色んなストーカー

なゆか

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恋文

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男に縁がない私は彼氏がいない歴
年齢イコールである。

そんな拗らせた私の元にソレは訪れた。

仕事が終わり、いつも通り誰も待っていない
マンションに帰る。

その日、ポストの中にポスティングではない
手紙が投函されていた。

ポスティングはゴミ箱に捨て、その手紙だけ
部屋に持ち帰る。

ガチャンッ

「…なんだろ」

手紙を開封すると、そこには赤い字で
愛のポエムが書き記されていた。

この手紙は多分ストーカーのやつだ。

「愛してるね…はは、投函場所間違えたのか」

確か私のマンションに美人なOLさんが
住んでいる。

チラッと姿見で自身が目に入る。

「凹凸のない貧相な身体に、のっぺり顔。
一重まぶたに、荒れた肌。相変わらず不細工だな」

見慣れているが自分の外見にため息を吐く。

「私なんかにストーカーなんているわけ
無いもんな」

私は愛を綴られた手紙を捨てた。



次の日も手紙は投函されていた。

「…どうしたもんか」

OLさんのストーカーだという確証はなく、
好きなら相手の名前書けよと無記名だったことで
頭を悩ませた。

しばらく、ポスト前で立往生していると
後ろから見たことの無い大学生くらいの青年が
こちらを見ている事に気が付いた。

「すみません、邪魔でしたね」

私は避けると青年は私に会釈をして近づいて来た。

青年「こんばんは、お隣さんですよね」

「お隣?」

青年は私が開けていたポストを指差した。

青年「今日越して来た矢吹って言います」

「ど…どうも」

確か隣の部屋は、空き部屋だったような…

矢吹「荷物少ないんで、
昼のうちに引っ越し終わって
今は食料買いに行ってたんですよ」

「は…はあ」

矢吹「俺、そこの大学に通ってるんですよ。
専攻は経済学ですけど、映像関係に
興味があるんで、
サークルは映画研究会に入っていて」

矢吹さんは、私から何も質問していないのに
自己紹介を続けた。

矢吹「それにしても、それ」

自己紹介を一通り終えてスッキリしたっぽい
矢吹さんは私の持っていた手紙を指差した。

「あ、えと間違って投函されてるみたいで
宛先ないからどうしようかなって」

矢吹「…間違ってないですよ」

矢吹さんは、声色を変えないまま淡々と話す。

矢吹「宛名が無くても、その手紙は貴方宛です」

「え、何を根拠に」

封筒を見るが私の名前なんて書いてない。

矢吹「俺には分かるんです。
だから、ちゃんと読んで見てください。
彼の気持ちが綴られているので…
あっそうだ、挨拶品部屋にあるので
後で渡しに行きますね」

話の切り替えが早い矢吹さんは、
颯爽と階段を上がっていった。

「…なんなんだ?」

彼の言動を不思議に思いながらも、
手にある手紙に首を傾げる。

「私宛なわけないよね…」

私は手紙を開封せずポストに戻し、部屋に帰った。

部屋に帰り、しばらくするとインターホンが鳴り
ドアスコープを覗くと、
矢吹さんが大きい箱を抱えて
ドアの前に立っていた。

ドアチェーンを外し、ドアを開けると
矢吹さんは笑顔で箱を差し出して来た。

矢吹「これ、どうぞ」

「え、何が入って」

ドッシリと重い箱に戸惑った。

矢吹「あっすいません、重いですよね?
部屋の中まで運びますね」

矢吹さんは私から箱を受け取ると躊躇なく
部屋に進入してきた。

「え、ちょっと」

矢吹「造りが一緒でも家具とかデザインが違うと
こんなに差が出るんですね」

矢吹さんは私の部屋を見渡して、
テーブルに箱を置いた。

「…」

図々しいなと思うが、
とりあえずこの箱を受け取れば帰るよなと
あえて私は何も言わなかった。

バリバリバリッ

矢吹「えっとですね、石鹸と洗剤とシャンプーと
コンディショナーとバスタオルと…」

箱には様々な粗品が入っていて、
それをテーブルに並べ始めた。

矢吹「全部貴方への挨拶品です」

「え、こんなに…」

矢吹「これ全部、俺も使ってるやつなんですよ!
この洗剤とか結構いい匂いがして」

ニコニコしながら説明してくれる
矢吹さんだが、数が異常だ。

普通これらは各隣人に1個とかなのに
この量を私1人になんて。

「他の人にもこんなに渡してるんですか?」

矢吹「え、違いますよ。貴方だけに特別です」

ニッコリと笑う矢吹さんの笑みに
裏があるようにしか思えない私がいた。

とにかく、挨拶品を押し付けられたまま
彼は部屋から出て行った。

「変わってる人なのかな…」



それからというもの、手紙は当たり前のように
ポストに投函されしまいには、
ポストからあぶれる程溜まってしまった。

そして、私が部屋から出る時と
仕事から帰ってくる時、
必ず矢吹さんと顔を合わせた。

矢吹さんは偶然ですねと言うが、明らかに
狙ったようなタイミングで彼を不審がるも
自意識過剰なんじゃないかと
言葉にするのはやめた。

矢吹「こんばんは」

「あ…こんばんは」

残業で遅くなった日のこと
ポスト前で矢吹さんと遭遇した。

矢吹「貴方の部屋の前に箱置いてありましたよ」

「箱?」

矢吹「大きい箱です」

何か注文した記憶はないし、
運送会社でも流石に、矢吹さんがいう
大きな箱を無断でドア前に
放置をしていかないだろう。

「ありがとうございます、確認してみます」

私は彼に会釈をして、その箱を見に行く事に…

部屋の前には思ったより大きい箱があり
ドア枠サイズより大きく、
通路で開封するしかない。

宛先は無記名。

ビリビリ

「なんだろ」

段ボールを開けるとそこには手紙がビッシリと
入っていた。

確か昨日までポストにあぶれてた手紙が
今朝無くなっていた為、
大家さんが片付けたのだろうと思っていた。

「自意識過剰じゃなかったんだな」

私は自分でも驚くほど冷静だった。

まさかこんな自分にストーカーが
いるなんて思ってもみなかった。

こんな沢山手紙を綴るほど、
私の事を想ってくれている人がいるんだと
思うと心が満たされる感覚がした。

惚けてる場合じゃないと、
とにかく、この手紙を運ばないとと
束にして部屋に運んで行った。

矢吹「沢山ありますね」

運んでる途中、矢吹さんは部屋に戻ってきた。

矢吹「手伝いましょうか?」

「もう少しで終わるので、大丈夫ですよ」

私は最後の束を手にする。

矢吹「じゃあ箱は俺が畳みますね」

彼はすぐに箱を畳んだ。

矢吹「手紙どうするんですか?」

「読みますよ、やっぱり私宛みたいなので」

矢吹「全部ですか?」

「量多いので今日中に読み終わるどうか…」

矢吹「貴方って変わってますね。
普通そんな手紙送られてきたら、
警察に言うか捨てますよ」

矢吹さんは、通路の手すりに腰をかけた。

矢吹「その手紙ってストーカーからですよね。
ストーカーからの手紙を律儀に読むなんて」

「私、今まで異性に想ってもらったことないんです。
私なんかにストーキングする人、
世の中に居たのは奇跡かなと」

魅力の無い私にこんなに手紙をくれるストーカーに
嫌悪ではなく好意を持った。

矢吹「……」

矢吹さんは顔をしかめた。

「箱畳んでくれてありがとうございます」

矢吹「…」

「では、また」

私は段ボールを玄関に入れ、部屋に入った。

~~

俺は大学で犯罪心理学を専攻している。

そこで《ストーカー》という
面白い題材を見つけた。

ストーカーの心理は奥が深く、
調べれば調べるほど面白さにハマっていくのを
感じた。

大学の単位は卒業するのに満たしている。

あとは卒論だけ、テーマは勿論

《自分がストーカーになってみたら》

こんな自身を楽しませるストーカー。
文面では調べ尽くした、でも実際にどんな気持ちで
ストーキング行なっているのか分からなかった。
だから、このテーマにした。

テーマを決めてから、
俺はすぐにターゲットを探した。

いかにもターゲットにされやすい人の特徴を捉えた
丁度良い卒論材料を見つけた。

特に使うことの無かった有り金を叩き、
ターゲットの隣の部屋を契約し、
今まで誰かに出す宛のないまま書き綴っていた
恋文を毎日投函していった。

引っ越した日
ポストの前で立ち止まるターゲットと
初対面を果たした。

直接話すのは初めてだが、
第一印象は重要だと
異様な印象を与える事にした。

そして、毎日の手紙投函、
時間を狙って顔を合わせる成果もあり
気味悪がられるようになった。

ターゲットに反応される、
ストーカーはこれを求めているのか?

まだまだ理解の届かないストーカー心理。

俺はターゲットに手紙を読ませる為、
自分宛と思っていない馬鹿なターゲットに
ストーカーの存在を認識させるべく、
手紙を箱に詰め、ターゲットの部屋の前に置いた。

さぁ、どんな顔をするのか…

嫌悪感?恐怖心?

それを期待していたが、ターゲットの反応は
俺が思うモノでは無かった。

どこか嬉しそうな顔をしているターゲット。

なんでそんな顔するんだ…

「では、また」

ガチャンと部屋に入ったターゲット。

矢吹「…また?」

時間を狙って顔を合わせてるから、
「また」と言ったんだよな?

部屋に戻ろうと、一歩踏み出すと
突然、背筋が凍り
変に心臓がざわつき出した。

振り向くが、通路には誰も居ない。

矢吹「…ッ」

ターゲットも部屋に入ったのに、
異様なまでに視線を感じる。

これって…
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