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あやめの現代での奮闘7

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 「たっだいま~!」

 「おかえり~・・・・って!おい!?またかなり買い込んで来たんじゃない!?」

 「そうなんだよ。実はな・・・」

 相変わらず武蔵様はジャージだけど、昨日より顔色が良いように見える。たみふるなる薬は相当に効き目がいいのでしょう。

 聞けば症状により薬が異なると一ノ瀬様に教えてもらいました。私達の世界ならどの症状も基本的には薬が同じでしたが、よくよく考えてみれば症状が違うのに同じ薬とはおかしな話でした。

 勉学とは大事な事だと思いましたね。こちらに来て色々学びました。向こうでは当たり前の事が通用しない。それは分かりきってはいますが、まさか薬学の事をまざまざと知らされるとは思いもよりませんでしたね。

 しかも聞けば『こんな事くらい私の弟でも知ってる事ですよ?ただの風邪なのに胃薬を飲んでも治らないでしょう?』

 至極当然な事だ。その場その時に必要な薬を出してこそ薬師というものです。未来でも万能薬はないと言っていました。そこに関しては少しガッカリです。

 かつて薬師の里とまで巷では言われた甲賀・・・その名をまたいつか・・・

 「お姉ちゃん!お姉ちゃん!?」

 「あっ!なに?いろは?」

 「早く!お土産渡さないと!」

 「そうだった!武蔵様!お土産買ってきました!ドラッグストアなる場所にて売っていました!男の力漲ると書いていました!スッポンの力だそうです!これを飲んで早くインフルエンザなる病魔を追い出してください!」

 「え!?す、スッポンの力・・・」

 「私からはこれです!生命力の化身マムシです!」

 「マムシ・・・」

 「え~っと・・・武蔵?まぁ2人が選んでくれたんだ。夜にでも飲んでおけよ?なぁ?」

 「お、おぅ。里志君もそう言ってるし夜にでも飲もうか。いろはちゃん?あやめさん?ありがとう。こ、これを飲めば早く治りそうだよ」

 これは薬ではなく滋養強壮コーナーに置かれていた。栄養ドリンクなる物のような効能だと思う。効いてくれればいいけど・・・。

 「さて・・・俺達はラボに戻るから武蔵はゆっくりしておけよ?」

 「あぁ。ありがとう。有沙さんもありがとう」

 「いいえ!早く治そうね!」

 「あやめさん達はどうする?多分もう大丈夫だと思うから向こうに戻る?」

 「いろは!あなたは荷物を持って戻りなさい!私は完璧に治るまでこちらに居るから!」

 「分かったよ!合田様!ご自愛ください」

 「いろはちゃん。ありがとう。家にある物はみんなと好きに使っていいからね!慶次さんには飲み過ぎないように言っておいて!」

 「畏まりました」

 いろはちゃんがせっせと運ぶところを見るのかと思ったが、ドタバタしてすぐに戻ってきた。

 「お、お、お姉ちゃん!家が違う!」

 「え!?もう入り口変更したの!?」

 あぁ~。確か岡崎に変更するって言ってたけど、もう変更したのか!?竹中さんがするとか言ってたと思うけど・・・。

 プルルルル

 すると、オレの先日購入した携帯からオレにネット電話がかかってきた。

 『よう!これで合っているか?今しがた嫁さんの妹が見えたけどすぐに消えたから電話してみたんだ!元気にしてるか?』

 「慶次さん!もう使いこなしてんの!?」

 電話の主は慶次さんだった。

 『こっちは大変だったんだぞ?大殿が『武蔵の馬鹿が!ワシに報告もせず帰るとはどういう了見だ!?』ってな』

 「いや、そう言われても・・・」

 『まぁその事はもう大丈夫だ。ちゃんと俺と竹中殿と羽柴のとっつぁんとで言い包めたからな』

 嘘!?あの信長さんを言い包めたのか!?3人でか!?

 「どうやってですか?」

 『うん?そんなの簡単だ!武蔵!お前が是非武田を抑えたいと言って、未だ任務継続中だから報告するに値しないと言っていたと伝えると大殿は偉くご機嫌になってたぞ』

 は!?

 「任務継続中とは!?オレがいつ武田を抑えたいって言った!?」

 『またまた!1人だけ少しだけ賊か何か知らないけど殺ったんだろ?小川も褒めていたぞ?あれこそワシが仕えるのに相応しい勇猛な方じゃ!とな!初陣で賊とはいえ首級を上げたのだ!誇れ!あれは間違いなく武田に属する者ぞ!』

 「いやあれは成り行きでーー」

 『しゃらくせ~!とにかく竹中殿と羽柴のとっつぁんとで決めた事だ!お前は早く咳病を治せ!入り口が通れる事は内緒にしてある!竹中殿も羽柴のとっつぁんも知らね~!安心しろ!』

 マジかよ・・・。クッソ・・・ここで辞めるとは言えないし、やれるとこまでやるしかないか・・・。とりあえずオレは早く治そう・・・。

 
 あやめさんも、いろはちゃんも居ないのが続くと怪しまれるため、やはり、いろはちゃんは戻る事となった。薬は少し取り揃えてだ。

 栄養ドリンクや風邪薬、肩凝り用の塗り薬、湿布を持たせた。徳川軍の人達も疲れているだろうし、佐久間さん達の軍も疲れているだろうし。

 そのために有沙さんにお願いして、薬の本を買ってきてもらった。いろはちゃんは徹夜で読んだらしく、なんとなく分かってきたと言っていた。

 まぁ、いろはちゃんはスマホを使いこなしているからポケットWi-Fiのある岡崎城?のオレに充てがわれた部屋に居ればネットが使えるはずだから調べたらすぐに分かるだろう。

 どうも竹中さんも少し怪しんでいる節があると慶次さんが言っていたが、特段これといった行動を起こしたりはしていないため放置しているそうだ。

 
 あやめさんとオレ、たまに里志君と有沙さんとの奇妙な生活が始まり5日と過ぎた。既にみんなのABCは始まっている。

 ちなみに店長から電話はきている。

 『体調管理はちゃんとしないとだめだからね?まぁゆっくり休みなさい!』

 と言われ、明日には出勤する予定ではあるがオレはちゃんと家から出ず治す事に専念していた。あやめさんが作った数々の大量なご飯を平げ、例のスッポンやマムシドリンクを飲みもした。特段変化は起こらなかったが。

 ただ、たまにフラッシュバックが起こり夜が眠れなくなったりしたが、その都度朝方になるまであやめさんがずっと話を聞いてくれたりして不安はなくなった。

 オレは戦国の世界での適性があったのだろうと思う。一瞬、爺ちゃんが夢に出てきそうな感じはしたが何もなかった。

 こんな奇妙な生活も今日までではあるが、休む予定の最終日の夕方にそれは突然と来た。

 チャイムが鳴らず鍵を開ける音だ。

 ガチャガチャ

 「あっ、ヤベっ!」

 オレはそれが誰かすぐに分かった。

 「武蔵?あなた仕事休んでいるって聞いたけーー」

 母ちゃんだ。しかも母ちゃん・・・あやめさんを見て固まった。

 オレもあやめさんも母ちゃんを見て固まった。
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