1 / 2
一番大切な才能は?
しおりを挟む
かなり昔の話なんだけど、俺、小説の神様に会ったことがあるんだ。
小説に興味があったわけじゃないし、物語なんて一度も書いたことがない俺の眼の前にそいつは急に現れて、
こんなことを言ったんだ。
「お前が小説家になるための才能を三つ与えよう」って。そいつは、小説のしの字も知らないような俺に、選択肢を並べて、「さぁ、選べ」と続けたんだ。そこには小説家を志望するような者なら喉から手が出る欲しいだろう、才能の欠片たちが七、八個は並んでいたかな。
小説に興味がなかったら必要ないだろう、って?
友達ってほどの関係じゃなかったんだけど、高校時代の同級生に小説を書いてるやつがいて、さ。コンテストに応募するために、隙間の時間を見つけては毎日こつこつと文章を書いていたらしくて、一度あいつに聞いたことがあるんだ。「コンテスト用の小説って、どのくらいの量、書くんだ?」ってね。その量の多さにめまいを起こしそうになったよ。俺なんて小学校の頃、作文が一行も書けなくて居残りになったくらいなのに。正直、すこし馬鹿にもしてたんだ。その時間、受験勉強にでも費やしてたら、あいつならもっと有名な大学に入れただろうし、苦労の大きさに対して実りがすくない感じがして、俺はもっと、てっとり早く、楽に成功したい、って思っちゃったんだ。
卒業するすこし前くらいだったかな。あいつの書いた小説が結構名の知れた小説コンテストで佳作になったんだ。有名な文芸誌に作品も掲載されたらしくて、……と言っても俺は小説雑誌のことなんて何も分からないから、あまりぴんと来なかったんだけど、でも、それまでどちらかと言えば目立たなかったあいつが急に学校内で注目を浴びだす姿は嫌でも目に付いた。柄にもなく誰にも見つからないようにこっそりその雑誌を買ったりしてな。なんだよ、こんなもん俺にも書けるわ、なんて思ったりもしたな。妬ましかったんだろうな。小説であることはどうでも良かった。ただただあいつが脚光を浴びる姿に、心の内でもやもやとした感情がめぐっていた。プロ野球選手とかは逆立ちしても無理だけど、あのぐらいなら……ってね。
あの神様に出会ったのは、その出来事のすぐ後だった。なんで俺に……、って思ったけど、こんな気持ちがあったから、俺もその才能が欲しくて仕方なかったんだ。
・優れた文章力
・先の読めない秀逸な展開
・誰も思い付けない斬新なオチ
この三つの才能を選んで、その神様から「確かに渡したぞ」って言われたんだけど、いまだに俺自身、本当にこの能力を得たのかどうか知らないんだ。だって俺は結局、一度も小説を書けなかったから。
小説を書きたい、っていう衝動もなければ、一歩目を踏み出そうとする度胸もなかったから。他力本願から始まるスタートじゃなかったら違う結果になっていたのかもしれないな。
えっ、あいつ?
書店に行けば、あいつの本が普通に並んでいるよ。この間、あいつと偶然呑む機会があって、酔った勢いでこの話をしたら、笑いながら「志賀直哉?」って言われて、その時は意味が分からなくて首を傾げるしかできなかったよ。
なんでこんな話をしたか、って?
いつかお前が、やりたいこと、これからのことに悩んだ時のために頭の片隅にでもとどめておいて欲しい、と思ったからだよ。
小説に興味があったわけじゃないし、物語なんて一度も書いたことがない俺の眼の前にそいつは急に現れて、
こんなことを言ったんだ。
「お前が小説家になるための才能を三つ与えよう」って。そいつは、小説のしの字も知らないような俺に、選択肢を並べて、「さぁ、選べ」と続けたんだ。そこには小説家を志望するような者なら喉から手が出る欲しいだろう、才能の欠片たちが七、八個は並んでいたかな。
小説に興味がなかったら必要ないだろう、って?
友達ってほどの関係じゃなかったんだけど、高校時代の同級生に小説を書いてるやつがいて、さ。コンテストに応募するために、隙間の時間を見つけては毎日こつこつと文章を書いていたらしくて、一度あいつに聞いたことがあるんだ。「コンテスト用の小説って、どのくらいの量、書くんだ?」ってね。その量の多さにめまいを起こしそうになったよ。俺なんて小学校の頃、作文が一行も書けなくて居残りになったくらいなのに。正直、すこし馬鹿にもしてたんだ。その時間、受験勉強にでも費やしてたら、あいつならもっと有名な大学に入れただろうし、苦労の大きさに対して実りがすくない感じがして、俺はもっと、てっとり早く、楽に成功したい、って思っちゃったんだ。
卒業するすこし前くらいだったかな。あいつの書いた小説が結構名の知れた小説コンテストで佳作になったんだ。有名な文芸誌に作品も掲載されたらしくて、……と言っても俺は小説雑誌のことなんて何も分からないから、あまりぴんと来なかったんだけど、でも、それまでどちらかと言えば目立たなかったあいつが急に学校内で注目を浴びだす姿は嫌でも目に付いた。柄にもなく誰にも見つからないようにこっそりその雑誌を買ったりしてな。なんだよ、こんなもん俺にも書けるわ、なんて思ったりもしたな。妬ましかったんだろうな。小説であることはどうでも良かった。ただただあいつが脚光を浴びる姿に、心の内でもやもやとした感情がめぐっていた。プロ野球選手とかは逆立ちしても無理だけど、あのぐらいなら……ってね。
あの神様に出会ったのは、その出来事のすぐ後だった。なんで俺に……、って思ったけど、こんな気持ちがあったから、俺もその才能が欲しくて仕方なかったんだ。
・優れた文章力
・先の読めない秀逸な展開
・誰も思い付けない斬新なオチ
この三つの才能を選んで、その神様から「確かに渡したぞ」って言われたんだけど、いまだに俺自身、本当にこの能力を得たのかどうか知らないんだ。だって俺は結局、一度も小説を書けなかったから。
小説を書きたい、っていう衝動もなければ、一歩目を踏み出そうとする度胸もなかったから。他力本願から始まるスタートじゃなかったら違う結果になっていたのかもしれないな。
えっ、あいつ?
書店に行けば、あいつの本が普通に並んでいるよ。この間、あいつと偶然呑む機会があって、酔った勢いでこの話をしたら、笑いながら「志賀直哉?」って言われて、その時は意味が分からなくて首を傾げるしかできなかったよ。
なんでこんな話をしたか、って?
いつかお前が、やりたいこと、これからのことに悩んだ時のために頭の片隅にでもとどめておいて欲しい、と思ったからだよ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
後の祭り
ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる