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第一印象

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ルーナは幸せだった。

「ルーン、私は心配だわ。第一王子とはいえ、あの王子の元にあなたを嫁に出すなんて。相手が王族でなかったら絶対に私が断っていたわ。」
「そうだな。私もルーナには本当は嫁に出さずに、ずっと家にいさせたかったんだが…。私の視界からいなくなるのだけでも辛い。」

第一王子との縁談が決まった際、ルーナの両親は切実に嘆いていた。

国の宰相である父親のジスは聡明で厳格な人物であったが、たった一人の娘であるルーナには頭が上がらず取り立てて可愛がっていた。
母親のリオナも四人の息子を自ら育て上げた逞しい人で、ルーナを厳しくも大切に育て上げた。

ルーナは両親のキースとの婚姻への心配が王族に対する不敬になるのではと、逆に不安になっていた。
宰相の娘として生まれた時点でルーナは、ある程度地位のある人物と政略結婚すことになるだろう事を覚悟していた。
例えその相手が女癖が悪い噂が立たない、自国の第一王子が相手だとしてもルーナは嘆くことはなかった。

ーカランが突然亡くなったように、この世界は私に対して優しくないから。

心の中で自分の人生を卑下し大きなため息をついたルーナの背中を摩ったのは、長兄のゼロであった。

「ルーン、私がキースから守るから。」
「お兄様。」
「安心して嫁に行きなさい。」

七つ年上のゼロは王臣であり、同年齢のキースとは友人関係にあった。
ゼロを含む兄たちもまたシスコンでルーナは家族に大変愛されていた。

「それにしても、本当に第一王子は一夫一妻制を守れるのかしら。」
「リオナ。その話は…。」

リオナがつい口走った言葉にルーナはつい目を見開いた。
そう、この国は代々一夫一妻制なのだ。
しかも側室を置くことも許されない。
ただキースには噂では現在五人の彼女がいるらしい。

ルーナはキースとの婚姻の話が出てから、この世に生まれ変わった理由を叶えられる自信があまりなかった。
しかしルーナにはキースに嫁ぐしか未来はなかった。

ー本当に噂通りの方なのかな。自分で見極めよう。

ただこの世に生まれ変わったわけではない。
ルーナは持ち前の明るさで自分の心をフォローして花嫁修行に臨んでいると、キースから婚約前に会いたいと誘いを受けることとなった。


そして三月後、ルーナはジスに連れられて、王城でキースと会うことになった。
大切に育てられ家に引き篭もりがちだったルーナがキースと面と向かって会うのはこれが初めてであった。

「キース第一王子様。宰相の娘のルーナと申します。」
「ルーナ。ジス。よく来てくれた。ルーナに会うのを楽しみにしていたよ。さあルーナ。顔を上げて私に姿を見せて。」

キースは背が高く華奢で、肩に付く長さの白髪に、アイスブルーの瞳を持っていた。
ルーナでも一瞬で息を呑むような魅力的な外見を持つキースの視線にルーナは驚愕した。
キースはルーナの体を上から下まで舐めるような目で見ていたのだ。

ーこの王子、まるで中年の親父みたいだ。

ルーナは確かに、色白で年齢の割には豊満な体型をしていた。
今日はフリルの多いドレスで体型を隠していたが、隠しきれない胸元の膨らみをキースは見つめていた。

「ジス、ルーナと二人きりにさせてくれないか?大丈夫、変なことはまだしないから。」

キースはそう言うと一人で高笑いをし、ジスを含めその場にいた護衛などを部屋から退出させた。
椅子に深くかけていたキースは立ち上がるとゆっくりとルーナの前に近付き、俯いていたルーナの顎先をクイっと上げた。

「私によく見せてごらん。あぁ、その瞳の色、私と一緒じゃないか。でも髪の色はブロンドか。エメリーにどこか顔が似ているなぁ。」
「エメリー…?」
「あぁ、エメリーは私の三番目の彼女さ。」

あまりにもヘラヘラと返答したキースの様子にルーナは呆気に取られた。

「でももちろんエメリーとは別れるよ。ルーナと結婚したらね。でも私は王になったらそんな法律、変えてやるけどな。」
「法律…ですか?」
「一夫一妻制のことさ。私は王室にハーレムを作るんだ。それが私の夢なんだ。」

ルーナは一生懸命表情を変えないように努力をして、キースを見つめていた。
不純なキースの夢は、決して初対面の妃候補に話すことではないとルーナはキースを脳内で蔑んだ。
キースに対するあまり詳しい噂話は聞いていなかったが、ルーナは家族が揃ってキースとの結婚を警戒した意味が分かったような気がした。

ーこの王子、変態でかつ最低だわ。

しかし夢に浸るキースの一言がまたルーナに追い打ちをかけた。

「ルーナ。例え私に何人側室がいても、子供さえ産んでくれれば正妃として私の側にずっと置いてあげるから。後継のことであとあと面倒くさいことになるのはごめんだからね。あとはルーナには何も望まないよ。私の隣でただ笑っていればいい。」

ーいやいや、そんな婚姻関係全然笑えないわよ。

第一印象が全てというのであれば、これはもう不幸になるしかない婚姻だとルーナは感じ、絶望した。
しかしルーナは前世が前世だから、やはり生まれ変わっても幸せにはなれないのだと納得し自虐する自分もいた。

「承知しました。キース王子様。」


そしてキースとの初めての謁見は呆気なく終わった。
ルーナはジスに心配をかけまいと帰路では平常を装い、自室に戻った途端想いが溢れ出た。

ー長く続くこれからの人生、私はあんな変態最低王子に仕えることになるのか。

「ルーナ様、顔色が悪いですよ?」

そんなルーナの変わった様子に気付いたのは護衛騎士のソラであった。
ソラは一回り年上で、物心ついた頃から一番側でルーナに仕えて守ってくれた。

「ソラ、少し胸を貸して。」

ルーナは珍しく本来許されない行動を移したが、ソラはそんなルーナを受け止めて優しく抱きしめてくれた。
声に出さず、ルーナはソラの胸の中で泣いた。

「大丈夫ですよ。誰にも言わないので。」

ソラに対してルーナは、幼い頃から憧れを抱いていた。
恋情に変わることはなかったが、ソラとカランの前でだけは自分の素を出すことができ安心できた。
ルーナの髪を優しく撫でてくれるソラに、ルーナは傷ついた心が癒やされていくのを感じた。

ー私、ソラに抱かれたかったな。優しく抱いてくれそう。でもソラには迷惑をかけたくない。

ルーナは一瞬不純な思いを抱きながらも、嫁げば会えなくなるソラの優しさに思い切り浸っていた。

そしてあっという間に、ルーナはキースとの婚姻準備は進み、結婚式がやってきてしまった。





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