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第二夜 守りたい夢
②
「俺も一緒に陽菜さんの家に帰ります!」
午前2時、バーホワイトにて。
すっかり泥酔した奏多は、酔いが落ち着いた圭の火に油を注ぐことを告げた。
「お断りします。」
しかし奏多は陽菜にすがりつき、いっさい離れようとしなかった。
圭は珍しくマスターから早めに上がらせてもらい、二人で奏多をタクシーで家に送って行った。
「帰りません。絶対。今日陽菜さんと一緒に寝るんです。」
しかし奏多はしつこく、自宅の前でタクシーから一向に降りようとしなかった。
そして酔っ払い理性が吹っ飛んだ奏多を圭は何度も殴り倒してやりたい感情を抑えていた。
「お客さん、すみません。こっちも仕事なので…。」
「ですよね。タクシー出してください。」
しかしタクシーの運転手に悪いからと、二人は困り果てながらも陽菜の家に連れて行くことにした。
「じゃあ俺は今日陽菜さんと一緒に寝ます~。」
「いやお前はここで寝ろ。」
そして圭が奏多を背負う体勢で、ようやく陽菜の家に着いた。
初めての陽菜の家にテンションが上がってうきうきするかなたをよそに、まだ酔いが残ってるのか口が悪い圭は早々自分の部屋に奏多を閉じ込めた。
奏多もさすがに力尽き、そのまま圭の布団の上で寝てしまった。
「まさかこんなことになるなんて。ごめんね、圭。」
「はるちゃんが謝ることじゃないよ。」
そしてひと段落した二人はリビングのソファーにかけた。
陽菜は圭が持ってきてくれたホットミルクを啜った。
圭が作るものはお酒でなくても極上の美味しさだ。
陽菜は1日激務をした上に後輩に振り回されて溜まっていた疲れが吹き飛ぶようで、身体も心も満たされた。
「今日一緒に寝る?」
「本気で言ってる?」
「うん。一緒に寝よう。」
そしてまだ酔っ払っているのか陽菜は圭に甘く誘った。
圭は戸惑いながらもを小さく頷き、隣にいた陽菜に体を寄せた。
陽菜は少し顔を赤らめながら、いつも奏多がしてくれるように圭の頭を優しく撫でた。
「今度奏多さんに謝っておいてほしい。お客さんに楯突いちゃって。俺らしくなかった。」
「分かった。でも圭も思うところがあったんでしょう。」
すっかりそのまま体制を崩し、陽菜の膝の上に頭を寄せた圭は俯いて呟いた。
「俺も夢を叶えられなかったから。その悔しさは痛いほど分かるんだ。」
陽菜は圭が調理師の免許を取得して現在バーテンダーになるまでに起きた過去が大変であったことを陽菜は知っていた。
しかしその真相はまだ圭が話すはなかった。
それは自分も持っている辛い過去のようなものだと思い、今日も陽菜はこれ以上深追いすることはなかった。
もし圭と奏多が正面から向き合えば、自分なんかよりも確かな助言ができるような気がした。
しかし二人は酔っ払っていなくても元々相性も悪く何故か犬猿の仲なのである。
ー誰か、後先考えず先走りそうな奏多を止められる人はいないか。
とりあえず明日の休日は七海のサロンに行く予定だから相談をしよう。
陽菜はそう考え耽っていると、眠くなってきた。
先に膝の上で寝てしまった圭の整った綺麗な寝顔を見ながら、陽菜もそのまま夢の中に入ってしまった。
そして早朝抱き合うように寝ていた陽菜と圭の姿に、奏多は発狂しすぐさま家を出ていった。
「そっかぁ。そんなことがあったのね。」
陽菜はリンパマッサージを受けながら、昨日の出来事を全て七海に話していた。
七海は親身に話を聞いてくれ、陽菜の疲労をも受け止めてくれた。
「私も夢があるから、奏多くんの悔しさすごく分かる。奏多くん、また夢を叶えればいいのにねぇ。」
「あ、それだ。」
そして七海がふと呟いたことが、陽菜は奏多への的確な答えだと感じた。
「でも私がまた医者になったらいいって言っても、なんか説得力がなさそう。」
「それなら適材適所の女性がいるじゃない。」
「茜か!」
春菜よりも長く奏多と仲が良く、先輩後輩として慕い合っている茜の言うことなら奏多も受け入れてくれるかもしれない。
というかむしろ自分なんかよりも、奏多はヤケになる前に茜に先に相談すればいいとさえ思えた。
そして七海のおかげで一応悩みは解決だ。
「なんかみんな夢とかあって眩しいなぁ。」
陽菜は七海の心地よい施術にすっかりリラックスし、そう呟き思いを馳せた。
陽菜が看護師になったのは、安定した仕事につきたかったからだ。
産婦を助けたかった茜や小児科医療に携わりたかった奏多のように熱い思いを抱いているわけではない。
もちろんそんな理由がなくても仕事は楽しくやりがいは感じるが、陽菜は夢を持っている人には敵わない気がしていた。
しかしそんな陽菜の言葉に、七海は苦笑し自嘲気味に言った。
「夢のせいで大好きな人と結婚を躊躇しなきゃいけないこともあるけどね。」
七海の結婚の問題はまだ解決していなかったのだ。
もちろん絢斗とは仲直りして前を向いてはいるのだけれど、なかなか家族を説得することは難しいようだった。
「どう転んでも、私は七海の一番の味方だよ。」
「ありがとう、陽菜。」
自分ができることはその言葉をかけることしかなかったが、七海は安堵したように微笑んでくれた。
ーさて、奏多の問題は解決できるといいのだけど。
なんだか陽菜の周りに大きな嵐が来ていることを実感するのは、もう少し先のことだった。
午前2時、バーホワイトにて。
すっかり泥酔した奏多は、酔いが落ち着いた圭の火に油を注ぐことを告げた。
「お断りします。」
しかし奏多は陽菜にすがりつき、いっさい離れようとしなかった。
圭は珍しくマスターから早めに上がらせてもらい、二人で奏多をタクシーで家に送って行った。
「帰りません。絶対。今日陽菜さんと一緒に寝るんです。」
しかし奏多はしつこく、自宅の前でタクシーから一向に降りようとしなかった。
そして酔っ払い理性が吹っ飛んだ奏多を圭は何度も殴り倒してやりたい感情を抑えていた。
「お客さん、すみません。こっちも仕事なので…。」
「ですよね。タクシー出してください。」
しかしタクシーの運転手に悪いからと、二人は困り果てながらも陽菜の家に連れて行くことにした。
「じゃあ俺は今日陽菜さんと一緒に寝ます~。」
「いやお前はここで寝ろ。」
そして圭が奏多を背負う体勢で、ようやく陽菜の家に着いた。
初めての陽菜の家にテンションが上がってうきうきするかなたをよそに、まだ酔いが残ってるのか口が悪い圭は早々自分の部屋に奏多を閉じ込めた。
奏多もさすがに力尽き、そのまま圭の布団の上で寝てしまった。
「まさかこんなことになるなんて。ごめんね、圭。」
「はるちゃんが謝ることじゃないよ。」
そしてひと段落した二人はリビングのソファーにかけた。
陽菜は圭が持ってきてくれたホットミルクを啜った。
圭が作るものはお酒でなくても極上の美味しさだ。
陽菜は1日激務をした上に後輩に振り回されて溜まっていた疲れが吹き飛ぶようで、身体も心も満たされた。
「今日一緒に寝る?」
「本気で言ってる?」
「うん。一緒に寝よう。」
そしてまだ酔っ払っているのか陽菜は圭に甘く誘った。
圭は戸惑いながらもを小さく頷き、隣にいた陽菜に体を寄せた。
陽菜は少し顔を赤らめながら、いつも奏多がしてくれるように圭の頭を優しく撫でた。
「今度奏多さんに謝っておいてほしい。お客さんに楯突いちゃって。俺らしくなかった。」
「分かった。でも圭も思うところがあったんでしょう。」
すっかりそのまま体制を崩し、陽菜の膝の上に頭を寄せた圭は俯いて呟いた。
「俺も夢を叶えられなかったから。その悔しさは痛いほど分かるんだ。」
陽菜は圭が調理師の免許を取得して現在バーテンダーになるまでに起きた過去が大変であったことを陽菜は知っていた。
しかしその真相はまだ圭が話すはなかった。
それは自分も持っている辛い過去のようなものだと思い、今日も陽菜はこれ以上深追いすることはなかった。
もし圭と奏多が正面から向き合えば、自分なんかよりも確かな助言ができるような気がした。
しかし二人は酔っ払っていなくても元々相性も悪く何故か犬猿の仲なのである。
ー誰か、後先考えず先走りそうな奏多を止められる人はいないか。
とりあえず明日の休日は七海のサロンに行く予定だから相談をしよう。
陽菜はそう考え耽っていると、眠くなってきた。
先に膝の上で寝てしまった圭の整った綺麗な寝顔を見ながら、陽菜もそのまま夢の中に入ってしまった。
そして早朝抱き合うように寝ていた陽菜と圭の姿に、奏多は発狂しすぐさま家を出ていった。
「そっかぁ。そんなことがあったのね。」
陽菜はリンパマッサージを受けながら、昨日の出来事を全て七海に話していた。
七海は親身に話を聞いてくれ、陽菜の疲労をも受け止めてくれた。
「私も夢があるから、奏多くんの悔しさすごく分かる。奏多くん、また夢を叶えればいいのにねぇ。」
「あ、それだ。」
そして七海がふと呟いたことが、陽菜は奏多への的確な答えだと感じた。
「でも私がまた医者になったらいいって言っても、なんか説得力がなさそう。」
「それなら適材適所の女性がいるじゃない。」
「茜か!」
春菜よりも長く奏多と仲が良く、先輩後輩として慕い合っている茜の言うことなら奏多も受け入れてくれるかもしれない。
というかむしろ自分なんかよりも、奏多はヤケになる前に茜に先に相談すればいいとさえ思えた。
そして七海のおかげで一応悩みは解決だ。
「なんかみんな夢とかあって眩しいなぁ。」
陽菜は七海の心地よい施術にすっかりリラックスし、そう呟き思いを馳せた。
陽菜が看護師になったのは、安定した仕事につきたかったからだ。
産婦を助けたかった茜や小児科医療に携わりたかった奏多のように熱い思いを抱いているわけではない。
もちろんそんな理由がなくても仕事は楽しくやりがいは感じるが、陽菜は夢を持っている人には敵わない気がしていた。
しかしそんな陽菜の言葉に、七海は苦笑し自嘲気味に言った。
「夢のせいで大好きな人と結婚を躊躇しなきゃいけないこともあるけどね。」
七海の結婚の問題はまだ解決していなかったのだ。
もちろん絢斗とは仲直りして前を向いてはいるのだけれど、なかなか家族を説得することは難しいようだった。
「どう転んでも、私は七海の一番の味方だよ。」
「ありがとう、陽菜。」
自分ができることはその言葉をかけることしかなかったが、七海は安堵したように微笑んでくれた。
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