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インタールード
インタールード 1
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まるでそれが終了の合図とでも言うかのように、小野寺さんが大きく息を吐いた。
彼のまなざしが、僕に向く。どうだった、と尋ねられている気分になった。どこまでが真実だったんですか。まず何よりも聞きたいと思った言葉を、僕はぐっとのみ込む。怪談を語り合う場で、あまり無粋過ぎる言葉だ。僕もビギナーじゃない。それくらいの常識はわきまえているつもりだ。ただ普段ならば、そんなこと脳裏をよぎることもない。
だけど、この話が真実ならば、小野寺さんは殺人者、ということになる。さらに言うなら、司法の裁きさえ受けていないことになる。
そんなことあるわけないし、あってはいけない……はずなのだが、小野寺さんの語りの響きは、嘘をつく人間のそれではなかった。
僕はともされた灯りに浮かぶ、小野寺さん以外の顔を見る。他のひとたちは驚いたような表情をしていない。事前にこの話を聞いていたメンバーが驚いていないのなら分かるが、小野寺さんの言葉が確かならば、新倉さんと夢宮くんは初めて聞く話になるはずだ。目の前に殺人を犯した人間がいるのに、なんでそんなに平然としているんだ。同じく元から知っていたかのように。
とは言っても、僕が口に出さない以上、誰かが僕の疑問に答えてくれるわけでもない。
「この話、聞くのは二度目ですが、本当に怖い話ですね」
と、神原が本当に怖いとは思っていないような表情で言った。次の話へと進めるための合図みたいな言葉だ。
実際、神原の言葉に続くように、小野寺さんが、
「先頭バッターにはちょうどいいくらいの怖さだろう。……で、次は――」
と言い掛けた。言葉が途切れてしまったのは、スマホの着信音が鳴ったからだ。
「あっ、すみません。俺ですね」
神原のスマホだった。
「こういう時は、せめてマナーモードくらいに」
と責めるような色を混ぜて、新倉さんが言った。
「申し訳ない。鈴木さんからなんで、許してください」
そう言って神原が席を外す。全員の集中が逸れたような感じで、誰かがはっきりと言葉にしたわけではないものの、小休止を挟む流れになった。
「外の空気、吸ってくる」
と、相瀬さんが玄関に向かう。
僕はまた、トイレを貸してください、と席を外す。
何度もトイレに行く僕を、周りは不思議に思ったかもしれない。当然、トイレがしたくなったわけではない。僕のスマホに、ショートメッセージの返信があったことを告げる振動があったからだ。
一緒に外に出て、相瀬さんとふたりで話したい気持ちはあったが、周りに不審がられるのは避けたい。僕自身はあまり嫌ではないのだが、彼女は絶対に嫌がりそうな雰囲気だ。
便器に座り、スマホの画面を見ると、
『みんなを信じ過ぎちゃだめ』
それだけが書かれていた。詳しい理由はまったくない。これも恐怖の演出のひとつで、僕を怖がらせようとでもしているのだろうか。だけど彼女は何か勘違いしてる。僕はもともと他人をそんなに信じていない。
素性の違う人間がいるとしても別に驚かない。過去にもこういう集まりで、いわゆるやばい人間に会ったことは何度かあった。
リビングに戻ると、もうみんな戻ってきていた。
「鈴木さん、すこし遅くなるそうです」と神原が言った。「いつになるか曖昧ってことだったので、話の順番に鈴木さんのことを気にし過ぎる必要もないと思いますが……」
「でも鈴木さんが知ってる、って意味では、私でもいいような気も――」
「あっ、私、先でもいいですか?」
相瀬さんの言葉をさえぎるように、新倉さんが言った。
「どうして?」
「いえ、勘なんですけど、相瀬さんの話、めっちゃ怖そうなので、二番目は私のくらいがちょうどいいかな、って」
「私は、別にどちらでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、私だ」
新倉さんが嬉しそうに笑う。
性別のことをやたらと言うのはどうかと思うが、本当に男性なのだろうか、と感じてしまう。男性、という事実を忘れさせる細かい仕草が、彼にはある。
また部屋が暗くなり、そして彼の話がはじまる。
さっきと同じ違和感だ。
みんなで話し合う場のはずなのに、何故か語り手である彼はじっと僕の顔を見ている。あなただけに話している、と言うかのような彼の眼差しを受けながら、僕の背にひんやりとしたものがつたう。
彼のまなざしが、僕に向く。どうだった、と尋ねられている気分になった。どこまでが真実だったんですか。まず何よりも聞きたいと思った言葉を、僕はぐっとのみ込む。怪談を語り合う場で、あまり無粋過ぎる言葉だ。僕もビギナーじゃない。それくらいの常識はわきまえているつもりだ。ただ普段ならば、そんなこと脳裏をよぎることもない。
だけど、この話が真実ならば、小野寺さんは殺人者、ということになる。さらに言うなら、司法の裁きさえ受けていないことになる。
そんなことあるわけないし、あってはいけない……はずなのだが、小野寺さんの語りの響きは、嘘をつく人間のそれではなかった。
僕はともされた灯りに浮かぶ、小野寺さん以外の顔を見る。他のひとたちは驚いたような表情をしていない。事前にこの話を聞いていたメンバーが驚いていないのなら分かるが、小野寺さんの言葉が確かならば、新倉さんと夢宮くんは初めて聞く話になるはずだ。目の前に殺人を犯した人間がいるのに、なんでそんなに平然としているんだ。同じく元から知っていたかのように。
とは言っても、僕が口に出さない以上、誰かが僕の疑問に答えてくれるわけでもない。
「この話、聞くのは二度目ですが、本当に怖い話ですね」
と、神原が本当に怖いとは思っていないような表情で言った。次の話へと進めるための合図みたいな言葉だ。
実際、神原の言葉に続くように、小野寺さんが、
「先頭バッターにはちょうどいいくらいの怖さだろう。……で、次は――」
と言い掛けた。言葉が途切れてしまったのは、スマホの着信音が鳴ったからだ。
「あっ、すみません。俺ですね」
神原のスマホだった。
「こういう時は、せめてマナーモードくらいに」
と責めるような色を混ぜて、新倉さんが言った。
「申し訳ない。鈴木さんからなんで、許してください」
そう言って神原が席を外す。全員の集中が逸れたような感じで、誰かがはっきりと言葉にしたわけではないものの、小休止を挟む流れになった。
「外の空気、吸ってくる」
と、相瀬さんが玄関に向かう。
僕はまた、トイレを貸してください、と席を外す。
何度もトイレに行く僕を、周りは不思議に思ったかもしれない。当然、トイレがしたくなったわけではない。僕のスマホに、ショートメッセージの返信があったことを告げる振動があったからだ。
一緒に外に出て、相瀬さんとふたりで話したい気持ちはあったが、周りに不審がられるのは避けたい。僕自身はあまり嫌ではないのだが、彼女は絶対に嫌がりそうな雰囲気だ。
便器に座り、スマホの画面を見ると、
『みんなを信じ過ぎちゃだめ』
それだけが書かれていた。詳しい理由はまったくない。これも恐怖の演出のひとつで、僕を怖がらせようとでもしているのだろうか。だけど彼女は何か勘違いしてる。僕はもともと他人をそんなに信じていない。
素性の違う人間がいるとしても別に驚かない。過去にもこういう集まりで、いわゆるやばい人間に会ったことは何度かあった。
リビングに戻ると、もうみんな戻ってきていた。
「鈴木さん、すこし遅くなるそうです」と神原が言った。「いつになるか曖昧ってことだったので、話の順番に鈴木さんのことを気にし過ぎる必要もないと思いますが……」
「でも鈴木さんが知ってる、って意味では、私でもいいような気も――」
「あっ、私、先でもいいですか?」
相瀬さんの言葉をさえぎるように、新倉さんが言った。
「どうして?」
「いえ、勘なんですけど、相瀬さんの話、めっちゃ怖そうなので、二番目は私のくらいがちょうどいいかな、って」
「私は、別にどちらでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、私だ」
新倉さんが嬉しそうに笑う。
性別のことをやたらと言うのはどうかと思うが、本当に男性なのだろうか、と感じてしまう。男性、という事実を忘れさせる細かい仕草が、彼にはある。
また部屋が暗くなり、そして彼の話がはじまる。
さっきと同じ違和感だ。
みんなで話し合う場のはずなのに、何故か語り手である彼はじっと僕の顔を見ている。あなただけに話している、と言うかのような彼の眼差しを受けながら、僕の背にひんやりとしたものがつたう。
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