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プロローグ

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ルーナは宰相の娘で、八歳を迎えていた。

ある朝、ルーナは幼馴染の侯爵の息子のカランと二人きりで乗馬をしていた。

「ルーナ、これ以上早く走らせてはダメだよ。」
「いいのよ、カラン。だって気持ち良いんだもん。」

乗馬を覚えたばかりであったルーナは元々天真爛漫な性格も相まって、気持ちが高揚していた。
そしてカランが引き止める間もなく、ルーナは落馬をして地面に身体を強く叩き落ちて意識を失った。


「エドワード、私妊娠したの。」
「そうか。リファ、私も子どもが生まれたばかりだ。妻には知られたくない。認知はできないから、堕してくれないか?」
「嫌よ、エドワード。あなたとの子供を堕ろすなんて出来ない。シドの子供として育てるからいいわ。」
「でもシドとは夫婦関係がないんだろう?」
「大丈夫よ、あの人は何でも私のことを許してくれるから。」

お腹が膨らみ始めた女と貴族の男の会話が鮮明にルーナの脳裏に浮かんでいた。
それは酷い悪夢ではなかった。


ルーナが目を覚ましたのは、受傷して二日が経った後だった。
ルーナは右腕を骨折していたが、幸い命に別状はなかった。

しかしルーナは目を醒めると左手で頭を抱え、両瞼には大粒の涙が溢れていた。

「私、なんて最低な人間だったの。」

ルーナは落馬事故をきっかけに、前世の記憶を全て思い出してしまったのだ。

前世のルーナは街娘であったが、領主である貴族の息子と恋に落ちていた。
しかし貧富の差から恋は報われず、ルーナは隣町に嫁ぎ平民と結婚をした。
しかし数年後に既婚者となっていた貴族の息子と再会すると、ルーナは彼と密会を重ねて不倫をしていた。

そしてルーナは貴族の息子との間に子供を授かってしまった。
しかしルーナは貴族と共謀し、夫を騙して子供を産もうとしていた。

そして臨月を迎えたルーナは貴族の息子の妻によって不倫の事実が暴かれ、夫にも知られてしまった。
ルーナは夫と修羅場になった挙句、夫に下腹部をナイフで刺されて子供と共に即死したのであった。

「私死ぬ前に願っちゃったんだ…。」

そんな前世のルーナは夫に殺される寸前、神に願っていた。
今度は誠実に人を愛するから、愛する人との子供を産むために生まれ変わりたいとー。
前世のルーナはきっと自分は地獄に堕ちて、自分の願いは神に届くはずがないと思っていた。


「ルーナ、目を醒したのか?」

ルーナがハッと現実に戻ると、目の前にはカランがいた。
カランはルーナの親が決めた婚約者でもあった。
一途で聡明なカランと結婚できることは、あんな前世を持つ自分には勿体無いくらいだとルーナは思った。

「神様、ありがとうございます。」
「ん?ルーナ、突然どうした?」
「なんでもない。目が覚めて隣にいたのがカランで本当に良かったと思ったの。」

ルーナはそう言うとカランに左手を伸ばした。
カランはその手を優しく包み込み、二人は強く抱き合った。

ー今度は幸せになろう。

ルーナはそう誓ったが、結局ルーナとカランは結ばれることはなかった。
カランは六年後に不慮の事故で亡くなってしまったのだ。

カランが亡くなった時、ルーナは涙を流すことができなかった。
本当にカランを愛することができていたのかルーナには分からず、涙も出ない自分に嫌悪感を抱いていた。

ルーナは複雑な前世の記憶が邪魔をして、人を愛することがよく分からなくなってしまっていた。

そして十六歳になったルーナの元に、新たな縁談が持ち込まれた。
それは自国の第一王子キースの正妃候補であった。

キースは多情で有名な王子であった。
キースとの出会いはルーナの人生を大きく変えることとなる。
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