職業:ストーリーテラー

なゆか

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切磋琢磨

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この世には沢山の世界があり、
視聴者である神の娯楽として、
私達のようなストーリテラーが存在している。

ある者は青春群像劇の世界を生み出し、
またある者は異世界転生モノと様々な世界を
生み出している。

それぞれの世界には主人公と言われる存在がいて、
ストーリテラーの仕事は、主人公をどういう世界で
生かすかを構築、物語を調整する業務である。

そして今日から、私【アズバルト】は
ストーリーテラーとして
働いていく事になった。

世界構築にはポイントと言うモノがあり、
異世界ファンタジーモノなど、
複雑な世界を構築する為にはポイントが
必要になっていく。

私のような駆け出しストーリテラーの場合、
初期ポイントはゼロの為、
日常モノで沢山ポイントを稼く事が多い。

私は異世界転生モノを構築という夢を
見ながら現場に入る。

アズバルト「…え、既に構築済みの世界を
受け継げと?」

それは悲劇だった。
私に回された世界は幾度もストーリー展開を
失敗して来た主人公の居る世界だった。

「そうだな、今年はストーリーテラーの枠が多くてな
合格ラインギリギリだったお主には、
この世界を託す事にした」

失敗確実の世界で、どうしろとと思うが
私は自分に才能があると自負している。

引き継ぎで前任者のポイントが少しある為、
何にでも打開策はあるだろうと前向きに
ストーリーテラーの初仕事をする事にした。



この世界の主人公は、
【間山早子】
年齢は中学3年生。
性格は何処にでもいるような平凡な子である。

その設定だけ、逃げた前任者から聞いていた。

アズバルト「主人公設定は平凡だから、
高校デビューが際立つし、入学先の高校に
イケメン男子を置けば青春学園モノになるだろう」

そう設定したが、早子はイケメン男子を控えさせた
高校の受験に失敗した。

アズバルト「…それなら、あの黒猫を使えば」

早子の住む街には黒猫がいる。
その黒猫は産まれてから散々人間に虐待され、
その末に川に落とされ、人間を恨みながら死ぬ運命だ。
黒猫の呪いの世界に、
早子を巻き込ませればホラー世界の出来上がりだ。

バシャーンッ

早子「すぐ病院に連れていくからね」

冬かつ、高校登校中にも関わらず、
早子は川にダイブし、黒猫を助けてしまった。

そして、黒猫は早子の家に引き取られ
今まで受けて来なかった愛情に
人間への憎しみは薄れホラー世界は失敗した。

アズバルト「これならどうだ!」

次は高校で、体調が悪く教室内で吐いてしまった女子が
それがきっかけで虐められるようになり、
自殺に追い込まれてしまう。
その自殺の復讐として、クラス全員で
血みどろなデスゲームを…

早子「大丈夫?ちょっと、雑巾持って来て」

早子は吐いた直後の女子生徒をすかさずフォローし、
保健室に連れて行った。
その後も、教室に戻り彼女をフォローし
虐め自体が起こらなくデスゲームの種を潰された。

アズバルト「それなら、イケメン転入生を!」

イケメンという事で優遇されて来て、
その環境に嫌気が差していたイケメン転入生だったが、
転入先で普通に接してくる早子と出会い、
青春学園モノが…

早子「応援してるよ、うまくいくと良いね」

早子はあろう事か、イケメンを別の子に押し付け
青春学園モノは始まらなかった。

アズバルト「そっそれなら」

早子の親が借金を背負い、家庭崩壊。
行き場を失った早子は孤児院に引き取られ、
過酷な環境に置かれ…

早子「弁護士立てて、相談しよう」

早子の働きで、早子の親は借金の事を弁護士に相談し
事なきを得てしまった。

何度も何度も、きっかけを与えるのに
フラグをぶち壊してしまう早子。

そりゃ、前任者は嫌になって逃げるだろう。

ポイントも少なくなってしまい、
とにかく何かしらのストーリー展開を作らなければ、
私の夢は水の泡となる。

現に同時期に入ったストーリーテラー達は、
それぞれ上手い事やっている。

合格ラインギリギリの仕打ちがこの世界なのかと、
現実は厳しいと、とにかく早子を見つめ直す為
特例中の特例、主人公との接触をする事にした。



そして、私は世界に降りるや否や、
天界へ戻る為のキーを無くし
早子と接触どころではなくなってしまった。

早子「どうかされました?」

アズバルト「あぁ、落とし物をしてしまって」

早子「交番に行きましたか?」

アズバルト「交番の場所が分からなくて…この辺に
落ちたと…」

私は振り返ると、声を掛けてきた親切な人間は
早子だった。

早子「それなら、落とした物を教えてください。
交番で聞いてきます」

アズバルト「…え」

早子「どうかしました?」

アズバルト「貴方は何故見知らぬ私に親切を?」

早子「困ってる人がいたら助けるのは
当たり前じゃないですか」

私に笑い掛けた早子。

そして、結局交番には無く躊躇無く川に入った早子が
キーを見つけてくれて、戻ることが出来た。

頭に浮かぶ、早子の笑顔…

アズバルト「…コレはあってはならないことだ…」

主人公に恋をするなど、
ストーリーテラーとして失格だ。



「ストーリテラーが主人公に恋⁈
そんなのあり得ないだろ!」

「いやいや、それが面白くて」

「ワシもお気に入りにしておるよ」

「どれどれ」

元ストーリーテラーだった男が自身が受け持つ
世界の住人となり、主人公と愛を育んだ。

彼の名前は、アズバルト。

アズバルト「早子!また逢いに来たよ」
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