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第六夜 二度目のプロポーズ

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「そっかぁ。徹さん、また陽菜にプロポーズしたんだね。よっぽど好きなんだね。」
「デートの時にまたちゃんと気持ちは伝えようと思う。それにしても七海のお母さん、元気になって本当に良かったね。」
「本当。最新の医療に感謝だわ。」

午後七時、七海の務めるエステサロンにて。
陽菜は七海から施術を受けながら、近況を報告しあっていた。
いろいろあったから七海と会うのはすっかり久しぶりであった。

七海の母親はあれから新薬を使用した治療を行ったところ、効果的面で散歩できるほど体調が改善したのである。
陽菜も自分のことのように気持ちがホッとしていた。

「それでね、こんな時に話すことではないとはないんだけど。やっぱり陽菜には早く伝えたくて。」
「もしかして。」
「赤ちゃんができたの!」

陽菜はデジャブを感じてるとまさにその通りで、つい体を起こして七海と手を合わせ喜び合った。
春に絢斗は予定通り上京してしまったが、週末婚の形で二人はうまくいっていたようだった。

「まだ挙式も新婚旅行もまだで順番がおかしくなっちゃったけど。でも、お母さんが子供をできたことすごく喜んでくれて。子供が産まれるまで頑張って生きていてくれたらいいなと思うの。」

七海は幸福と希望に満ちており、陽菜はつい涙腺が崩れそうになっていた。
一年前の仲間達のスピード展開に自分が置いてけぼりされてる感は否めないが、それ以上に親友の幸福は自分のことように嬉しかった。

「じゃあ、子供が産まれる頃には東京に行くの?」
「そこはまだ相談中。お母さんの体調のこともあるし。それでも絢斗はいいって言ってくれたの。」
「そっか。お母さんのこともあるし、身体大切にしてね。男の子かなーー女かの子かなー。女の子な気がする。すごく楽しみ。」

陽菜が満面の笑顔をし、七海の子供の誕生を待ち望んだ。
自分はまだ解決しなければいけない問題が山積みだが、幸福なニュースは陽菜の気持ちをより前向きにしたのであった。


そして陽菜は帰り道に茜の家に寄り、生後六ヶ月をすぎすっかり大きくなった椿の顔を見に行った。

「生後半年おめでとう。少しは落ち着いた?」
「いや、むしろねんねの時の方がまだ可愛かったわよー!動くようになるし夜泣きはするしで、夜型生活してる。」

茜は愚痴を吐きながらも、膝の上で眠る我が子の頭を優しく撫でていた。
あれから陽菜は週1ペースで茜の家に行っていたが、赤ちゃんの成長は恐ろしく早くて、行くたびに新たな成長に驚いていた。

「七海から聞いたよね?妊娠のこと。」
「うん。こんなに早く私にも伝えてくれるとは思ってもなかった。」
「先輩ママとして助言してあげてね。」

七海は茜にも妊娠のことを伝えていたようだった。
七海の周りには既婚者はいても子供がいる人が少なく、不安だったようだ。
陽菜は七海と茜が仲良くしていることに心温まる思いであった。

「それより、元彼の話。詳しく聞かせてよ。」
「それがね…。」

茜には事前に元彼と会う約束をしたことを伝えていた。
野次馬精神のかたまりのような茜は興味津々で陽菜の話を聞き、聞き終えると赤ちゃんが起きそうなほど大きな声で笑っていた。

「圭の気まずそうな反応、手にとるようにわかる。私も見たかった。」
「私だって気まずいよー。なんかあれから圭、元気ないし。」
「ホワイトにまた元カレが来てるからじゃないの?そういえば昨日匠が同伴でルーナに行った時、執拗に圭に責めるイケメンがいたって言ってたよ。ゲイかと誤解するくらい。」
「え…まじか。むしろ狙ってる?」

陽菜はあり得ない状況に開いた口が閉まらなかった。
これは明日徹に説教するしかない。そんな立場ではないけれど。

「でもちゃんと元カレに別れ告げてくるんでしょ。そして圭に思いを伝えるの?いよいよ。」
「うん。圭に当たってぶつかってみようと思う。」
「そんなに勢いよく当たらなくても大丈夫だと思うけどね。」

茜は楽観的にそう言うと、椿をそっとベビーベッドの上に移した。
陽菜にとっては、今まで居心地の良い関係でいた圭に告白したらこれからどうなってしまうのか不安だった。
しかし友人達は皆揃って、そんな心配はしなくてもいいと後押ししてくれ、むしろ気にしていないようだった。

「もし圭に振られたら、ここに住もうかな?」
「いやそれは迷惑です。私たち三人家族うまくいっているので。」

陽菜の冗談は茜にすぐにあしらわれ、茜は鼻歌をしながら残っている家事をしていた。
子供が産まれてから、本当に茜と匠はお互いを労ういい夫婦になった。
今度はやはり自分が前に踏み出す番だと、陽菜は息を飲んだのであった。
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