felice〜彼氏なしアラサーですがバーテンダーと同居してます〜

hina

文字の大きさ
20 / 35
第四夜 人生の大きな選択

しおりを挟む
翌朝、陽菜はソファーの上で目が覚めた。
頭痛が酷く、吐き気もあった。
久しぶりに酷い二日酔いになった。

そして昨日の記憶も曖昧だった。
ただ酔っ払った勢いで圭にしでかした失態がはっきりと頭をよぎる。
陽菜は発狂しそうになった時、目の前に二つのコーヒーカップを持った圭が現れた。

「はるちゃんは白湯の方がいいよね?」
「ありがとう。」

陽菜は早朝から圭の優しさが心に染み、赤らむ顔を隠すように俯いて白湯をすすった。
なんで圭の用意するドリンクはどれも美味しいのだろう、本当に不思議だ。

しかしそんな幸せに堪能する間も無く、陽菜は昨日起きた出来事をだんだんと思い出し深くため息をついた。

幸せになる未来しかないはずだと思っていた七海と絢斗がきっと初めてであろう大喧嘩をしてしまったのだ。

「二人、大丈夫かなぁ。」
「俺は大丈夫だと信じてるよ。ああやって、本気でぶつかって良かったんじゃないかな。きっと二人なりの幸せを見出せると思う。俺たちはまた見守っていよう。」

穏やかな圭の一言に、陽菜は安堵し横から抱きついた。
圭はそのまま陽菜を胸の中に抱き、優しか頭を撫でてくれた。

そんな幸せな朝のひととき、陽菜の携帯電話に着信が入った。

「あれ?どうしたんだろう。茜からだ。」
「なんかまた匠くんがしでかしたのかなぁ。」
「今から家出とか勘弁してほしい。とりあえず電話するけど。」

陽菜はまた茜と匠の痴話喧嘩に巻き込まれる嫌な予感がして、電話を折り返すとすぐに電話を出た茜から返ってきた言葉は一つだった。

「産まれる。」

大声で言っていたその一言は圭の耳にも届いており、二人は顔を見合わせた。

「今どこ?」
「病院。」
「匠くんはいる?」
「いる、けど二日酔い。」
「私たちも行くよ。」
「あたぼうよ。」

切迫した状況であるのに自ら電話をかけてくるあたり、茜はいつもと変わらず堂々としていた。
そして陽菜と圭は身支度を済ませると、バイクに乗り急いで病院に向かった。
しかしその小一時間の間に、新しい命は誕生していた。

「おめでとう!茜!匠くん!」
「ありがとうございます。」
「いやぁせっかちな子だったわ。まさかこんなにスポンと産まれるなんて、よっぽどお母様に会いたかったのね。」

茜は今出産したばかりとは思えないほどのいつもの調子で、匠はやはり生命の誕生に感動してまだ泣いていた。
茜に抱かれた男の子の新生児は、茜にそっくりの美男子だった。
その小さな命が起こした奇跡を陽菜は思い出し、良案が頭をよぎったのである。

「よし、これだ。圭、私いいこと考えた。」
「ん?どうしたの?」
「二人にこの子を会わせよう。」

陽菜は病室を出ると、まるで茜のように突拍子もないことを圭に伝えた。
新しい命の尊さに実際七海と絢斗に触れさせれば、二人も幸せになる夢を取り戻してくれるのかもしれない。
圭は二つ返事で賛成し、お互い鉢合わせるかのように二人をここで合わせる作戦を圭と陽菜は考えたのであった。


そして数日後。
休日に陽菜は七海を、圭は絢斗を呼び出し茜の病室で落ち合った。
もちろん茜には事前に伝えていて、あっさりと快諾してくれていた。

七海と絢斗は必然的に会う羽目になったことを困惑していたが、すぐに目の前にある天使の姿に微笑んでいた。

「小さい。可愛い。抱っこしてもいい?」
「もちろん。」

元々子供が大好きな七海は恐る恐る、おくるみのまま新生児を抱き上げた。
そして母のように柔らかく微笑む七海の横で、絢斗はその小さな手に指を触れ握り返す小さな力に感動していた。

「いつか俺たちも、赤ちゃんが来てくれるかな。」
「うん。絢斗との赤ちゃん、私欲しいなぁ。」

陽菜はその和やかな会話を盗み聞きし、圭にだけ見える位置でガッツポーズをした。
二人の作戦は成功に見えたが、なんだかうまく行きすぎてるような予感もしていた。

「みんな。突然ですが、昨日私達入籍しました。」
「「えええええ。」」

驚愕したのは、もちろん七海と絢斗の仲を取り持とうと目論んでいた陽菜と圭だった。
茜はその姿に大笑いし、新生児を抱きながら拍手喝采した。

「あれからなにがあったの?」
「所謂駆け落ち、してしまいました。」

七海が照れ臭そうにそう話すと、絢斗も顔を真っ赤にしていた。

「二人には本当に心配をかけてごめん。そしてこうやって今日も仲を取り持とうとしてくれてありがとう。実は大喧嘩をしたあの夜、俺たち二人反省してもう後先考えずとりあえずお互い好き同士だし結婚することにしたんだ。」
「私たちがそんなことするなんてありえないって思ったでしょ?でもそうすることで末期癌の母も喜んでくれたし、絢斗の母もさすがに息子にバツをつけるわけにいかず私のことを認めてくれたの。」

七海と絢斗の大胆な結婚の真相を聞いて、陽菜は呆気に取られていたがだんだんその事実を受け入れ七海に抱きついて言った。

「おめでとう。本当に。二人とも幸せになってね。」

結局、七海と絢斗にも心配するだけして何もすることができなかった。
やはり惹かれ合う二人は周りの協力無くしても結ばれるのが運命なのだろうかと、陽菜はロマンチックなことを考えたのであった。

また陽菜は茜の一件で数回圭を連れて病棟に現れたことで、いつしか病棟では陽菜は自分より五つも若いイケメンの男の子を彼氏に持っていると恰好の噂の的にされていたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...