は再会を喜ぶより先に怒鳴っていた。
「まずは、そのでかい態度をどうにかせえ!」
こうして、宰相の寝かしつけ係に任命された亮は夜な夜な召喚されることになるのだが、それはまた別のお話。
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あっという間に一気読みしてしまいました。
他の作品も読みに行ってきます!
楽しんでいただけて嬉しいです!
しかも、他の作品まで読んでいただけて!
作者冥利に尽きます!
感想ありがとうございました!!
素直なのに素直じゃない態度しちゃうところが可愛いです!!今後の続きが気になります♪
今後の2人は私も気になります!
どちらが受けでどちらが攻めになるのか……
時間とネタができたら続きを書きたいと思います!
感想ありがとうございました!