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人間へ、2018

人間へ、2018 第一話

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 この村について調べてる?

 そうだったんですか。めずらしい方ですね。えぇ、っと……。俺が名乗った時に、あなたの名前も一緒に聞いておけば良かったですね。

 コウさん、というんですね。ペンネームみたいなものでしょうか。もしかして俺、むかし、コウさんと面識があったりしますか。いえなんか見覚えがあるな、って。あと、ほら、さっき俺が、大木、って名乗った時、ちょっとあなたの反応が不思議だったんで。コウさんも、もしかしたらここに住んでいたことがあったんじゃないか、って思ったんです。

 知り合いに似てた?

 ……そうですか。

 ここね。俺の小学校の時の同級生が経営している喫茶店なんですけど、村で一番人気のお店なんですよ。って言っても、他に喫茶店がないだけの話なんですが。あちゃ、あいつに聞かれちゃったな。睨んでる睨んでる。怒るなよ、悪い悪い。まったく……。あぁすみません、彼とは子どもの頃から仲が良くて。まぁでも味は本当に良いですよ。お薦めです。

 でも、びっくりしましたよ。誰も住んでいない家をずっと眺めているひとがいるから危ないって注意するだけのつもりだったのに。いきなり、この辺りの過去について知りたい、なんて言い出すから。ライターをしている、っていうのも嘘じゃないか、実はちょっと疑ってたんですけど、まぁでも俺にそんな嘘をついても、なんも得がありませんからね。信じますよ。現地取材みたいなものでしょうか。こんな面白みのない村に、そんな取材対象になるものがあるとしたら、さっきの家族のことでしょうか。……そうですよね。村ではあの頃、騒ぎになりましたからね。

 あっ、おい、どっか行くのか。

 買い出し? いや、客がいる時に行くなよ。お前なら別にいいかな、って……。俺だけなら、いいけど、きょうはコウさんも……あぁ、まぁいいか。誰かが来たら待っててもらうから、早く帰って来いよ。

 ……行っちゃいましたね。自分勝手な性格なんです、むかしから。

 でも、好都合かもしれません。あの家のことは、あまり聞きたくないでしょうし、特に俺たちはあそこの息子さんとクラスメートでしたから。

 コウさんは、都市伝説ライターみたいな感じのひとなんですか、いえ実は俺、最近開設された「現代の都市伝説を追え」って結構話題になっているブログが好きで、実はああいう話に目がないんです。意外でしょ。いや……初めて会ったひとにそんなこと言われても困りますよね。よく見た目に反して、意外だ、なんて言われるんです。

 でもあの家族のこと、俺はあんまり知らないんです。

 さっきも言ったように詐欺で負った借金を苦に夫婦が自殺した、っていうくらいしか。

 会ったことですか?

 その夫婦と会ったことはたぶんありません。たぶん、というのは、こんな狭いコミュニティですし、それに同級生のご両親ですからね、見たことぐらいはあるはずなんですが、全然覚えてなくて……。

 息子さん、ですか……?

 うーん……、俺とその子の関係って、ちょっと複雑で、なんと言えばいいのか困ってしまうところもあるんですが……、実は俺、彼から小学校の低学年の頃、いじめを受けていた、って言われてるんです。

 煮え切らない言い方になってしまって、すみません……どう説明しようかな……。確かに俺が、その子からちょっと嫌なことをされていたのは事実なんです。……で、まぁ俺、不登校だった時期があって、その一番の原因が彼だ、ってクラスメートのみんなは思っていて、それは間違いではないんですけど、すこしだけ事情が違う、というか……。

 俺の母親なんですけど、ちょっと異様なほど過保護なところがあるんです。子ども同士の喧嘩の延長線上にある、と俺自身は思っていたものに口を挟んできた母が、俺と彼の関係を複雑にしてしまって。その子の家に怒鳴り込んでいって、お前の息子が自分の息子をいじめた、って感じでね。周囲には悪評をばらまいて、俺や親父がなだめても聞いてくれなくて。最初は俺のためにやってくれていたんだとは思うんですけど、途中からは俺なんかどうでもよくて、自分のためだけにやっていましたね、あれは。

 あの子、クラスでも、いつもすごく怯えたようになって、加害者意識が強くなっていくのが見ていて分かりました。

 気にしなくていい、と言いたかったんですけど、俺も俺で自分のことでいっぱいいっぱいだった、というか。……ある日から俺、学校に行けなくなっちゃって……、母親から学校に行くな、って閉じ込められるようになって。

 こんな話、母親が死んだいまだからできるんですけどね。

 どうしたんですか?

 顔色が悪いですけど。嫌な話を聞かせちゃったせいですね。すみません……。

 本当に、大丈夫ですか?

 話の続き……? え、えぇ……、では続けますね。

 その子なんですけどね。行方不明になったのは、俺が学校に行けてなかった時期です。さっきも話しましたけど、あの頃、村に不審者のおじさんが出る、っていう噂があって、誘拐されたんじゃないか、と学校とかだけじゃなくて、村全体がちょっとした騒動になっていたので、俺の耳にもしっかりと入ってきました。もしかしたら家出の可能性だってありますが、小学生にできる家出なんてたかがしれている。

 だからおそらく誘拐されてしまったんじゃないか、と……。

 卒業アルバムの集合写真にはその子以外が全員そろっていて、彼だけが欠席者扱いになっていて、それを見るたびに、その行方不明と俺は関係ないはずなのに罪悪感で苦しくなる……あ、いえ、すみません。こんな話を聞かされても、困りますよね。いままで誰にも話してこなかったのに……、なんでだろう、コウさんの顔を見ていると……。

 欠席者、ですか?

 いなかったのは彼だけですよ。他は全員そろっていました。俺も六年生の時には学校に復帰できていましたし、だからあの子さえいれば、六年間、最初から変わらない同じ面子がひとりも欠けることなく、そろうはずだったんですが……。
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