felice〜彼氏なしアラサーですがバーテンダーと同居してます〜

hina

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第二夜 守りたい夢

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それから一か月。
奏多は周りから強く惜しまれながらも、それ以上に強い意志を持って病院を去ることとなった。

そして奏多の最後の病棟勤務日。
仕事を終えた陽菜は、奏多に病院のラウンジに呼び出された。

「どうしたの?奏多。」
「最後に陽菜さんに言いたいことがあって。」

奏多は数個の紙袋と花束を持っていたが、荷物を椅子の上に置き一本の花を陽菜の前に向けて跪いた。

「陽菜先輩、出会った時からずっと好きでした。俺と付き合ってください。」

奏多は目を瞑り俯き、震えていた。
弱々しい奏多の頭を優しく撫でると、陽菜もしゃがみ込み言った。

「ごめんなさい。私、誰とも付き合う気がないの。」
「それは…好きな人がいるからですか?もちろん振られると思ってました。でも最後に陽菜さんの気持ちを知りたかったんです。」

奏多の切なそうな目に、陽菜はつい目を逸らした。

奏多の自分に向ける気持ちは、さすがに鈍感な陽菜でも前からなんとなく気付いていた。
そして自分が断る理由を見つけるのも難しかった。

恋愛をたくさんしてきたつもりだけれどだんだん年を重ねて、誰かを好きだという気持ちが分からなくなっていたからだ。

「すみません、困らせちゃって。でもお花だけは受け取ってもらえませんか?」

奏多が陽菜に渡したのは一輪の赤い薔薇だった。
ずっと自分なんかに一途に気持ちを抱き続けてくれた奏多の存在に、陽菜は胸が苦しくなった。

「立派な先生になってね。そして、また恋をしてその人と幸せになって。」
「陽菜さんも、幸せになってくださいね。」

奏多は陽菜に対し、柔らかく微笑んでいた。

「っていうか、勉強の合間にまたみんなで飲みに行きましょうね!」
「え、それ大丈夫なの?」
「すみません、俺やっぱり当分陽菜さんのこと諦められなさそうなので!陽菜さんが本当の気持ちを伝えてくれるまでは、好きでいますからね!」

奏多はそう言うと悪戯に笑って、陽菜の下から去って行った。
ちょっと鬱陶しい時もあったが奏多は可愛い後輩だ。
奏多の気持ちを知っていながら自分は狡いがまだまだ末長く付き合えたらいいと、陽菜も思ったのであった。


そして薔薇の花を一輪持って、陽菜は自宅へ帰った。
今日は圭がお休みで、夕飯を作ってくれる予定だった。
実は一ヶ月前のリベンジで陽菜は今晩を楽しみにしていた。

家に帰ると部屋着を腕まくりし、カフェエプロンをつけていた。
そんな身なりでもカッコいい圭は、ダイニングテーブルにたくさんのお洒落な料理を拵えて陽菜の帰りを待っていた。

「はるちゃん、お帰り。」
「ただいま。遅くなってごめんね。」
「今日もお疲れ様。あれ…それ。」

しかし帰宅して早々陽菜の持つ薔薇の花にすぐ気付いた圭は顔色を曇らせた。
それは当然だろう。
好きな人が愛を込めた花を持っているのだから。

「今日、奏多の最後の出勤日だったの。それで…。」
「もしかして、告白されたの?」

圭はそう自分から言いながら、控えめながらも首を縦に振った陽菜の反応に頭を抱えてソファーに項垂れた。

奏多の陽菜への気持ちは圭が奏多に初めて会った時から、痛いほど知っていた。
しかし奥手な奏多がまさか自分より先に想いを告げるとは思ってもいなかった。

「返事気になる?」

そんな圭の複雑な気持ちを知らずに、陽菜は圭の隣に座ってその端正な顔を眺めた。
どれだけ疲れていても圭が隣にいてその顔を見ていると、本当に癒される。

「俺の元に帰って来た、それが返事でしょ?」

圭はいつになく少し攻め気味にそう言った。
陽菜はついそんな一言に顔を赤らめ、ソファーから立ってダイニングテーブルに移動した。

「ここ、私の家ですけど。」
「そうでした。すみません。」
「ふふ。でも答えは合ってるわよ。まあ、こんなにご馳走を作ってくれたの?」

陽菜は甘いやりとりに終止符を打ち、圭の作ってくれた手料理に歓声を上げた。
野菜メインの数種類の前菜にチーズフォンデュ、アクアパッツァにパスタ。
イタリアン好きな陽菜には興奮するほどの内容だった。

「だって今日ははるちゃんの誕生日でしょう?」
「あ…そうだった。」

そう、いつも以上に圭が腕をかけて料理をした理由は陽菜の誕生日だったからだ。
すっかり忘れていた陽菜がそう言うと、部屋の電気が消されて圭が蝋燭のつけたバースデーケーキを持って来た。

「誕生日おめでとう。」

そう言って圭はケーキと共に、一輪の花を陽菜に渡した。
それはピンク色のミニ薔薇だった。

「奏多に先を越されちゃったけど。俺のも受け取ってくれるかな?」
「もちろん。」

可愛らしい花を受け取り、陽菜は満面の笑みで蝋燭の火を消した。
茜や奏多のように熱い夢がなくても、今の自分は幸福だと陽菜は実感した。
そしてそう感じたのは自分だけではなかった。
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